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第5話 冒険者の日常
16.激ヤバ案件来ました
しおりを挟む畑では人目があると困るというので、昼に街の中央にある教会まで行く事になった。
ちなみに朝からの畑耕し勝負は引き分けとなり、昼からもあの2人は畑を耕しているようだ。
「お手数をお掛けして申し訳ございません」
「いえいえ」
このクロエという緑髪のエルフ少女は、ディアト教の女神官である。
全身を白い布地に青のラインが入った簡素なデザインで、身体のラインもそこまで浮き出ていないようだ。
こちらを見ているようだが、その瞳は閉じられていて、手には錫杖のような杖を持っている。
「こちらへ……すぐに司教様が参ります」
「司教?」
教会は大きく立派で、中へ入ると大きなステンドグラスに天使が描かれ、奥には精悍な顔立ちの青年の像があった。両手で剣を持っているポーズを取っている。
昼ということでまだ礼拝をしている方も居たが、しばらくするとみんな外へ出て行ってしまった。
俺は椅子の1つに腰掛けて待つこと十数分。
「おー、君がかの有名なヨーイチ君か」
奥の扉から出てきたのは、太めのオッサン神官だった。
顔にも脂が乗り、服こそ簡素な神官服だが、その盛り上がったお腹は――正直宗教関係者としてそれはどうなんだ。
「銅5級の冒険者、響陽一です」
「うんうん。クラスこと銅5級だが、この間の王都の武器コンテストでの振る舞い、いやぁ見事なモノだったよ」
「えーっと、貴方が司教様で?」
「おっと申し訳ない――そう、ワシがディアト教本部の司教ロータス=オータムだ」
「あ、どうも……ん? オータムってことは」
俺の視線は後ろに立つクロエに向けられる。
「そう、この子はワシの娘だ。よろしくしてやってくれ」
「へぇ……」
全然全く似てないし、そもそもこのロータスはノーマン(標準的な人種族)だ。
嫁さんが美人エルフなのだろうか。
「お父様、依頼のことを……」
「うむ。ヨーイチ君には、ぜひ折り入って頼みたいことがあるのだよ」
「俺にって、他にも腕が立ちそうな冒険者は居そうですけど……」
「武器コンテストで優勝したのは何も武器だけの性能ではあるまい。それに――」
言葉を切り、少しニヤつきながら俺を指差した。
「我々が独自に調べた結果。君は、あの星命の獣と戦って生き残っている」
「えっ」
「倒したのはステラ=カーティスであると報告には聞いているが、君も一緒に戦ったのだろう? アレと戦って生き残るのは相当な腕前が無いと出来ないことだろう」
「そうなんですか?」
「アレは非常に特異な存在で……君はピンと来ないだろうが。過去には片腕を奪われた勇者も居たという話だ」
そんなにヤバかったのか。いや、確かにヤバかったけども。
でもまぁ、君は凄いと言われると、正直悪い気はしなくなってくる。
「で、ワシからの依頼なんだが……正式に受けてくれたら詳細を話そう。報酬は前金で金200枚。成功報酬として金300枚と、ワシ自ら洗礼を行ってやる」
「合わせて金500枚!?」
かなりの高額の依頼だ。
この間のソデックからの依頼でも金100枚で貴族の羽振りの良さを実感したが、さらにその5倍だ。
正直それに伴う難題な案件なんだろう――と俺が答えに困っているのを感じたのか、ロータスは頭を下げてきた。
「……頼む。この依頼を受けてくれるなら、もう少しだが上乗せもできる。これは非常に由々しき事態なのだが、教会は動くことはできないのだ……」
これだけをお偉いさんが本当に困って俺に頼って来たのが分かる誠実さだ。
ここで無下に断る事も出来ないし、俺も出来れば力になりたい。あとお金が欲しい。
「司教様……分かりました。俺なんかがどこまで出来るか分かりませんが、やるだけのことはやってみます」
「おぉ受けてくれるか――クロエ」
「はい、お父様」
クロエからお金の入った大き目の麻袋と、書状のようなものを受け取る。
「その書状はワシの署名がしてある。王都の城なんかは無理だが、公共の建物であればこれを見せれば入ることが出来る。万が一、街の衛兵に捕まるようなことがあっても、これで多少の無理は効く」
この依頼にそういうものが必要ということは。
「では君にする依頼だが――この街の魔道ギルドへ潜入し、2つの星命の卵を持ち出した犯人を見つけ出して欲しい!」
「え、えぇぇぇ」
予想以上に激ヤバ案件が来た。
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