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第1話 動く鎧になる俺
5.チュートリアルはスキップ派
しおりを挟む「ここは……」
真っ暗な暗闇の中、俺はその場で座っていた。
身体は鎧ではない。見慣れた人間の肉体だが、少し透けてるようにも見える。
『――ようこそ。響陽一様』
「ん!?」
気付けば、目の前に一際濃い色の黒いモヤモヤした人型の何かが座っていた。
『私はニーアデス――この鎧の管理を、創造主より仰せつかった者です』
「その声……俺があの時、聞いた声だ」
昨晩、アムルを自分の中に取り込んだのは俺の意志ではなかった。
身体が勝手に動いたというべきか。その時、彼女の声が聞こえたのだ。
『陽一様の魂データからニホンゴを習得しました。他にも、私が持ち得ない知識などを共有させて頂きました』
「つまり説明は俺のよく知った単語でして貰えるってこと?」
『Exactly(その通りでございます)』
「うわっ、ほんとだ」
今のは俺が好きな漫画の、有名なセリフの1つだ。
『陽一様。今から私、ニーアデスを取り扱う上でのチュートリアルを行います』
こうして俺はニーアデスからこの鎧についての使い方を学ぶのだが――長い話に記憶から飛んでいきそうだ。
◇◆◇◆◇◆◇
「――ん?」
目が覚めると、焦ったようにあわわしてるジェイドが目の前にいた。
「アムルちゃん大丈夫!?」
「ん?」
ふと視線を下にやると胴体の鎧が外され、中にスッポリ入っているアムルの姿があった。鎧の中各所から伸びている触手のようなケーブルに巻き付かれている姿はなんというか。
「いいな」
「あ、お前気が付いたのか!」
先ほど意識が突然途切れたのは、魔力タンク内が枯渇寸前になった為に緊急停止したらしい。
そうなった場合、近場の魔力を持つ生物を取り込み回復を行う。何年も機能不全だったのは完全に魔力が枯渇していた、とのこと。
「そっかアムルが中に入ってくれていたのか。ごめんな」
「ううん。なんか意外と居心地良い気がするの」
「これどうなってんだよ」
「今アムルから魔力を供給して貰ってるんだ。ただ満タンにするには結構時間が掛かるみたいで……」
「お前、ほんとに魔物じゃないんだよな?」
そこからアムルのご両親が来るので、話がややこしくなるので俺は退室した。
さらにジェイドは聞き取りに来た兵士といくつか会話を行っていた。どうやら強盗達の足取りはまだ分かっていないらしい。
そして慌ただしい1日は過ぎていき――。
◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ!?」
「!」
魔力節約の為、隣の部屋で座って寝ていた俺はジェイドの声で目が覚める。
急いで病室に入ると、口論をしている2人の姿があった。
「私も盗まれた美術品取り返したいの!」
「危ないしダメだって」
「どうした?」
「ギルドに正式に依頼があったからオレも捜索に参加しようと思ってここに寄ったんだけどさ。アムルちゃんが自分も行くってさ」
「そりゃ確かに危ないよ。なんで急にそんなことを?」
「私分かる気がするの。強盗の人達の居場所……」
「……?」
ジェイドは首を傾げるが、俺には彼女の言っている意味が分かってしまった。
チュートリアル中に、ニーアデスはこう言っていた。
『私を着た人間の”祝福”を目覚めさせる事ができます』
『この世界の人間は生まれながらに祝福という名の才能を貰っています。しかし殆どの人間はそれに気付かず一生を終えます』
『条件の1つとして、着る人間をより深く知ることが必要です』
つまりアムルはニーアデスにより自分の”才能”に気付いたのだ。
さらにニーアデスは補足説明を行う。
『彼女の祝福は、マーキングを付与した物の追尾と居場所を探知できるようです。私から出た状態でも祝福を自覚できるのは、才覚ある証拠です』
(そうなのか?)
『自身の中に目覚めたあやふやなモノを掴み取るのは難しいことです』
(ふむ……この鎧には他にも機能があるんだったよな)
『イエス。しかし解放は出来ません。何故なら魔力残量がありません。なので、誰かに着て頂く必要があります』
(ジェイドは……なんか嫌だな)
身体を動かせるようになってから、自分が当たり前のように触覚や嗅覚を感じていることに気付いた。
こういうと変態みたいだが、アムルが着てくれている時はなんだか良い匂いがして身体も柔らかく――。
『セクハラですね』
ともかく。なんだか男に着て貰うのは気分的にアレである。
だが、それを抜きにしてもジェイドはこの街の冒険者という肩書きがあるが、俺は現時点だと不審者である。
彼と共に行動する方が色々と円滑に進むであろう。
「アムル。だったら俺を着て欲しい。この中だったらどんな事があっても君を護れるし、どこよりも安全なはずだ」
「いやアムルちゃん魔法なんか使えないでしょ。場所が分かるって……」
「えーっと。もしかして強盗達が出てきた所を見たんじゃないのかな」
「分からないです。でも――そういえば……うーん」
捻りだすように、唸りながら頭を抱えるアムル。
「――強盗の人達は地下階段の方から出てきたような……」
「それだ。多分それを見て居場所を分かった気がしたんだ」
と、こうして誤魔化しておく。
さすがに祝福云々は伏せておいた方が良いと思う。
「はぁ……じゃあとりあえず美術館の方に行ってみるか。言っとくけど、危険そうならすぐ退却するぞ」
困ったように頭を掻きながら、ジェイドはため息をついた。
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