姉の彼氏はわるい男

ルルオカ

文字の大きさ
上 下
11 / 30

俺に入れられないカンチョーはない

しおりを挟む




「あーーーーーーーーー!」

跳ねあがって、すぐに膝を折り、土下座するように地面に顔を突っ伏した。
突きだす尻に手を当てながら。

言葉にならない呻きを上げながら、ただただ震えるのを見下ろし、合わせた人差し指に、口をおちょぼにして「ふっ」と。
銃口から煙立つのを吹くようなイメージで。

「俺に入れられないカンチョーはない」

カンチョ―はメジャーなイタズラのようで、案外、一発ドンピシャで入れるのは難しい。
割れ目を外して、尻たぶに突きさすことも多々あり。

が、小学生の俺は百発百中だった。

といって、そんな馬鹿げた才能あったとして、誇れないし、人生は薔薇色にならない。
と思いきや、そうでもなく。

中学生のころ「許せないあいつにカンチョ―してくれないか」と合掌され頭を下げられた。

曰く「人からレギュラーを奪って、申し訳なさそうにするどころか『ざまあ』とばかり、ふんぞり返っているのに一泡吹かせたい」と。

そいつとは親しかったし、実際、相手を見たら、聞いた通り、調子づいていたから、カンチョ―で鉄槌を下してやった。

洒落にならない暴力まで至らずに相手を痛めつけ、恥をかかせることができたのに依頼者はご満悦で、報酬にはやきそばパンを。

このことが評判となって、以降、ぼちぼちとカンチョ―報復を依頼されるように。

まだ、幼かったから、お安い御用にパンやお菓子、文房具など駄賃程度で引き受けたものを、高校に上がると、なにかと入り用になり「バイトをせずに稼げるかも」と本格的に商売をしだした。

日々、こつこつカンチョ―をして、おかげで今は、初回限定の特典レアアイテム、アイドルのオフショット写真集を愛でられている。

「ふはー」と感嘆して吐息すれば、机の向かいに座る友人は呆れたように、ため息を吐き、コーヒー牛乳の紙パックを持つ手で指差してきた。

「そのうち痛い目にあうぞ」

カンチョ―で稼いでいるのを、こいつだけは知っている。
で、忠告してくるのだが、耳蛸もなんのその「だいじょーぶ、だいじょーぶ」と口笛を吹くように応じる。

「自分の正体がばれないよう注意してっし。
報復したいっつうのに正当な理由がない限り、受けないようにしてっし」

そう、依頼されるまま、誰彼かまわずカンチョ―をしているわけではない。

依頼者から詳しく聞き、被害妄想による八つ当たりや、自分本意な逆恨みと判断したら、お断りをする。

依頼を受けたとして「俺(私)がどうこうの理由で、○○にカンチョ―してもらうよう頼みました」と録音するなど、万が一に備えているし、もちろん、自らも尻尾をつかまれるようなヘマをしない。

と、小学校低学年がするようなイタズラながら、慎重を期して臨んでいたのだが、つい金に目が眩むこともあり。

突如、発表された、愛しいアイドル五年の軌跡を追ったDVD発売。
未公開映像満載のDVD五枚組のお値段は、なんと十万円。しかも限定の販売数は少ない。

「どうすっぺや」と頭を抱えていたところ「『好きな人ができた』とフラれた。その好きな奴ってのにカンチョ―一発」と依頼された。

浮気されたり、略奪されたでなく、彼女の心変わりによって別れたなら、相手に非はない。
という判断をし、本来なら、受けないが、販売日が迫っているとあれば、選り好みはできず。

「相手は武道をしているから、気をつけろ」とアドバイスされたとはいえ、いまだ全戦全勝の俺は、そういう有段者もカンチョ―でねじ伏せてきた。

今回もお茶の子さいさいだろうと、いざ「俺のカンチョ―に向かうところ敵なし!」と勇んで合わせた人差し指を突っこんだところ、びくともせず。

外してはいない。
が、わずかに爪先が刺さっているのが、それ以上、潜りこめない。

固く閉じきって、どころか、鋼のような筋肉の弾力でもって押し返しているような。

むきになって、指を捻じこもうとしたら、手首をつかまれ、次の瞬間、宙を一回転して地面に背中を叩きつけた。

ただただ放心するのを、凛々しいイケメンが冷ややかに見下ろし、いつもとは逆に決め台詞のようなものを浴びせたもので。

「この痴れ者が」



※  ※  ※



「ああ、そいつな。
幼いころから合気道をやっているので有名だぞ。

武勇伝も多くて、逃げるひったくりをはっ倒したとかで、警察から表彰されたとか」

「知らなかったのか?」と友人に聞かれ、机に突っ伏していた顔を上げて「俺が入れられないカンチョ―がこの世にあるなんて・・・」と呟く。

「やべー、かっけー」と目を細めれば「そこは、悔しがらないのか?」と眉をしかめられ「なにがなんでも貫通させてやる!とかさ」と。

カンチョ―で商売するのに苦言をしていたはずが、惨敗したらしたで、気を使っているようなのが笑える。

その優しさを無下にするように「むしろ貫通されたい・・・」と頬杖をついてうっとりしたら「心配はしていたけど、まさか一目惚れするなんてな」と遠い目をしつつ、それ以上、小言を口にはしなかった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

[急募]三十路で童貞処女なウザ可愛い上司の落とし方

ヘタノヨコヅキ@商業名:夢臣都芽照
BL
\下ネタ上等!/ これは、そんな馬鹿な貴方を好きな、馬鹿な俺の話 / 不器用な部下×天真爛漫な上司 *表紙* 題字&イラスト:木樫 様 ( Twitter → @kigashi_san ) ( アルファポリス → https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/266628978 ) ※ 表紙の持ち出しはご遠慮ください (拡大版は1ページ目に挿入させていただいております!) 営業課で業績最下位を記録し続けていた 鳴戸怜雄(なるどれお) は四月、企画開発課へと左遷させられた。 異動に対し文句も不満も抱いていなかった鳴戸だが、そこで運命的な出会いを果たす。 『お前が四月から異動してきたクソ童貞だな?』 どう見ても、小学生。口を開けば下ネタばかり。……なのに、天才。 企画開発課課長、井合俊太(いあいしゅんた) に対し、鳴戸は真っ逆さまに恋をした。 真面目で堅物な部下と、三十路で童顔且つ天才だけどおバカな上司のお話です!! ※ この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※ 2022.10.10 レイアウトを変更いたしました!!

おしっこ8分目を守りましょう

こじらせた処女
BL
 海里(24)がルームシェアをしている新(24)のおしっこ我慢癖を矯正させるためにとあるルールを設ける話。

孤独な戦い(6)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

【完結】たっくんとコウちゃん【高校生編】

秋空花林
BL
 たっくんこと有川卓(ありかわすぐる)は高校生になった。  かつて側にいた親友はもういない。  その隙間を埋める様に、次々と女の子と付き合う卓。ある日、コウちゃんこと浦川光(うらかわひかり)と再会してー。  あっさり、さっくり読めるストーリーを目指しました。お暇な時に、サクッとお読み頂けたら嬉しいです。 ※たっくんとコウちゃん【小・中学生編】の続きです。未読の方は先にそちらをお読み下さい。 ■■ 連続物です■■ たっくんとコウちゃん【小・中学生編】 ↓ たっくんとコウちゃん【高校生編】 ★本作★ ↓ たっくんとコウちゃん【大学生編】 R18 と続きます。 ※小説家になろう様にも掲載してます。

孤独な戦い(5)

Phlogiston
BL
おしっこを我慢する遊びに耽る少年のお話。

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした

雨宮里玖
BL
《あらすじ》 昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。 その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。 その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。 早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。 乃木(18)普通の高校三年生。 波田野(17)早坂の友人。 蓑島(17)早坂の友人。 石井(18)乃木の友人。

【完結】女装ロリィタ、職場バレしました

若目
BL
ふわふわ揺れるリボン、フリル、レース。 キラキラ輝くビジューやパール。 かぼちゃの馬車やガラスの靴、白馬の王子様に毒リンゴ、ハートの女王やトランプの兵隊。 ケーキにマカロン、アイシングクッキーにキャンディ。 蔦薔薇に囲まれたお城や猫脚の家具、花かんむりにピンクのドレス。 ロココにヴィクトリアン、アールデコ…… 身長180センチ体重80キロの伊伏光史郎は、そのたくましい見かけとは裏腹に、子どもの頃から「女の子らしくてかわいいもの」が大好きな25歳。 少女趣味が高じて、今となってはロリィタファッションにのめり込み、週末になると大好きなロリィタ服を着て出かけるのが習慣となっていた。 ある日、お気に入りのロリィタ服を着て友人と出かけていたところ、職場の同僚の小山直也と出くわし、声をかけられた。 自分とは体格も性格もまるっきり違う小山を苦手としている光史郎は困惑するが…… 小柄な陽キャ男子×大柄な女装男子のBLです

処理中です...