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シーズン3:後輩と共に
26話 異世界への鍵を持つ者達1
しおりを挟むGWの前半が終わり、中日は普通に出勤となった日の昼。
ここは、会社にほど近い所に場所にある“ワンナイト”という喫茶店。
落ち着いた雰囲気で、自慢の水出しコーヒーと手作りケーキが食べられるという事で、会社の女性陣の間でもたまに話題に上がるらしい。
その店内で、1番奥のテーブル席で俺とモナカは、ある男と会っていた。
「では改めまして……わたくし、今は大鐘商事で水産部門の部長をしております、羽柴藤生と申します――」
そう言って手渡された名刺には、今言った通りの事と連絡先などが書いてあるだけのシンプルなデザインだ。それを受け取り、俺は懐の名刺ケースへと仕舞う。
隣に座るモナカも同様だ。ただし、俺らからは名刺は渡さない――そう事前にモナカから言われている。
再び視線を前へと向けて、改めて目の前の男を見る。
黒髪のオールバックに一房の前髪が垂れ下がる、目つきの悪い男。
異世界風に例えるなら“狐獣人”とでも言えば良いだろうか――もちろん、喪服のように黒いスーツを着ている男は、ただの人間である。
ただ、もし特記事項があるとすれば――。
「同じく鍵を持つ者同士、こうして出会えたのも何かの縁――以後、お見知り置きを……」
願いの鍵――あの白や黒の鍵を、この男も持っているのである。
俺とモナカは、大家が勝手に作っていたグループに強制参加となっていて――そこで、彼からの呼びかけに応じた訳だ。
「で? わざわざアタシ達を呼び出して……どういう要件だい?」
モナカはいつものような外面モードではなく、最初から攻撃的な態度である――その理由は明白だ。
「こんな写真まで送り付けよぉ」
スマホを取り出し、グループ部屋に添付されていた画像ファイル――。
そこには「フェスの時、俺が大将の屋台を手伝っている姿」や「モナカが獅子獣人や他の大柄な店員にセクハラ、もといスキンシップをしている姿」が撮られていた。
もちろん撮られた覚えは無い。この写真の角度などを考慮すれば、どう考えても――隠し撮りされたものである。
「よく撮れているでしょう? 皆さんがあの町で、色々と活動されているのはよく知っています。この間のリオランガフェスも大好評で、第3王子も喜んでいたと聞き及んでいます」
「……なにもんだ、お前は」
「ご不快にさせたのなら謝ります。実はわたくし、あの町の商人ギルドにも参加させて頂いているんですよ……なので、フェス実行委員会にはわたくしも1枚噛ませて頂いておりました」
「この写真を送った意図は?」
「鍵だけでは、信じて貰えるか少し不安でしたので……これは、わたくし個人用の、ただの写真でございます」
それを聞いても、モナカは警戒の姿勢を崩さなかった。
「――で、最初の話に戻るけどよ……」
「はい。実は、御二方に手伝って頂きたい事がありまして……」
「ふんっ」
カップのブラックコーヒーを砂糖も入れずに飲み、足を組むモナカ。
「言っとくけど金には困ってねぇから――お前の手伝いをやってやる義理もねぇし」
俺は米や日本酒を中心とした卸売り、モナカも油そば屋の手伝いで給料を貰っているらしい。
仮に今すぐ会社をクビになったとしても、しばらくはゆっくりと仕事を探せるくらいの蓄えにはなっている。
「えぇ、そうでしょうね。しかし、これはアナタ方にも無関係な話では無いんですよ」
「あん?」
羽柴の話ではこうだ。
あのグループ――大家、俺とモナカ、そして羽柴の4人。しかし、あのグループに参加している“鍵”持ちはもう1人居るのだという。
すぐに手元のスマホで確認してみたが、確かに”芝田”という名前の人物が居る。
その男が、日本から異世界へある危険なブツを持ち込んで、向こうで荒稼ぎをしているという。
「機関銃、手りゅう弾に催涙ガスといった武器弾薬――それらを向こうの組織相手に売っています」
「ちょい待て。その情報、どっから聞いたんだよ」
「――その昔、彼は一緒に異世界へと出掛けていた相棒でもあります。今の、アナタ方のように」
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