2 / 93
第1話 動く鎧になる俺
2.動いた鎧
しおりを挟む起床というのもおかしいが、ともかく目を覚ました。
目の前に15歳前後だろうか――俺の手入れを行っている少女の様子が映った。
亜麻色のポニーテールに三角巾を巻いている。簡素なエプロンを掛け、布で拭いて磨いている。
見覚えがある――もしかして……。
「――よし。最後の掃除終わりっと」
(最後?)
「うーんっ。明日お引越しだから他の荷物も準備しないと」
見える範囲にあった彫刻には布のようなものが掛けられ、絵画も外され梱包されていた。
どうやらここにある美術品はどこかへ移動になるのだろう。元々古そうな美術館だし、改築か取り壊しか――。
「アムル……おぉ綺麗になったな」
(やっぱりアムルか……爺さんもフケたなぁ)
「うん。この美術館も取り壊しになるんだね……」
「あぁ……お前も新しい王立美術館へ志望を出したんだってな。王から賜った鎧、頼んだぞ」
(しかしそんなに時間経ってるとは思わなかった)
前に寝て起きた時は半年以上経っていた事もあったので、そこまで驚かない――いや、結構びっくりした。
今回は3年くらい寝ていた事に……。
「任せてお爺ちゃん」
「しかし今日は一段と鎧が輝いて見えるな」
「うんっ。なんだか鎧さんも喜んでいる気がする」
(……まぁ汚いよりは良いけど)
当然俺の声は聞こえない2人であったが、だが約7年の付き合いもある……寝ていた時間の方が多いけどね。
娘はともかく爺さんとはもう会うこともないだろう。
「さぁ、明日も早いからもう帰りなさい」
「後片付けしたら帰るね」
――そして、事件は起こった。
◇◆◇◆◇◆◇
『なんだ貴様らは!?』
爺さんの大声と共にガラスのようなモノが割れる音が館内へ響き渡る。
複数の大人と子供のような足音が聞こえ、それはどんどん近づいて――。
「ッ!」
扉を開けて駆け込んできたのは、遅くまで掃除でもしてたのか薄汚れたエプロン姿のアムルと、複数の盗賊達だった。
「ここだな。お前ら、手早くブツを運び出せ! ゴブリン共は目撃者を消せ」
「兄貴、まだ若いんだしこのまま連れ帰っても……」
「スマートに盗み出す作戦はあのジジイのせいでおじゃんだ。さっきの声を聞きつけて住民か憲兵が寄って……おらっ、早く運び出せ」
「兄貴。梱包しててどれかよく分かりません!」
「だったらでかいの以外全部だ。余ったらどっかの闇市で売って金にすればいい」
「へい兄貴」
「後は、そのデカブツだな」
「ダメっ!!」
アムルは俺を護るように両手を広げて立ち塞がる。
(バカッ! さっさと逃げろよ!)
「どの道、俺らは見られたんだ……ここで始末していく。さっきのジジイみたいにな」
ニヤリと笑いながら、血がべったりと付いたナイフを見せつけてくる盗賊の親分。
「ダメ……これは勇者様の、お爺ちゃんが大切にしていた――」
「うるせぇッ!!」
親分がその太い腕を振るい、こちらへ吹き飛ぶアムル。
「おめぇもジジイと同じ場所へ送ってやるよ」
「キィィッッ!!」
4匹のゴブリン達がそれぞれの獲物を構えると、そのままアムルへ飛びかかってきた。
(止め、やめろぉッ!!)
そんな俺の声は――当然、誰にも届かなかった。
指先1つ曲げられず、目の前で少女が串刺しにされる所を――ただ見ているしかなかった。
「が、はっぁ……」
それでも即死とはいかなかったのか、アムルは最後の力を振り絞り、俺の足元へ這いずってくる。
「ゆ、うしゃ様……」
「キシャァァ!」
ゴブリンがさらなる追い打ちを掛け、アムルは背中から刺され、そのままの勢いで俺を巻き込んで倒れこむのであった。
「あっ鎧が」
「ゴブリン共! それは依頼主が絶対いるって言ってた奴だぞ! 薄汚ねぇ血なんかで汚すんじゃねぇぞ!」
「キィ……」
「下水通る時に洗うか――とにかく運びだぜ。おらっ、油の用意しろ」
作業に没頭する余り、盗賊達は気付いていなかった。
バラバラになった白い鎧の胴体から淡い光が漏れ、触手のようなものがアムルを包み込みそのまま飲み込んでいく様子を。
そして鎧は、“動いた”のだ。
32
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

魔喰のゴブリン~最弱から始まる復讐譚~
岡本剛也
ファンタジー
駆け出しの冒険者であるシルヴァ・ベルハイスは、ダンジョン都市フェルミでダンジョン攻略を生業としていた。
順風満帆とはいかないものの、着実に力をつけてシルバーランク昇格。
そしてついに一つの壁とも言われる十階層の突破を成し遂げた。
仲間との絆も深まり、ここから冒険者としての明るい未来が待っていると確信した矢先——とある依頼が舞い込んできた。
その依頼とは勇者パーティの荷物持ちの依頼。
勇者の戦闘を近くで見られることができ、高い報酬ということもあって引き受けたのだが、この一回の依頼がシルヴァを地獄の底に叩き落されることとなった。
ダンジョン内で勇者達からゴミのような扱いを受け、信頼していた仲間にからも見放され……ダンジョンの奥地に放置されたシルヴァは、匂いに釣られてやってきた魔物に襲われた。
魔物に食われながら、シルヴァが心の底から願ったのは勇者への復讐。
そんな願いが叶ったのか、それとも叶わなかったのか。
事実のほどは神のみぞ知るが、シルヴァは記憶を持ったままとある魔物に転生した。
その魔物とは、最弱と名高いゴブリン。
追い打ちをかけるような最悪な状況に常人なら心が折れてもおかしくない中、シルヴァは折れることなく勇者への復讐を掲げた。
これは最弱のゴブリンに転生したシルヴァが、最強である勇者への復讐を果たす物語。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。
大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。
ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。
主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。
マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。
しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。
主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。
これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

王太子に転生したけど、国王になりたくないので全力で抗ってみた
こばやん2号
ファンタジー
とある財閥の当主だった神宮寺貞光(じんぐうじさだみつ)は、急病によりこの世を去ってしまう。
気が付くと、ある国の王太子として前世の記憶を持ったまま生まれ変わってしまうのだが、前世で自由な人生に憧れを抱いていた彼は、王太子になりたくないということでいろいろと画策を開始する。
しかし、圧倒的な才能によって周囲の人からは「次期国王はこの人しかない」と思われてしまい、ますますスローライフから遠のいてしまう。
そんな彼の自由を手に入れるための戦いが今始まる……。
※この作品はアルファポリス・小説家になろう・カクヨムで同時投稿されています。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる