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シーズン3:後輩と共に
24話 異世界の魔法図書館へ行く4
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地下なので時間も分からなかったが、既に外は夜になっていた。
大きな三日月がこちらを覗き込むように見ている――ように感じるくらいには、雲ひとつない空である。
俺達は彼女の宿舎までお邪魔して、図書館から持ち込んだ本3冊を机の上に並べる。
これらは飛んでいた本ではなく、もっと手前の本棚にあった本だ。
中級以上はあそこを飛んでいるらしいのだが、これらの本は本らしく本棚に収納されていた。
「岩創生、炎、風――どれも下級魔法ばかりだけど、これで大丈夫ニャ?」
「まぁペリコさんの魔力コントロール次第ではありますけど……」
「その辺りは大丈夫ニャ! これでもコントロールだけならお姉ちゃんより上だって子供の頃に褒められて――」
「で、これどうやって食べるんだよ」
「はいニャ。まずこうやって――」
まず表紙と中身を綴じているヒモを切断する。
ペリコは鍋を用意して、赤の魔石の上に鍋を置いて熱する。
次に取り出したキャロドラ、香味野菜を刻み、青の魔石が入っている金属の箱から(前もって用意していたのだろう)表面が油で固まった鍋を取り出す。
そこから固まった油を鍋の中に入れ熱し――そこへ具材を入れて炒める。
どうやらこの油は豚のものらしく、具材と合わさり良い匂いが部屋を包み込んでいく。
「いい匂いだ……」
きゅるる――。
「お腹空いたなぁ」
モナカはお腹を鳴らしても平然としているが、俺も結構お腹が空いている。
だからといってこの今から作るモノを食べたいかと言われたら――微妙だが。
「で、次は鍋に水を入れて――あとこの魔法書も水で奇麗に洗って……」
「文字消えたりしないの?」
「大丈夫ですニャ。魔法のインクで書かれているから、ちょっとやそっとじゃ消えないニャ」
桶に付けて水で洗うと割と汚れていたのか、それとも本当にインクが流れ出ているんじゃないか――と思う程度には黒くなっていく。
これを本当に食べるのだろうか。
「あとは魔法書をこうやって食べやすい大きさにカットして――全部入れるニャ」
「……カットするんだ」
「全部入れて大丈夫なんですか?」
「これは伝統ある魔法師の料理のレシピ通りだから大丈夫ニャ。確か3つまでなら同時取得できる――あれ、2つまでだっけ?」
鍋をかき混ぜながら首を傾げる彼女に――不安を感じざるを得なかった。
さらに白い粉(小麦粉だろうか)を入れてしばらく煮込む。不思議と匂いは美味しそうである。
最後に取り出した白い液体(ミルタウロスの乳らしい)を入れ、塩とスパイスで味を調節し、
「よし、完成ニャ」
魔法書の煮込みミルクシチュー――と言えばいいのだろうか。
「せっかくなんで、2人も少し食べてみるといいニャ」
「えっ、これ食べたら魔法使えるの?」
「魔力コントロールが必要という話なんで、元々魔力無い私達には土台からして無理でしょう」
「だよなぁ」
「これはアタシが8割くらい食べれば問題ないし、今日手伝ってくれたせめてのお礼ニャ」
そう言って皿にシチューを注いでいく。
既に中身の紙はドロドロになっているのか白いシチューに溶け込んで見えなくなっているし、たまにゴトっとした塊は表紙の一部か野菜か。
さらに塩気の強いハムをパンへ乗せたモノも用意してくれた。
「――では、いただきます」
「いただきます……」
席へと着きスプーンを持ち、少し待ってみる。
せめてペリコがどう食べるのか観察しようとしたのだが――彼女はスプーンにシチューを入れたまま、
「フー、フー」
冷ましているようだった。
「猫獣人って、やっぱり猫舌なんだ」
「だったらもうちょっと温く作ればいいのに」
そして丁度良い温度になったのか、ペリコはスプーンをその口の中へと含み――。
「う――」
「う?」
「美味いニャ! 初めて魔法書食べたけど、意外と食べれるもんニャ!」
「初めて食べるもん、アタシらに勧めたのか……」
「では覚悟を決めて――」
スプーンにゴロっとした塊を乗せ、どこか懐かしい匂いと共に白いシチューと共に頬張り――。
「――――ふむ」
「先輩?」
多少硬くはあるが、この塊は――牛の味だ。恐らく牛革だろう。
どおりで嗅いだ時に懐かしく感じた訳か。
「むむっ――じゃあアタシも」
渋い顔をしながら、ずずっ――と塊ごと食べたモナカは、
「うわっ、これ美味ッ!」
さっきまでの表情が嘘のように、満面の笑みでシチューを食べ始めた。
学生の頃、歴史の授業でとある名作映画を見せられた事がある。
それはモノクロの映画で、役者が自身の革靴を煮て食べるシーンなのだが――まさかここでそれを実体験するとは、過去の俺は夢にも思わなかっただろう。
「ズズッ――」
シチューの中に紙のような感触もあるが、これもさっと煮て溶けたところを見ると食べられる素材で出来ているのだろう。
魔法書を食べる事で知識を得る事が出来るなら、この本もそれ専用に作られている可能性が高い。
しばらくシチューを楽しむ――ペリコは大量に食べなければならないので若干大変そうだったが。
