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第6話 その鎧、砕けるとき――
6.生誕
しおりを挟む「うふふ……ついに超越した力が我が物になるか」
今は壇上と席との間に分厚いカーテンで仕切られている。
ロータスは器具の付いた椅子へと座り、その時を今かと待ち侘びていた。
俺も別の椅子に座らされ、手脚は鎖で椅子に縛り付けられている。この鎖は魔法的な処理がされているのか、引っ張っても全く切れる気がしない。
「楽しみだ――ごほっ、ごほっ」
突如咳き込みだし、抑えた手の間からは血が滲む。
「忌々しい病魔め……だがこの苦しみとも……」
「お義父様、準備が整いました」
「おぉ……」
カーテンが取り払われ、再び信者達の前に姿を表すロータス。
「信徒達よ……大神官様へ祈りを捧げなさい」
『あぁ魔王様よ――どうか我らの父に、祝福を――』
この大聖堂にはパイプオルガンが置かれているのだろう。荘厳なBGMが部屋の中に響き渡る。
「そして我らが父は、魔王へと成る」
『あぁ魔王様よ――どうかお導きを――』
信者達の合唱と共に、装置は禍々しい光を放つ。
「来るぞ、来るぞ、来るぞ――来た、来た来た来たキタタタタタダダダ――」
ロータスは白目を剥き――ケースの中の黒いモヤが蠢く。
そのモヤは、すぐに管を通って星命の卵のあるケースへ移動する。
卵がモヤに包まれたと思った瞬間――卵はヒビ割れ、光が漏れる。
「さぁ、誕生します」
『おぉ……』
その光は徐々に輝きを増す。
そして、
バリバリバリッ――!
派手な音と共に、ケースを破って外へと出た。
「フシュウルルルルゥ――こ、コレがマナの力か。素晴らしい、素晴らしいゾ!!」
光は次第に人型へと変貌する。
しかしその姿はロータスではなく、あの白い化け物のようだった。
「だガ、確かにコレは制御がムズかしい……早速その鎧、使わセテ貰うゾ」
「くッ」
ロータスはゆっくりとこちらへ歩いてくる。
(ずっと考えていたけど、有効打が何も思い付かないッ!)
ゲートに仕舞うことはできるか――ダメだ。結局俺の魔力で創った空間だから、それ以上の力で無理矢理出てくるだろう。
あえて取り込んで精神力で俺が勝つか――ダメだ。あのオッサンの狂気を超えれる正気なんか、元リーマンの俺が持ってるはずない。
(せめて両手両足が自由になればコアを――!)
「さァ、ひとつにナロうではなイカ」
「そこまでなのじゃ!」
大聖堂の中に響く声に、信者達が一斉に周囲を見渡す。
「あそこだ!」
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、兄ちゃんが助けてと呼ぶ! 最強ニン者ハナコ、ここに見参なのじゃ!」
ハナコは大聖堂のシャンデリアに登って、片手で顔面を覆う決めポーズをしていた。
あまりにも目立ち過ぎる忍者の姿に、一同は思わず唖然とする。
そんな中、クロエが最初に声を掛けた。
「ハナコちゃん。ニン者は忍ばないとダメなのよ」
「クロエよ。これからのニン者はカッコ良さをアピールする事が大事なのじゃ……ほれ」
瓶に入ったナニかを信者達の間に落とし――そこから巨大スライムが出現した。
「――!!」
「ぎゃああ、スライムが!?」
「と、取り込まれ――ごぼぼ」
手当たり次第に巨大スライムが周りの信者を取り込みだした。
クロエは周りの神官へ支持を出す。
「守護者達はスライムから信者の救出を。私は不埒者を処理します」
「「御意」」
「そうはさせん! 大海を見よ、大いなるその腕に抱かれよ――スートン=ダイオオショウ!」
印の構えと呪文を唱えたと同時に、どこからか現れた大量の水が大聖堂へと流れこむ。
水は飛び掛ってきた守護者ごと流し、その隙にハナコはクナイを投げ、俺を縛り付けている鎖を砕いた。
「ナイス、ハナコ!」
即座にゲートから白皇剣を取り出し、魔力を込める。
そして、異形のロータスの腕を斬り落とした。
「ぎゃあああアアア――なんてナ」
「んなもん想定済だ!」
さらにゲートの中から鎧袖ナックルを左腕に装着し、回転する魔力をロータスの腹に喰らわせる。
