セカンド人生は動く鎧になって冒険者生活!?

ゆめのマタグラ

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第2話 ギルド登録は大変だ

6.セクハラオーク撲滅強化月間

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「ジェイド、ジェイド!」
「むにゃ……女の子に囲まれて飲む酒はうまぐぇっ」
 
 何やら幸せな夢を見ていたようだが、ステラに後頭部を叩かれて目覚めたようだ。
 
「はっ、姉さん!」
「大丈夫かジェイド。痛む所はあるか」
「殴られた所以外は大丈夫だよ……イテテ」
 
 そんな姉弟のやり取りを尻目に、俺は目の前の残骸に思わず息を飲む――身体は無いけど。
 
「これが、星命の獣マナビーストのなれ果てか」
 
 白く変色したイノシシや蜘蛛の肉体、人間2人分の骨だ。
 しかし、風が吹くと同時にそれらは――散ってしまった。
 残ったのは真っ二つになった黒く丸い石だ。
 
「それが喰われた者の末路だ。骨の欠片も魂も残らず、消えてしまう」
「ステラ、身体は大丈夫なのか? 毒は全部抜けたと思うけど、怪我はまだ治りきってないだろ」
「これは私の落とし前みたいなものだ。気にするな」
 
 ふっと笑うステラ。
 一瞬ドMなのか? って言いそうになったのを堪える。
 
「姉さん。これからどうするの?」
「そんなのは決まっている――」
 
 残忍な表情を浮かべながら笑うステラ。

「セクハラオークは撲滅だ」

 思わず俺とジェイドは、顔を見合わせるのだった。


  ◇◆◇◆◇◆◇


 月の無い夜。
 
 暗闇の中を1台の馬車が走る――コーディアの街は繁華街を除けば、どこも静まり返っている。
 
 街の外れにある大きな屋敷の裏手で馬車は停まった。
 そこには屋敷の半分くらいの大きさの木造の倉庫があり、大きな鉄の扉が開かれると馬車は中へと入っていく。
 
 重い音と共に扉は閉められる。

 倉庫の中は魔法のランタンで照らされており、視界は良好である。
 壁際にあるのは商品の棚や箱だろう。それらが所狭しと並べられている。
 扉を閉めた男達が馬車の中を検める。小さな木箱が3つほど積まれていただけで他に荷物は無い。

 彼らが持ち場へ戻って行ったのを、”俺は確認”した。
 
「ご苦労様です。報告を聞きましょうか」
 
 御者台には2人組の若い冒険者が座っていた。
 片方は黒い兜を被っており、くたびれた金属の胸当てを身に付けていた。
 もう片方の、帽子を深く被った黒髪の冒険者の1人が御者台から降りる。
 特徴的な紅い宝石の付いた剣と爪を象ったバッジを、ドルドの隣に居た屈強で大柄な男へと渡した。
 恐らくは、彼が本来のお抱えの冒険者なのだろう。
 
「おぉ。という事は?」
「あのギルドの連中は、なんだかよく分からないモンスターにやられて死んだよ」

 ドルドは満足したようにニヤつき、隣の大男に支持を出す。

「なるほどなるほど――分かりました。これは報酬です」
 
 大男が硬貨で膨らんだ小さな麻袋を、雑に足元へ投げてくる。
 
「しかし、しかし。あぁ勿体無い。あの美しくも柔らかな肉体をベッドの上で味わいたかった……」

 悦に入ったように両手を上げ嘆くドルド。

「その、報酬もですが、あの話は――?」
「ん? お、おぉ。あなた達を正式に私の部下にするという話でしたね。覚えていますよ」
「じゃあ――」
「もちろん約束は守ります。あなた方の初仕事は――王の爪のギルドメンバー3人へモンスターをけしかけて殺した犯人役です。偶然監視していた私の部下がそれを目撃し、事情を聞こうとしたら抵抗したので、致し方がなくその場で処刑した。これでいきましょう」

