ハイヒールで俺はワルツを踊る

ルルオカ

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ハイヒールで俺はワルツを踊る

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なんやかんやあって中性ヨーロッパ風の世界に転生し、貴族の令嬢になった俺。
そう、俺。

性別は男のまま、柔道部キャプテンとしての筋肉美を誇ったまま、ハイヒールをはいて、コルセットで絞めつけ、きらびやかなドレスを身にまとい、ばっちりヘアメイクをして、完全にゴリマッチョなおかま野郎。

が、もともとのゲームの設定に忠実に、親も屋敷、領地の人も「かわいい」「美しい」と溺愛。
彼らの目に俺はどう映っているのやら。

いや、転生前に女装癖はなく、柔道部に所属していたこともあり、色恋もそっちのけで部活に励む、ど平凡な男子高生だったからに、毎日毎日、ドレスを着せられ、お嬢様扱いされるのには、そりゃあ、困ったもので。

といって、筋肉質な巨体をしながら気は弱いので、親馬鹿に盲目的かわいがりをされ、屋敷や領地の人に「お嬢様お嬢様」と手放しで慕われ「俺は男だ!これを見ろ!」とドレスをまくりあげるなんて暴挙はできなく。
まあ、気が弱い点では、キャラクターに通じるものがあったから、気張らなくてもよかったが。

転生したのは、妹がはまっていた乙女ゲームの世界。
リビングにあるテレビを占拠してプレイしていたのを、ソファに座ってぼうっと眺めていたので、おおよそのことは把握。

俺が成り代わったキャラは、小柄で華奢、虚弱な儚げな美少女。

「落差がありすぎだろ!」と神様に文句をつけたいところだが、それはさておき。
彼女の幼なじみは貴族の爽やかイケメンな令息、エルビー。

見た目からしてお似合いだし、お互い惹かれあっていたものの、年ごろになり、エルビーは皇女に目をつけられてしまい。
がめつい皇女は、つれないエルビーを、己に求婚するよう仕向けるため、裏から手を回し外堀を埋めるなど画策。

もちろん、幼なじみの彼女も排除しようと、周りをけしかけイジメさせ、親にもイヤガラセを。
それでも、なかなかエルビーは屈しずに、むしろ彼女との絆を深めているようだったので、とうとう公の場で自ら手を下そうとして。

そのとき助けてくれ、皇女にぎゃふんと云わせるのがゲームの主人公だ。
このことをきっかけに、エルビーは主人公に惹かれるようになり、幼なじみの彼女は親友となって応援することに。

妹のプレイを見ているときは「幼なじみの子の心変わりよ!」と釈然としたなかったが、いざ自分がその立場になったら、ぜひとも主人公とエルビーが結ばれてほしくそうろう。

なにせ、主人公がエルビーのルートをとらないと、すぐに幼なじみの彼女と結婚し、子だくさんの家庭を築くから。
そう、子だくさんの。

まだ転生して間もないこともあり、エルビーとは顔を合わせていない。
皇女のイヤガラセに抵抗する日々、加えて社交界デビューが近いとあり、お互い忙しかったし。

領地内では溺愛設定マジックがあっても、一歩外にでたら、通じないかも。
エルビーの恋も冷めるのでは?と期待しつつ、社交界デビューを迎えたのだが、甘かった。

「まるで男がドレスを着ているみたいね」と令嬢たちには冷笑され「男みたいな女と踊ったら見劣りするなあ」と令息たちには茶化されて。

皇女が間接的にイジメてくるだろうことは分かりきっていた。
もとより「みたい」ではなく正真正銘のゴリマッチョなおかま野郎だし?

それでも、実際に白い目をむけられ嘲笑されては泣きそう。

時代設定もあって尚のこと「容姿で評価される女性は、こんなツライ思いをしているのか」と身が裂かれるように思い知らされたもので。

ドレスをつかみ、歯噛みして震えていたら「ねえ、そこのあなた」と頭上から高飛車な響きが。
いやすぎる予感しかしなかったものの、見上げれば、案の定、けばけばしい皇女が、俺の目の前に手の甲を。

「私をダンスに誘っていただけないかしら?」

「は?」と思った矢先「あらあ!ごめんなさい!てっきり立派なお体をした素敵な殿方かと思いまして!」と高笑いされ、周りも大爆笑。
かあっと頭に血を上らせた俺は、でも、泣くのではなく、俄然、戦闘モードに。

「背負い投げしてえええ!」といきり立ちながらも我慢我慢。

親や屋敷、領地の人を巻きこみたくないのはもちろん、なにより俺のために主人公に助けてもらわないと。
子だくさんの末路が。

哄笑が渦巻く中、羞恥心より闘争心が湧いてやまないのを堪えて、主人公の登場を待っていたところ、きんきんとした笑いが静まり、ざわめきに変わった。
「登場シーンらしくないな?」と顔を上げれば、皇女のそばに立つ幼なじみのエルビー。

乙女モードになって、すり寄ろうとした皇女を「邪魔です。どいてください」と冷ややかにぴしゃり。
俺に向きあうと、一転、顔をほころばせて、片膝をつき「私と踊ってくれませんか?」と。

「エルビーのほうが先に助けにきたか」と望ましい展開ではなかったものの、この流れ、空気では断れず。
差し伸べられた手に、手を乗せ、引かれていく途中、見かけた主人公は、踏みだそうとした格好のまま、ぽかんとしていたもので。

俺らが中央に向かうと、波が引くようにペアが退き、フロアを二人占め。

ワルツの曲が流れだして、リードに合わせてステップを踏みつつ「おい、大丈夫なのか」とこそこそ話。

「あれほどの屈辱を受けて、皇女がだまっちゃいないぞ」

「分かっているよ。分かっていたうえで、どうしても、きみと踊りたかったんだ」

「いや、まあ、そりゃあ、ありがたいけど。誰も助けてくれなかったし。
お前は正義感が強いから、放っておけなかったんだろ」

「助ける?正義感?そう云われると、寂しいなあ」

俺が男言葉を使っても気にせず、おまけに「寂しい」だあ?

微笑みながら、熱っぽい視線をそそぐエルビーが、気づかって嘘をついているようには見えない。

「子だくさんって、その前提をするときは、どうするんだ?」とドレスの内側で揺れるそれを意識しないでいられなく。

頭を抱えたい俺の気も知らないで「ねえ、きみがリードしてよ」と場の空気も読まない鬼メンタルなエルビーは、どこまでも無邪気。

もう、どうでもいいや。
と、悩むのに疲れて、転生前は縁遠かった、きらびやかな世界をどうせなら堪能しようと、握った手をひっくり返し、ターンしてリードとフォローを入れ替わり。

逞しい足の筋肉を盛り上がらせ、ハイヒールを力強く踏みこめば、遠心力でのけ反って子供のようにきゃっきゃ。

先行きは不安でしなかったが、ドレス姿のゴリマッチョおかま野郎とワルツを踊ってはしゃく彼を、キライにはなれなかった。




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