「ドリルナックル!」
「ギャハハハ」
腹に穴が空くが、全く気にも止めない。
しかしそれで構わない。
「火よ爆ぜろ、ファイアーボール!」
前準備として用意していた……腕に貼り付けていた呪符を起動する。
「ギャハ――ボハッ!?」
体内で爆発は思っても見なかったのだろう、思わずよろめくロータス。
「――そこだッ!」
経緯がどうあれ、マナビーストであるならコアを破壊すれば倒せるはず。
「白皇、一閃!」
俺の一撃がロータスのコアを破壊――、
「えっ!?」
――出来なかった。
詳しく言うなら、コアのある部分を斬ったはずなのに、手応えが無かったのだ
「ギャハッ、ギャハッ――言ったロ、ワシは魔王になると……コアなんぞ魔族――いやマ族に存在すると思ったノカ!」
「そんな……」
相手がマナビーストではなく、魔族であるなら弱点は基本的に1つしかない。
魔力を込めた強力な攻撃を、相手が死ぬまで叩き付ける――。
「ムダな抵抗はヤメロ。さっきはああ言ったが、お前はワシの中で、生き続けるコトがデキるのダ……これ以上の幸福はないゾ」
「クソッ」
「ナニをしとるんじゃッ!」
間合いなんて気にせずどんどん前進してくるロータス――その後頭部に目掛けて、ハナコの飛び蹴りが炸裂した。
ロータスに特にダメージも無かったようだが態勢を少し崩した。
ハナコは空中で回転しながら、俺の前に降り立つ。
「さっさと、こんな所からはオサラバじゃ!」
ハナコが懐から取り出した丸い玉(煙幕)を床に叩き付けようとした――その腕と脚を、光の束が撃ち抜く。
「ぐッ!?」
「ハナコ!」
「逃すとデモ……?」
さらにロータスの前にクロエが降り立つ。後ろには剣を抜いたディアンの姿も見える――。
状況は絶望的だ。
「さぁ、その鎧ヲ――」
ロータスがこちらに手を伸ばしたその瞬間だった。
胸元から装飾の付いた剣が、生えたのだ。
「……ナンの真似ダ。ディアン!」
「貴方の出番は、終わりです」
ディアンは剣から手を離し、クロエはロータスへ向き直る。
さらにロータスの周囲に守護者達が集まり、錫杖を床に突き立てながら呪文を唱え始めた。
「か、カラダが動かヌ――」
どうやら突き刺した剣を媒介にして、何かの封印魔法を使っているようだ。
「お義父様――お別れです」
クロエは錫杖を構え魔力を込めると、それは鍵のような姿を取る。
「魂よ開け、そして汝のあるべき姿を取り戻せ――ゲートン=カンナヅキ!」
鍵をロータスの頭に突き刺すと扉が出現し、そして捻る。
「う、うギギギぁぁぁぁアアアッ!?」
ロータスは悲鳴を上げながら、その身体がパズルのように分解され――再構築される。
再構成は一瞬で終わった――光が収まると、1人の男が現れた
今度は先ほどとは違い、ちゃんとした人の姿をしていた。
顔は少しロータスに似ている気もするが、年齢で言えば40代くらい。鋭い眼光の、引き締まった肉体を持つ全裸の男が、静かに立ち上がった。
「ふむ……ワシの名前は……なんだったか」
「魔王ロベリア様、お帰りなさいませ」
「ロベリア……おお、そうだ。ワシはロベリア」
クロエが頭を垂れ、跪く。
周りの守護者達もそれに続いた。
そして、未だに混乱が続く信者達を指差した。
「あそこに贄を200名ほど用意しました。程よく、混沌に満ちています」
「ふむ――」
ロベリアが深呼吸を行うと、信者達の口から黒いモヤが飛び出し――それらが口の中へと消えていった。
信者達は皆、意識を失い倒れた。
「おっと。吸い過ぎたせいで贄が――」
「また新たに用意しますゆえ……」
ディアンが剣を収め、ロベリアに声を掛ける。
「ロベリア卿。初めまして」
「君は……魔族か」
「いいえ――貴方と同じですよ」
会話の内容は気になるが、それを悠長に眺めている訳にはいかなかった。
俺は怪我をしているハナコを中へ収納すると、即座に煙幕を叩きつけた。
「む?」
怪訝そうなロベリアの声を背中に、俺は大聖堂から脱出したのだ。
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