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シーズン3:後輩と共に
25話 異世界の霞を食べに行く3
しおりを挟むそう問われる日が来るとは思わなったが――少しだけ思い悩み、そして――。
「……例えば、よく行く大将ラーメン屋なんですけど……」
「ふむ」
「実は屋台の頃は、割とタレの量が目分量だったのか――たまに味が凄い薄い時とか濃い時があったり」
「ふむ?」
「逆にチャーシューがいつもよりとんでもなく大きかったりして、聞いたら『同じ大きさに切り揃えれなくて、逆にそのまま入れた』って言ってて……」
「大雑把過ぎない?」
「それで後からオーガという人は、そういう大雑把な部分があると聞いて、色々納得したというか――」
「ほお」
「あと猫獣人の人が作る料理は大抵温いとか――そういう発見があるのって、凄く面白いんですよね」
「つまり、物珍しいから来ると?」
「いえ――食べるのが、楽しいからです」
「こちらで料理を食べていると、使ってる食材は気になるし、作っている人の顔を想像するようになったし――それに、一緒に料理を食べる仲間にも巡り合えて……楽しいんです。それは向こうで、1人で料理を食べている時には考えもしなかった事です」
「――なるほどな。嬢ちゃんはどうじゃ?」
「ふんっ。まぁ、そもそもアタシは元々飯食うのが目的じゃねーけど……やっぱ、楽しいからじゃねーの?」
モナカは腕組みをして、その小さな体を逸らしながら答える。
「そりゃ、日本での生活に凄い不満がある訳じゃないけど……人生楽しんだもん勝ちだろ? アタシはこっちに来て、今を楽しんでるんだ。それで文句あるか?」
「ふぉっふぉっ――あい分かった」
老人は軽く笑い、両膝を両手で叩く。
「ではヌシらは問答に付き合ってくれたし、約束通り料理でもご馳走するかのぉ」
「え、今ので正解なんですか?」
爺さんは片目でウィンクをしながら微笑んだ。
「なぁに、ジジイの問答に正解もなんもない――ただの暇つぶしじゃ」
「というか爺さん。なんでアタシらの事を知ってたんだよ。向こうの世界から来た事とか」
「ふぉっふぉっふぉっ――長生きしとるとな。ヌシらみたいな雰囲気の者と関わった事も、何回かあるのじゃ」
「ご老人、貴方は……」
「ワシか? ワシは俗に言う仙人――その、成り損ないじゃ」
モナカは軽くずっこける。
「その見た目で仙人じゃねーのかよ!」
確かに目の前の老人が仙人と言われれば、みすぼらしい恰好もそれっぽく見える。
実際には仙人では無いらしいが。
「仙人になるには、つらーい修行を何年もやるんじゃが――ワシはそれに耐えれなくなってのぉ。かとって俗世に混じって生活もできんから、こうして上界に近い場所で生活してるんじゃ」
ここの集落はそういった人達の集まりなのか。
あまり人の気配がしなかったのも――彼らは成り損ないと言いつつも、人間とは違う生き物だからだろうか。
「――って事は、この山のさらに上があるのか?」
窓を開けて、近場に見える山の方を見るモナカ。
山頂付近は雲が掛かって見えないようだが――。
「空の上にな……そこで仙人に成る事を生涯の目的とした一族が住んでおる」
「仙人に成ると、どうなるんです?」
それを聞くと、老人は神妙な顔つきになり、こう語る。
「――言い伝えによると、神の国とやらに行けるらしいんじゃが、実際に行って帰って来た者はおらん」
「神の国……」
「仙人となりて神に導かれし者――使徒となり世界を安寧に導くお役目を頂く。古い伝承じゃが、本当かどうかなんて落伍者のワシには分からんて」
「ふーん――」
モナカはその話を聞き、腕組みをしたまま「うんうん」と頷き――、
「で、そんな事より……美味しい料理ってのはどんなのなんだ?」
「そんな事――まぁそんな事じゃな。よし、少しここで待っておれ」
老人が部屋を出ていき――割とすぐ帰ってきた。
その両手には大き目の素焼きのツボが担がれており、少しヨタヨタしながらもテーブルにそのツボを置くと――左手を添えてこう言った。
「さて。これが美味い料理じゃ」
ツボには木のフタがしてあり、中身が見えない。
老人は棚から小さな花瓶のようなツボを取り出し、3つ並べる。
「ん? これスープか何かなのか?」
「オダナカよ。悪いがツボを傾けて、中身を器に出してくれ。そっとな」
「分かりました」
ツボを持つと割と軽い――中身があるのだろうか。
俺はフタを取り、言われた通りにツボを傾けて器へと流し込んでいく。
そうすると――。
「なんだこれ……湯気?」
モナカの言う通り、ツボから出て来たのは白いモヤだった。それは湯気というよりは、ドライアイスのような重い煙にも見える。
分量も分からないので、器から煙が溢れそうにある前で止め、それを残る2つの器にも同様の事を行っていく。
「さて――では、いただこうかのぉ」
「いただこうかのぉ、じゃなくてさ。まさかこのモヤモヤが美味しい料理なのかよ」
「まぁ言葉を尽くしても納得はせんだろうし、まずは味わってみてくれ」
味わう――どうやってだ。
ひとまず飲み物を飲むように、器に口を付けながら傾けてみる。
モヤが口の中へと流れ込んできて――。
「先輩、あんま躊躇とかしないよな――」
「――これは……きのこハンバーグ? どこか、懐かしい味がする……」
「どれどれ――なんだこれ!? おはぎの味がすんぞ!?」
「「ん?」」
2人して全く別の感想になり、思わず互いの顔を見てしまう。
「先輩はなんの味がするって?」
「きのこハンバーグです。多分――これは子供の頃によく行ったファミレスの鉄板メニューです」
「アタシのは……おはぎだ。この味は覚えがある……昔、おばあちゃん家でよく作って貰った……おいジジイ。これはなんだよ」
「ふぉっふぉっ――これは”カスミ”と呼ばれる仙力で出来た気体料理じゃ。本来は下界の色んな食べ物の味を再現できるんじゃが――これは追憶のカスミ。本人が忘れてしまった味を、今一度呼び起こす事ができるのじゃ」
「……うめぇ、うめぇけどよ……もうこれ、食べられねぇんだよなぁ」
いつもは気丈なモナカがカスミを飲み、味わいながら――涙が頬を伝った。
「俺のも……このファミレスはもう潰れてしまい……」
「ジジイ。どういう訳でこんなもん食わせたんだよ!」
彼女は涙を拭い、それを誤魔化すように語気を強め老人へ問う。
「――今まで食べた料理は全て血肉となり、記憶となり――ヌシらの身体の内にある。本人が忘れようともな――これをゆめゆめ忘れんようにな」
「どういう意味だよ」
「ふぉっふぉっ――ただの暇な老人の、戯言じゃよ。さぁ」
老人が指をパチンと鳴らすと、カスミが一瞬光る。
「今度はどこかの美味しい宮廷料理とやらの味になったはずじゃから、味わってみるかのぉ」
「いや、カスミ以外ねーのかよ」
「ここはコレしかないのぉ。まぁ、腹は膨れるからなーんも問題なしじゃ」
「――確かに。なんか段々お腹が張ってきた……」
「マジかよ」
美味しいは美味しいけど、なんか変な気分になるカスミを味わう俺達であった。
この後、モナカが「やっぱ実体があるもんが食べたい!」と言っていつもの町へと飯を食べに繰り出すのであった――。
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