姉の彼氏はわるい男

ルルオカ

文字の大きさ
上 下
17 / 30

恋する彼は浮かれるまま俺とどこまでも

しおりを挟む




中学生になって、友人が宙に浮くようになった。

思春期突入と同時に、にわかに超能力を発揮したのに、そりゃあ、はじめは騒がれたものだけど、メカニズムはすぐに判明。

浮かれれば、名の通り体を浮かせるし、落ちこむほど、腰を曲げていき、地面に這いつくばる。
気分の上がり下がりが可視化しているわけだ。

有益でなければ、有害でもない、珍妙な能力を目覚めさせたものだけど、友人は寺の息子ということもあり、さほどトラブルを起こさなかった。

情緒の安定ぶりは抜群で、何かと、いちいち浮いたり這ったりしないし、したとして、今のところ最大浮遊記録は一メートルほど、コンクリートを割って、体をのめりこませもしない。

裏表がないので、表面上の言動と、可視化する気分が不一致になることもないし。
思春期突入をきっかけに発動したなら、成長するにつれ、おさまっていくだろう。

と、周りは心配しないで、俺なんかは、たまに手をつないで浮遊散歩を愉しだり、呑気にかまえていた。が。

「お前がスキだ!
どうか恋人になってくれ!」

学校の屋上で、友人は空高らかに告白を轟かせた。
柵の向こうで。

建物の縁から足を半分、はみだし、外側に頭を反らし、イナバウアーをしている。

それでも落ちないのは、柵にくくりつけたロープを胴体に巻きつけているから。

ただ、ロープの真ん中あたりに切りこみが入っていて、みるみる、その繊維が千切れていく。
要は、ロープが切れ、頭から真っ逆さまに落下するまで時間がないということ。

決死の覚悟で愛を叫んだ相手は、屋上に仁王立ちする俺。

遠巻きに生徒、教師や警察官が見守っている。

「とりあえず、イエスと云いなさい」との指示を受け、友人ににじり寄っている途中だ。

警察官曰く「落下する危険性が高い以上、告白を成功させ、浮足立たせることで、地面への衝突を回避させよう」とのこと。

その提案はもっともとはいえ、そうやって「イエス」以外の選択肢を与えないため、もとより、友人が画策して告白という名の脅迫をしていると思えば、なんとなく釈然としない。
ので、柵の前まできて「正直、お前をどう思っているのか、分からない!」と遠巻きが度肝を抜くような、爆弾発言をした。

「俺はお前に嘘を吐きたくない!
スキかは分からないけど、お前には生きていてほしい!」

心から嘘偽りのない思いの丈を、怒鳴るようにぶちまけると、一呼吸して、柵の向こうに手を差し伸べた。

あまりに意外だったのだろう。
口を開けたまま、ただただ目を丸くしながら、でも、力なく宙に放っていた腕を上げ、やおら手を握ろうとして。

指先が触れそうなところで、ロープが切れた。
とにかく柵を乗り越え、ロープをつかむも、まあ、後先考えなかったものだから、前のめりの勢いのまま、共々、落下していった。

「結局、心中かよ!」と神を呪ったのもつかの間、ロープに引っ張られて、ふわりと上昇。

見上げれば、シャボン玉のように涙を散らす友人が、手を差し伸べていたもので。

手を取って、二人して浮上することしばし「宇宙までいくんかい」と不安になってきたころ、緩やかに降下をしていった。
あまり風は吹いていないから、このまま落下していき、グラウンドに着地できるだろう。

地面が近づくにつれ、グラウンドに人が集まってきて、着地地点あたりにマットを敷き、ぐるりを囲んだ。
「おーい、ここだぞー!」「ゆっくり下りてこーい!」とのかけ声がする地上を見入る友人に「なんか〇ブリみたいだな」と笑いかける。

瞬きして「だな」と奥歯まで覗かせ笑い返した友人。

「このまま二人で、どこまでも」と名残惜しまないあたり、すこし寂しいようで「きっと俺たちは大丈夫だ」と鼓舞するように、己に云い聞かせた。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

振られた腹いせに別の男と付き合ったらそいつに本気になってしまった話

雨宮里玖
BL
「好きな人が出来たから別れたい」と恋人の翔に突然言われてしまった諒平。  諒平は別れたくないと引き止めようとするが翔は諒平に最初で最後のキスをした後、去ってしまった。  実は翔には諒平に隠している事実があり——。 諒平(20)攻め。大学生。 翔(20) 受け。大学生。 慶介(21)翔と同じサークルの友人。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

処理中です...