セカンド人生は動く鎧になって冒険者生活!?

ゆめのマタグラ

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第5話 冒険者の日常

9.貧弱な冒険者

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「お、王の爪の冒険者と一緒にパーティ組めるなんて、光栄です!」
「えーっと、エリックさんでしたよね。俺は銅5級冒険者のヨーイチ」
「同じく銅5級、フリーのハナコです」

 ここはコーディアの街にある民間ギルド『白銀の翼』の建物の中である。
 王の爪と同じようにここも1階は酒場になっている。さらに脇の階段で2階席に行けるのだが、そこは銀以上の冒険者専用フロアらしく、酒を飲んでいる厳つい冒険者達が見えている。

 俺達は1階のテーブル席に座り、依頼内容にあったエリックという冒険者に接触をしていた。
 エリックは銅の胸当てと、新品のダガーを腰に付けている。恰好的には普通の冒険者なのだが――とにかく細い。
 ヒョロヒョロとしてて顔も青白く、くすんだ短い金髪と蒼い瞳。それなりに身なりを整えたら貴族にも見えるだろう。

 いや、彼は“貴族”なのだ。正確にはそのご子息なのだが。

「まぁ言っても新人なので、そう気負わないで下さい」
「分かりました――では、早速行きましょうか。洞窟に住むという凶悪なゴブリン達の討伐に!」
「はい……」

 彼の父親、ソデック男爵の依頼内容はこうだ。
 
『幼い頃から発作のせいで引きこもりがちだった可愛い息子が、屋敷に呼んだ吟遊詩人の冒険譚を聞いてからというもの、冒険者に憧れ、最近では冒険者になりたいと言うまでになった。危ないので止めたかったが、殆ど屋敷の敷地から出た事の無い息子からのたっての願い。今回に限り許可をした。
 ついては、冒険者殿には息子の警護と、魔物の討伐をそれとなく息子にやらせて欲しい。必要経費など含めて金100枚を支払う』
 
 長いので要約すると、この貧弱な坊ちゃんにゴブリンを倒させる経験をさせればいいのだ。
 父親のコネと財力を使って民間ギルドに入れたんだから、ここのギルドにやらせたらいいのに……。

『責任問題に発展したら面倒だから誰もやらないんだろ』

 これはウチのギルマス、ヨドの言葉。
 それでここのギルマスがヨドに泣きついて、その面倒臭い依頼が俺達に回って来た訳だ。

「外に馬車を待たせてますんで、こちらに乗って下さい」
「わざわざ用意して貰ってすいませんが――ボクは自分の足で歩きたいんです(キリッ)」
「はぁ」

 ヨロヨロと立ち上がり、出入り口へと歩こうとすると――。

「あっ」

 床の石畳のちょっと出っ張った所につまづき、顔面から床とキスしようとしたのを咄嗟に俺が抱きかかえる。

(あぶねー。ケガさせたら即ゲームオーバーだった)

 まぁ最悪鎧の中に入れて治癒する手もあるし、なんなら中に入れて運搬する方法もあるだろう。
 しかし、これだけは言っておく。

 男に着て欲しくはない(キリッ)

「はははっ、ありがとうございます。では気を取り直して――ふんッ」
「……」
「ふんッ」
「…………………………どうぞです」

 エリックが渾身の力を込めて開かなかった扉を、ハナコが片手で開ける。

「前途多難だ……」

  ◇◆◇◆◇◆◇


 さすがにこの虚弱っぷりを見せつけられたら不安しかなく、なんとか説得して馬車に乗って貰う。

 馬車の御者台には毎度おなじみジェイドが座る。後ろの荷台の中には、高そうなソファ2つとテーブルを積んで作った即席の専用席を用意してある。
 その向かいの席にはステラが座っていた。

「どうも初めましてエリック様。私は金1級冒険者のステラ=カーティスと申します」
「わっ、わあっ。お噂の真紅の閃光に会えて光栄です!」
「今日は私達も同行しますので、どうか大船に乗った気で居て下さい」
「あぁ。あのステラさんと同じ空気を吸っている――」
 
 感極まって若干危ない事を口走るエリック。
 特にステラは気にした様子もない。
 
 当初はエリックの隣にステラを座らせる案もあったが――。
 主にジェイドとヨドからの猛烈な反対によりボツとなった。
 さすがに貴族相手には手を出さない――保証がどこにもない気もする。

「今日はよろしくお願いしますね」
「は、はいっ。こちらこそ」
 
 という訳で、ハナコには事前に20歳くらいのナイスプロポーションな姿になって貰い、エリックの隣に座って貰った。
 道中の依頼に関するストレスを緩和させるのが狙いだ。途中で気絶されても困るし。

「では今日の依頼のご説明をします」

 ステラが真ん中のテーブルに地図を広げる。

「今、我々はコーディアの街を南門から出ようとしています。ここから港町に向かう街道へと入り、南下していきます。半日ほど下った所にある森。そこから山の方向へと入っていくと、この近辺を荒らし回っている山賊ゴブリンの巣があるはずです。詳細の作戦は、また近くに寄った時にお話します」

 ステラが懇切丁寧に説明する。

 この山賊ゴブリンの巣とやらは、事前に俺とハナコでその所在を掴んでいる。
 巣はそれほど深く無いが、山賊ゴブリンは10匹確認した。
 徒党を組んだゴブリンは銀級冒険者でも負ける事もある相手だが、そもそも相手はわざわざ閉鎖された空間に巣を作っているのである。裏口が無いことも確認済みだ。ただ、天井には空気穴があるようなので、そこはジェイドに先回りして塞いで貰う手はずになっている。
 あとは入口で焚き火でもして全力で風を送り込めば、程なくして全部出てくるだろう。
 そこを俺達で各個撃破し、限界まで弱らせたゴブリンをエリックのトドメを刺して貰ったら依頼は完了だろう。

「――もう、ダメ」
「あっ。ハナコ、すぐに馬車の後ろの連れってて!」
「オロロロロ――」

 間一髪、口から出たゲロを荷台内で吐かれなくて済んだけど――まだ30分も経ってない間の出来事だ。先が思いやられる。
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