セカンド人生は動く鎧になって冒険者生活!?

ゆめのマタグラ

文字の大きさ
上 下
76 / 93
第5話 冒険者の日常

19.魔道ギルド

しおりを挟む


「すいません! 助けて頂いて有難うございます」

 黒い三角帽子に黒いローブという典型的な魔法使いの恰好をした、おさげの女の子は律儀に頭を下げてお礼を言ってくれた。

「いやいや大した事じゃないのじゃ」
「凄い立派な鎧……しかもあんな凄い魔法見た事ありません!」
「そうじゃろそうじゃろ」

 腕組みをして、物凄くドヤっているハナコ。

「……それでなんでこんな所に? 街道からも離れてますし――」
「ぎくッ――」

 もちろんあの魔道ギルドを調べに来たとか言える訳ない。
 ハナコは少し明後日の方向を見た後、何かを思い付いたようだ。

「あ、あぁそうじゃな。実は前にこの近くの水場に巨大スライムが出たって話があってな」
「うッ」

(う?)

「何を隠そうアタシが退治したのじゃが……あんな巨大スライムが野良で偶然発生する訳もないし、キナ臭いので少し調査しておったのだ」

 苦し紛れの取って付けたような理由だが、目の前の女の子は何故か目が虚ろになっていく。

「今回もスライムは出たし、やはり何かこの地にはあるようなので国に通報するべきかと思うのじゃが」
 
 通報すると言った途端、女の子が青ざめて震えだした。
 そして、
 
「す……」

(す?)

「すい゙ま゙せん゙でした! 私がや”りまじだ!」

 泣きじゃくりながらその場で土下座して地面に頭を擦り付けるのであった。

  ◇◆◇◆◇◆◇


「こ、こちらですどうぞ……」

 ひとまず詳しい話を聞くということで、ギルド内に入れて貰う事ができた。
 このギルドは建物の外と敷地に、部外者はもちろん内部の人間が勝手に出て行かないようにする為の感知結界を張り巡らせてあるらしい。
 今は彼女が出入り用の申請パスを持っているので、一緒にギルドへ入る事が出来る。
 これを知らずに侵入していれば、今頃捕まって居ただろう。
 
 さすがに全身がスライムの肉片でベトベトなので、先に風呂を貸して貰うことに。

「いいか兄ちゃん。色々説明するのは面倒じゃから、アタシの造った魔道生物って事にする。だからアタシの命令以外で余計な行動や私語は喋らないように」
『らじゃー』
 
「こ、ここが浴場です。と言っても今の時間は湯は入ってないので……シャワーだけになりますが」
「この体液流せるだけで助かるのじゃ……よいしょっと」
「す、凄い。やはり動く鎧リビングアーマーのようなものだったんですね! しかも中に入って動かせるなんて……」
「これはアタシの自信作。搭乗者が乗って操作することも可能で、さらにアタシの命令で動くように半自律を可能にした……えっと、そう! 機動勇者ヤマトタケル8号じゃ!」

 なんだその名前。
 しかし目の前の女の子は瞳をキラキラと輝かせながら俺の内部を観察している。

「凄いこの触手みたいなので身体から魔力と伝達を……こういうのは専門外ですが、それでも凄いのは分かります!」
「ふふーん、そうじゃろ」
「あ、では私は後で……」
「面倒じゃ。お前さんも一緒に入ろうではないか」
「え、えぇ!?」
「良いではないか、良いではないか」
「じ、自分で脱ぎますから~!」

 浴場に入り、俺は壁際で座り込む格好で置かれる。
 兜(頭)は角度的に床しか見えないようで、実は正面も視えているのは内緒だ。

「ふわー、気持ちいいのじゃ」
「あ。スライムの体液はこの洗剤使うとよく落ちますよ」
「ありがとなのじゃ」

 少女2人(片方は超年上だけど)のキャッキャッしたシャワーシーンは目に薬なのだが、それよりこの浴場。
 風呂を張る浴槽以外にも広め浅めの浴槽がある。何か微妙に血のようなものがこびりついてように見え――無いはずの背筋が冷たくなる。
 女の子の方はハナコの耳に気付き、少し羨ましそうに微笑んだ。

「あ、エルフの方だったんですね。いいなー。私の尊敬する先輩もエルフで……長い年月を研究と実験に費やせるとか羨ましいです」
「そ、そうかな?」
「無理だと思ってても早く追い付きたくて……それで、焦って……ぐすっ」
「あぁもう分かったのじゃ……アタシが洗ってやるのじゃ。ほら座った座った」

 風呂用の椅子に座らせ、そのウェーブ状の髪を丁寧に洗っていく。
 こうしていると姉妹に見えなくもない。

「それで? なんで巨大スライムなんて野に放ったのじゃ」
「あれは……侵入者を生きたまま捕獲できるスライムを開発中で。でも私の部屋は手狭だから、ちょっと裏の森で動作チェックしてたら……その。目を離した瞬間、どっかに行っちゃって」
「行方知れずになったんなら、他のメンバーに助けを求めれば良かったのじゃ」
「基本的にギルドのみんなは他人に不干渉が基本で……自室に引き篭もって研究しているか、逆に外へ素材探しに行って年に数回しか帰って来ない人も居ますし……」
「ふーん、難儀じゃのう」
「……それに私、先月もスライム爆発させて始末書出したばかりで……次やったら追い出される……」

(そっちが本音だな)

「よし。次はこの鎧洗うかの」
「あ、手伝います……」

 ブラシとタオルを持った2人がちかづいてくる。
 女の子はもちろん、ハナコも特に気にしてないのかタオルすら巻いてない。
 ちなみに2人共似たような体型である。あまり大きくは無いが平原でもない。
 
(いかん――心を、無にするんだ)

 ハナコはともかく見ず知らずの女の子の裸を見る訳にいかない――。
 
『シャットダウンしますか?』
(それやると見えなくなるだろ!)

 俺はしばらく好きなように洗われるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

抽選結果は大魔王だったので、剣と魔法と平和と欲に溢れた異世界で、のんびりとスローライフしたいと思います。

蒼樹 煉
ファンタジー
抽選で、大魔王として転生したので、取り敢えず、まったりと魔物生成しながら、一応、大魔王なので、広々とした領土で、スローライフっぽいものを目指していきたいと思います。 ※誹謗中傷による「感想」は、お断りです。見付け次第、削除します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 ※駄文+誤字脱字+その他諸々でグダグダですが、宜しくお願いします。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

処理中です...