セカンド人生は動く鎧になって冒険者生活!?

ゆめのマタグラ

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第5話 冒険者の日常

12.VSサイクロプス

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 叫び声と共に、大きく太い棒をジェイドへ振り下ろす。
 そのまま横薙ぎにハナコも狙うが、2人とも大きく後ろへと回避する。

「ハナコ! ゴブリン10匹じゃないのかよ!」
「アタシの里ではアレもゴブリンなのじゃ!」
「そのウソか本当か微妙に分からないウソ言いやがって――危なッ」

 下僕をやられて怒り心頭なのか、こん棒を滅茶苦茶に振り回してくる。

「こ、この魔物め! ボ、ボクがひゃあ!?」

 果敢というか、無謀にも極短の剣を向けるも、寸前の所をこん棒が通り過ぎ、風圧で吹き飛ばされるエリック。
 
「じゃあ、とりあえず」 
「終わったら酒場で一杯だな」

 俺とステラは、互いに自分の剣を、まるで鏡合わせのように構える。
 サイクロプスがこちらに向かってこん棒を振り下ろす――その瞬間。

「「一閃ッ」」

 互いの斬撃が、こん棒ごとサイクロプスの腕を切り裂いた。

「ウギャア!?」
 
 地面に倒れ込むサイクロプス。
 暴れる事の無いよう、ステラがその背中を踏みつけ、ついでにツノを切り飛ばした。
 
「え、なに!?」
 
 俺はすぐ後ろで倒れているエリックを担ぎ、その極短の刃を持たせたままサイクロプスの眼に突き刺した。

「えい」
「ウギャ……」

 弱点を突かれたサイクロプスは、その身体が黒く崩れ、塵へと変貌し散ってしまった。
 しかしその前に切断した腕とツノはそのままだ。
 魔素を多く含んだ魔物は死ぬとあのようになる為、素材は予め採取しておく必要があるのだ。
 呆然と座り込むエリックを尻目に、俺達は帰り支度をする。

「よし。エリックがゴブリンのボス、サイクロプスを倒したし、町へ帰りますか」
「はー。帰りの分も合わせて豪勢な飯を奢って貰うのじゃ」

「ま、待ってください!」

「エリック殿?」
「あ、あのような倒し方でボクが納得するとお思いですか!? 恐らく、父に何か頼まれたんでしょうけど、ボクはこんな勝ち方、承服しかねます!」
(だよなー。でもどうするかな……)

 そう悩んでいると、ステラが颯爽とエリックの隣へしゃがむと、

「失礼します」
 
 パチンッ――。

 頬に平手による一撃を与えたのだ。

「ぐぇッ」
「エリック殿。貴方は本当は分かっていると思います。スーシャ家の跡継ぎとして、強く真っすぐであるべきだという志は立派ですが――」
「……」
「ステラ。そいつ、気絶してるのじゃ」
「……ハッ」

 ステラが魔力で活を入れると、エリックは意識を取り戻した。
 
「はぅッ――あれ、ボク今、殴られ……」
「エリック殿の志は立派です。しかし貴方のそれは、冒険譚に魅せられたまやかしに過ぎません」
「そんな事は無い! きっかけは確かにそうだったかもしれないが、ボクは――」
「では何故、自ら愚鈍だと称した魔物に対し、正々堂々と口ばっかりの建前を並べて相対したのですか。――戦いにおいての強者とはどうお考えですか」
「もちろん正義と勇気の心を持ち、その強さを皆に魅せつけることさ」
「……勇気とは無闇に敵の前に立つ事ではありません。戦いにおいては、戦いに恐怖する者こそが強者となり得えます」
「戦いが怖い?」
「えぇ。いつだって私は、仲間が傷付く事を恐れています……自分が死ぬ事も怖いです。だから、決して引かない覚悟があります。卑怯と罵られようと、安全な方法を模索します」
「……」
「ですから、どうか――強者になって下さい」

 ステラの説得に、さすがのエリックも押し黙るかと思ったが。

「嫌だ! ボクには時間が無いんだ!」
「なにか事情があるんです?」
「そうだよ……20歳になるまでに英雄譚に出てくる冒険者みたいになると、婚約者のプラウスさんに誓ったんだ。だからボクは急がなくちゃいけないんだ」

「ん?」

「ボクはプラウスさんの事を思うだけで、常に胸が張り裂けそうで――主治回復術師に相談したら、プラウスさんと結婚すれば治ると。つまりボクが魔物を倒せるくらいの冒険者になる必要が――あれ、どうしたんだ?」
「よーし。撤収だ撤収」
「ハナコ、ゴブリンの牙も取るの忘れるなよ。冒険者協会で討伐報酬が貰えるぞ」
「小遣いなのじゃー」
「さぁエリック殿。立てないようなので馬車まで運びましょう」
「え? だから魔物を――」

 ステラがエリックを丸太のように担ぎ、俺達も町へ戻るのであった。

 
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