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第3話 鍛冶師たちとの出会い
6.ステラの決意
しおりを挟むヨーイチ達と別れてすぐに私は王都行きの高速艇に乗り込んだ。
王都までは半日ほどで着いたが時刻はもう夜だ。本来なら城内に入る事は許可されないだろう。
そこで私は、まず彼の仕事場を尋ねることにした。
「夜分にすいません」
「ステラじゃないか。どうしたんだいきなり」
部屋から出てきたのは、王国騎士団諜報部のエルソード氏だ。
ちなみに諜報部所属である事は秘匿されており、表向きは城門警備管理事務所の所長だ。
「至急の用事があって参りました」
「とりあえず中へ入り給え。今はワシしか居ない」
中へ通され、どこか埃っぽい椅子に座るよう促されるが、私はそのままの姿勢で居た。
「それで、どういった要件なんだ」
「――この間のドルドの事件の後、調査の為にあの倉庫の中身を全て城内へ移送したはずです」
「……そうだ。まず事件と関わりあいが無いか調べ、シロだと判定された物は本来なら持ち主に返却されるが――」
「ドルドは国家指定危険物保護法違反を犯しています。恐らく私財は没収されるはずです」
「その通りだ。彼の私財は一旦国庫へ収められ、然るべき方法で処分される」
「だが奴はまだ裁判を待つ身のはずです。刑の確定はまだです」
「――つまり?」
「彼の私財の中から1つ、商品を回収したいのです」
◇◆◇◆◇◆◇
「事情は分かった。だが国庫は我々の管轄ではない――だから、ここからは君の交渉次第だ」
「感謝します、エルソードさん」
ここは城内の、国に関わる重要な品物を一時保管しておく地下倉庫だ。
主に魔道具、魔道書などの希少なアイテムから罪人の私財まで。これらは一旦ここで保管され、調査や検査を受けた後に然るべき場所へ送られる。
この然るべき場所というのは市場も含まれるのだ。
「王国騎士団、国庫管理部のカシオ管理官です」
彼女は背が低いがドワーフという訳では無さそうだ。
騎士団のスーツに身を包み、小さな眼鏡を掛けている若い成人女性だ。
「王の爪、金1級冒険者のステラ=カーティスです」
「知っていますよ。有名人ですし……エルソードさんも、有名人に詰められたからって城内に入れないで下さいよ!」
「ははは、すまないね」
もちろん彼女もエルソードさんの正体は知らない。
「私達は1日中ずっと倉庫内で作業を行ってます。忙しいんですから。何か用ですか?」
「あぁ。ドルドという商人から没収した私財はまだ残ってるだろうか」
「お答え出来かねます」
「その私財の中から1つだけ、品物を取り戻したい――」
私がここへ来た理由と、ドルドとテッカン殿の事を伝えた。
しかしカシオ管理官は、飛んでもないものを見るかのような目で、私を見上げた。
「はぁ? いや何言ってるか分かってます? 国庫の中へ収められた物、即ちこの国の所有物ですよ? 一介の冒険者如きが、いきなりやってきてどうこうできる問題じゃありませんよ。ちゃんと正規の手順を踏んで、裁判所で許可貰ってから来るのが常識でしょう」
「……彼女の言う事はもっともだ。ワシらは王に仕え、王の定めた法律を守る事で安寧を支えている。それが国というものだ」
「分かっています……しかし正規の方法では何週間も掛かります。それでは間に合いません」
「それは貴女の事情です」
「――そもそもドルドとテッカン殿の取引の契約そのものに違法なやり取りは無かった。契約書の写しを見る限り確かだ」
私はテッカン殿に借りた写しを見せるが、カシオ調査官は取り合おうともしなかった。
「……ドルドはテッカン殿から依頼を受け、代理で商品を購入した。ならば、その時点でその商品の所有権はテッカン殿にあるはずです。ここに収められる理由が無い」
「どちらにせよ、ドルド氏の商品は既に国庫へと収められています。それを許可無く動かす事は我々にも出来ません」
「――やはり、まだあるんですね」
「うぐっ」
痛いところを突かれたように怯むカシオ管理官。
「だがステラよ。ここから先、冒険者の君が無断で入れば、最悪国家反逆罪が適応されても不思議はないぞ」
「そ、そーです。我々は絶対に許可を出しません」
「分かっています。冒険者のステラ=カーティスではこれ以上の事は出来ません。ならば、道は1つだけ……」
「な、なんですか!」
「ここへ収められた品物が国の所有物である事は、ある意味で間違っている。本当は"国と王族の所有物”が正しい」
「だからなんですか!」
「――第2王女、ステラ=エルダー=シンディアが命じます。ここを通しなさい」
私は胸元から王の一族である証――紅い炎のような宝石のネックレスを取り出した。宝石には王家の紋章が入っている。
「え、えぇ!?」
可愛らしい目が飛び出すかと思うくらい驚くカシオ調査官。
「……そういう訳だ、カシオ管理官。通しなさい」
「は、はは、はい、喜んで! ちょっと、ちょっとお待ちください!!」
彼女は慌てふためきながら、倉庫内へと入っていった。
宝石を胸元に仕舞い、全く動じていない彼に声を掛ける。
「――エルソードさんは知ってたんですね」
「もちろん。しかし、君がそれを名乗る日が来るなんてな」
「恩人の命が掛かってます。それに比べたら、私の事情なんて些細な問題です」
「そうか――分かった。後の事は任せておけ」
「有難うございます」
私は倉庫へと入り無事、魔炎鋼竜の牙を持ち帰ったのであった。
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