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第5話 冒険者の日常
10.正面突破
しおりを挟む「お見苦しい所をお見せしました……」
「調子が悪いのなら今日は辞めておきますか?」
「いえ。ボクは今まで持病の事を言い訳にして、物事にちゃんと向き合ってきませんでした。しかし、いずれはスーシャ家を継ぐ者といて、王族のように果敢に冒険に挑まなければなりません」
「王族って、この国の?」
「はいっ。王族の皆様は成人する15歳になると、その身分を隠して冒険者として己を鍛えるのが習わしと聞いております……ボクが吟遊詩人から謳ってもらった英雄譚は、今の国王であるアルバート陛下のモノなんです」
「どんな歌なんですか?」
「その昔、勇者様と同じパーティだったとか。たった4人で伝説の八竜を討伐したとか。街へ襲い来る魔族の群れを単騎で守り切ったとか……それはもう凄いお話でした」
(盛り過ぎじゃないのか?)
(とりあえずハナコは笑顔で褒めろ)
「すごーい! 王様ってそんなにお強いんですよねー。アタシ拝見したことないけど、どんなお顔なんだろー」
「ボクの憧れの方です……王家の皆様は――そうそう。ステラさんみたいに赤い髪が特徴的なんですよ」
「ゴホッ、ゴホッ――」
「ステラどうした?」
「生まれながら特定のエレメントとの結び付き強いと、髪や瞳にもそういった特徴が出るそうです」
そう言われたら確かに、ステラが炎の技以外使ってる所を見た記憶が無い。
「と、土地柄も強く影響されるようです。私はその、火のエレメントの影響の強い場所で生まれ育ったので……」
「そのようですね! 海沿いに住んでいる方は、やはり水のエレメントと強い繋がりがあると聞きます」
「エリック様は金髪で蒼い瞳なんで……水とかです?」
「残念ながらボクのはただの遺伝です……ですが、何より正義を愛する心は何者にも負ける気はしません!」
「おおー」
という具合な話をしながら俺達は休憩を挟みながら、なんとか目的地手前までやってきた。
街道でよく使われている有人の休憩所で、山賊ゴブリン退治の依頼をしてきた大元でもある。
ここの管理人に馬車を預け、俺達は森の中へと入っていくのだが、やはり心配事がひとつ。
整備なんてされてないこのうっそうとした森の中を、エリックが歩けるはずもないので――。
「すいませんハナコさん」
「全然大丈夫ですよ」
にっこりと営業スマイルで笑うハナコ。
さすがにおぶって歩くのは渋ったのだが、依頼後の酒場での食事は俺が奢ることでなんとか納得させた。
よく見るとその笑顔は若干引きつっているのだが、エリックは全然気付いていないみたいだ。
「ですが安心して下さい。戦いになれば、スーシャ家の嫡男であるボクが前に立ちますので」
その自信はどこから湧いてくるのだろうか。
そうこうしている内に、以前山賊ゴブリンを観測した地点へとやってきた。
指望遠レンズで確認すると、山肌にある洞窟があるのが分かる。少なくとも入り口に見張りが2匹いる。
こちらも森の茂みに隠れているので、バレてはないはずだ。
「さてハナコ。悪いけどまた頼むぞ」
「しょうがないのじゃ……我が身よ、自然と一体となれ。イントン=コノハトカゲ」
両手で印を構え、呪文を唱える。
するとハナコの姿は全く見えなくなり、足音も無く彼女は洞窟へと向かう。
「す、凄い! 今のなんて魔法なんですか!?」
「敵にバレるから、声抑えて下さい」
しばらくすると――。
「カイッ――」
俺達の背後で声がしたかと思うと、ハナコが現れた。
「バッチシ、全員居るようじゃ」
「よし。じゃあハナコとジェイド、準備が終わったら合図してくれ」
「あいよー」
「任せるのじゃ」
今度は2人分の姿が消え、残るは俺とステラとエリックのみになった。
「なるほど。ゴブリンは全員、あの根城にいるのですね」
「はい。これからの作戦を説明しますので、ステラどうぞ」
「……まず見張りは、騒がれる前にハナコが始末します。その後、あの洞窟の前でこのニガ草を燃やし、その煙を洞窟内へ送り込みます。
しばらくすれば、煙の目と喉をやられたゴブリン達が洞窟内より出て参りますので、これを各個撃破します。煙も洞窟内全てに行き渡らない可能性もありますので、最後は突入して、生き残りが居ればこれも始末します。ニガ草の煙は毒性こそありませんが、吸えば極度の呼吸困難と、炎症を引き起こすので突入は細心の注意を払ってください。」
事前に俺達で計画した作戦を伝えると、エリックは激昂した。
青白い顔が、見る見る赤く染まっていく。
「な、なんて卑怯な!」
「ひ、卑怯?」
「まず。貴族たる者、敵には宣戦布告を行います。さらに攻撃は常に、正面突破です。煙で燻して相手を弱らせてから殺すなど――そんな卑劣な男に、ボクはなるつもりはありませんので!」
まさかの反論に俺もステラも、呆気に取られた。
「ここまで連れて来た事にはお礼を申し上げますが――後は、ボクの指揮する通りにお願いします」
それだけ言うと、ヨロヨロと洞窟へと歩いて行った。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「エリック殿。貴方はご自身の実力を分かっておいでですか」
「もちろんです。ボクには、この剣があります」
腰にぶら下げていたダガーを引き抜く。
よく見るとそれはダガーではなく、刀身の無い柄だったのだ。
刀身の代わりに、何か宝石のようなものが入っているように見える。
「それは……魔道具ですか」
「これはスーシャ家に代々伝わる魔道具。使用者の魔力を使い、伸縮自在の刀身を作り出すことの出来る無刃の剣――その切れ味は、マテリアル鋼のミスリルですら切り裂く事ができます。これがあれば、ゴブリンなんて一撃必殺です」
自分だけ有利な間合いで戦える武器を使うのは卑怯じゃないのか、とか思ったがもちろん黙っている。
『外見だけでは特定不明ですが、少なくとも魔道具であることは確かなようです』
「それでも無謀です。戦いのご経験は」
「イメトレなら、完璧です」
爽やかな笑顔で言っているが、ようはド素人である。
俺とステラは顔を見合わせ、ひとまずエリックに好きなようにさせることにした。
こういう事も一応予想はしていたので、合図の代わりに俺はゲートから黒いバンダナを出し頭に巻く。視力の良いハナコなら見つけてくれるはずだ。
黒いバンダナは――すべてこちらの状況に合わせて、臨機応変になんとかしてくれ、という意味だ。
「では行きますよ!」
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