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第5話 冒険者の日常
20.ミルメルモの相談
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ハナコは服も洗濯中なので、女の子から黒いローブを借りた。
「ふぅ、すっきりしたのじゃ」
薄暗い廊下を進んでいくと……ある部屋の前に案内された。
ドアの前に【ミルメルモ・ライム】と簡素なプレートが貼り付けてある。
「ど、どうぞ」
「お邪魔しますなのじゃ」
分厚いカーテンに、所狭しと並べられた棚には本や薬品。テーブルの上にも何かの実験器具が並び――床にも本が積まれている。
ベッドにも本やローブやら下着やらが散らばり、一体この子はどこで寝ているのだろうか。
「ち、散らかっててすいません! すぐ片付けます!」
女の子――ミルメルモは慌てて本や服を部屋の隅っこに積み重ねた。
「ほーこれが研究所か。見事にスライム関係しか無いのじゃ」
「私はスライム専門で……依頼があればその要望に沿ったスライムを作ったりするんです」
(都合良く中に入れたし、仕事をするか)
魔力センサーを展開――大小様々な反応が見つかる。
人間やエルフ、獣人や亜人など……武器や道具、本に至るまで。
センサーに感知し、丁寧に検証していく――。
その結果は……。
(うん。シロだ)
いかん。このままでは女の子同士のシャワーシーンを覗いただけになってしまう。
(盗んだものをそんな分かりやすくギルド内には置かないか……地道に街中歩くしかないのか)
「そういえばエルフの先輩がいるって言ってたけど、その人は何を専門にしとるんじゃ? あ、やっぱりメンバーにも秘密だったりするのじゃ?」
「――はい。研究内容に関しては……でも先輩の専門はその、それそのものが秘密というか……」
急に言葉の歯切れが悪くなる。
「――ハナコさんは冒険者もやっているんですよね」
「うん? そうなのじゃ。地元から上京して来たんじゃが、今は冒険者でお金を稼いでいるのじゃ」
「……あの、依頼したい事があるんです」
「依頼?」
「これはギルドとか通せないので、私が直接お金を払います……迷惑掛けて知り合ったばかりなのに……でも、他の人に頼めなくて……」
「何を言うのじゃ。アタシは冒険者である前にプロニン者でもある……それに、そんな顔している――アレ、名前聞いたっけ?」
「ぐすっ――ミルメルモ=ライムって言います」
「ミルメ……ミルちゃんがそんな顔をしつ頼んでおるのじゃ。今回はサービスでアタシが受けてやるのじゃ」
ミルメルモが落ち着くまで待ち、ベッドの横に座らせて依頼の詳しい話を聞いた。
「まだ新人で……ギルドに入った時からお世話になった先輩が、行方不明になっちゃって」
「行方不明?」
「実はこのギルドだけでなく、他の魔道ギルドでも帰って来ない人が居て……普通は遠征申請出さないといけないのに、それすら出さないでどこかに行ったってマスターが怒ってました」
「まぁ魔道研究者ならそういう時もあるんじゃないのかの……例えば魔獣が専門なら山奥に行ってるとか」
「それが……消えた人達はみんな共通点があって」
(共通点とな)
「表向きはみんな専門が違うんですが……その、実は魔族の研究をしていたんです」
「魔族の研究……そういうのって国の魔道研究室くらいしか……」
「そうです。邪教のこともあり、どの国もギルド内での研究は禁止です……」
邪教と言えばウロボロス教団。
魔王崇拝を掲げ、この国のどこかで暗躍する宗教団体――としか俺も知らない。
図書館調べによると、輪廻を巡るという意味のウロボロスを象徴として活動しており、魔族を崇めている団体――と、これも大した情報は書いてなかった。
多分詳細を書けば、興味ある人が増えるからであろうけど。
「元々国の研究室に先輩は居たんですが、そこにいる上司と研究方針が噛み合わず、折り合いが悪くなり辞めて――このギルドに入ったらしいです」
「ふーむ。魔族専門の研究者のみが行方不明か……これは面倒なことになってきたのじゃ」
「公になれば魔道ギルドもただでは済まないので、この件については魔道協会から戒厳令が敷かれました」
戒厳令――つまりお前ら黙ってろ。何もするなとお上から言われたのだ。
「ちなみにいつから行方不明なのじゃ?」
「えっと――大体3ヶ月前からポツポツと行方不明者の話が出て……先輩は先月に……先輩は少ししたら戻るからって……私が協力して、夜にこのギルドの感知結界に穴を……」
「もしかしてスライムが爆発したのって」
「はい。私が先輩を外に出す時に……まさかこんな事になるなんて思いもしなくて……」
うーん、しかし依頼が2つも重複してしまうとは。
どっちも失せ物だけど、手掛かりが無いとなぁ。
「とりあえずその先輩の部屋に行ってみるのじゃ。何かの手掛かりが残されているといいが――」
「あっ。私がギルド入った時に、記念に魔道絵師の人に絵を撮って貰ったんで、部屋のどこかに飾ってるかも」
「よーし。タケル8号、一緒に来るのだ」
(………………あ、俺か)
『かしこまりました、マイマスター』
「……それにしても凄いね、この8号君。人の言葉喋るなんて」
