40 / 93
第4話 武器コンテストと忍者
5.落とし物
しおりを挟むシンディア国、王都。
ここは大陸の大体中央に位置し、霊峰ディアレストの麓にある。
王都のさらに奥の高台にそびえているのが国王のいる城で、他にもコーディアでは見られない高い建造物も多い。
ちなみにディアレストにはディアト教総本山の教会と町があるらしく、巡礼者もよくこの街に訪れるらしい。
「シンディア81世陛下の剣を模したアクセサリーかー、いいなーこういうの」
『特に魔力、魔法などは見受けられません。ただのアクセサリーです』
「いいの! こういうのは身に付けてるだけで嬉しいの!」
「兄ちゃん! あそこの蛇が絡みついた剣も良い感じなのじゃ!」
土産物屋の前ではしゃいでいると、なんだか後ろから視線を感じる。
どうやら通行人がチラチラとこちらを見ているようだ。
「なんだろ。そんなに珍しいのかな」
しかし街の中には冒険者らしき人らも見える。
その中には自分みたいなフルプレートアーマーみたいな人も稀にいるようだ。
「お兄さん、気合入ってるねー」
「ん?」
土産物屋の店主が声を掛けてきた。
「ソレ、初代勇者様の鎧のレプリカだろ? 武器コンテストに出るんだろ、頑張れよ」
「は、はぁ」
武器コンテストに出るのはテッカンさんだし、俺が鍛冶師にでも見えた――訳がないよな。
そんな事をしている内に、テッカンさんが来た。
「おぉ、こんな所に居たか。登録も済ませたし、今日は宿でゆっくりしていていいぞ。予選は明日……会場の前が宿だし迷わんとは思うが……朝の鐘が鳴ったら集合だぞ」
この街に限らないが、ディアト教を信仰している人達が多い関係で朝と昼と夜の礼拝の時間に鐘が鳴る。
「分かったよ」
俺は1人(と中にハナコ入り)で街を散策していると、ルビィを見つけた。
ここは――王都の武具屋が多く並ぶ通りのようだ。もう夕方だというのに冒険者や兵士などの人通りが多い。
「よぉルビィ。どうしたんだよ」
「ヨーイチ君か。いやね、ここ……元ウチなんよ」
指差した先には立派な3階建ての工房があった。今は人気もなく、ドアには【差押え中】とだけ書いた張り紙がしてある。
「……絶対、コンテスト優勝しようぜ」
「――うん」
◇◆◇◆◇◆◇
次の日――。
宿の玄関から見える闘技場を見上げる。
闘技場の前の通りには屋台や見物客が既に多く、一大イベントなのが伺い知れる。
「予選に1日掛けるとか、そんなに出場者多いの?」
「せやでー。東西南北の街や王都の指折りの職人はもちろん、野生のプロ職人や、国外からもやってくるって話や。予選である程度ふるいに掛けんとなー」
「その中で優勝とか、凄いなテッカンさん」
「5回目の優勝は、絶対取らんとな。後、借金も返さんと」
「悪いな、遅れた」
「もう父ちゃんが来ないからウチが出場しようかと思ってた所やー」
全員揃った所で、闘技場へと向かった。
既に事前登録してあるのでパスを見せて中に入るだけ――なのだが。
「あれ……どっかに落としたかもしれん」
「アホー!」
宿から闘技場までそんなに距離は無いが、何せこの人の多さだ。どっかに落ちているパスを探すのはもちろん、誰かに拾われていたらもう無理だろう。
「確かに宿を出る前はあったんじゃが……」
「とにかく探そう」
そう言って振り向くと、目の前に女性の神官が居た。
「きゃっ」
「あ、すいません!?」
白い布地に青のラインが入った、全身の肌を隠すかのような神官服の若い女性である。
手には錫杖のような杖を持っており、柔らかそうな金髪から覗くその瞳は閉じられている。
耳が長いのでエルフなのだろう。
「何やってんねん。大丈夫ですか?」
「えぇ――先ほど話を聞いてたら何か落し物をされたようで」
「そうなんよ。このアホ父ちゃんが会場に入るパスを落としたって……」
「面目ねぇ」
「あぁ、やっぱり。さっきそこで拾ったので届けようと思ったんですよ」
そう言って差し出して来たのは、金属製のタグに細いチェーンの付いたアクセサリーみたいな見た目のパスだった。ちゃんとテッカンの名前と……何故か俺の名前も刻まれている。
「それや! ありがとなーほんまに助かった!」
「いえいえ」
「なんかお礼したいけどもう予選始まるし」
「お気になさらずに……全ては神の御心のままにやった事です。では――」
そう言うと女性は軽く会釈し、行ってしまった。
「兄ちゃん、あの今の女――」
「ん?」
「――なんでも無い。ちょっと街ブラブラしてくるのじゃ」
物陰でハナコを出すと器用に家の壁を登り、そのまま屋根伝いにどこかへ行ってしまった。
「マジで猫みたいだな……」
「よっしゃーほな行くでー!」
1
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

抽選結果は大魔王だったので、剣と魔法と平和と欲に溢れた異世界で、のんびりとスローライフしたいと思います。
蒼樹 煉
ファンタジー
抽選で、大魔王として転生したので、取り敢えず、まったりと魔物生成しながら、一応、大魔王なので、広々とした領土で、スローライフっぽいものを目指していきたいと思います。
※誹謗中傷による「感想」は、お断りです。見付け次第、削除します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
※駄文+誤字脱字+その他諸々でグダグダですが、宜しくお願いします。

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた
こばやん2号
ファンタジー
とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。
気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。
しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。
そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。
※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる