セカンド人生は動く鎧になって冒険者生活!?

ゆめのマタグラ

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第5話 冒険者の日常

14.ハナコを追い掛けて・後

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「やぁステファニー。今日もお美しいね」
「まぁジェイドさん。お上手なのね」

 ここはいわゆる富裕層の多い区画だ。
 通りにも品のいい喫茶店や花屋、雑貨店などもある。
 俺は今、オープンテラスのカフェでお茶を飲んでいる。
 それもハナコが、道を挟んで反対側にある菓子屋に入ったからだ。店内の様子が分からない為、ここで彼女が出てくるのを張っている訳だ。

「この花は君の為に用意したんだ……花言葉はなんだか分かるかな?」
「存じ上げませんわ」
「久遠の愛と美しさ――君に捧げるよ」
「まぁ――」

 ちなみに俺の2つ隣の席では、ジェイドが貴族風のお嬢さんを口説いているのが嫌でも目に入る。

 ジェイドは少し天然パーマの入った赤髪の青年だ。歳は17歳で、冒険者なのだがアイドルでもやってそうなイケメン具合だ。さすが超美人であるステラの弟だ。

 ギルドでもよく女の子に声を掛けたり、外でもそういう場面をたまに見るが――決まった相手は居ないようだ。

 幼馴染にアムルという女の子が居て、その子は今王都に行っている。妹的な存在だと聞いた事はあるが、果たして正直な所どう思っているかは謎だ。
 
「ステファニーも大変だね。お父様は中央でも発言力の高いお方――その気苦労は察して余るくらいだ」
「お父様、最近はディアト教の司祭様とよくお食事に出掛けられてて……見た事も聞いた事も無い貴族の方との縁談を持ってくるんです。私、どうしたらいいか……」

 歯の浮くような会話の後は、何やら人生相談が始まった。
 まぁ今回は邪魔しないでおくか――と、思ったらハナコが大きな袋を持って出てきた。
 俺は再び追跡を再開する。
 
 
「ね、姉さん今日冒険に出掛けたんじゃ――」
「エリックが追い掛けてくるから一旦引き返してきたんだ。丁度良い。お前の部屋を借りるぞ」
「ちょっ、待っ――」

  ◇◆◇◆◇◆◇
 

「ふむ。ここは郊外の荒れ地か」

 俺が前に来ていた農園予定地の空き地だ。今日も雇われた冒険者達が開拓を進めている。
 塀で覆われている為、魔物が入ってくる事は滅多に無いが、それでもあまり安全とは言い難い。
 ハナコはどうやら何年も前に放棄された小屋に入って行った。
 ここが危険な取引をしている現場なのか――と思い、気配遮断マントに包まりつつステラ流の潜伏歩行術で小屋の壁に耳(聴覚センサー)を当てる。

『ハナコ――そこは――』
『大きい――出ちゃいそう――』

 どうやら小癪にも、小屋の中に魔力探知の他各種センサー妨害の結界を張っているようだ。
 会話もよく聞こえないが、何やら如何わしい気配がする。

『でも――』
『そこに――待っ――』

(ここはニーアの機能解放して、なんか壁とか透視できる機能とか追加するか!?)

『該当の機能は実装されていません』

(そこはなんとか。別に服とかそういうの透かして見ないから)

『ハナコの魔力の接近を感知――』

「フートン=カゼイタチ!」
「ぎゃああ!?」

 小屋の外から発生した突風に吹っ飛ばされ、俺は近場の岩に激突した。

「なにやっとんじゃ、兄ちゃん」
「よ、よお奇遇だな」

 俺は天地が逆さまになりながら挨拶をする。

  ◇◆◇◆◇◆◇

「このシュークリーム美味しいね!」
「おっきくて、クリーム出ちゃいそう!」

 小屋の中には小さな子供達が5人ほど居た。
 袋から取り出したお菓子を、みんなで仲良く食べている。

「で、この子達は?」
「そこのディアト教運営の孤児院の子供達じゃ」

 ハナコが指差す先には、少し古い大きな学校のような建物が見える。

「最近知り合って一緒に遊んでやってたのじゃが、この子達は程なく他の国へ移送されるらしいのじゃ」
「国外へ?」
「ディアト教自体はこの国以外にもあるからなぁ――まぁ、買い手が見つかったのじゃろ」
「か、買い手って」
「別に珍しい話じゃないのじゃ。子供の居ない夫婦の養子になったり、弟子の居ない職人の下へ送行ったり、単純に人手が足りないから農地へ送られたり」
「なんだ。俺はてっきり何かの実験材料とかにされるかと思ったぞ」
「……まぁ買い手については密偵に調べさせたけど、ひとまずこの子達の送られる先は真っ当そうじゃ」

 (密偵って……あの猫か!)

「ハナコちゃん。今日も遊んでくれるの?」
「もちろんじゃ!」
「この鎧の人はだぁれ?」
「コレか? コレは兄ちゃんだぞ」
「コレ兄ちゃんなんだ!」

 仮にも兄をコレ呼ばわりするんじゃない。
 しかし楽しそうしている子供達とハナコを前に、その言葉は飲み込む事にした。

「よーしお兄さんも一緒に遊んでやるぞ!」
「じゃあ今日はこの兄ちゃんを的にして投石の練習をするのじゃ。いざという時、自分の身は自分で守るのじゃ」

「「はーい!」」
 
「ちょっ、なんて事教えてるんだよ!」
「逃げたぞ。みんな追い掛けるのじゃ!」

「「おー!」」


 後方から割とシャレにならない投石から逃げながら、俺はハナコと子供達と遊んだのであった。
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