 既にドルドは若い冒険者を見ていなかった。
 それが決定事項なのだと、ここにいる部下に言い聞かせてるようにも見える。

「おっと動機は簡単です。あなた方は難度の高い依頼を受けたにも関わらず放棄して逃げてしまった……それでヨド殿の怒りを買って追放されたのは調べが付いています。それ故に! ギルドメンバーへ逆恨みをして犯行に及んだのです。完璧ですねぇ」
 
 ドルドが手を挙げ合図を送ると、後ろの2人と目の前の大男はそれぞれの獲物を取り出すと、ジリジリと近付いてきた。
 
「ふっ、ふふふ――」
 
 突然帽子の冒険者が笑ったかと思うと、その場から一瞬で前方に跳躍し、目の前の大男の――股間を蹴り抜いた。
 
「はぐぅッ」
「貴様ッ!」
 
 後ろの男が斧を構えて前に出ようとしたが、それを木箱と馬車のホロを突き破って飛び出した”俺の腕”が妨害する。
 
「な、なんだこれ!?」
 
 ガッツリと掴まれた自分の腕を見て、男は悲鳴を上げる。
 さらにもう1本、今度は脚が飛び出し、男の腹部を蹴り気絶させる。
 
「なん――ごふッ」
 
 反対側に居た男は、兜を被った男――ジェイドに昏倒させられていた。
 
「ぷはー。上手くいったな」
 
 ジェイドは兜を脱ぐと、馬車の中の木箱を開ける。
 そこには頭の無い俺の鎧――つまり鎧がバラバラになり詰められていた。
 箱から全部出して貰うと、内部のケーブルを操り元の状態へと復元する。
 これは中身の無い俺だからこそ出来る潜入方法と言えよう。

 さらに俺はこの状態からでも、魔力センサーなど各種機能により外の様子が手に取るように分かるのだ。
 
「な、な、なっ! 貴様らは――ごふッ!?」
 
 驚愕の声を上げるドルドの顔面を、思いっ切り全力で殴る――ステラである。
 帽子を脱ぐと、それは染められた黒色だという事が分かるだろう。
 さすが日中だとバレるだろうけど、この薄暗い倉庫内ではこれだけでも充分だった。
 
「よぉドルド殿。随分、ナメた真似をしてくれたな」
 
 いつもの口調ではなく、もっと威圧的な口調にあえて変えているのだろう。
 
「貴様は魔鉱石をピンハネするだけに飽き足らず、国が厳重封印対象と定めている星命の卵マナストーンを使い、私達を始末しようとするとはなぁ」
「ひ、ひぃぃぃ。す、すいませんでした!」
 
 下手したら顔面骨折でもしてるんじゃないかってくらいの勢いで殴られたにも関わらず、ドルドは即その場で土下座をした。相変わらずのタフさである。
 
「わ、私もやりたくてやったんじゃないんですよ。本当です! 故郷にいる家族を人質に取られ、やむなふがっ!?」
「よくもまぁ滑る舌だな。悪さをするのはこの舌か? それともこの薄汚れた手か?」
 
 ドルドの舌を掴み、手は足で踏みつける。
 
「ふがっ、たしゅ、たしゅけ――」
「ふんっ」
 
 手を離し、そのままステラはドルドの胸元を片手で掴み、自分の顔より高い位置まで持ち上げた。
 
「ぐ、ぐぇ――」
「命乞いと言い訳の続きは、王の前でやる事だな――だがこれだけは覚えておけ。大切な家族と仲間の命を狙う事は、万死に値すると、な!」
「――ぐぇ」
 
 思いっ切り頭を引き、全力で頭突きをかますステラ。
 倉庫中に鈍い音が響く――今度こそ頭蓋骨が凹んだんじゃないだろうか。もちろんドルドの。
 ドルドはそのまま泡を吹いて気絶し、雑に床に捨てられる。
 
「ふぅ。憂さ晴らしはこんなものか。ジェイドは信号弾を頼む。ヨーイチはこいつらを縛るの手伝ってくれ」
「イエスマム!」
 
 なんとも怖いが、それでいて仲間想いな面白い女性。ステラの印象はそんな所だ。
 
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