セカンド人生は動く鎧になって冒険者生活!?

ゆめのマタグラ

文字の大きさ
上 下
71 / 93
第5話 冒険者の日常

14.ハナコを追い掛けて・後

しおりを挟む


「やぁステファニー。今日もお美しいね」
「まぁジェイドさん。お上手なのね」

 ここはいわゆる富裕層の多い区画だ。
 通りにも品のいい喫茶店や花屋、雑貨店などもある。
 俺は今、オープンテラスのカフェでお茶を飲んでいる。
 それもハナコが、道を挟んで反対側にある菓子屋に入ったからだ。店内の様子が分からない為、ここで彼女が出てくるのを張っている訳だ。

「この花は君の為に用意したんだ……花言葉はなんだか分かるかな?」
「存じ上げませんわ」
「久遠の愛と美しさ――君に捧げるよ」
「まぁ――」

 ちなみに俺の2つ隣の席では、ジェイドが貴族風のお嬢さんを口説いているのが嫌でも目に入る。

 ジェイドは少し天然パーマの入った赤髪の青年だ。歳は17歳で、冒険者なのだがアイドルでもやってそうなイケメン具合だ。さすが超美人であるステラの弟だ。

 ギルドでもよく女の子に声を掛けたり、外でもそういう場面をたまに見るが――決まった相手は居ないようだ。

 幼馴染にアムルという女の子が居て、その子は今王都に行っている。妹的な存在だと聞いた事はあるが、果たして正直な所どう思っているかは謎だ。
 
「ステファニーも大変だね。お父様は中央でも発言力の高いお方――その気苦労は察して余るくらいだ」
「お父様、最近はディアト教の司祭様とよくお食事に出掛けられてて……見た事も聞いた事も無い貴族の方との縁談を持ってくるんです。私、どうしたらいいか……」

 歯の浮くような会話の後は、何やら人生相談が始まった。
 まぁ今回は邪魔しないでおくか――と、思ったらハナコが大きな袋を持って出てきた。
 俺は再び追跡を再開する。
 
 
「ね、姉さん今日冒険に出掛けたんじゃ――」
「エリックが追い掛けてくるから一旦引き返してきたんだ。丁度良い。お前の部屋を借りるぞ」
「ちょっ、待っ――」

  ◇◆◇◆◇◆◇
 

「ふむ。ここは郊外の荒れ地か」

 俺が前に来ていた農園予定地の空き地だ。今日も雇われた冒険者達が開拓を進めている。
 塀で覆われている為、魔物が入ってくる事は滅多に無いが、それでもあまり安全とは言い難い。
 ハナコはどうやら何年も前に放棄された小屋に入って行った。
 ここが危険な取引をしている現場なのか――と思い、気配遮断マントに包まりつつステラ流の潜伏歩行術で小屋の壁に耳(聴覚センサー)を当てる。

『ハナコ――そこは――』
『大きい――出ちゃいそう――』

 どうやら小癪にも、小屋の中に魔力探知の他各種センサー妨害の結界を張っているようだ。
 会話もよく聞こえないが、何やら如何わしい気配がする。

『でも――』
『そこに――待っ――』

(ここはニーアの機能解放して、なんか壁とか透視できる機能とか追加するか!?)

『該当の機能は実装されていません』

(そこはなんとか。別に服とかそういうの透かして見ないから)

『ハナコの魔力の接近を感知――』

「フートン=カゼイタチ!」
「ぎゃああ!?」

 小屋の外から発生した突風に吹っ飛ばされ、俺は近場の岩に激突した。

「なにやっとんじゃ、兄ちゃん」
「よ、よお奇遇だな」

 俺は天地が逆さまになりながら挨拶をする。

  ◇◆◇◆◇◆◇

「このシュークリーム美味しいね!」
「おっきくて、クリーム出ちゃいそう!」

 小屋の中には小さな子供達が5人ほど居た。
 袋から取り出したお菓子を、みんなで仲良く食べている。

「で、この子達は?」
「そこのディアト教運営の孤児院の子供達じゃ」

 ハナコが指差す先には、少し古い大きな学校のような建物が見える。

「最近知り合って一緒に遊んでやってたのじゃが、この子達は程なく他の国へ移送されるらしいのじゃ」
「国外へ?」
「ディアト教自体はこの国以外にもあるからなぁ――まぁ、買い手が見つかったのじゃろ」
「か、買い手って」
「別に珍しい話じゃないのじゃ。子供の居ない夫婦の養子になったり、弟子の居ない職人の下へ送行ったり、単純に人手が足りないから農地へ送られたり」
「なんだ。俺はてっきり何かの実験材料とかにされるかと思ったぞ」
「……まぁ買い手については密偵に調べさせたけど、ひとまずこの子達の送られる先は真っ当そうじゃ」

 (密偵って……あの猫か!)

「ハナコちゃん。今日も遊んでくれるの?」
「もちろんじゃ!」
「この鎧の人はだぁれ?」
「コレか? コレは兄ちゃんだぞ」
「コレ兄ちゃんなんだ!」

 仮にも兄をコレ呼ばわりするんじゃない。
 しかし楽しそうしている子供達とハナコを前に、その言葉は飲み込む事にした。

「よーしお兄さんも一緒に遊んでやるぞ!」
「じゃあ今日はこの兄ちゃんを的にして投石の練習をするのじゃ。いざという時、自分の身は自分で守るのじゃ」

「「はーい!」」
 
「ちょっ、なんて事教えてるんだよ!」
「逃げたぞ。みんな追い掛けるのじゃ!」

「「おー!」」


 後方から割とシャレにならない投石から逃げながら、俺はハナコと子供達と遊んだのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~

岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。 順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。 そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。 仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。 その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。 勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。 ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。 魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。 そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。 事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。 その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。 追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。 これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

お爺様の贈り物

豆狸
ファンタジー
お爺様、素晴らしい贈り物を本当にありがとうございました。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

処理中です...