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ミステイク間接キス
しおりを挟む俺が好きな女子は彼氏がいてラブラブだ。顔のつくりも存在感も地味で、目立つ取り得もない俺が略奪愛できるわけがなく。彼女を知って半年経っても、声をかけられないほど臆病だし。
遠くから見つめるばかりで、うじうじもじもじするのも我ながら情けなく、嫌気がさしてきたので、いい加減、諦めようかと。踏んぎりをつけるため、最初で最後の望みを叶えるべく、彼女が飲んだペットボトルの飲み口を舐めようとした。
いや、待ってくれ。読むのをやめないでくれ。生まれて初めて好きになった相手は彼氏持ち、しかも、つけいる隙がないほど関係良好で、そんな初恋にして高すぎるハードルに膝を屈し、せめて「間接キスさせてください」と神に拝むような俺に、どうか哀れをかけてほしい。
絶対に彼女にも周りにも知られないようにするから。誰にも打ちあけず、墓場まで秘密を握りしめていくから。
彼女は強炭酸好き。毎日、学校にいつも同じメーカー種類のペットボトルを持ってきて、休み時間に出歩くときも、お供に。で、昼ごはん終わりに、たいては飲みほして、渡り廊下にあるゴミ箱に捨てる。狙いはそこ。
昼休み明けの授業をさぼった俺は、人目につかないよう渡り廊下までいき、ゴミ箱の前まできたなら、念入りに辺りをきょろきょろ。
人はいない。人がくる気配もない。正直、まだ、ためらいがあったのを「今しかない!」と己を鼓舞し、ゴミ箱の蓋を開け、彼女が愛好する強炭酸のペットボトルを抜きとって。
蓋を開けて、飲み口を咥えよとしたとき、そばで砂利の擦る音がした。ぎくりとして、振りかえれば、卓球部の先輩が。
室内スポーツはモテないとのセオリーもどこ吹く風で、サッカー部のエースより、よほど先輩は顔がいい。人柄もよく、卓球の腕もあるというに、学校では人気者。
謙虚ながら、学校の王様のような人だが、どうしてか、底辺にたむろする、そのほか大勢の一後輩なんかに目をかけて、かまってくれている。が、こんな変態行為まっしぐらな決定的瞬間を目撃したら、仲よしこよしが一転「ファックユー!」だろう。
先輩が吹聴するとは思わないものの、幻滅され、絶縁されるの必至。となれば、卓球部に居づらくなるし、いや、先輩に邪険にされるだけで死にたくなって、不登校になりそう。
ばれたこと以上に、先輩との関係が絶たれることに怯えて「あの、これは、その、えっと、あれですよ!」と悪あがきをしたが、その間、相手はぽかんとしたまま。不快感をあらわに顔を歪めず「キモイ!」「サイテー!」と罵りもせず「その、俺・・・」と眉尻を下げ、目を泳がせたもので。
「ペットボトルのシールを集めてて。そのことを忘れて、うっかり昼休みに捨てたのを、惜しくて取りにきたんだけど・・・」
俺のほうをちらりと見て、気まずそうというより、恥ずかしそうに目を伏せた。青天の霹靂というか。神の慈悲なのか。
彼氏持ちの彼女に恋慕して半年、なにもできず指をくわえたまま撤退をしたようとした、キングオブチキンな俺が、このときは「先輩にキラわれたくない!」との一心で「じつは俺!」と渾身の叫びを渡り廊下に轟かせて。深々と頭を下げ、差しだした手が、どうなったかは、ご想像にお任せしよう。
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