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シーズン3:後輩と共に

26話 異世界への鍵を持つ者達2

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 日本のモノを異世界に持ち込み売りさばいて富を得る――。
 それを言い出したのは羽柴からで、芝田はそれに乗る形で話が始まった。

「最初はレトルト食品やカップラーメンのような簡単なモノを売っていたんですけど――次第に大きな商売をやりたくなり、向こうで会社を興しました。ただ会社の業績が軌道へ乗る頃に……芝田とは仲違いをしまして――」
「なんの会社だよ」
「そうですね……エビやブリなどの稚魚を異世界へ輸入し、異世界産の魔力を含んだエサで育てると――通常とは比べ物にならないほど丈夫に、大きく育つ事を発見しまして……それでまぁ、色々と稼がせて頂いております」

 例のラジオで宣伝していたウナギも、その方法で養殖されたものだったのか。
 
「芝田さんは、それに対して反発を?」
「いえ。稚魚の仕入れや、養殖場の確保は全てわたくしがやっていて――彼は料理が得意なので、加工部門を任せていたのですが……勤務時間や給料の額について、色々とモメちゃいまして」
「はぁ」
「こちらも異世界の人達を雇っていたし、彼が「オレは勝手にやる」と辞めても特に問題視してなかったんですけど……」

 ある日、養殖場の魚がごっそりと盗まれる事件が起きる。
 犯人はどこからかやってきたならず者で、人間や獣人の集団である事までは分かったが――奴らは日本製の大型トラックを運転していたという。

「警備に当たっていた従業員の話だと、黒い鉄の筒から攻撃魔法が飛んで来る――撃たれた地面を調べると、それは明らかに……」
「銃の跡だったと」
「えぇ――大家さんに問い正すと、鍵はその時点では2人にしか渡していないと言われ――犯人はおのずと彼になります」

 どういった経緯で彼が元相棒への恨みを抱き、そして強盗集団に武器やトラックを与えるという犯罪に走ったのか――。
 聞いている限りでは、それは見えてこない。

「色々と手を尽くしましたが、足取りは掴めず――それから、しばらくして商会ギルドへと加入した頃――こんな噂話を聞いたのです」

 魔王軍との戦争が終結した事に不満を持った人間側の過激派が組織立って、魔王国の領土で奇妙な乗り物で強盗行為を繰り返している。
 その強盗団は高速で攻撃魔法が使える筒を持ち、爆発する弾、吸えば呼吸ができなくなる毒ガスなどを使い、好き放題暴れているという――。

「――このままでは魔王国との関係がこじれ、再び戦争が始まってしまうかもしれません」
「お前はそれを止めたいって?」
「元はと言えば、わたくしが芝田とよく話し合いが出来なかった事が発端です。このままでは、彼は魔王軍と騎士団に追われる身になってしまう――その前に、こんなバカな事は辞めさせたいのです。御願いします――力を貸してください」

 羽柴はテーブルに頭をぶつけるくらいの勢いで、その場で頭を下げる。
 その声にも元相棒の安否を気遣う想いが込められ、テーブルの上へと水滴が落ちる――。

「はぁ……分かったから、顔を上げてくれ……」
「はい――」

 自分の懐から取り出したハンカチで涙を拭う羽柴。
 
「確かに向こうで暴れている日本人が居るとなると、巡り巡ってアタシらも迷惑被るかもしれないし――」
「そうですね。これ以上、面倒な事になれば――向こうで、ゆっくりご飯を食べれなくなるかもしれません」
「それでは!」
「――芝田さんを止める手伝い、引き受けましょうか」
「ありがとうございます!」

 羽柴は再び深く頭を下げ、誠意のこもった返事をする。
 
「ちゃんと金は取るからな」
「もちろん。掛かる経費などは全部お任せ下さい!」

 後の詳しい事は、新しくグループ部屋を作ってから連絡する――そう言って彼は意気揚々と喫茶店を出て行った。

「はぁ――面倒臭い事に巻き込まれたなぁ」
「でもまぁ……日本人が関わっているなら、無視はできません」

 俺がそう言ったのだが、眉をひそめながらモナカはこちらへ向かって、
 
「――ひとつ聞くけどよぉ先輩。あの羽柴って男、どう思った?」
「どうって――友人想いの人だなと……あんなに涙まで流して」
「はぁ~~」

 モナカはさっきより大きいため意を、深くついた。

「じゃあわざわざ隠し撮りした写真を送った理由は?」
「記録用の写真を送ってくれたのでは? 確かに私も写真を撮ったりはしていないので、これからは記録用に撮るようにしましょうか」
「じゃあ、わざわざ昼休み中のアタシらでも歩いてこれる喫茶店で待ち合わせた理由は?」
「――気を使ってくれたのでは?」
「はぁ~ぁぁぁああ」

 さらなるため息をついたモナカは、頭を抱える。
 そしてすぐに立ち直ると、俺の鼻先に指を突き付ける。
 
「鈍い! お人よし! バカ先輩!」
「……よく分かりません」
「いいか先輩。写真を送ったのも、わざわざこの喫茶店を選んだのも――俺はお前らの事を、日本でも異世界でも全て把握してるんだぞって脅しだぞ」
「そうなんですか?」

 その問いにモナカは、まるで叫び出しそうになるのを抑えながらも小さく叫んだ。
 
「そうだよ! 自己紹介もなんも無しにこの喫茶店指定されただろ!」
「そう言われれば、確かに――」
「アイツが言った事も、どこまで本当か分かったもんじゃない。今ハッキリしているのは、鍵を持っている芝田って男が実在している事ぐらい――分かったか先輩」
「――分かりました」
「とりあえず大家だ。大家に連絡して、事実確認だ!」

『――おや、どうしたんだい?』
「大家か? 実は――」

 今この場であった事を話すモナカ。
 スピーカー機能をオンにして、俺にも聞こえるようにスマホをテーブルの上に置いている。
 
『おやおや。あの羽柴君と芝田君がねぇ』
「2人が一緒に異世界に行ってたってのは、本当なのか?」
『所有者のプライバシーな話は言えないけど――まぁ、そこは本当さ。向こうなんか商売をやっているのも把握はしている』
「把握してんなら止めろよ! 武器密輸とか犯罪だろ!」
『はっはっ。あくまで願いの鍵に関するフォローをするのが仕事でね……異世界でのアレコレについては、ノータッチなのさ』
「そのせいで、異世界でまた戦争状態になっても?」
『戦争なんてどうせ100年経たずにまた起こるさ――それが早いか遅いかってだけさ』
「――もういい!」

 モナカは通話を乱暴に切ると、カップへ残っていたコーヒーを一気飲みした。
 
「うわっにがっ――とにかく先輩。アタシはちょっと別行動するからな。今回の依頼。ひとまず先輩だけで受けてくれ」
「あの人にはなんて?」
「婚活アプリの連続デートでSSRエスエスアール旦那引くまで帰らないとでも言っといてくれ」
「――分かりました」
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