74 / 115
シーズン2 異世界の繋がり
19話 大将とラーメンを売る(初日)2
しおりを挟む――油そば屋ガンドル陣営――
「という訳でお前らー、気張っていくぞー」
『へいっ、姐御!』
モナカの号令で、店員一同は活きの良い返事をする。
「あんな約束して大丈夫なんですか、モナカの姐御」
「その為に敵情視察して来たんだよ」
この間、獅子獣人を借りてどこへ行ったかと思えばバルドの店へ行ったという――その報告にガンドルは驚きはしたものの、普段の彼女の性格ならやりかねないと納得もした。
「向こうのラーメンは鳥と野菜各種をブレンドした優しい味の淡麗《たんれい》なスープがベースになっている。塩にしても魚醤にしてもそこまで印象は変わんない」
「はぁ。まぁオレの知っている親方の汁そば、ほぼそのまんまですねぇ」
ガンドルがあまり力のない返事を返すも、モナカは気にも留めずに自身の分析結果を嬉々として話していた。
「それを気にしてか、鶏油や分厚いチャーシューでコッテリ感を補っているが……正直、そのまま出しても油そばのインパクトには勝てねぇな」
「もちろんだ姐御。オレの油そばは、天下一だ!」
ここ1番の気合の入った声で答えるも、彼女はこう続ける。
「いや、そうでもねぇよ」
「えぇ……」
「こっちも普段出しているような油そばじゃ、そこまでの客入りは期待できねぇ。いや、味が悪いってんじゃない。もっとインパクトのある味がいるってんだ」
「それが――これですかい」
卓上には大量のケチャップ、マヨネーズ、カレー粉にジャガイモチップスなどのお菓子まで積んであった。
その横の段ボールには『インスタント太麺 業務用』と書かれている。
「油そばの最大の問題点は回転率だ。麺が太いと茹でる時間が5分以上掛かる。みなしで茹でってもいいが、これならかなり時間が短縮できる!」
「でも試食してみたけど、やっぱ味とか食感があんま……」
あまり納得はできていないのか、ガンドルが口を挟むが――。
「そこでこの調味料だ。基本的に量は大盛でも値段据え置き。調味料は客の好みの分だけ掛けてよし。トッピングの追加も値段は一律にしてレジの混乱を減らすようにな」
「でも、こんな見たこともない調味料とか、誰が好き好んで……」
思った疑問を口にするが、これもモナカは考えているようだ。
「それをどうにかするのはアタシの仕事だから、お前は油そばだけ作ってりゃいいんだよ」
「へ、へぇ……」
「向こうだって日本人が居るんだ。今、アタシが言った弱点なんかお見通しさ――さて、何を持ってくるか」
不敵に笑うモナカの後ろで、やはりガンドルは不安な顔をするのであった――。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――ラーメン屋大将陣営――
「ではカンナさん。教えた通りに、オニギリをお願いします」
「あいよ。握ったらこの透明な紙に包んでいけばいいんだね」
「しっかし、わざわざ冷ますのかよ。赤い魔石使えば温かいまま提供できるけどよ」
「こちらの方々は、やはり炊き立てに匂いが慣れてないと苦手という話もあったので……冷ましてもオニギリなら美味しいので大丈夫ですよ」
ちなみに大きい御櫃に入れてある米には、ジョニーから分けて貰ったこの世界の昆布(余談だが、普段は海の中で生きているらしい)を干したモノで取った昆布出汁と植物油、塩を混ぜてある。
手軽にできる美味しい塩オニギリだ。
「さて……後はラーメンですが」
「準備はバッチシよ。商人ギルドに頼んで、店から定期配送して貰えるように頼んである」
ここの屋台に置ける量は限度があるので、事前に在庫として麺や具材、スープなどは店に用意してある。
そして――俺がホームセンターで買ってきた赤いのぼりに、ある文字を入れてあるモノを用意する。
『親系ラーメン・バルド』
これから大将の料理は『汁そば』ではなく、『親系ラーメン』として売り出すのだ。
ちなみに正式名称は“親方の系譜ラーメン”である。
聞き覚えの無い料理名に、知名度のある大将――客が上手く興味を引いてくれたらいいが……。
「バルドさん、こっちも準備大丈夫っすよ」
さすがに大将、カンナさん、俺の3人では店を回し切れないので、商人ギルドに頼んで臨時バイトを回して貰った。
大将に調理を集中して貰い、他のレジ役、接客にそちらの人らに任せて貰うという配置だ。
ちなみに俺の役目はと言うと――別にある。
『えー、フェス実行委員会のラビラビです。皆様、大変長らくお待たせしております――リオランガフェス、ただいまより一般のお客様の入場、開始致します』
会場へのゲートから、次々とお客さんが入ってくる――。
戦いの始まりだ。
23
お気に入りに追加
195
あなたにおすすめの小説

もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ドアマット扱いを黙って受け入れろ?絶対嫌ですけど。
よもぎ
ファンタジー
モニカは思い出した。わたし、ネットで読んだドアマットヒロインが登場する作品のヒロインになってる。このままいくと壮絶な経験することになる…?絶対嫌だ。というわけで、回避するためにも行動することにしたのである。

憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる