19 / 29
眼鏡フェチもほどほどに
しおりを挟む俺は眼鏡をかけた全人類を愛しているし、全人類にメガネをかけさせたい。いわゆる眼鏡フェチだが、眼鏡そのものではなく、人がかけてこそと思うが故に、全人類眼鏡装着計画を野心的にすすめていた。
顔のよしあし、年齢、性別は関係ない。老若男女誰でも、眼鏡をかければ、すべて愛すべき人。
というわけで、いつもウェストバックに十種類の眼鏡を入れて持ち歩き、すれ違う人全員に「かけてみて」とおすすめ。そりゃあ、はじめは不審者扱いされるものの、説得するうちに「眼鏡をかけるくらい害はないか」と多くの人は寛容に応じてくれ、レッツ装着!
相手が時間を許す限り「うーん、いいねえ!」「じゃあ、こんな感じは?」「ああ、これも捨てがたい!」「いやーどれも味があっていいなあ!」と眼鏡ショーに心ゆくまではしゃいだら「ご協力ありがとう」と感謝して、さようなら。「これだけ似合うのだから、今後も是非!」と押しつけはしないし、あえて眼鏡をプレゼントせず、眼鏡教団の勧誘もしないで、あとは、あなた次第という。
いくら全人類眼鏡装着を願えど、強要、洗脳しての目的達成はいただけないし、逆効果。と心得て、全人類が自主的に眼鏡を装着するよう、日々、こつこつと健気に推奨活動をしているものの、一人だけ、おすすめしないヤツがいた。幼馴染の友人だ。
べつに眼鏡が似合わない顔をしているわけではない。いや、この世で眼鏡にマッチしない人類はいない。と思うからに、俺に偏見があるでなし、幼馴染が眼鏡アレルギーというでもない。
ただ、道理でなく「こいつに眼鏡をかけさせてはいけない」と俺の眼鏡ゴーストが囁くのだ。どうしてか、禁忌を犯すような気がしてならない。
すくなくとも、理由が判明するまでは、触らぬ神に祟りなし。幼馴染だけはスルーしていたのが、幼馴染にすれば「どうして俺だけ」と釈然とせず、不服だったらしい。
といって「俺にも眼鏡、かけさせろよ」と自ら求めるのも癪だったからか、不意打ちでしかけてきやがった。二人で図書館で勉強していたときのこと。
途中でうつらうつらしてしまい、頭ががくりとして、目覚めたなら。目の前に眼鏡をかけて、すかしたポーズをとる幼馴染が。
厳選セレクションが入ったウェストバックをテーブルに置いていたからに、俺が寝ている間、取りだして、自然に目覚めるのを、眼鏡をかけスタンバイしてのことらしい。あんぐりする俺に、どっきりが成功したとばかりに、どや顔。
ふだんなら「こんにゃろー!」と悔しさ恥ずかしさ剥きだしに、ぷんぷんするところ、発光するような景色に「はわわわわ」と目をちかちさせ見惚れるばかり。だって、眼鏡をかけるために生まれてきた男といっても過言でないほど、神がかった眼鏡美男子だったから。
「抱きたい・・・」
頬を熱くし、うっとりとして呟いたのに、幼馴染は頬を引きつり眼鏡脱皮。「ああ!」と甲高く叫べば「図書館だぞ!そして喘ぐな!」と声を落としつつ、一喝。
「なんだ、その反応!違う!なんか違う!キショい、キモい、恐い、生理的に無理、死ね!そんな熱っぽく性的に俺を見るなら、一生、眼鏡、かけないからな!」
「まあ!そんな、ご無体な!せめて、先っちょ、先っちょだけでもいいから・・・!」
「やめろおおおおおお!う、ぐ、よ、よ、寄るなあ!お回りさあああああん!」
「公共の場だぞ!」と本で頭を叩かれて、図書館から追いだされたその日から、俺はほかの人に目もくれず、眼鏡を掲げ「先っちょ、先っちょだけでも!」とまっしぐらに迫り「眼鏡を強制されて襲われそうです!お回りさああああん!」とひたすら助けを乞う幼馴染と、熾烈にかくれんぼ、鬼ごっこ合戦。なかなか、手こずったのに、一策打って、ようやく友人宅の部屋で対峙するに至った。
階下には幼馴染の母親がいるし、隣には弟が。となれば、幼馴染も身の危険を覚えないで済むし、且つ、家族には気取られたくないからに、大人しいもの。
