サラリーマン、異世界で飯を食べる

ゆめのマタグラ

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シーズン3:後輩と共に

26話 異世界への鍵を持つ者達5

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「ここのボスをやるくらいだし、そういう風貌なんでしょうか……」

 酒場のマスターは話したがりなのか、色々と教えくれた。

 まずボスが居るのは、ここからでもよく見える大きな岩盤の上に建っている屋敷に住んでいるらしい。
 屋敷への階段は1つしかなく、そこはいつも守衛が立ちふさがるように守っている。
 この昼の時間帯に立っている守衛の男は業務に対してマジメだが、夕方以降に入れ替わるドワーフの男はかなり不真面目で業務中に隠れて酒は飲むし、よく夜間に居眠りをしているのだという。
 なので、もし居眠りをしていたら容赦なく叩き起こしてくれ――何か問題があれば、自分らにもとっばちりが来るかもしれない。そう頼まれた。

「……そろそろ行くか」

 あまり町中をブラブラしていても怪しまれそうなので、適当な資材置き場のような場所で夜になるのを待ち――行動を開始する。

『腕時計で時間を確認して下さい。23時頃、わたくしが拠点の周囲の森でいくつかボヤ騒ぎを起こします――それに浮足立っている隙に、なんとかボスのいる場所へ侵入して下さい』

 時間は23時の15分前――俺は屋敷へと通じる階段へとやってきた。
 岩に丸太を半分に割ったような杭が打ち付けられた、簡素な階段だ。
 その階段の入り口に、マスターの話通り背の低く、黒い立派なヒゲを生やした中年の男。つまりドワーフだ。
 他の人の間でも周知されるくらいの不真面目さは、今宵もいかんなく発揮されているようだ。
 腕組みをして、地面に座り込み「ぐおー……ふしゅぅ……」などと寝息を立てている。

 起こさないようにそっと階段を上がっていく――。

 ボンッ!!

「な、なんだなんだ!?」
「見ろ。森の方だ!」
 
 ボンッ、ドォォンッ!!

「か、火事だ!」
「ありったけの水と魔石を持ってこい!」

 事前の打ち合わせよりも大分早く、森から火の手が上がった。
 何かのがガソリンのようなものでも使ったのか、黒い煙がモクモクと上がっている。
 荒くれ達が続々と広場へ集まり、そこから水などが入った荷物を積んでトラックに乗って外へ出て行くのが見える。
 
「ぐおー……」

 ちなみにドワーフの男はこんな騒ぎでもまだ寝ている。
 不真面目さより、その睡眠の深さは素直に感嘆だ。

「さて……」

 ここまで大きい騒ぎならボスも起きて指示でも出すんじゃないかと思ったが、階段を登り切った先にある屋敷は、闇に包まれたままだ。
 ボスも先ほどのドワーフのように睡眠が深い方なのだろうか。
 屋敷は西洋風の木造。2階建ての一軒家だが、幸運な事にガラス窓。俺はリュックからガムテープを取り出し、それを窓に貼る――そして、車の窓などを割るのに使われている非常用ハンマーを取り出し、

 パリッ――。

 少し音が鳴り、貼られた部分は飛散する事なくガラスは割れ……そこから手を伸ばして鍵を開ける。
 もう泥棒そのものになった気分だが、これも全ては彼を止める為だと自分に言い聞かせる。

「……普通に考えたら寝室は2階でしょうか……」

 家の中は当然暗いのだが、窓から差し込んでくる月明りのおかげか若干見える。
 そう思い階段を登ろうとしたところで、ふと足を止める。

「この匂いは」

 どこからともなく懐かしい匂い――よくよく嗅いで自分の中でその正体を確かめる。

「カレーだ……」

 それはさっき食べたカレーだ。
 もちろん自分の衣服に付いたの匂いではない。
 窓を開けたせいか空気の流れが生まれ――それは下の方から漂ってくる。

「晩飯にカレーでも食べたんだろうか」

 俺はその匂いをする方へ歩いていくと……辿り着いたのは台所だ。
 台所にはカマド、魔石コンロ、食器棚、大きな瓶、調理場などがあるのだが――それよりも目に留まったのが、床にある石畳だ。
 どうやら床収納のようなモノがあるのか、フタに開閉用の窪みが付いているのだが――そのフタから光が漏れている。
 収納スペースなら光が漏れるはずが無い。

「よいしょっと」

 試しにフタを開けてみる。
 そこにあると思っていた収納スペースなどは無く、代わりに地下へと続く石造りの階段があったのだ。
 ここは光る魔石の入ったランタンが入り口に吊るしてあり、階段の奥は真っ暗闇で何も見えないが――。

「ボスの屋敷だし、緊急用の脱出路か何かだろうか。でも、匂いはこの奥から漂ってくるな」

 もし本当に脱出路なら、何かがあった時に使えるかもしれないし……一応先を見ておく事にしよう。
 そう思いランタンを手に階段を下って行くと――。
 
「……ここは」

 脱出路のようなモノは無く、代わりにあったのは鉄格子に覆われた部屋――つまり牢獄だ。
 鉄格子の前にはカレーが乗っていたであろう大皿が置かれており、あったものは既に完食済みのようだ。

「だ、誰だ!?」

 突然の声に、俺の視線は前を向く。

 牢獄の中に居たのは、ガタいの良い20代後半くらいの人間の青年。髪はボサボサで、口の周りも無精ヒゲが生え、汚れのせいで黒くも見えるシャツに、ジーパンを履いている。
 第一印象は、大変失礼だが――鉄格子に入っているのも相まって動物園の”猿”のようにも見えた。

「私は小田中と言います。ここのボスの芝田さんと言われる方に会いに来たのですが……」
「芝田? お前、芝田の仲間か!?」
「いえ。私は羽柴という人から頼まれて――」
「なんの話をしているんだ? 羽柴は“オレ”だ! ここから出してくれ!」

 その言葉を聞き、散々後輩に鈍いと言われた俺の脳内では1つの回答を導きだしていた――。

「もしかして――」
「ッ!? オダナカ、後ろだ!!」

 そう言われ振り返ると――バールのようなものを振りかざす、あのキツネ顔の男――。

 目の前でそれが振り下ろされ――。


 そこで、俺の記憶は途絶えた。

 
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