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第6話 その鎧、砕けるとき――
10.VSジロウ その1
しおりを挟む次の日、どこからか帰ってきたステラは俺達と合流した後にテッカンさんの工房へとやってきた。
「こ、これは――魔炎鋼竜の牙じゃねーか!」
「嘘、マジで!?」
「ステラ、これどうしたんだよ」
「少しツテがあってな。国庫に置いてあったから貰ってきた」
「そんな簡単に取って来れるのか」
「で、父ちゃん。これでコンテスト用の武器も作れるし、万々歳やん」
「……いや、これだけだと足りねぇ」
「はい?」
「ガッチンの野郎はこの竜の素材をある程度は自由に使えるはずだ。鱗や爪、髭や翼――竜は武具素材の宝庫と言ってもいい。だからこそあのアルマステンの解析が必要なんじゃ」
「その解析の進捗は?」
「まだ時間が欲しいが……だからステラとヨーイチには、もう1つだけ強い素材を探してきて欲しい」
「どういったモノを?」
「何らかのマテリアル鋼の最高品質のモノであれば……」
「アホか! そんな高いもんそうそう市場に出とるか!」
マテリアル鋼の事も調べたが、購入するにはやはり錬金術の工房へ直接出向いて頼むしかないか。
でも俺の手持ちじゃ全然足りなさそうだし、借金か……。
『マテリアル鋼は人為的な方法で精製する以外にも方法があります』
(え、どうするの?)
『先程のドワーフの言っていた通り、竜の肉体は天然のマテリアル鋼と言えます。生物由来の素材は、通常の金属と違い反発現象が起き難いとされます』
(でも竜なんかどこに居るか分かんないし……)
『かつて私の時代にマテリアル鋼を量産する計画がありました。岩や魔鉱石のみを食すよう改良し、体内で精製するモノでした。しかし精製には長い長い年月を掛けねばならず、計画は頓挫しました』
(ダメじゃん)
『しかしその時の実験生物が野に放たれています。当時の名前は魔鋼竜です。そしてそれは、この地にも居るはずです』
「居るはずって。テッカンさん知ってます? 岩や魔鉱石を好んで食べる生物……」
「あぁ? 岩や魔鉱石を好んで食べる……どっかで聞いた事ある特徴だな」
「いやそれ鉱山喰いやん」
「そうだ鉱山喰い……鉱山喰いか! その方法があったか!」
テッカンは部屋の奥へ引っ込み、1冊の分厚い本を持って帰ってきた。
「コイツは魔鉱石の取れる鉱山に住み着き、そこにある鉱石を根こそぎ食っちまう害獣だ。向こうから人を襲う事も無いし、1年の殆どを岩の中で寝て過ごす。そのあまりの硬さ故に一般冒険者じゃ文字通り歯が立たねぇから、討伐もほぼ無理な奴だ」
「……でも、ウチらドワーフなら別や」
「ルビィ。お前はすぐに他の工房の奴らに声を掛けてくれ、儂から話があると。鍛冶屋通りの広場だ」
「分かった!」
◇◆◇◆◇◆◇
それから数時間後の夜、広場にテッカンと共に俺達は居た。
テッカンの人望がどれほどあるのか――それはこれを見たら納得するしかない。
総勢100人ほどか。老若男女、ノーマン(人間)にドワーフや……エルフの職人なんてのも居るのか。
「テッカン! 帰って来てたんならすぐに声掛けろよな!」
「みんな済まなかったな! 儂が己の職人人生を掛けて王都へ行ったのは知っていると思うが、色々あって今はギリギリの所にいる」
ここでざわめく職人達――。
「その間にここの区域に大手武器工場が出来たせいで、鍛冶屋通りに今までの活気が失われつつある事も知っている」
それで妙に客が少なかったのか。
もしかして、俺が大通りで買った武器屋もそういう関係があったのかな。
「しかし、それを解決できる妙案がある。ドワーフの皆は昔……100年前くらいにやった鉱山狩りの事は覚えているな」
「おぉ、おぉ……まさかやるのか!?」
「今回も国に黙ってやる事にした。だから参加は強制じゃない……じゃが素材を持って帰る事が出来れば、鍛冶屋通りの新たな名物として売り出せる!」
「いいぜやろうぜ!」
「どうせ暇だしな!」
ドワーフ職人はみんな乗り気だ。他の職人、特に若い人らは良い顔をしてなかったが、反対する気は無さそうだ。
「出発は急だが明後日、西の鉱山へ行く!」
「「おぉー!!」」
◇◆◇◆◇◆◇
という事があって出発の日。
早朝、中央広場には30人ほどの職人達が集まっていた。各々の荷物を馬車に積み込み、計8台。これだけ多いと壮観である。
「って父ちゃんも着いて来るんか」
「当たり前だ。責任者の儂が行かんと示しが付かんだろう」
「解析は?」
「必要なもんは積んだ。現場近くに放棄された町があるはずだから、そこでやる」
「全部積み込んだ。出れるぞー!」
「よし。出発じゃー!!」
◇◆◇◆◇◆◇
西への街道を進むこと1日。途中から旧街道へ入りさらに1日進んだ所に目的の鉱山はあった。
道中、立て札で『この先、魔物が住み着いた鉱山。危険』と書かれているのをいくつか見つけるが、当然一団は気にせず進む。
町の入り口の封鎖を勝手に壊し、一団は街へと入った。
もう住民が居なくなり何年も経ったのだろう。中には朽ちてしまったような家屋もある。
かつてのメインストリートを通り、一団は鉱山の入り口へとやってきた。
「よしみんな。まずはお疲れ様じゃ! 本格的な探索は明日から行うから、各自準備を進めてくれ」
「「「うーすっ」」」
俺はキャンプ用のテントの設営をやったり、薪を集めるのを手伝ったりしていたのだが、何故だろう。どこからか視線を感じる気がする。
「ニーアはどうだ」
『不明。私のセンサーには、何も感知しておりません』
「……気のせいかな」
ちなみにニーアのセンサーはそこまで広くはない。俺を中心に200mくらいだ。あまり広すぎると拾う情報が増えすぎて処理が難しくなるらしい。
向こうの方では、既に職人達の笑い声が聞こえる。
「あの人達、今晩も酒ばっか飲むんだろうなぁ」
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