その後はもう朝が近い事もあって部屋の中で雑魚寝をさせて貰い――次の日となった。
大きな三日月がこちらを覗き込むように見ている――ように感じるくらいには、雲ひとつない空である。
俺達は彼女の宿舎までお邪魔して、図書館から持ち込んだ本3冊を机の上に並べる。
これらは飛んでいた本ではなく、もっと手前の本棚にあった本だ。
中級以上はあそこを飛んでいるらしいのだが、これらの本は本らしく本棚に収納されていた。
「岩創生、炎、風――どれも下級魔法ばかりだけど、これで大丈夫ニャ?」
「まぁペリコさんの魔力コントロール次第ではありますけど……」
「その辺りは大丈夫ニャ! これでもコントロールだけならお姉ちゃんより上だって子供の頃に褒められて――」
「で、これどうやって食べるんだよ」
「はいニャ。まずこうやって――」
まず表紙と中身を綴じているヒモを切断する。
ペリコは鍋を用意して、赤の魔石の上に鍋を置いて熱する。
次に取り出したキャロドラ、香味野菜を刻み、青の魔石が入っている金属の箱から(前もって用意していたのだろう)表面が油で固まった鍋を取り出す。
そこから固まった油を鍋の中に入れ熱し――そこへ具材を入れて炒める。
どうやらこの油は豚のものらしく、具材と合わさり良い匂いが部屋を包み込んでいく。
「いい匂いだ……」
きゅるる――。
「お腹空いたなぁ」
モナカはお腹を鳴らしても平然としているが、俺も結構お腹が空いている。
だからといってこの今から作るモノを食べたいかと言われたら――微妙だが。
「で、次は鍋に水を入れて――あとこの魔法書も水で奇麗に洗って……」
「文字消えたりしないの?」
「大丈夫ですニャ。魔法のインクで書かれているから、ちょっとやそっとじゃ消えないニャ」
桶に付けて水で洗うと割と汚れていたのか、それとも本当にインクが流れ出ているんじゃないか――と思う程度には黒くなっていく。
これを本当に食べるのだろうか。
「あとは魔法書をこうやって食べやすい大きさにカットして――全部入れるニャ」
「……カットするんだ」
「全部入れて大丈夫なんですか?」
「これは伝統ある魔法師の料理のレシピ通りだから大丈夫ニャ。確か3つまでなら同時取得できる――あれ、2つまでだっけ?」
鍋をかき混ぜながら首を傾げる彼女に――不安を感じざるを得なかった。
さらに白い粉(小麦粉だろうか)を入れてしばらく煮込む。不思議と匂いは美味しそうである。
最後に取り出した白い液体(ミルタウロスの乳らしい)を入れ、塩とスパイスで味を調節し、
「よし、完成ニャ」
魔法書の煮込みミルクシチュー――と言えばいいのだろうか。
「せっかくなんで、2人も少し食べてみるといいニャ」
「えっ、これ食べたら魔法使えるの?」
「魔力コントロールが必要という話なんで、元々魔力無い私達には土台からして無理でしょう」
「だよなぁ」
「これはアタシが8割くらい食べれば問題ないし、今日手伝ってくれたせめてのお礼ニャ」
そう言って皿にシチューを注いでいく。
既に中身の紙はドロドロになっているのか白いシチューに溶け込んで見えなくなっているし、たまにゴトっとした塊は表紙の一部か野菜か。
さらに塩気の強いハムをパンへ乗せたモノも用意してくれた。
「――では、いただきます」
「いただきます……」
席へと着きスプーンを持ち、少し待ってみる。
せめてペリコがどう食べるのか観察しようとしたのだが――彼女はスプーンにシチューを入れたまま、
「フー、フー」
冷ましているようだった。
「猫獣人って、やっぱり猫舌なんだ」
「だったらもうちょっと温く作ればいいのに」
そして丁度良い温度になったのか、ペリコはスプーンをその口の中へと含み――。
「う――」
「う?」
「美味いニャ! 初めて魔法書食べたけど、意外と食べれるもんニャ!」
「初めて食べるもん、アタシらに勧めたのか……」
「では覚悟を決めて――」
スプーンにゴロっとした塊を乗せ、どこか懐かしい匂いと共に白いシチューと共に頬張り――。
「――――ふむ」
「先輩?」
多少硬くはあるが、この塊は――牛の味だ。恐らく牛革だろう。
どおりで嗅いだ時に懐かしく感じた訳か。
「むむっ――じゃあアタシも」
渋い顔をしながら、ずずっ――と塊ごと食べたモナカは、
「うわっ、これ美味ッ!」
さっきまでの表情が嘘のように、満面の笑みでシチューを食べ始めた。
学生の頃、歴史の授業でとある名作映画を見せられた事がある。
それはモノクロの映画で、役者が自身の革靴を煮て食べるシーンなのだが――まさかここでそれを実体験するとは、過去の俺は夢にも思わなかっただろう。
「ズズッ――」
シチューの中に紙のような感触もあるが、これもさっと煮て溶けたところを見ると食べられる素材で出来ているのだろう。
魔法書を食べる事で知識を得る事が出来るなら、この本もそれ専用に作られている可能性が高い。
しばらくシチューを楽しむ――ペリコは大量に食べなければならないので若干大変そうだったが。
その後はもう朝が近い事もあって部屋の中で雑魚寝をさせて貰い――次の日となった。
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