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シーズン3:後輩と共に

27話 異世界への鍵を持つ者達8

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 その声にはもちろん聞き覚えがある。

 階段を降りてきたのは、喪服のように黒いスーツに身を包んだ――“芝田”だ。他に護衛などは付けて居ないようだ。
 その手にはトレイを持っており、カップヌードルにお湯を注がれたモノが2つ乗っていた。

「まだ死なれるのも困るので、こちらは差し入れですよ」

 そう言ってニッコリと微笑みながら、鉄格子の下にある隙間からトレイをこちらへ渡してくる。
 
「貴方が芝田、だったんですね」
「その通り。わたくしが、ここの魔王反抗組織”ヴィクトリーハウス・シバタ”のボス補佐官です」

 堂々とした態度で、両手を広げながら自慢げに話す。
 
「なんだその中学生が付けたような名前――いや待てよ芝田。お前がここのボスなんだろ?」

 その通りだ。結局名前を偽っていた為、目の前のこの男こそがマスターが言っていたボスで間違いないだろう。
 しかし、芝田はそれに対してこう答える。
 
「はい。芝田という男がボスです。そしてこれからは、貴方が“芝田”ですよ、お猿さん」
「誰が猿や! 大体、お前の言ってる事がちっとも意味が分かんねーよ」
「やれやれ――」

 芝田は近くにあった椅子へと座ると――その長い足を組み、こちらを見下すように哂う。

「――その足りない頭に分かるように言うとだな――お前は反抗組織のボス“芝田”として、ここで死ぬ」
「はぁ!?」
「そして誘拐された羽柴社長は、本拠地で幽閉されたまま不慮の事故で死んでしまい……彼の意思を託されたわたくしが、会社の社長として就任する訳だ。――そうだな、今のわたくしはキリトと名乗っておこうか」
「なんだよその漫画のキャラみたいな名前はよ。あと、お前は魚臭い会社がイヤだとか言ってたじゃねーか!」
「お前のように社長本人が現場に出る必要は無い。会社の生み出す金は、わたくしが管理する――」

 その2人の会話に割って入るように、俺も意見をする。
 
「――不慮の事故って、どういう事なんですか」
「おやオダナカさんも居たんでしたっけ」
「いやオダナカもお前が閉じ込めたんだろ! 今の話はまぁ分かった――でも彼は関係ないだろ! 用事があるのがオレだけなら、彼は解放してやれよ!」

 芝田の言う通りなら、このままだと自分は殺されてしまうというのに、そんな状況でも他人の身の安全を第1に考えられるのはなかなか出来ないと思う――やはり社長になるほどの男はそれほどの器量があるという事か。

「関係は、大アリです」

 芝田はもったいぶったようにニヤリと笑うと再び両手を広げ、大げさに声を張る。
 
「お前はもちろん知らないだろうが、彼の持つコネは絶大! レオガルド王子が持つ第3騎士団の騎士団長アグリ。彼女はとても美しく、貴族はもちろん市井の間でも大人気だ。高潔にして美麗、そして剣の腕も立つとなればそれも納得だろう」

 今、なにか重要な情報を言っていた気がする――。

「次に元海賊にして騎士団特別水軍の頭であるジョニー・キッド。今は港町で回転寿司店を営んでいるが、海で戦えば無敵を謡われる多くの船員と船を所有している――特に海産事業をもっと広く展開していくには、彼の協力が必要不可欠だろう。ちなみに好物はオダナカが持ってくる日本酒らしいな」
 
 日本酒に関しては現状は彼と、彼の店にだけ卸している。
 そんな事まで調べていたのか――。

「他にも不確定情報だが、レジェンドクッキングマスター“リーエン”や漆黒の断罪者“レイゼン”とも交流があると聞く――」

 なんだかこそばゆい感覚に襲われる。
 しかしあの2人。そんな面白い通り名が付いていたのか。

「ちなみにわたくしが名付けた2つ名だ。カッコイイだろ?」

 ……彼、何歳なんだろうか。

「オダナカさんの名前を使ってコネを獲得するのが第1目標だ」
「確かにオダナカがすげーのは分かったけどよ、まだなにかあるのか? オレは全然わかんねーわ」
「お前そこまで無知とは恐れ入ったな! いいだろう、説明してやる」

