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恋する彼は浮かれるまま俺とどこまでも
しおりを挟む中学生になって、友人が宙に浮くようになった。
思春期突入と同時に、にわかに超能力を発揮したのに、そりゃあ、はじめは騒がれたものだけど、メカニズムはすぐに判明。
浮かれれば、名の通り体を浮かせるし、落ちこむほど、腰を曲げていき、地面に這いつくばる。
気分の上がり下がりが可視化しているわけだ。
有益でなければ、有害でもない、珍妙な能力を目覚めさせたものだけど、友人は寺の息子ということもあり、さほどトラブルを起こさなかった。
情緒の安定ぶりは抜群で、何かと、いちいち浮いたり這ったりしないし、したとして、今のところ最大浮遊記録は一メートルほど、コンクリートを割って、体をのめりこませもしない。
裏表がないので、表面上の言動と、可視化する気分が不一致になることもないし。
思春期突入をきっかけに発動したなら、成長するにつれ、おさまっていくだろう。
と、周りは心配しないで、俺なんかは、たまに手をつないで浮遊散歩を愉しだり、呑気にかまえていた。が。
「お前がスキだ!
どうか恋人になってくれ!」
学校の屋上で、友人は空高らかに告白を轟かせた。
柵の向こうで。
建物の縁から足を半分、はみだし、外側に頭を反らし、イナバウアーをしている。
それでも落ちないのは、柵にくくりつけたロープを胴体に巻きつけているから。
ただ、ロープの真ん中あたりに切りこみが入っていて、みるみる、その繊維が千切れていく。
要は、ロープが切れ、頭から真っ逆さまに落下するまで時間がないということ。
決死の覚悟で愛を叫んだ相手は、屋上に仁王立ちする俺。
遠巻きに生徒、教師や警察官が見守っている。
「とりあえず、イエスと云いなさい」との指示を受け、友人ににじり寄っている途中だ。
警察官曰く「落下する危険性が高い以上、告白を成功させ、浮足立たせることで、地面への衝突を回避させよう」とのこと。
その提案はもっともとはいえ、そうやって「イエス」以外の選択肢を与えないため、もとより、友人が画策して告白という名の脅迫をしていると思えば、なんとなく釈然としない。
ので、柵の前まできて「正直、お前をどう思っているのか、分からない!」と遠巻きが度肝を抜くような、爆弾発言をした。
「俺はお前に嘘を吐きたくない!
スキかは分からないけど、お前には生きていてほしい!」
心から嘘偽りのない思いの丈を、怒鳴るようにぶちまけると、一呼吸して、柵の向こうに手を差し伸べた。
あまりに意外だったのだろう。
口を開けたまま、ただただ目を丸くしながら、でも、力なく宙に放っていた腕を上げ、やおら手を握ろうとして。
指先が触れそうなところで、ロープが切れた。
とにかく柵を乗り越え、ロープをつかむも、まあ、後先考えなかったものだから、前のめりの勢いのまま、共々、落下していった。
「結局、心中かよ!」と神を呪ったのもつかの間、ロープに引っ張られて、ふわりと上昇。
見上げれば、シャボン玉のように涙を散らす友人が、手を差し伸べていたもので。
手を取って、二人して浮上することしばし「宇宙までいくんかい」と不安になってきたころ、緩やかに降下をしていった。
あまり風は吹いていないから、このまま落下していき、グラウンドに着地できるだろう。
地面が近づくにつれ、グラウンドに人が集まってきて、着地地点あたりにマットを敷き、ぐるりを囲んだ。
「おーい、ここだぞー!」「ゆっくり下りてこーい!」とのかけ声がする地上を見入る友人に「なんか〇ブリみたいだな」と笑いかける。
瞬きして「だな」と奥歯まで覗かせ笑い返した友人。
「このまま二人で、どこまでも」と名残惜しまないあたり、すこし寂しいようで「きっと俺たちは大丈夫だ」と鼓舞するように、己に云い聞かせた。
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