「ふ、ふふーん。凄いじゃろ」
普通は人の言葉喋らないのか――設定詰める時間無かったしなぁ。
「ふぅ、すっきりしたのじゃ」
薄暗い廊下を進んでいくと……ある部屋の前に案内された。
ドアの前に【ミルメルモ・ライム】と簡素なプレートが貼り付けてある。
「ど、どうぞ」
「お邪魔しますなのじゃ」
分厚いカーテンに、所狭しと並べられた棚には本や薬品。テーブルの上にも何かの実験器具が並び――床にも本が積まれている。
ベッドにも本やローブやら下着やらが散らばり、一体この子はどこで寝ているのだろうか。
「ち、散らかっててすいません! すぐ片付けます!」
女の子――ミルメルモは慌てて本や服を部屋の隅っこに積み重ねた。
「ほーこれが研究所か。見事にスライム関係しか無いのじゃ」
「私はスライム専門で……依頼があればその要望に沿ったスライムを作ったりするんです」
(都合良く中に入れたし、仕事をするか)
魔力センサーを展開――大小様々な反応が見つかる。
人間やエルフ、獣人や亜人など……武器や道具、本に至るまで。
センサーに感知し、丁寧に検証していく――。
その結果は……。
(うん。シロだ)
いかん。このままでは女の子同士のシャワーシーンを覗いただけになってしまう。
(盗んだものをそんな分かりやすくギルド内には置かないか……地道に街中歩くしかないのか)
「そういえばエルフの先輩がいるって言ってたけど、その人は何を専門にしとるんじゃ? あ、やっぱりメンバーにも秘密だったりするのじゃ?」
「――はい。研究内容に関しては……でも先輩の専門はその、それそのものが秘密というか……」
急に言葉の歯切れが悪くなる。
「――ハナコさんは冒険者もやっているんですよね」
「うん? そうなのじゃ。地元から上京して来たんじゃが、今は冒険者でお金を稼いでいるのじゃ」
「……あの、依頼したい事があるんです」
「依頼?」
「これはギルドとか通せないので、私が直接お金を払います……迷惑掛けて知り合ったばかりなのに……でも、他の人に頼めなくて……」
「何を言うのじゃ。アタシは冒険者である前にプロニン者でもある……それに、そんな顔している――アレ、名前聞いたっけ?」
「ぐすっ――ミルメルモ=ライムって言います」
「ミルメ……ミルちゃんがそんな顔をしつ頼んでおるのじゃ。今回はサービスでアタシが受けてやるのじゃ」
ミルメルモが落ち着くまで待ち、ベッドの横に座らせて依頼の詳しい話を聞いた。
「まだ新人で……ギルドに入った時からお世話になった先輩が、行方不明になっちゃって」
「行方不明?」
「実はこのギルドだけでなく、他の魔道ギルドでも帰って来ない人が居て……普通は遠征申請出さないといけないのに、それすら出さないでどこかに行ったってマスターが怒ってました」
「まぁ魔道研究者ならそういう時もあるんじゃないのかの……例えば魔獣が専門なら山奥に行ってるとか」
「それが……消えた人達はみんな共通点があって」
(共通点とな)
「表向きはみんな専門が違うんですが……その、実は魔族の研究をしていたんです」
「魔族の研究……そういうのって国の魔道研究室くらいしか……」
「そうです。邪教のこともあり、どの国もギルド内での研究は禁止です……」
邪教と言えばウロボロス教団。
魔王崇拝を掲げ、この国のどこかで暗躍する宗教団体――としか俺も知らない。
図書館調べによると、輪廻を巡るという意味のウロボロスを象徴として活動しており、魔族を崇めている団体――と、これも大した情報は書いてなかった。
多分詳細を書けば、興味ある人が増えるからであろうけど。
「元々国の研究室に先輩は居たんですが、そこにいる上司と研究方針が噛み合わず、折り合いが悪くなり辞めて――このギルドに入ったらしいです」
「ふーむ。魔族専門の研究者のみが行方不明か……これは面倒なことになってきたのじゃ」
「公になれば魔道ギルドもただでは済まないので、この件については魔道協会から戒厳令が敷かれました」
戒厳令――つまりお前ら黙ってろ。何もするなとお上から言われたのだ。
「ちなみにいつから行方不明なのじゃ?」
「えっと――大体3ヶ月前からポツポツと行方不明者の話が出て……先輩は先月に……先輩は少ししたら戻るからって……私が協力して、夜にこのギルドの感知結界に穴を……」
「もしかしてスライムが爆発したのって」
「はい。私が先輩を外に出す時に……まさかこんな事になるなんて思いもしなくて……」
うーん、しかし依頼が2つも重複してしまうとは。
どっちも失せ物だけど、手掛かりが無いとなぁ。
「とりあえずその先輩の部屋に行ってみるのじゃ。何かの手掛かりが残されているといいが――」
「あっ。私がギルド入った時に、記念に魔道絵師の人に絵を撮って貰ったんで、部屋のどこかに飾ってるかも」
「よーし。タケル8号、一緒に来るのだ」
(………………あ、俺か)
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「……それにしても凄いね、この8号君。人の言葉喋るなんて」
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