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第5話 冒険者の日常
19.魔道ギルド
しおりを挟む「すいません! 助けて頂いて有難うございます」
黒い三角帽子に黒いローブという典型的な魔法使いの恰好をした、おさげの女の子は律儀に頭を下げてお礼を言ってくれた。
「いやいや大した事じゃないのじゃ」
「凄い立派な鎧……しかもあんな凄い魔法見た事ありません!」
「そうじゃろそうじゃろ」
腕組みをして、物凄くドヤっているハナコ。
「……それでなんでこんな所に? 街道からも離れてますし――」
「ぎくッ――」
もちろんあの魔道ギルドを調べに来たとか言える訳ない。
ハナコは少し明後日の方向を見た後、何かを思い付いたようだ。
「あ、あぁそうじゃな。実は前にこの近くの水場に巨大スライムが出たって話があってな」
「うッ」
(う?)
「何を隠そうアタシが退治したのじゃが……あんな巨大スライムが野良で偶然発生する訳もないし、キナ臭いので少し調査しておったのだ」
苦し紛れの取って付けたような理由だが、目の前の女の子は何故か目が虚ろになっていく。
「今回もスライムは出たし、やはり何かこの地にはあるようなので国に通報するべきかと思うのじゃが」
通報すると言った途端、女の子が青ざめて震えだした。
そして、
「す……」
(す?)
「すい゙ま゙せん゙でした! 私がや”りまじだ!」
泣きじゃくりながらその場で土下座して地面に頭を擦り付けるのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
「こ、こちらですどうぞ……」
ひとまず詳しい話を聞くということで、ギルド内に入れて貰う事ができた。
このギルドは建物の外と敷地に、部外者はもちろん内部の人間が勝手に出て行かないようにする為の感知結界を張り巡らせてあるらしい。
今は彼女が出入り用の申請パスを持っているので、一緒にギルドへ入る事が出来る。
これを知らずに侵入していれば、今頃捕まって居ただろう。
さすがに全身がスライムの肉片でベトベトなので、先に風呂を貸して貰うことに。
「いいか兄ちゃん。色々説明するのは面倒じゃから、アタシの造った魔道生物って事にする。だからアタシの命令以外で余計な行動や私語は喋らないように」
『らじゃー』
「こ、ここが浴場です。と言っても今の時間は湯は入ってないので……シャワーだけになりますが」
「この体液流せるだけで助かるのじゃ……よいしょっと」
「す、凄い。やはり動く鎧のようなものだったんですね! しかも中に入って動かせるなんて……」
「これはアタシの自信作。搭乗者が乗って操作することも可能で、さらにアタシの命令で動くように半自律を可能にした……えっと、そう! 機動勇者ヤマトタケル8号じゃ!」
なんだその名前。
しかし目の前の女の子は瞳をキラキラと輝かせながら俺の内部を観察している。
「凄いこの触手みたいなので身体から魔力と伝達を……こういうのは専門外ですが、それでも凄いのは分かります!」
「ふふーん、そうじゃろ」
「あ、では私は後で……」
「面倒じゃ。お前さんも一緒に入ろうではないか」
「え、えぇ!?」
「良いではないか、良いではないか」
「じ、自分で脱ぎますから~!」
浴場に入り、俺は壁際で座り込む格好で置かれる。
兜(頭)は角度的に床しか見えないようで、実は正面も視えているのは内緒だ。
「ふわー、気持ちいいのじゃ」
「あ。スライムの体液はこの洗剤使うとよく落ちますよ」
「ありがとなのじゃ」
少女2人(片方は超年上だけど)のキャッキャッしたシャワーシーンは目に薬なのだが、それよりこの浴場。
風呂を張る浴槽以外にも広め浅めの浴槽がある。何か微妙に血のようなものがこびりついてように見え――無いはずの背筋が冷たくなる。
女の子の方はハナコの耳に気付き、少し羨ましそうに微笑んだ。
「あ、エルフの方だったんですね。いいなー。私の尊敬する先輩もエルフで……長い年月を研究と実験に費やせるとか羨ましいです」
「そ、そうかな?」
「無理だと思ってても早く追い付きたくて……それで、焦って……ぐすっ」
「あぁもう分かったのじゃ……アタシが洗ってやるのじゃ。ほら座った座った」
風呂用の椅子に座らせ、そのウェーブ状の髪を丁寧に洗っていく。
こうしていると姉妹に見えなくもない。
「それで? なんで巨大スライムなんて野に放ったのじゃ」
「あれは……侵入者を生きたまま捕獲できるスライムを開発中で。でも私の部屋は手狭だから、ちょっと裏の森で動作チェックしてたら……その。目を離した瞬間、どっかに行っちゃって」
「行方知れずになったんなら、他のメンバーに助けを求めれば良かったのじゃ」
「基本的にギルドのみんなは他人に不干渉が基本で……自室に引き篭もって研究しているか、逆に外へ素材探しに行って年に数回しか帰って来ない人も居ますし……」
「ふーん、難儀じゃのう」
「……それに私、先月もスライム爆発させて始末書出したばかりで……次やったら追い出される……」
(そっちが本音だな)
「よし。次はこの鎧洗うかの」
「あ、手伝います……」
ブラシとタオルを持った2人がちかづいてくる。
女の子はもちろん、ハナコも特に気にしてないのかタオルすら巻いてない。
ちなみに2人共似たような体型である。あまり大きくは無いが平原でもない。
(いかん――心を、無にするんだ)
ハナコはともかく見ず知らずの女の子の裸を見る訳にいかない――。
『シャットダウンしますか?』
(それやると見えなくなるだろ!)
俺はしばらく好きなように洗われるのであった。
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