俺の推しは人気がない

ルルオカ

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眼鏡フェチもほどほどに

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俺は眼鏡をかけた全人類を愛しているし、全人類にメガネをかけさせたい。いわゆる眼鏡フェチだが、眼鏡そのものではなく、人がかけてこそと思うが故に、全人類眼鏡装着計画を野心的にすすめていた。

顔のよしあし、年齢、性別は関係ない。老若男女誰でも、眼鏡をかければ、すべて愛すべき人。

というわけで、いつもウェストバックに十種類の眼鏡を入れて持ち歩き、すれ違う人全員に「かけてみて」とおすすめ。そりゃあ、はじめは不審者扱いされるものの、説得するうちに「眼鏡をかけるくらい害はないか」と多くの人は寛容に応じてくれ、レッツ装着!

相手が時間を許す限り「うーん、いいねえ!」「じゃあ、こんな感じは?」「ああ、これも捨てがたい!」「いやーどれも味があっていいなあ!」と眼鏡ショーに心ゆくまではしゃいだら「ご協力ありがとう」と感謝して、さようなら。「これだけ似合うのだから、今後も是非!」と押しつけはしないし、あえて眼鏡をプレゼントせず、眼鏡教団の勧誘もしないで、あとは、あなた次第という。

いくら全人類眼鏡装着を願えど、強要、洗脳しての目的達成はいただけないし、逆効果。と心得て、全人類が自主的に眼鏡を装着するよう、日々、こつこつと健気に推奨活動をしているものの、一人だけ、おすすめしないヤツがいた。幼馴染の友人だ。

べつに眼鏡が似合わない顔をしているわけではない。いや、この世で眼鏡にマッチしない人類はいない。と思うからに、俺に偏見があるでなし、幼馴染が眼鏡アレルギーというでもない。

ただ、道理でなく「こいつに眼鏡をかけさせてはいけない」と俺の眼鏡ゴーストが囁くのだ。どうしてか、禁忌を犯すような気がしてならない。

すくなくとも、理由が判明するまでは、触らぬ神に祟りなし。幼馴染だけはスルーしていたのが、幼馴染にすれば「どうして俺だけ」と釈然とせず、不服だったらしい。

といって「俺にも眼鏡、かけさせろよ」と自ら求めるのも癪だったからか、不意打ちでしかけてきやがった。二人で図書館で勉強していたときのこと。

途中でうつらうつらしてしまい、頭ががくりとして、目覚めたなら。目の前に眼鏡をかけて、すかしたポーズをとる幼馴染が。

厳選セレクションが入ったウェストバックをテーブルに置いていたからに、俺が寝ている間、取りだして、自然に目覚めるのを、眼鏡をかけスタンバイしてのことらしい。あんぐりする俺に、どっきりが成功したとばかりに、どや顔。

ふだんなら「こんにゃろー!」と悔しさ恥ずかしさ剥きだしに、ぷんぷんするところ、発光するような景色に「はわわわわ」と目をちかちさせ見惚れるばかり。だって、眼鏡をかけるために生まれてきた男といっても過言でないほど、神がかった眼鏡美男子だったから。

「抱きたい・・・」

頬を熱くし、うっとりとして呟いたのに、幼馴染は頬を引きつり眼鏡脱皮。「ああ!」と甲高く叫べば「図書館だぞ!そして喘ぐな!」と声を落としつつ、一喝。

「なんだ、その反応!違う!なんか違う!キショい、キモい、恐い、生理的に無理、死ね!そんな熱っぽく性的に俺を見るなら、一生、眼鏡、かけないからな!」

「まあ!そんな、ご無体な!せめて、先っちょ、先っちょだけでもいいから・・・!」

「やめろおおおおおお!う、ぐ、よ、よ、寄るなあ!お回りさあああああん!」

「公共の場だぞ!」と本で頭を叩かれて、図書館から追いだされたその日から、俺はほかの人に目もくれず、眼鏡を掲げ「先っちょ、先っちょだけでも!」とまっしぐらに迫り「眼鏡を強制されて襲われそうです!お回りさああああん!」とひたすら助けを乞う幼馴染と、熾烈にかくれんぼ、鬼ごっこ合戦。なかなか、手こずったのに、一策打って、ようやく友人宅の部屋で対峙するに至った。

階下には幼馴染の母親がいるし、隣には弟が。となれば、幼馴染も身の危険を覚えないで済むし、且つ、家族には気取られたくないからに、大人しいもの。

また、逃げるだけでは埒がないと、腹を据えたらしい。壁に追いつめられながらも「お前さあ」と身がまえ、睨みつけてきた。

「抱きたい、抱きたいってうるさいけど、じゃあ、眼鏡をかけた俺を抱きたいのか?」

「いや、それは・・・」

「ちがうんだろ?眼鏡をかけていない俺には、用がないんだろ?結局、お前は人じゃなく、眼鏡を抱きたいだけじゃないのか?」

もっともらしく真理を説くような物言いをされ、はっとさせられる。言葉を詰まらせたのに、ほっとした顔つきをした幼馴染だが「そうだな・・・」と応じたことには。

「眼鏡をかけていないお前には、抱かれたいな」

「違う!そういうことじゃない!なんか、もうややこしくて、訳わからんわ!ていうか、眼鏡を抱きたいってなんだよ!」

ついには自分の発言にも容赦なくツッコんで、精神崩壊しかける幼馴染。たしかに眼鏡をかけていない幼馴染を抱きたくはないが、こうして幼馴染に全身全霊で眼鏡を拒否られるのが、いやではなく、どこか愉快なのも本当だ。










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