71 / 115
シーズン2 異世界の繋がり
18話 大将とラーメンを考える5
しおりを挟む一方その頃――ガンドル陣営の油そば屋本店。
内装もまた日本の割烹料理屋のような雰囲気を出した店は、常連客にも評判だった。
白装束の店員達。
皆、オーガやオーク、獅子獣人といった、とにかくマッチョな見た目の種族が揃っていた。
「てめぇら! お客様がご来店されたら!」
『いらっしゃいませ!』
「お帰りになられたら!」
『またのご来店をお待ちしております!』
「迷惑客の対応は!」
『ゴミ箱に詰めろ!』
「よーし。今日も朝礼始めるぞ」
城下町、下町に合わせて既に8店舗ある油そばの店。
油そばは、何より優れたコストパフォーマンス。麺さえ茹でられたら、ラーメン屋ほど調理のスペースはいらない。
さらにチャーシューなどの具材、基本となるタレは全て本店で作られ、店員によって各支店に配送されるセントラルキッチン式なので、例えば調理スペースの狭いバーの居抜き物件でも営業ができる。
そうやって隙間物件を狙い、さらに男性客が多く見込めるような場所へ開店していった。
これらは全てガンドルの知恵――では無い。
「よーお疲れ様。元気にしてる?」
扉を開けて入って来たのは、かなり小柄な女性だった。
茶色い天然パーマの入った髪、パッチリとした瞳の幼い顔立ち。
紺色のジャンバーと、白いパンツルックなズボンだが――背丈のせいで子供服にも見えてしまう。
ガンドル達は威圧感しかない大男達で、その中に入るとそれだけで見えなくなってしまいそうだ。
『モナカ姐さん、お疲れ様っす!』
「これはモナカの姐御。最近顔見せなかったけど、どうしてたんですかい」
いつも誰にでも高圧的なガンドルだったが、彼女の前では腰を屈めて対応する。
適当な椅子に座ると、足を組むモナカ。
「いやー。転属になるからって引継ぎの書類作らんといけんわ、その間も業務をこなさないといけないし……なんとか目途は付いたから、こうして合間に様子を見に来たのよ」
「な、なるほど」
「なんか町の方で配ってたけど、りおらんがふぇす? ってのに出るんだってね」
「へい! 姐御にご相談しようとも思ったんですが、全然いらっしゃらないので……ウチで出る事を決めた訳です」
「いいんじゃない? 面白そうだし……なんか女を取り合ってどっかとバトルするんだって?」
「……そこに書いてある通り、ガルドっていうオレの元弟弟子がいるんですが……そいつに奪われた女を取り返す! そしてオレの方が正しかったと、バルドの奴に――」
「――ふーん。身体は大きいのに、ケツの穴はみみっちいのね」
「みみっ――」
「まぁいいわ。そういう事なら、色々手伝ってあげる。勝負なんだから、絶対勝ちなさいよ」
「そ、それはもちろん!」
「よーし。じゃ、今日はそこの彼ッピを借りようかなー♪」
「え、あ、ボクです?」
「お名前はー?」
「アランと言います……」
モナカが指差したのは、獅子獣人。
立派なタテガミと、割烹着からは分厚い胸板、ムキムキの腕が飛び出している。
ちなみに彼は15歳――最近入ったばかりの若手の店員だった。
「……お前は今日、彼女に着いて、彼女の要望通りにするんだ。いいな」
「はい……」
「さーて。ちょっと今日はアクセサリーショップ見て回ろうかなー」
ウキウキしながら地図を開く彼女を尻目に、男衆は深いため息を吐くのであった。
◇◆◇◆◇◆◇
店を出てから、地図と道をにらめっこしながらモナカは呟く。
「さーて、この先を曲がるんだっけな」
「姐さん。アクセサリーショップとかある通りはそっちじゃねーっすよ」
アランは彼女が向かおうしている方向とは、別の方向を指差す。
「――このバカっ! アクセサリーショップなんて後でいいんだよ」
予想外の言葉に、アランは驚く。
「えぇ!? じゃあどこに行くんですかい」
「決まってるだろ。ガンドルのライバルって言う奴の、敵情視察だよ」
「えぇ!?」
「アタシと新人君なら顔も割れてないだろうし、丁度いいだろ」
「な、なんでボクが新人って分かったんです? 確かにボク、まだ入って3日ですよ」
「タテガミの長い奴はヒモで縛っとけって言うの全然徹底できてねーし、爪も長いままだし……まだ日が浅いなーって」
その言葉に「あっ」って自身のタテガミを触る。
「す、すいません……」
「いいんだよ。これから頑張って覚えりゃ。それより、一応カップルのフリしてた方が怪しくないしさ――行こうぜ彼ピッピ♪」
「ぴっぴ?」
「あと人前で姐さんも禁止ね。ちゃんとアタシのこと、モナカちゃんって呼んでね☆」
「モ、モナカちゃん」
「はーい♪」
モナカと獅子獣人のアランは腕を組み、市場へと続く道を歩いていく。
果たして、フェスの行方はどうなるのだろうか――。
続く。
22
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
捨てられた転生幼女は無自重無双する
紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。
アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。
ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。
アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。
去ろうとしている人物は父と母だった。
ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。
朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。
クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。
しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。
アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。
王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。
アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。
※諸事情によりしばらく連載休止致します。
※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
【R18】カッコウは夜、羽ばたく 〜従姉と従弟の托卵秘事〜
船橋ひろみ
恋愛
【エロシーンには※印がついています】
お急ぎの方や濃厚なエロシーンが見たい方はタイトルに「※」がついている話をどうぞ。読者の皆様のお気に入りのお楽しみシーンを見つけてくださいね。
表紙、挿絵はAIイラストをベースに私が加工しています。著作権は私に帰属します。
【ストーリー】
見覚えのあるレインコート。鎌ヶ谷翔太の胸が高鳴る。
会社を半休で抜け出した平日午後。雨がそぼ降る駅で待ち合わせたのは、従姉の人妻、藤沢あかねだった。
手をつないで歩きだす二人には、翔太は恋人と、あかねは夫との、それぞれ愛の暮らしと違う『もう一つの愛の暮らし』がある。
親族同士の結ばれないが離れがたい、二人だけのひそやかな関係。そして、会うたびにさらけだす『むき出しの欲望』は、お互いをますます離れがたくする。
いつまで二人だけの関係を続けられるか、という不安と、従姉への抑えきれない愛情を抱えながら、翔太はあかねを抱き寄せる……
托卵人妻と従弟の青年の、抜け出すことができない愛の関係を描いた物語。
◆登場人物
・ 鎌ヶ谷翔太(26) パルサーソリューションズ勤務の営業マン
・ 藤沢あかね(29) 三和ケミカル勤務の経営企画員
・ 八幡栞 (28) パルサーソリューションズ勤務の業務管理部員。翔太の彼女
・ 藤沢茂 (34) シャインメディカル医療機器勤務の経理マン。あかねの夫。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる