鉄筋青春ロマンス

ルルオカ

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鉄筋青春ロマンス

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台風は焦らすように近づいてきて、町の上空に台風の目がさしかかるのには、まだ時間がかかりそうだった。

太陽を覗かせていた昨日と違い、空は薄い雲に覆われているものの、雨を降らすまでには至らないで風だけが嵐のように吹き荒れている。

強風に雨が混じれば、鬼ごっこが中断になったかもしれないのに。
と、朝起きて天気予報を見てがっくりきたところで、携帯電話が鳴った。

淡い期待を抱いて画面を覗き「今日は鬼ごっこ中止」のはじめの文字に心を弾ませたのもつかの間「話し合わなければいけないことがあるからね」とつづき、さらに「四時に例の工事現場の屋上で待っている」と書かれているのを見て、頭が真っ白になった。

メールにはそれだけしか書かれていなかったとはいえ、金森に知れているのは明らかだった。
俺が工事現場で逢瀬をしている男の存在を。

本来、夕方の四時には、まだ工事現場に人がいる。

が、昨日、男が言っていたように台風対策をすでに済ませてある現場には人気がなく、いつも飛びかっている怒声も聞こえなくて、耳につくのはブルーシートがはためいたり鉄パイプが揺れ軋む物音だけだ。

見上げても屋上にいる人の姿は確認できない。
確認できても、できなくても、屋上に行くしかなかったとはいえ、からかっているだけなのではないか、とも思う。

強風に揉まれながら、今にも崩れそうな音を立てる階段を上っていくうちに余計にそう思われたのだけど、屋上に出てみると、残念ながらたむろする連中の背中があった。

ため息を飲みこんで近寄れば、連中が道を開け、その先に金森が一人佇んでいた。

強風に煽られたら足を滑らせて落ちかねない、屋上の端っこにいて、悠然と町の景色を見下ろしているといった風情だ。

背後にきても振り返らなかったので、しかたなく肩を並べるように立つ。
足元を見るのが恐く、細めた目を遠くに向けながら、吹きつける強風に踏んばって汗ばむ掌を握った。

天気が荒れる中、十階もある柵のない屋上にいて平常心でいられるわけがない。

正直、立っているだけで精一杯だったけど、「君、約束破ったね」と高らかに笑うように言い放った金森のほうは、見たまま平気らしい。

「先週、僕が塾で休みだっとき、君がここにきたのが目撃されているんだよ。

まあ、先日の事があったし、君は紙袋を持っていたというからお礼にきたのだろうって、一度は目を瞑ってやった。
なのに、君、昨日もここにきたというじゃないか」

休みだからといって、気を抜いていたわけではない。

尾行されていないか見張られていないか、周りに気を配って行動していたし、鬼ごっこ中は工事現場に近寄らないようにしていた。

先週の休みについて金森から工事現場の訪問を指摘されなかったから、気をつけた甲斐があったと思っていたけど、泳がされていただけらしい。

人をぬか喜びさせてから、足をすくって失意のどん底に叩き落とす。
そういう趣味の悪いことを好んでする奴だ。

と、見抜けなかった自分の甘さが悔やまれるも時すでに遅く、金森にいいように弄ばれるのを覚悟したものを、「しゃべったんだろ」と意外に、ストレートに尋問をしてきた。

「あいつに泣いて助けを請うたんだろ」

声には微かに怒気が含まれているようで、思わず金森を見やれば、冷めた顔をしていた。

てっきり、鬼の首でも取ったように、そりゃあご満悦にふんぞり返っていると思っていたのに。

予想外の反応にやや戸惑いながらも「話していない」と事実を告げる。
もちろん、すんなり聞き入れてもらえなく「僕は嘘を吐かれるのが大嫌いでね」と聞こえよがしにため息を吐かれた。

「正義感の強い君のことを買っていたから、余計に気に食わない。

あいつのことを庇っているならよしたほうがいい。
君が嘘を吐きつづけるなら、むしろ、あいつがどうなっても知らないよ」

「どういうことだ」と問おうとして強風に横殴りされた。
足がふらついたのにひやっとして、息を飲んだまま何も言えなくなる。

金森もよろけたけど、怯えるのではなく苛立ったように「ここには何が建てられると思う!?」と騒がしい風に負けじと声を張りあげた。

「児童の福祉に関する総合施設だ。
父の市長が推し進めて設立にこぎつけた施設でね。

子育て相談から支援、DVに悩む母親の救済、虐待されたりして困っている子供の保護なんかをする。
そんな施設の建設現場に、従業員が未成年を連れ込んでいたなんて知れたら、どうなるだろうな?

その従業員だけじゃない。会社だって汚名を被ることになるだろう」

まさか、ここで父親の威を借りて脅してくるとは。

まだ鬼ごっこが終わるまで今日を含め、三日ある。
俺が捕まったのは二回。

三日で後一回を捕まらないで乗り切れるかどうか。
ゲームを観戦する立場の人間にすれば、そんなスリリングな展開を楽しめる佳境を見逃せないはずが、金森は自ら、その機会を手放そうとしている。

工事現場の訪問を咎めるにしろ、ペナルティを課してゲームを盛り上げたほうがいいだろうに。
金森の脅し方は、俺に自白させ俺の敗北でもって幕引きをさせようというものだ。

真綿で首を絞めるように相手を追いつめることを好む金森らしくない。

屋上で強風にさらされ平然としているようで、投げやりになり冷静さを失っているのか?

脅しに怯んだというより、どこか様子がおかしい金森が何をしでかすか分からないように思え、不安になる。
生唾を飲みこんだなら「俺が認めたら」と慎重に切りだした。

「あの人には手を出さないんだな」

「約束するよ」




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