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シーズン3:後輩と共に
25話 異世界の霞を食べに行く1
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少々退屈な車内。そのスピーカーから流れるラジオより、軽快な音楽が流れる――。
どうやら次のコーナーが始まったようだ。
「こちら坂本です。私は今、ネット通販でおなじみの『大鐘商事』の事務所にお邪魔してますー。そして、こちらは社長の――」
「ご紹介に預かりました、社長の大鐘浩太と申します。よろよろですわー」
若い女性のアナウンサーに紹介され、どこか軽そうな声の社長が出てきた。
「早速本題なんですけど――昨今のウナギの高騰が報じられる中、なんとこの夏、土用の丑に合わせて大鐘商事さんが大量の国産養殖ウナギを販売するという情報が入ってまいりました!」
「ほんまやでー」
「なんと本当らしいです! 大鐘商事さんでは独自の養殖技術を確立しており、安価で大量のウナギの養殖を成功させたとか」
「うんうん。ウチの技術部のみんなが寝る間も惜しんで、皆さんに美味しいウナギをぎょーさん食べて欲しいという一心で完成させたんや」
「凄いですよねー。でも気になるのはまずその、お味! やっぱり美味しいんでしょうか?」
「そう言われると思うて、こちらに解凍済みの蒲焼きがありますわ。羽柴君、坂本さんにお出ししてやー」
「うわっ、美味しそう! そして、このウナギのタレの良い匂い――お腹が空いてきました!」
「ウチのは調理済みで冷凍してるんやけど、ご家庭の電子レンジで温めてもええし、湯煎して貰っても美味しく食べられるから安心やで」
「では1口いただいて――うーん。脂が乗ってて身がほっこりしてて、タレも甘辛くて……うん、美味しいです!」
流れ的にウナギを食べて即レポをしているので、これは台本か何かなのだろう。
「――代替ウナギも割と流行ってるけどね、ボクとしてはやっぱ本物のウナギを、お腹いっぱい食べて貰って欲しい訳ですよ。今年はかなしー思いせずに済むように、ウチで6月中までに予約いただければ、必ず皆さんのお宅にウナギが届きますので……よろしゅうたのんます!」
「それは凄いですねー。それで気になるお値段なんですけど……」
「その前に、これ実際の商品の蒲焼きなんやけど――」
「わぁ、おっきいですねぇ」
「これね、1980円――誰にも言ったらあかんですよ?」
「えぇー1980円なんですか!? やすーい」
「おいおい坂本さん、言ったらあかんって言うたやん――がっはっはっ」
と、そんな景気の良い内容のラジオを垂れ流しながら――車内の空気は、言うならばバブル崩壊後のような暗雲とした雰囲気であった。
「はぁ……先輩、明日からGWらしいですよ」
「そうですね」
「……なんでアタシ達、山の中に出張行くんですかね――しかも、バーべーキューをやりに行くとか――どっかそこらの川でやりゃいいじゃん」
「取引先の社長さんの別荘でやるらしいですからね……これも仕事です」
まず会社近くの駅で合流して、そこから乗り継ぎ、新幹線に乗り換えて2時間ほど――駅に着けば、そこから手配しておいたレンタカーに乗り換え、俺達3人は山中の別荘を目指している最中だ。
さすがに仕事とはいえラフな格好で来ている。俺は長袖のポロシャツに黒いスラックスだし、モナカも似たような簡素な服装である。
「ぐおー、ぐおー……」
後部座席では鈴木部長が、あまりの道のりの長さに寝入ってしまっていた。
「はぁ――そういえばさー先輩」
「なんですか」
自分のスマホをいじりながら、こちらへ話しかけてくるモナカ。
駅前からレンタカーを運転して40分ほど――スマホに表示されたナビの通りならあと少しだ。
しかし、彼女も免許を持っているのだから帰りは任せようかと思いつつも――異世界での言動や行動から、やっぱり任せるのは危険な気がしてくる。
「アグリさんとは付き合い長いんすかねー」
「まぁ出会ってもう1年は経ちますね――」
「へー。やっぱ、あのラーメン屋で出会った感じっすかー」
あまりに暇なので世間話でもしたいのか、若干上の空のような感じで聞いてくる。
「そうですね。まだ大将の店が屋台で――そこでたまたま同席した感じです……」
「へー……一緒にどっか遊び行ったりしたんっすかー」
「遊びとかは――去年の夏は大将が湖海で屋台出すって言うんで、アグリさんと一緒に店へ行ったくらいでしょうか」
「へー……2人で?」
「ん? はい」
あの時は魚介類を探すために遭難したり、ジョニーの海賊船を連れて来たりと大騒ぎだったっけな――。
「へー……」
何やら良くない流れを感じ取ったので、逆に質問をしてみる。
「そういえばモナカさんって大家さんから鍵を貰ったんですか?」
「んー? なんか保険のセールスやってそうな女の人から貰ったよ。だから、あの大家を見た時はびっくりしたねー」
「あぁ、まぁ常に恰好がだらしないですね……」
「初めて鍵使った時にあの町へ出て、たまたまガンドルと会って――なんだかんだであの店を手伝ってやる事にしたんだよなぁ」
俺の場合が飯を食べたいという願いなら、彼女はやはり大柄な男性と会いたいとか願ったんだろうか――。
「――ここの道の駅からあと10分くらいで着くので、とりあえず部長起こしますか」
「おーい部長、起きろー」
それからも特に変わった事も起きず――。
別荘に着いて他の参加されている方々と名刺交換を済ませたり、バーべーキューの手伝いをしたり――。
