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第4話 武器コンテストと忍者
2.VSスライム
しおりを挟むその日の夕方。
「あ、ヨーイチさん。ちょっといいです?」
「ラーナちゃん、どうしたの?」
飯を食べながら迷い込んでいた野良猫に肉の端を上げていた所で、声を掛けられた。
ラーナは16歳でこのギルドの受付嬢をやっている頑張り屋さんだ。
「昼頃に受注された依頼……どうやらフリー冒険者の方が間違って受けちゃったのがあって――近場なのに、まだ帰って来てないから心配になって……」
「どんな依頼?」
「街道近くの水場に巨大スライムの目撃情報が出たんです。その討伐の依頼なんですが……話によると最近、行方不明者も出てるからもしかしたらスライムのせいなんじゃないかって噂になってて」
「よし。俺が様子を見てくるよ」
「本当にすいません。あ、ジェイドさんもお願いしますね」
「げ、バレた」
よく見たら俺の背後に隠れていたらしい。
「調査費などは出ますので、よろしくお願いします」
と、にこやかに言われジェイドは首を立てに振るしかなかった。
◇◆◇◆◇◆◇
「ちゃちゃっと片付けて帰ろうぜ……大体新人のフリー冒険者の尻拭いとか気が乗らねぇ……」
「そういえばその依頼を受けたのって、凄いスタイルの良いエルフのお姉さんだったよ」
「何をしてるんだヨーイチ! すぐに助けに行こう!」
という訳で、街道を少し北へ歩くこと1時間ほど。
まだ辺りは明るいが、もうすぐ暗くなるので早めに探したい所だ。
「確か街道から少し外れた所に……ここか」
林の中にちょっとした川と池、休憩所が建てられているが、【巨大スライム目撃情報あり。休憩所閉鎖中】の看板がドアノブに掛かっていた。
「巨大スライムって、どのくらいデカいんだろうな」
「そもそも天然のスライムって大きくても人間の頭くらいで洞窟やダンジョンみたいな所に生息してるからな……水辺にも居ない事は無いけど」
『センサーに反応あり、2時の方角――スライム5体を確認』
「ジェイド、来るぞ!」
俺はゲートに右腕を突っ込み、鎧袖ナックルを取り出す。
隣のジェイドも剣を構え、魔力を纏った。
「……スライムだな」
茂みが出てきたのは、さっき言っていた標準的なサイズのスライムだ。
緑や水色のぷるぷるしたゼリーみたいな見た目。半透明で中に丸い玉が3つ浮かんでいる。
『スライムのコアです。アレを2つ以上破壊すれば倒せます』
「うーん、普通のスライムか。もしかしてこいつらが合体してデカくなるとか?」
「それでもそこまで大きくはならないだろ、っと」
話している間にもスライムはこちらに飛びかかって来ていた。
「天井の隙間とか木に隠れて奇襲してきて死ぬのが1番多い死因らしい」
ジェイドは慣れた様子で攻撃を避けながら、剣でコアを斬っていく。
「ふーん。ていやっ」
拳で殴ったらそのまま四散してしまった。
なんか可哀想にも思えてくる。
「死骸は集めて瓶に詰めて売ったら、小遣いくらいにはなるぞ」
そんな世間話をしている間に、スライム5匹は討伐完了していた。
「行方不明の冒険者はどこに行ったんだろうな」
ジェイドがそう言いながら粘液まみれの剣を池で流そうとした瞬間――。
『緊急警報。魔力反応増大、7時の方向』
「そっちは――ジェイド!」
「うん?」
ジェイドがこっちに振り向いたのと同時に、背後の池の水面が突如泡立ち――ジェイドへと襲いかかった。
「うわっ、なんだコイツ!」
魔力を足に集中させ咄嗟に逃れるが、ジェイドの剣は池の中から出てきたモノに飲まれてしまった。
「――おいおい」
「デカ……」
池から出てきたのは、言葉通りの巨大なスライムだった。
周辺の森の木よりもスライムの全長はさらに大きい。
「また巨大生物かよ!」
「あっ、ヨーイチ! スライムの中に……」
「ん?」
