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シーズン3:後輩と共に
22話 レイゼンの昔話(前準備)
しおりを挟む今でも鮮明に思い出す、あの日の出来事。
私の住む村は、魔獣の多く住む森のそばにあった。
それほど人も多く住んでなく、家も30ほどしかないのどかな村だ。
特別な特産物もなく、狩猟とちょっとした畑や畜産をやっている程度の、なにもない普通の村だと思っていた。
しかし、子供ながら何故そんな危険な場所に村があるのか不思議でしょうがなかったので――ある日、父にその事を尋ねてみたのだ。
「それはね、レイゼン。この森の奥には守護神が眠ってらっしゃるんだ」
「しゅごしん?」
「ああ。かつてこの森がまだ砂漠だった頃――バジリスクという蛇の魔物が大暴れしたんだ」
その巨大な蛇は全身から毒を垂れ流し、その視線に灼かれた者はことごとく石になるという凶悪な魔物。
そいつが住む場所は毒によって忽ち植物が枯れ、砂漠となる。水源も冒され、人も動物も住めなくなる。
「ご先祖さまが、毒に冒されない岩で出来た守護神を御造りになられ、それに乗ってバジリスクを退治したんだ。それから何年も、何十年、何百年もかけてここは砂漠から森になっていったんだ」
私の頭を撫でながら話してくれる父の顔は、とても穏やかなものでだった。
それをよく覚えている。
「ふーん、すごいね!」
「僕らはそれから眠りについた守護神を見守るお役目について、ここに住んでいるんだ」
「なんでしゅごしんはねむってるの? おきてみんなであそぼうよ……」
「優しいねレイゼン。守護神はまたいずれバジリスクのような脅威が目覚めた時の為に、今はゆっくり休んでいるんだ……」
「うん……」
次の日から、私の新しい日課が始まる。
村の中心には社があり、守護神を模した石像が祭られていた。
私は毎日守護神の下へ通い、森に生えている葉っぱや木の実をお供えをして、お祈りをしていた。
「しゅごしんさん。きょうもみんなをまもってくれてありがとう」
「あらレイゼンちゃん、お利口だね」
「そんちょうさん、こんにちは!」
管理でよく石像の手入れをしに来ていた村長ともよく話した。
ご先祖様の事、守護神の事、他愛もない子供向けの童話のような話――。
「あらレイゼン、ここに居たのね。もうすぐご飯よ。村長さんもお疲れさまです」
「あっ、おかあさん!」
「ほっほっ。レイゼンちゃん、続きの話はまた明日じゃの」
「うん! あっ。おかあさん、きょうのごはんはなに?」
「ふふっ。レイゼンが大好きなお肉の料理よ」
「わぁい!」
その時握って貰った手から伝わる母のあたたかなぬくもりを、私は忘れない。
しかし――そんな日常も、ある日突然終りを告げる。
ドォン――。
目が覚めたのは、その轟音だった。
それがなにか巨大なモノによって家が叩き潰された音だったと気づいた時には、既に父と母も血相を変えて叫んでいた。
「え、なに?」
「母さんはレイゼンを連れて守護神の下へ!」
あの優しい顔の父が、険しい顔つきで、剣を携えている。
母もまた、目をこする私の服を着替えさせてくれた。
「あなたは!?」
「他の男衆と一緒に少しでも時間を稼ぐ……すぐに守護神の起動をしてくれ!」
「分かったわ!」
「レイゼン……愛しているよ」
片手で私を抱きしめたお父さんの身体は、震えていた。
「おとうさん?」
「行くわよ、レイゼン」
「いや、おとうさん! おとうさん!!」
母に抱えられ、他の村人達と一緒に森の奥へと逃げた。
遠ざかる父の背中に手を伸ばし、燃える村の中へと消えるあの彼の後姿を、今でもよく覚えている。
しかし化物は、すぐに私達を追ってきた。
まるでそいつは逃げる獲物を狩るのを楽しむように1人、また1人と村人が“石”になっていく。
守護神の下へ辿り着いた時には、母と私だけが残った。
母が下腹部の扉を開き、私を中へと入れると――。
「レイゼン。絶対、この中から出ちゃダメよ」
「おかあさん?」
既に母の片足と片腕は石化していた――。
すぐに扉が閉められると、
「おかあさん!!」
がしゃん――。
何か“石”のようなモノが崩れる音が、嫌に耳に残っている。
「おかあさん……」
そして、私もまた。
「しゅごしんさん、たすけて……たすけてよ……」
下半身が石化し、それは徐々に広がっていく。
自信の身体が少しずつ、何も感じないモノへと変わっていく感触――。
この上もなく、嫌だった。
「たすけて、たすけ――」
そして暗闇の中、守護神に助けを願うまま――私もまた、石化したのだった。
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