また、逃げるだけでは埒がないと、腹を据えたらしい。壁に追いつめられながらも「お前さあ」と身がまえ、睨みつけてきた。
「抱きたい、抱きたいってうるさいけど、じゃあ、眼鏡をかけた俺を抱きたいのか?」
「いや、それは・・・」
「ちがうんだろ?眼鏡をかけていない俺には、用がないんだろ?結局、お前は人じゃなく、眼鏡を抱きたいだけじゃないのか?」
もっともらしく真理を説くような物言いをされ、はっとさせられる。言葉を詰まらせたのに、ほっとした顔つきをした幼馴染だが「そうだな・・・」と応じたことには。
「眼鏡をかけていないお前には、抱かれたいな」
「違う!そういうことじゃない!なんか、もうややこしくて、訳わからんわ!ていうか、眼鏡を抱きたいってなんだよ!」
ついには自分の発言にも容赦なくツッコんで、精神崩壊しかける幼馴染。たしかに眼鏡をかけていない幼馴染を抱きたくはないが、こうして幼馴染に全身全霊で眼鏡を拒否られるのが、いやではなく、どこか愉快なのも本当だ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
後輩の好意は重すぎて
Guidepost
BL
平向 高典は通学時、滅多に乗らない電車を待っている時バランスを崩して線路に落ちそうになった。
誰かが助けてくれたものの、衝撃のあまりその時の事は覚えていない。
そんなある日、友人に後輩である小雪 周太を紹介された。
彼はどこかおかしく、高典を好きだと言い出して――
(R指定の話には話数の後に※印)
多分前世から続いているふたりの追いかけっこ
雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け
《あらすじ》
高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。
桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。
蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。
突然現れたアイドルを家に匿うことになりました
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
「俺を匿ってくれ」と平凡な日向の前に突然現れた人気アイドル凪沢優貴。そこから凪沢と二人で日向のマンションに暮らすことになる。凪沢は日向に好意を抱いているようで——。
凪沢優貴(20)人気アイドル。
日向影虎(20)平凡。工場作業員。
高埜(21)日向の同僚。
久遠(22)凪沢主演の映画の共演者。
【完結】たっくんとコウちゃん【高校生編】
秋空花林
BL
たっくんこと有川卓(ありかわすぐる)は高校生になった。
かつて側にいた親友はもういない。
その隙間を埋める様に、次々と女の子と付き合う卓。ある日、コウちゃんこと浦川光(うらかわひかり)と再会してー。
あっさり、さっくり読めるストーリーを目指しました。お暇な時に、サクッとお読み頂けたら嬉しいです。
※たっくんとコウちゃん【小・中学生編】の続きです。未読の方は先にそちらをお読み下さい。
■■ 連続物です■■
たっくんとコウちゃん【小・中学生編】
↓
たっくんとコウちゃん【高校生編】 ★本作★
↓
たっくんとコウちゃん【大学生編】 R18
と続きます。
※小説家になろう様にも掲載してます。
太陽に恋する花は口から出すには大きすぎる
きよひ
BL
片想い拗らせDK×親友を救おうと必死のDK
高校三年生の蒼井(あおい)は花吐き病を患っている。
花吐き病とは、片想いを拗らせると発症するという奇病だ。
親友の日向(ひゅうが)は蒼井の片想いの相手が自分だと知って、恋人ごっこを提案した。
両思いになるのを諦めている蒼井と、なんとしても両思いになりたい日向の行末は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる