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俺に入れられないカンチョーはない
しおりを挟む「あーーーーーーーーー!」
跳ねあがって、すぐに膝を折り、土下座するように地面に顔を突っ伏した。
突きだす尻に手を当てながら。
言葉にならない呻きを上げながら、ただただ震えるのを見下ろし、合わせた人差し指に、口をおちょぼにして「ふっ」と。
銃口から煙立つのを吹くようなイメージで。
「俺に入れられないカンチョーはない」
カンチョ―はメジャーなイタズラのようで、案外、一発ドンピシャで入れるのは難しい。
割れ目を外して、尻たぶに突きさすことも多々あり。
が、小学生の俺は百発百中だった。
といって、そんな馬鹿げた才能あったとして、誇れないし、人生は薔薇色にならない。
と思いきや、そうでもなく。
中学生のころ「許せないあいつにカンチョ―してくれないか」と合掌され頭を下げられた。
曰く「人からレギュラーを奪って、申し訳なさそうにするどころか『ざまあ』とばかり、ふんぞり返っているのに一泡吹かせたい」と。
そいつとは親しかったし、実際、相手を見たら、聞いた通り、調子づいていたから、カンチョ―で鉄槌を下してやった。
洒落にならない暴力まで至らずに相手を痛めつけ、恥をかかせることができたのに依頼者はご満悦で、報酬にはやきそばパンを。
このことが評判となって、以降、ぼちぼちとカンチョ―報復を依頼されるように。
まだ、幼かったから、お安い御用にパンやお菓子、文房具など駄賃程度で引き受けたものを、高校に上がると、なにかと入り用になり「バイトをせずに稼げるかも」と本格的に商売をしだした。
日々、こつこつカンチョ―をして、おかげで今は、初回限定の特典レアアイテム、アイドルのオフショット写真集を愛でられている。
「ふはー」と感嘆して吐息すれば、机の向かいに座る友人は呆れたように、ため息を吐き、コーヒー牛乳の紙パックを持つ手で指差してきた。
「そのうち痛い目にあうぞ」
カンチョ―で稼いでいるのを、こいつだけは知っている。
で、忠告してくるのだが、耳蛸もなんのその「だいじょーぶ、だいじょーぶ」と口笛を吹くように応じる。
「自分の正体がばれないよう注意してっし。
報復したいっつうのに正当な理由がない限り、受けないようにしてっし」
そう、依頼されるまま、誰彼かまわずカンチョ―をしているわけではない。
依頼者から詳しく聞き、被害妄想による八つ当たりや、自分本意な逆恨みと判断したら、お断りをする。
依頼を受けたとして「俺(私)がどうこうの理由で、○○にカンチョ―してもらうよう頼みました」と録音するなど、万が一に備えているし、もちろん、自らも尻尾をつかまれるようなヘマをしない。
と、小学校低学年がするようなイタズラながら、慎重を期して臨んでいたのだが、つい金に目が眩むこともあり。
突如、発表された、愛しいアイドル五年の軌跡を追ったDVD発売。
未公開映像満載のDVD五枚組のお値段は、なんと十万円。しかも限定の販売数は少ない。
「どうすっぺや」と頭を抱えていたところ「『好きな人ができた』とフラれた。その好きな奴ってのにカンチョ―一発」と依頼された。
浮気されたり、略奪されたでなく、彼女の心変わりによって別れたなら、相手に非はない。
という判断をし、本来なら、受けないが、販売日が迫っているとあれば、選り好みはできず。
「相手は武道をしているから、気をつけろ」とアドバイスされたとはいえ、いまだ全戦全勝の俺は、そういう有段者もカンチョ―でねじ伏せてきた。
今回もお茶の子さいさいだろうと、いざ「俺のカンチョ―に向かうところ敵なし!」と勇んで合わせた人差し指を突っこんだところ、びくともせず。
外してはいない。
が、わずかに爪先が刺さっているのが、それ以上、潜りこめない。
固く閉じきって、どころか、鋼のような筋肉の弾力でもって押し返しているような。
むきになって、指を捻じこもうとしたら、手首をつかまれ、次の瞬間、宙を一回転して地面に背中を叩きつけた。
ただただ放心するのを、凛々しいイケメンが冷ややかに見下ろし、いつもとは逆に決め台詞のようなものを浴びせたもので。
「この痴れ者が」
※ ※ ※
「ああ、そいつな。
幼いころから合気道をやっているので有名だぞ。
武勇伝も多くて、逃げるひったくりをはっ倒したとかで、警察から表彰されたとか」
「知らなかったのか?」と友人に聞かれ、机に突っ伏していた顔を上げて「俺が入れられないカンチョ―がこの世にあるなんて・・・」と呟く。
「やべー、かっけー」と目を細めれば「そこは、悔しがらないのか?」と眉をしかめられ「なにがなんでも貫通させてやる!とかさ」と。
カンチョ―で商売するのに苦言をしていたはずが、惨敗したらしたで、気を使っているようなのが笑える。
その優しさを無下にするように「むしろ貫通されたい・・・」と頬杖をついてうっとりしたら「心配はしていたけど、まさか一目惚れするなんてな」と遠い目をしつつ、それ以上、小言を口にはしなかった。
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