 これは余談だが。
 世の中には、とにかく他人に説明したくてしょうがない人達が存在する。

 何かが間違っていれば、それを正さないと気が済まない。
 知らなければ、それを教えてあげないと気が済まない。

 そういった意味で、羽柴は天然の聞き上手とも言える。
 そういった意味で、芝田は天然の説明バカだ。

「まずだな――」

 長い長い芝田の計画内容の全容を、熱心に聞き入る羽柴をほっといてカップラーメンを食べる。
 このままでは完全に延びるし、冷めるし……ちなみに今食べているのはシーフード味だ。
 
 そのラーメンが食べ終わる頃――まだ説明は終わってなかった。
 
「――なるほどなぁ。お前が騎士団に、オダナカが犯行組織に捕まったって通報した訳か」
「そうだ。さらに! 今頃あのモナカがアグリに泣きついている頃だろう――わたくしの通報と、彼女の情報を下に――アグリはこの近辺の第5騎士団へ救助要請を行う」
「なんでだよ。オダナカは友人なんだから、アグリ本人が助けにくればいいだろ? 騎士団長ってすげーつえーんだろ?」
「だ、か、ら! アグリは騎士団長なんだから、上の命令無しに勝手に動けないって言ってんだろ! 第5騎士団と、それを所有する王女のメンツを潰すからだ」
「ほー、そうなんだ」
「そして、国境の近くにある町へ騎士団は巡回パトロールへとやってくる――どうせ国境を渡れるはずもないから、テキトーな仕事になるだろう」
「ふんふん」
「そこへわたくしの手塩に掛けて作った巨大魔獣が登場!」

 今度は立ち上がり、まるでその様子が脳裏に浮かんでいるのか――目を閉じながら優雅に語りだした。

「巨大魔獣はここの本拠地を潰すほどの大暴れ――命からがら逃げだした者達、それを追いかける魔獣。その様子を巡回している騎士団が目撃するッ」

 ここで後ろを向いてこちらに上半身のみを向けるターンを行う。今度は目を見開き、大げさに声を荒げる。
 
「しかぁし! 碌な装備も無い騎士団はこれに手も足も出ずに敗走――そこへ、正義の武装集団が現れるのだ」
「おー頑張れー」
「正義の武装集団は異世界の武器を使い、この魔獣を見事に撃退。かくして、その武装集団を束ねる善良な商人が異世界と日本の橋渡しとなり、騎士団へと強力な武器を販売し続け、商人は大儲けで一生安泰という訳だ」
「すげーなその商人。知り合いか?」
「わたくしの事だよ! ――はぁ、バカの相手は疲れるな」

 再び椅子に座り、元の足を組むスタイルに戻る。忙しい奴だ。
 ここの魔王反抗組織とやらのボスになったのも、いずれは武器を売り込む為のデモンストレーションだったという訳か。

「この魔獣との戦いは、わたくしがドローン搭載カメラで撮影し――他の騎士団にもその強さを見て頂き、王族の方々も『こんな強力な武器を持つ商人が仲間に居れば、魔王との休戦なんて辞めてしまおう』と考えるはずだ」

 熱の入って居る芝田の演説だったが、ここで聞き過ごせない単語が聞こえてくる。
 
「――戦争の再開……」
「そうですオダナカさん。やはり戦いがないと、武器も魔獣の自衛手段としてはそこまで儲かりませんからね――」
「……」
「お前……戦争なんか起こそうとしてたのかよ!」
「休戦などというのは本来、次の戦いまでの準備期間でしかありませんよ――まぁこれだけだとまだ弱いので、もう一手打ちますけどね」 
「まだ何かするつもりなんですか」

 芝田はいたずら小僧のような顔つきになり、自身の口元に人差し指を添える。
 
「そこはさすがに――トップシークレットです。しかし、騎士団の方々もサプライズゲストの前には度肝を抜くはずです」
「ここの本拠地も……」
「魔獣が偶然暴れ崩壊します。そろそろここの連中は邪魔なのでね――腰の重い魔王軍もさすがに鎮圧に動くでしょう」
「お前! 部下をなんだと思ってやがる!」
「駒ですよ。生かすのも殺すのも、王であるわたくしが決める事です――さて」

 芝田は立ち上がり、襟首を正す。

「長話をしてしまいましたが――わたくしも忙しいので、これで失礼します」
「おい芝田!」
「また様子を見に来ますので、では」
 
 そう言って説明するだけ説明して満足した芝田は、部屋から出て行った。
 残された俺と羽柴はしばらく黙っていたのだが――。

「――飯、食うかって……オダナカはもう食ってるじゃんか」
「はい。美味しかったですよ」

 投獄されて初日は、あとは横になって寝ているだけだった。
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