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第6話 その鎧、砕けるとき――
13.決着
しおりを挟む先に動いたのは輪廻無道――ジロウだった。
上段から不可避の絶対斬撃が、まさに天より高い一撃が落ちてくる。
『貰ったッ!』
『……ここだッ』
俺は白皇剣をその場に”落とし"、空いた両手でヨミノタチを待ち受ける。
『たぁッ!!』
俺の行動に、一瞬もブレることなく刀を振り下ろす。
『瞬手ッ』
ステラの祝福を手に使い、瞬時にヨミノタチを挟み込む。
いわゆる“白刃取り”だ。
『お、の、れぇ』
『お、おおおッ』
ああ言えば、ジロウの性格なら間違いなく上段斬りのまま正面から来る。そこを受け止める……という作戦はひとまず成功した。
しかし当然ながら輪廻無道の力は凄まじく、手の中でヨミノタチも暴れそうだ。
輪廻無道が押せば、俺が少し力を逃し、さらに引けば押す――せめぎ合いが続く。
『貴様、勝負を、ナメて、るのか!』
『最初に、私情は、挟まないとか、言ってなかったか!』
『俺様は、未熟だ! 故に、貴様を土産に、持っていき、認めて貰う!』
『そのせいで、ヤスオさん達が、お前の命を、人質に、やりたくもない事、やらされてるんだろうが!』
『――それもこれも、お前のせいだッ!』
『人の、せいに、するなッ!』
ふとこんな時に、考え事をする。
俺は異世界から魂だけこちらに飛ばされ、この鎧に入り込んだ。この場合は異世界転移なのか転生なのか。
かつて召喚されたっていう勇者ディアスや、忍びの里の始祖はどう思ったのかは知らない。使命感に燃えたりしたんだろうか。
それでも俺は、自分の事を勇者だとは思わないし、魔王なんて倒すどころか逃げちゃったし――魔力入れてくれる人や猫が居ないと動けなくなる、ただの鎧だ。
『いいえ。旧時代の神代の器……それがニーアデスの鎧です。ただの、とは心外です』
凄い新情報が来たけど……結局、俺は1人だと何も出来ないんだろう。
だから――。
『俺は、みんなの力を、借りて、みんなの力で、お前に、勝つッ』
俺はヨミノタチを掴み、そしてその切っ先を、俺の腹に向けさせ――力を緩めた。
『なにッ!?』
今度こそジロウは驚きの声を上げる。
それはそうだろう。わざわざ刺されたのだから……でも俺の狙いはここからだ。
再び動こうとするヨミノタチを抑えこむ。
『ルビィは全力でエレメントの維持、ハナコは魔力をもっとくれ! ステラは……後を頼む!』
俺は腹に刺さった刀に、意識を集中させる――俺の中に入ったモノは、俺を着た事にする!
『搭乗者を登録――失敗。再登録を行います――失敗。この手順を繰り返します』
禍々しい魔力と大量のエレメントの塊が渦巻く刀――このドス黒い感情の魔力。
魔素――これがジロウに取り憑き、ジロウの感情で成長していったのだろう。
侮辱、高慢、嫉妬、憤怒、後悔――自責の念が流れ込んでくる。
いずれ輪廻無道の鎧はこの魔素を糧に、ジロウを喰い殺す――。
『お前のバカみたいなプライド、全部俺が持って行ってやるよ……その代わり、ちゃんとヤスオさんらに、謝れよ!』
『な、何を言って……』
この魔素をどうにかしなければならないのなら、俺に移せばいい。
魔素は人間の魂と結合する――。
『搭乗者の登録――失敗』
星のマナは無いけど……代わりに3人分のマナがある。
『搭乗者の登録――失敗』
3人のマナをひとつに束ね、俺の”中"に入れる!
『搭乗者の登録――成功しました。ジロウ=ダイナンの登録、完了』
俺の意識は消失しなかった。
でも身体の自由は無くなってしまい――その隙に、ステラが白皇剣を拾い――輪廻無道のコアを穿いたのを、俺はどこか遠い世界のように見ていた。
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