姉の彼氏はわるい男

ルルオカ

文字の大きさ
上 下
14 / 30

イケメンのダシにされるのも悪くはない

しおりを挟む






古賀は「顔よし」「頭よし」「人柄よし」のイケイケ三拍子が揃った愛されるべき男。

老若男女に慕われ「古賀くんって最高」「古賀はすごい」と、とにかく「いい」「いい」と褒められる。

古賀と席が隣だったというだけで、親しくなった俺は「顔は悪くない」「頭も悪くない」「人柄も悪くない」とナクナイ三拍子のナめられるべき男。

ナめられるというか、スケープゴートにされたり、ダシにされたりする。
主に古賀関連で。

なにせ古賀は「アイドルはうんこをしない」的発想で皆に憧れられている。
そりゃあ、うっかりが古賀が放屁をようものなら。

いち早く察知した奴が「ちょっと、馬場!やめてよ!」と鼻をつまみ「え!?窓開けて開けて!」「扇いで追いだせ!」と俺に放屁の罪をなすりつけた上で、早急に事態の収拾をはかる。
もちろん古賀に口を挟む暇を与えずに。

もしくは「やだ!古賀くん、おならもカワイイ!」「古賀のおならは、いっそ空気清浄機のようなものだな!」と屁理屈をこねまくって賞賛する。

だけ、ならまだしも「馬場のおならは音も汚いんだもん!」「漏らしているんじゃないか馬場!」と人のおならにケチをつけて、古賀のおならの価値を高める。

まあ、そんなこんなで、傍にいれば、道化的引き立て役にされるのは必至なのだが、席が隣になったときから気が合い、今や演劇部の仲間でもある、古賀との親交を絶つことはなかった。

周りが俺をダシにして、古賀をわっしょいわっしょいするのに「ごめん」といちいち謝ってくれる、いい奴だったし。

俺も俺とて、いい心がけの男で、幼い妹と弟に「兄ちゃんのせいだ!」と駄々をこねて責任転嫁されるのに慣れっこだったから。

クラスメイトを「こいつらは、まだ分別がない妹と弟と同じだ」と見れば、微笑ましいほどだったものを、俺が古賀の傍から放れなかったのは(理由は知れないが)古賀が望んででもあるし、俺が望んでのことだった。

俺の場合は「古賀の所詮、引き立て役」とナめられる立場でいるのが、むしろ都合がよかったというか。

ある日、演劇部の部長命令で雑誌の取材を受けたとき。
もちろん、ご指名されるのは、古賀だけとはいえ「一人だと不安だから」と手を合わせられ、毎度、俺が付き添っていた。

記者の女性と向き合い、しきりにカメラで撮られる古賀の視界に入るよう、でも、邪魔にならないよう部屋の隅っこにいたら「隣に座ってくれないか」とカメラマンに声をかけられた。

「ん?」と訝しんだものの、顔面蒼白だった古賀が、とたんに目を輝かせ、頬を上気させたからに、余計な口を叩かず、隣に着席。

しばらく、俺らにフラッシュをたいて、ファインダーから顔をあげたカメラマンは、ご満悦そうに告げた。
「もともと花はキレーなもんだが、小汚いものが傍にあると、もっと映えるな」と。

耳を疑った。
いや、学校の連中も暴言でフルボッコしてくるとはいえ、一応、洒落になるかならないかの線引きを心得ている。

彼らだって、初対面の相手を「小汚い」と鼻で笑わないだろうに。
ましてや、いい年をした大人が。

記者もたしなめず、笑ったのに「社会人ってこんなものか」と怒るより、呆気にとられていたら、けたたましい音が耳を劈いた。

古賀が椅子を吹っとばして立ちあがったのだ。

目を点にする、間抜けな大人たち、まず記者を冷ややかに見下ろしてから、カメラマンに手を差し伸べる。
そして粛然と宣告をした。

「あなたに性的虐待を受けたと、今、警察に通報されたくなかったら、カメラを寄こしてください」

ふだん、大人しい人が怒ると怖い。

とくに古賀は仏のように、海のように、心が広く見えるから、怒鳴りちらさずとも、無表情で声を低くするだけで(ただ、自分の武器を最大限生かして脅すのは怖いが)「嘘だ。これは悪夢だ」と相手は泡を吹いて、卒倒しかねない。

それまで、うっとりしていた記者は白目を剥きかけ、意気揚々だったカメラマンは、おしっこを漏らしそうなのか、内股でもじもじしている。

俺が侮辱されたのを、古賀が怒って、相手をぎゃふんとさせるのが快い。

のもあるが、俺の本命は、古賀の怒った顔そのものだ。

そもそも「人の怒った顔が大好物」という変わった趣味の持ち主なもので。
で、これまでも数知れず、拝顔してきた中で、怒れる古賀の顔面に一等、胸を鷲づかみにされた。

「アイドルはうんこをしない」的に過剰に祭り上げられるのに、眉尻を下げて笑うだけで「いい加減にしろ!」と我慢をきらさない古賀は、自分のことで怒ることはない。

相手が大人だろうとかまわず、俺の顔色を窺うでなく、損得もなく、ただただ人のために怒る。

その横顔は、それこそ、鬼のように美しかった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

風邪をひいてフラフラの大学生がトイレ行きたくなる話

こじらせた処女
BL
 風邪でフラフラの大学生がトイレに行きたくなるけど、体が思い通りに動かない話

咳が苦しくておしっこが言えなかった同居人

こじらせた処女
BL
 過労が祟った菖(あやめ)は、風邪をひいてしまった。症状の中で咳が最もひどく、夜も寝苦しくて起きてしまうほど。 それなのに、元々がリモートワークだったこともあってか、休むことはせず、ベッドの上でパソコンを叩いていた。それに怒った同居人の楓(かえで)はその日一日有給を取り、菖を監視する。咳が止まらない菖にホットレモンを作ったり、背中をさすったりと献身的な世話のお陰で一度長い眠りにつくことができた。 しかし、1時間ほどで目を覚ましてしまう。それは水分をたくさんとったことによる尿意なのだが、咳のせいでなかなか言うことが出来ず、限界に近づいていき…?

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

たとえ性別が変わっても

てと
BL
ある日。親友の性別が変わって──。 ※TS要素を含むBL作品です。

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

処理中です...