そう言われ左の親指と人差し指で丸を作り、魔力レンズを作り出す。
「なんか小さい女の子がいる……黒い衣装の……でもスライムに飲まれてるって事はもう――」
『まだ彼女の魔力は肉体から離れていません。心臓も動いているようです』
「よく分かんないけど、生きてるらしい!」
「そうか……で、どうしようか」
「そりゃ――こうやる!」
鎧袖ナックルへ魔力を込める。今は土鎧のエレメントは無いが、それでもコレで殴ればその辺の魔物も粉砕できるくらいの威力だ。
「鎧袖、ナッコォォォ!」
巨大スライムの頭部分へ飛び上がり、右腕をコアに向かって突き出した。
しかし右腕はスライムの身体に深く突き刺さるだけで……それ以上は何も起こらなかった。
『警告。こちらの魔力を吸収されています』
「マジかよ!」
しかし腕を引き抜こうと踏ん張ろうにもスライムの体表はヌルヌルしてるし、力を入れれば体内にめり込んで取り込まれてしまう。
「――」
特に鳴き声も発しないが、スライムの肉体は徐々に俺の腕から鎧へと浸食していた。
「しょうがない!」
左手でゲートを開き、中に腕ごと突っ込むと目的のアイテムを取り出す。手首には赤や青の宝石の付いたアクセサリーを付け、さらに魔法の呪符を握った。
後は呪符に魔力を入れて簡単な呪文を唱えるだけでいい。後は手首のアクセサリーが火のエレメントに干渉してくれるらしい。
俺は左腕もスライムの中に突っ込み、呪文を唱える。
「火よ、爆ぜろ! ファイアーボール!」
スライムの体内で火球が生み出され、爆発を起こす。
ボンっ――という音と共に、ゼリー状の身体の一部が爆散した。
「――!」
「助かったー」
ひとまず俺自身は爆発のおかげで自由になれた。
その辺りにゼリー状の肉片が飛び散っているが、スライム本人は特に気にせず元通りに修復した。
『先程のスライムの肉体を解析した結果です。あらゆる衝撃を分散して吸収し、取り込んだ生物から魔力を摂取するようです。あの肉体には外気と同じ成分が含まれており、肺をあの粘液で満たせば呼吸もできるようです』
「便利なスライムだな」
『自然的なモノである確率は限りなくゼロです』
「大丈夫かヨーイチ!」
「俺は大丈夫。左手も治ったし」
少し焦げていた左手も修復できた。どうしたものかと考えていたが――。
巨大スライムの体表からたくさんの触手が飛び出してきた。
「危ね!」
俺達を取り込もうとしてる訳か。
(ニーア。奴の魔力吸収速度は早いのか!)
『それ程ではありません。毎秒10マナ程度です』
(……よく分からんけど、あんまり早くないのなら)
俺は再び鎧袖ナックルに魔力を込める。
次は回転を加えるドリルナックルだが、それでもコアに辿り着く前に魔力切れを起こすだろう。
「ジェイド! 女の子が飛び出したら、頼む!」
「分かった! まかせとけ!」
少し後方へ飛び、助走を付ける。
全力で走りながら右腕と、さらに全身にも回転する魔力を右回りに走らせる。
「超ドリルタックル!!」
俺は全身をドリルのように回転させ、一直線にコアを狙う。
「――!!」
スライムの触手を弾き飛ばし、一気にゼリー状の体内へと潜った。
足から魔力を放出させどんどん掘り進め――1つ目のコアを破壊!
(もう1つ……ッ!?)
スライムは器用にも自分の体内で左回転の渦を作り出し、俺にぶつけてきた。
(回転が……)
コアの目の前まで来たが回転は止まり、さらに身動きが取れずどんどん魔力が吸われ――。
「炎よ、爆ぜろ。ファイアーボール」
鎧の中にまでスライムは浸食されなかった為、呪文を唱えれた。
俺は鎧の中に入れていた複数の呪符を起動した――。
ボォンッ!!
俺の鎧の内部で火球は爆発し、右腕はその勢いで吹っ飛び――コアに命中した。
「――!?」
巨大スライムは一瞬膨張し、そして爆散したのだった――。
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