モナカもいつもの営業スマイルで酌をしたり、他の人達との会話を(表向きは)楽しんでいたようだ。
そして、つつがなく出張も終わり――。
どうやら次のコーナーが始まったようだ。
「こちら坂本です。私は今、ネット通販でおなじみの『大鐘商事』の事務所にお邪魔してますー。そして、こちらは社長の――」
「ご紹介に預かりました、社長の大鐘浩太と申します。よろよろですわー」
若い女性のアナウンサーに紹介され、どこか軽そうな声の社長が出てきた。
「早速本題なんですけど――昨今のウナギの高騰が報じられる中、なんとこの夏、土用の丑に合わせて大鐘商事さんが大量の国産養殖ウナギを販売するという情報が入ってまいりました!」
「ほんまやでー」
「なんと本当らしいです! 大鐘商事さんでは独自の養殖技術を確立しており、安価で大量のウナギの養殖を成功させたとか」
「うんうん。ウチの技術部のみんなが寝る間も惜しんで、皆さんに美味しいウナギをぎょーさん食べて欲しいという一心で完成させたんや」
「凄いですよねー。でも気になるのはまずその、お味! やっぱり美味しいんでしょうか?」
「そう言われると思うて、こちらに解凍済みの蒲焼きがありますわ。羽柴君、坂本さんにお出ししてやー」
「うわっ、美味しそう! そして、このウナギのタレの良い匂い――お腹が空いてきました!」
「ウチのは調理済みで冷凍してるんやけど、ご家庭の電子レンジで温めてもええし、湯煎して貰っても美味しく食べられるから安心やで」
「では1口いただいて――うーん。脂が乗ってて身がほっこりしてて、タレも甘辛くて……うん、美味しいです!」
流れ的にウナギを食べて即レポをしているので、これは台本か何かなのだろう。
「――代替ウナギも割と流行ってるけどね、ボクとしてはやっぱ本物のウナギを、お腹いっぱい食べて貰って欲しい訳ですよ。今年はかなしー思いせずに済むように、ウチで6月中までに予約いただければ、必ず皆さんのお宅にウナギが届きますので……よろしゅうたのんます!」
「それは凄いですねー。それで気になるお値段なんですけど……」
「その前に、これ実際の商品の蒲焼きなんやけど――」
「わぁ、おっきいですねぇ」
「これね、1980円――誰にも言ったらあかんですよ?」
「えぇー1980円なんですか!? やすーい」
「おいおい坂本さん、言ったらあかんって言うたやん――がっはっはっ」
と、そんな景気の良い内容のラジオを垂れ流しながら――車内の空気は、言うならばバブル崩壊後のような暗雲とした雰囲気であった。
「はぁ……先輩、明日からGWらしいですよ」
「そうですね」
「……なんでアタシ達、山の中に出張行くんですかね――しかも、バーべーキューをやりに行くとか――どっかそこらの川でやりゃいいじゃん」
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まず会社近くの駅で合流して、そこから乗り継ぎ、新幹線に乗り換えて2時間ほど――駅に着けば、そこから手配しておいたレンタカーに乗り換え、俺達3人は山中の別荘を目指している最中だ。
さすがに仕事とはいえラフな格好で来ている。俺は長袖のポロシャツに黒いスラックスだし、モナカも似たような簡素な服装である。
「ぐおー、ぐおー……」
後部座席では鈴木部長が、あまりの道のりの長さに寝入ってしまっていた。
「はぁ――そういえばさー先輩」
「なんですか」
自分のスマホをいじりながら、こちらへ話しかけてくるモナカ。
駅前からレンタカーを運転して40分ほど――スマホに表示されたナビの通りならあと少しだ。
しかし、彼女も免許を持っているのだから帰りは任せようかと思いつつも――異世界での言動や行動から、やっぱり任せるのは危険な気がしてくる。
「アグリさんとは付き合い長いんすかねー」
「まぁ出会ってもう1年は経ちますね――」
「へー。やっぱ、あのラーメン屋で出会った感じっすかー」
あまりに暇なので世間話でもしたいのか、若干上の空のような感じで聞いてくる。
「そうですね。まだ大将の店が屋台で――そこでたまたま同席した感じです……」
「へー……一緒にどっか遊び行ったりしたんっすかー」
「遊びとかは――去年の夏は大将が湖海で屋台出すって言うんで、アグリさんと一緒に店へ行ったくらいでしょうか」
「へー……2人で?」
「ん? はい」
あの時は魚介類を探すために遭難したり、ジョニーの海賊船を連れて来たりと大騒ぎだったっけな――。
「へー……」
何やら良くない流れを感じ取ったので、逆に質問をしてみる。
「そういえばモナカさんって大家さんから鍵を貰ったんですか?」
「んー? なんか保険のセールスやってそうな女の人から貰ったよ。だから、あの大家を見た時はびっくりしたねー」
「あぁ、まぁ常に恰好がだらしないですね……」
「初めて鍵使った時にあの町へ出て、たまたまガンドルと会って――なんだかんだであの店を手伝ってやる事にしたんだよなぁ」
俺の場合が飯を食べたいという願いなら、彼女はやはり大柄な男性と会いたいとか願ったんだろうか――。
「――ここの道の駅からあと10分くらいで着くので、とりあえず部長起こしますか」
「おーい部長、起きろー」
それからも特に変わった事も起きず――。
別荘に着いて他の参加されている方々と名刺交換を済ませたり、バーべーキューの手伝いをしたり――。
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