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第5話 冒険者の日常
4.その本、開けるべからず
しおりを挟む「はぁ……猫はいいな」
隠し通路もさっきの部屋同様、ヒカリシダで覆われている。
俺達はその通路を進んでいく――。
「いや何度も言うけど、アタシの祖先は獅子の獣人だからな!」
「ステラは猫は飼ったりしてないの?」
「……何故か私が近付くと、猫も犬も逃げてしまう」
なんとなく想像できる。
無意識に殺気でも出てるのだろうか。
「あっ、じゃあ1回。マタタビパウダーを試して見たら……」
「……1回全身に浴びて路地で待機した事がある。近所の子供しか寄って来なかった……」
「よしハナコ。このお姉さんにサービスしてやれ」
「いやアタシのが年上なんだけど」
「姉さん。次の部屋みたいだ」
通路の終わりに木製の扉があった。
年季は入っているが腐っては無いようだ。これも魔法か何かだろうな。
「鍵は……掛かってないのじゃ。中も……音はしないのじゃ」
「慎重に開けるぞ。少しでも引っ掛かりを感じたら、即退避しろ」
これは扉に仕掛けられた罠を警戒している。
例えば扉にロープが括られ、扉を開けたら罠が起動してしまう――矢が飛んでくるか、落とし穴か。
(あとは魔法的な罠だけど)
『少なくとも扉には魔力反応がありません』
「……よし」
ステラが確認するが、どうやら何も無かったようだ。
扉を開けると……そこはまさに研究所と呼ぶに相応しい空間だった。
中央には大きな円柱の割れたガラスケースの水槽。
壁の本棚には埃が積もり、蜘蛛の巣が張っている。何やら怪しい本がたくさん詰まっている。
よく見れば、この水槽は魔法陣の上に乗っている……明らかに何かの実験をした後のようだ。
「ふむ……やはり何かの魔道研究所があった訳か」
「って事はもうここが最奥? 何か宝があるかなー」
「うへぇ。本とかもうボロボロだな。昔なのに紙で出来てるなんて、珍しいな」
各々部屋の中を探索し始めたので、俺も少し探してみる事にした。
部屋の奥には、人物の絵画が額縁に入れられ飾られていた。
かなりの年数が経っているのか、残念ながら崩れていて、顔までは判別できないが――名前に「ロベリア」とだけ書いてあった。
他にも無いか探しているが……しかしジェイドの言う通り、本は湿気を吸いカビてボロボロだ。
水槽のガラスも床に飛び散って危ないし……待てよ。
「なぁ、ステラ」
「どうした?」
「この水槽……外側に飛び散ってないか?」
「ふむ――ということは、何かがここから飛び出したのか」
よく見ると床の魔法陣は一部が欠けていた。
何かが抉ったような――そしてそれを視線で辿っていくと、1つの本棚が目に入った。
特に他と変わりはないが、あえて言うなら本棚の前に、1冊の古びた本が落ちていたのだ。
分厚く立派な装飾の本だ。他がボロボロに朽ちているのに対して、これはほぼ原形を保っている。
「姉さん。他は特に変わり無いようだけど――姉さん?」
『あの本からは微弱な魔力反応を感じます』
「ステラ、あの本からは――」
「あぁ。あの本は怪しいな――」
「あッ! こんな所に高そうな本が落ちてるのじゃ」
ハナコがひょいっと拾ってしまう。
「ちょっ、ハナコ! その本は――」
「え、この本がなんなのじゃ?」
さらに中身を確かめようと開くハナコ。
「あー!?」
『魔素反応が検出されました』
その瞬間、本は紫色のオーラに包まれ空中に浮き――中の魔法陣から黒い影が飛び出した!
「やぁぁぁっと出れたぁぁぁぁ!!」
それは灰色の体毛に羊のような角、蛇のように鋭い瞳。人の形をしているが、手と足は蹄である。さらに尻尾まで生えている。
俺の良く知る、悪魔のビジュアルそのままであった。
「悪魔だ」
「あぁん?」
本棚のてっぺんに降り立つと、その悪魔はこちらを見下ろしながらニヤっと笑う。
「オレは悪魔じゃねー……そう、大魔族ジャゴス様とはオレ様の事よ!」
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