82 / 93
第6話 その鎧、砕けるとき――
4.大神官ロータス
しおりを挟むしばらくして、クロエが俺達を迎えに来た。
クロエと女神官達に囲まれながら俺は、大聖堂の最奥のステージみたいな場所へと連れてこられた。
既に大聖堂内は多くの人が溢れ、しかし雑談などは一切なく――静かであった。
みんな両手を組み、祈りを捧げているようだ。
背後の巨大な、ウロボロスの彫像に――。
「これより、大神官ロータス様よりお告げが下されます。皆の者、ご拝聴を」
クロエが壇上でそう宣告すると、信者達は祈りを辞め顔を上げた。
老若男女の様々な人の顔がフードから出てきた。
クロエの言葉に、誰もが瞳を輝かせている。
そこへロータスがステージ上へとやってきた。
黒い神官服をさらに悪趣味にしたような格好だ。勝負服的なものだろうか。
『……魔王の信徒達よ、時は来た』
拡声魔法を使っているのだろう、その声はよく通った。
『今こそ偽りの歴史を創り出したディアト教と、それを国教とする腐敗したシンディア王家を打倒する時が来たのだ』
「おぉ――」
『ここに居るのは、クロエ大神官補佐が探し出した――かつてシンディア国から追放された勇者ディアスの子孫、ディアン=ディアトである』
「なんと……」
「子孫が居たのか……」
さすがに動揺する者も居たが次のロータスの言葉に、それも消え失せた。
『そして! 我らは聖なる卵と、勇者ディアスの着た伝説の鎧を、卑劣な国より奪取することに成功した!』
大げさに両手を広げる。
信者達から感嘆の息が、漏れ聞こえてくる。
『今こそ決起の時――今日は皆の者に、歴史的な目撃者になって貰おうと思う』
そう言い終わる頃に、アリシアと女神官達によってステージ上へ何かの器具が付いた椅子が運ばれてきた。
それは複数のケーブルで繋がれ、2つのケースに繋がっている。
1つは黒いガスのようなモノが詰まっている。
もう1つには星命の卵が鎮座している。
『この我が身に起きる奇跡の瞬間を、魔王となるその瞬間を、その目で見るが良い!!』
その声と共に分厚いカーテンか閉まり、信者達との視界が遮られる。
カーテンの向こうでは、今まで以上のざわめきが会場を響かせていた。
「これより大神官様は、魔王と成る儀式の準備をします。敬虔なる信徒達は、祈りを捧げなさい」
それを制するようにクロエからの言葉。
その瞬間――不気味な程に静かになった。
「魔王だって!?」
ここまで黙って聞いていたが、さすがに俺も声を上げた。
ロータスはこちらに向き直り、これ以上ないくらいに上機嫌に笑う。
「そうだよ。私の命はもう長くは無い――しかしこの身が朽ちることのない方法を探し出したのだ」
「それが魔王化っていうのかよ。そもそも出来るのかよ」
ここでも大げさに両手を広げるロータス。
「出来るッ! ――ヨーイチ君は魔族の身体が何で出来ているか知っているかね」
「魔素だろ。マイナス魔力の塊」
「その通り。しかし人間の肉体と魔素は相容れない――人から産まれた感情を糧としているのに不思議な話だ……」
俺の周りをウロウロとしながらロータスは続ける。
「ならば人間の魂と魔素はどうか……そう考え、魔素に人の魂を入れる実験を行い、成功した。あとは大量のマナを肉体の代わりとして使えば――」
「まさか……」
俺はケースの中に入っている卵を見る。
「そうだ、この星命の卵の中には高密度のマナが詰まっている」
「でも、生き物はマナの制御が――」
「安心しろ。それも解決済だ!」
「そんな……」
「これはワシだけの成果ではない。遥か昔から研究者達は、人の肉体から魔族の肉体へ移し替える実験を行ってきた」
思い当たる節がある。
この間のダンジョンの中にあった研究所と封印された魔族――アレはそういう事なのか。
「アリシアのおかげで、その成果がワシの代で完成したのは、まさに運命と呼ぶしかない」
「……お前は魔王になって、どうしたいんだよ」
「まずは教会と王国の打倒! そして、この大陸を手中に収めた後に、全世界へと宣戦布告を行う……魔王軍の残党も、ワシの力の前に屈服させてやる」
「そんな事を――」
しかし俺の身体は女神官達に抑えられ、動く事が出来ない。
「……君には分らんだろうな。不老不死の身体を持つ君には」
思わずギクッとする。
その様子も見抜かれているのか、ロータスは俺の目の前まで来て、愛おしそうに俺の鎧を撫でる。
「き、気色悪い触り方するな!」
「――だが君もここまでだ。その鎧はワシが使わせて貰う」
「なんだと?」
「それが高密度のマナを制御する方法だよ。搭乗者に合わせて形状を変化させる……どんな魔力も波長を合わせ、無限の力を引き出す鎧。素晴らしい!」
もうこのロータスに説得することは無理だ。
既にあっちの世界でも見えているのか、正気には思えなかった。
「じゃあ、準備に入ろうか」
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ
さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。

食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる