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シーズン2 異世界の繋がり

19話 大将とラーメンを売る(初日)2

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 ――油そば屋ガンドル陣営――


「という訳でお前らー、気張っていくぞー」
『へいっ、姐御!』

 モナカの号令で、店員一同は活きの良い返事をする。

「あんな約束して大丈夫なんですか、モナカの姐御」
「その為に敵情視察して来たんだよ」

 この間、獅子獣人を借りてどこへ行ったかと思えばバルドの店へ行ったという――その報告にガンドルは驚きはしたものの、普段の彼女の性格ならやりかねないと納得もした。

「向こうのラーメンは鳥と野菜各種をブレンドした優しい味の淡麗《たんれい》なスープがベースになっている。塩にしても魚醤にしてもそこまで印象は変わんない」
「はぁ。まぁオレの知っている親方の汁そば、ほぼそのまんまですねぇ」

 ガンドルがあまり力のない返事を返すも、モナカは気にも留めずに自身の分析結果を嬉々として話していた。

「それを気にしてか、鶏油チーユや分厚いチャーシューでコッテリ感を補っているが……正直、そのまま出しても油そばのインパクトには勝てねぇな」
「もちろんだ姐御。オレの油そばは、天下一だ!」

 ここ1番の気合の入った声で答えるも、彼女はこう続ける。

「いや、そうでもねぇよ」
「えぇ……」
「こっちも普段出しているような油そばじゃ、そこまでの客入りは期待できねぇ。いや、味が悪いってんじゃない。もっとのある味がいるってんだ」
「それが――これですかい」

 卓上には大量のケチャップ、マヨネーズ、カレー粉にジャガイモチップスなどのお菓子まで積んであった。
 その横の段ボールには『インスタント太麺 業務用』と書かれている。
 
「油そばの最大の問題点は回転率だ。麺が太いと茹でる時間が5分以上掛かる。みなしで茹でってもいいが、これならかなり時間が短縮できる!」
「でも試食してみたけど、やっぱ味とか食感があんま……」

 あまり納得はできていないのか、ガンドルが口を挟むが――。

「そこでこの調味料だ。基本的に量は大盛でも値段据え置き。調味料は客の好みの分だけ掛けてよし。トッピングの追加も値段は一律にしてレジの混乱を減らすようにな」
「でも、こんな見たこともない調味料とか、誰が好き好んで……」

 思った疑問を口にするが、これもモナカは考えているようだ。

「それをどうにかするのはアタシの仕事だから、お前は油そばだけ作ってりゃいいんだよ」
「へ、へぇ……」
「向こうだって日本人が居るんだ。今、アタシが言った弱点なんかお見通しさ――さて、何を持ってくるか」

 不敵に笑うモナカの後ろで、やはりガンドルは不安な顔をするのであった――。


 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 ――ラーメン屋大将陣営――


「ではカンナさん。教えた通りに、オニギリをお願いします」
「あいよ。握ったらこの透明な紙ラップに包んでいけばいいんだね」
「しっかし、わざわざ冷ますのかよ。赤い魔石使えば温かいまま提供できるけどよ」
「こちらの方々は、やはり炊き立てに匂いが慣れてないと苦手という話もあったので……冷ましてもオニギリなら美味しいので大丈夫ですよ」

 ちなみに大きい御櫃に入れてある米には、ジョニーから分けて貰ったこの世界の昆布(余談だが、普段は海の中で生きているらしい)を干したモノで取った昆布出汁と植物油、塩を混ぜてある。
 手軽にできる美味しい塩オニギリだ。

「さて……後はラーメンですが」
「準備はバッチシよ。商人ギルドに頼んで、店から定期配送して貰えるように頼んである」

 ここの屋台に置ける量は限度があるので、事前に在庫として麺や具材、スープなどは店に用意してある。
 そして――俺がホームセンターで買ってきた赤いのぼりに、文字を入れてあるモノを用意する。
 
『親系ラーメン・バルド』

 これから大将の料理は『汁そば』ではなく、『親系ラーメン』として売り出すのだ。
 ちなみに正式名称は“親方の系譜ラーメン”である。
 聞き覚えの無い料理名に、知名度のある大将――客が上手く興味を引いてくれたらいいが……。

「バルドさん、こっちも準備大丈夫っすよ」

 さすがに大将、カンナさん、俺の3人では店を回し切れないので、商人ギルドに頼んで臨時バイトを回して貰った。
 大将に調理を集中して貰い、他のレジ役、接客にそちらの人らに任せて貰うという配置だ。

 ちなみに俺の役目はと言うと――別にある。

『えー、フェス実行委員会のラビラビです。皆様、大変長らくお待たせしております――リオランガフェス、ただいまより一般のお客様の入場、開始致します』

 会場へのゲートから、次々とお客さんが入ってくる――。

 戦いの始まりだ。
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