セカンド人生は動く鎧になって冒険者生活!?

ゆめのマタグラ

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第6話 その鎧、砕けるとき――

4.大神官ロータス

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 しばらくして、クロエが俺達を迎えに来た。

 クロエと女神官達に囲まれながら俺は、大聖堂の最奥のステージみたいな場所へと連れてこられた。
 既に大聖堂内は多くの人が溢れ、しかし雑談などは一切なく――静かであった。
 みんな両手を組み、祈りを捧げているようだ。
 背後の巨大な、ウロボロスの彫像に――。

「これより、大神官ロータス様よりお告げが下されます。皆の者、ご拝聴を」

 クロエが壇上でそう宣告すると、信者達は祈りを辞め顔を上げた。
 老若男女の様々な人の顔がフードから出てきた。
 クロエの言葉に、誰もが瞳を輝かせている。

 そこへロータスがステージ上へとやってきた。
 黒い神官服をさらに悪趣味にしたような格好だ。勝負服的なものだろうか。
 
『……魔王の信徒達よ、時は来た』

 拡声魔法を使っているのだろう、その声はよく通った。

『今こそ偽りの歴史を創り出したディアト教と、それを国教とする腐敗したシンディア王家を打倒する時が来たのだ』
 
「おぉ――」

『ここに居るのは、クロエ大神官補佐が探し出した――かつてシンディア国から追放された勇者ディアスの子孫、ディアン=ディアトである』

「なんと……」
「子孫が居たのか……」

 さすがに動揺する者も居たが次のロータスの言葉に、それも消え失せた。

『そして! 我らは聖なる卵と、勇者ディアスの着た伝説の鎧を、卑劣な国より奪取することに成功した!』

 大げさに両手を広げる。
 信者達から感嘆の息が、漏れ聞こえてくる。
 
『今こそ決起の時――今日は皆の者に、歴史的な目撃者になって貰おうと思う』

 そう言い終わる頃に、アリシアと女神官達によってステージ上へ何かの器具が付いた椅子が運ばれてきた。
 それは複数のケーブルで繋がれ、2つのケースに繋がっている。
 1つは黒いガスのようなモノが詰まっている。
 もう1つには星命の卵マナストーンが鎮座している。

『この我が身に起きる奇跡の瞬間を、魔王となるその瞬間を、その目で見るが良い!!』

 その声と共に分厚いカーテンか閉まり、信者達との視界が遮られる。
 カーテンの向こうでは、今まで以上のざわめきが会場を響かせていた。

「これより大神官様は、魔王と成る儀式の準備をします。敬虔なる信徒達は、祈りを捧げなさい」

 それを制するようにクロエからの言葉。
 その瞬間――不気味な程に静かになった。
 
「魔王だって!?」

 ここまで黙って聞いていたが、さすがに俺も声を上げた。
 ロータスはこちらに向き直り、これ以上ないくらいに上機嫌に笑う。

「そうだよ。私の命はもう長くは無い――しかしこの身が朽ちることのない方法を探し出したのだ」
「それが魔王化っていうのかよ。そもそも出来るのかよ」

 ここでも大げさに両手を広げるロータス。

「出来るッ! ――ヨーイチ君は魔族の身体が何で出来ているか知っているかね」
「魔素だろ。マイナス魔力の塊」
「その通り。しかし人間の肉体と魔素は相容れない――人から産まれた感情を糧としているのに不思議な話だ……」

 俺の周りをウロウロとしながらロータスは続ける。

「ならば人間の魂と魔素はどうか……そう考え、魔素に人の魂を入れる実験を行い、成功した。あとは大量のマナを肉体の代わりとして使えば――」
「まさか……」

 俺はケースの中に入っている卵を見る。

「そうだ、この星命の卵マナストーンの中には高密度のマナが詰まっている」
「でも、生き物はマナの制御が――」 
「安心しろ。それも解決済だ!」
「そんな……」
「これはワシだけの成果ではない。遥か昔から研究者達は、人の肉体から魔族の肉体へ移し替える実験を行ってきた」

 思い当たる節がある。
 この間のダンジョンの中にあった研究所と封印された魔族――アレはそういう事なのか。

「アリシアのおかげで、その成果がワシの代で完成したのは、まさに運命と呼ぶしかない」
「……お前は魔王になって、どうしたいんだよ」
「まずは教会と王国の打倒! そして、この大陸を手中に収めた後に、全世界へと宣戦布告を行う……魔王軍の残党も、ワシの力の前に屈服させてやる」
「そんな事を――」

 しかし俺の身体は女神官達に抑えられ、動く事が出来ない。

「……君には分らんだろうな。不老不死の身体を持つ君には」

 思わずギクッとする。
 その様子も見抜かれているのか、ロータスは俺の目の前まで来て、愛おしそうに俺の鎧を撫でる。

「き、気色悪い触り方するな!」
「――だが君もここまでだ。その鎧はワシが使わせて貰う」
「なんだと?」
「それが高密度のマナを制御する方法だよ。搭乗者に合わせて形状を変化させる……どんな魔力も波長を合わせ、無限の力を引き出す鎧。素晴らしい!」

 もうこのロータスに説得することは無理だ。
 既にあっちの世界でも見えているのか、正気には思えなかった。

「じゃあ、準備に入ろうか」

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