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シーズン2 異世界の繋がり
17話 おじさんと魚を釣る4
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ここは世界の終わりを意味すると呼ばれる、魔の大地。
そこにあるのは、魔王の住まう居城。
会議のある3日後の今日、大会議室で待っていた3人の四天王に伝令が届いた。
緊急招集――。
魔王軍四天王と、その配下である補佐官、部隊長など以下48名に対し発令された。
「まさか会議もせずに招集とは――まさか始まるようじゃな」
魔王城の通路を四天王のゴルディア、ネーティアが並んで歩き、その横をフェリアスが飛んでいる。
「なにかしら?」
「粛清じゃよ……ついに魔王様は、自身の考えに反する者の処断を決めたのじゃ」
猛将と謳われたゴルディアが、恐怖で震えている――。
そのような姿は2人も見た事が無かった。
「まさか! 不満を解消する話じゃなかったのカヨ!」
「そのような方法を、この短期間に思いつく訳がないじゃろ。魔族は力ある者に従う――己に不満があるのなら、その強大な力を再び見せつけるお考えじゃろう」
「いやん、面倒くさそう」
「ひえぇぇ。えらいこっちゃダワ」
目的地に近づくと、次第に他の部下達の姿も見えてくる。
四天王とその部下達は、大会議室よりさらに広い、普段は兵士の食堂として使われている部屋に集められていた。
目の前には長方形のテーブルに白いクロスが掛けられ、銀のクローシュ(レストランで料理を運ぶ半球状のフタ)が人数分置かれている。
既に部下の魔族達は着席しており、みんな戸惑いを隠せないようだった。
「こ、これはなんダ?」
「まさか自身の血を、この器に捧げろと――?」
「……いや、さすがにこれはぁ」
『皆の者、よく集まってくれた」
食堂に威厳のある声が響き渡る。
3人の四天王と、部下達は一斉に立ち上がる。
厨房のある部屋から出て来た魔王の姿は――その場に居る誰から見ても常軌《じょうき》を逸していた。
「――楽にしてよい。今日は皆の者に話があって集まって貰ったのだ」
「そ、それより魔王様。そのお姿は――」
魔獣の皮で出来た黒い私服でもなく、あやゆる返り血を吸ってきた漆黒の鎧でもなく――白い布の帽子に、全身を覆う白い布の服――日本風に言えば『学校の給食の時に着ている白い服』である。
「万全の姿で行う必要があったのでな――」
魔王が拳を握りしめながら呟くと、ゴルディアの顔はどんどん青ざめていく。
「い、今からワシらの返り血で服を汚さぬように、そのような格好まで……」
逆に正気になったネーティアとフェリアスがつっこむ。
「いやゴルディア。絶対それ違うわよ」
「……うん、ボクもそんな気がしてきたヨ」
魔王が食堂を見渡し、全員が着席している事を確認すると――。
「全員揃ったようだな。では、話の前に――まずは食事にしよう」
『えっ?』
食堂全員の、思わず漏れ出た言葉がハモる。
「おい今、食事って言ったか?」
「粛清の間違いじゃね?」
「そういえば、なんか美味そうな匂いがするな」
部下の魔族達も口々にそんな事を喋っている。
「ま、魔王様!」
「ゴルディア、どうした」
「食事とはいったいどういう訳で……」
「それについては後で話す」
「そういえばカルロスの奴が見えません。それなのに、全員揃ったとは……まさか、この器の中身は!?」
ざわっ――。
カルロスが日頃より常々、魔王の愚痴を言っていた事は有名であった。
この間の会議よりすぐ、カルロスは姿を消していた――。
その事実に気付くと、四天王の2名を除いた全員の顔が青ざめ、恐怖に歪んでいく。
「カルロスか――それが、非常に言い難いことなのだが……」
「やはり……あやつめ……早まった真似を……」
ゴルディアは右手で、顔面を覆った。
その隙間から、涙が零れてくる――。
「そんなカルロス様が……」
「そういえばガルーダ兄弟の姿も見えないぞ」
「えぇ。3人だけじゃ量足りなくない!?」
「皆様! それでは料理の方を配膳致します!」
元気良くトレイに白い三角の料理を乗せて入って来たのは――赤い翼の生えた少年。
「どうぞ、ゴルディア様。なんだかヒゲが増えました?」
「……ん?」
「あっ、フェリアス様のは少し小さいので大丈夫ですよ」
「……ネェ」
「お姉さんもどうぞ」
「あら、ありがとねぇ。えっと、ボクは誰なのかな?」
「申し遅れました、カルロスです!」
ビシッと敬礼をする赤髪の少年――。
まだ10歳かそこらだが、どう見ても誰もが知る顔の面影があった。
『カルロス様!?』
「はい、カルロスです!」
「ど、どどど、どういう訳です魔王様!」
「いや、本当に説明が出来ぬのだ――発見した時にはもうこの姿でな……魔法医に診せたが、いずれ成長すれば元の姿には戻るだろうと」
「この世には、摩訶不思議なこともあるものねー」
「コレ、不思議とかで片付けちゃってイイノ!?」
「あっ、ゴルディア様! この子達もご挨拶があるようです」
腰に付けていたカゴの中で、2匹の茶色いヒナがお辞儀をする。
それもまた、消えたガルーダ兄弟によく似た顔立ちをしていた。
「あわ、あわわ――」
「皆の者、落ち着け!」
シン――。
「この事は、いずれ調査を行い報告する事を約束する。カルロスも記憶が子供の頃に戻っている故、あまり混乱させるような事は言うな。良いな」
「は、ははぁ……」
「ではまず、食事の支度だ!」
厨房から白い三角の食べ物乗せたワゴンを運んでくる給仕達。
さらに各人のテーブルの陶器のグラスに、ピンク色のドロっとした液体を注いでいく。
「くんくん……なんかちょっと甘い匂いがするお酒ダネ」
「ではボクもお隣に失礼します」
カルロス少年も四天王達と同じテーブルに着く。
全員に料理と酒が行き渡ったのを見届けると、魔王はこう切り出した。
「皆の者、今日は急な招集にも関わらず集まってくれた事に感謝する――」
ざわ――。
「これからの事を話す前に、料理を食べて貰いたい。今日の料理は、俺が作り、皆に振る舞うべきだと判断した」
ざわ――ざわ――。
「ま、魔王様のお手製!?」
「これもう魔王国以来の大事件ねぇ」
「シッ、アンタらうるさいヨ!」
「では、まず銀のフタを取ってくれ」
そこにあるのは、魔王の住まう居城。
会議のある3日後の今日、大会議室で待っていた3人の四天王に伝令が届いた。
緊急招集――。
魔王軍四天王と、その配下である補佐官、部隊長など以下48名に対し発令された。
「まさか会議もせずに招集とは――まさか始まるようじゃな」
魔王城の通路を四天王のゴルディア、ネーティアが並んで歩き、その横をフェリアスが飛んでいる。
「なにかしら?」
「粛清じゃよ……ついに魔王様は、自身の考えに反する者の処断を決めたのじゃ」
猛将と謳われたゴルディアが、恐怖で震えている――。
そのような姿は2人も見た事が無かった。
「まさか! 不満を解消する話じゃなかったのカヨ!」
「そのような方法を、この短期間に思いつく訳がないじゃろ。魔族は力ある者に従う――己に不満があるのなら、その強大な力を再び見せつけるお考えじゃろう」
「いやん、面倒くさそう」
「ひえぇぇ。えらいこっちゃダワ」
目的地に近づくと、次第に他の部下達の姿も見えてくる。
四天王とその部下達は、大会議室よりさらに広い、普段は兵士の食堂として使われている部屋に集められていた。
目の前には長方形のテーブルに白いクロスが掛けられ、銀のクローシュ(レストランで料理を運ぶ半球状のフタ)が人数分置かれている。
既に部下の魔族達は着席しており、みんな戸惑いを隠せないようだった。
「こ、これはなんダ?」
「まさか自身の血を、この器に捧げろと――?」
「……いや、さすがにこれはぁ」
『皆の者、よく集まってくれた」
食堂に威厳のある声が響き渡る。
3人の四天王と、部下達は一斉に立ち上がる。
厨房のある部屋から出て来た魔王の姿は――その場に居る誰から見ても常軌《じょうき》を逸していた。
「――楽にしてよい。今日は皆の者に話があって集まって貰ったのだ」
「そ、それより魔王様。そのお姿は――」
魔獣の皮で出来た黒い私服でもなく、あやゆる返り血を吸ってきた漆黒の鎧でもなく――白い布の帽子に、全身を覆う白い布の服――日本風に言えば『学校の給食の時に着ている白い服』である。
「万全の姿で行う必要があったのでな――」
魔王が拳を握りしめながら呟くと、ゴルディアの顔はどんどん青ざめていく。
「い、今からワシらの返り血で服を汚さぬように、そのような格好まで……」
逆に正気になったネーティアとフェリアスがつっこむ。
「いやゴルディア。絶対それ違うわよ」
「……うん、ボクもそんな気がしてきたヨ」
魔王が食堂を見渡し、全員が着席している事を確認すると――。
「全員揃ったようだな。では、話の前に――まずは食事にしよう」
『えっ?』
食堂全員の、思わず漏れ出た言葉がハモる。
「おい今、食事って言ったか?」
「粛清の間違いじゃね?」
「そういえば、なんか美味そうな匂いがするな」
部下の魔族達も口々にそんな事を喋っている。
「ま、魔王様!」
「ゴルディア、どうした」
「食事とはいったいどういう訳で……」
「それについては後で話す」
「そういえばカルロスの奴が見えません。それなのに、全員揃ったとは……まさか、この器の中身は!?」
ざわっ――。
カルロスが日頃より常々、魔王の愚痴を言っていた事は有名であった。
この間の会議よりすぐ、カルロスは姿を消していた――。
その事実に気付くと、四天王の2名を除いた全員の顔が青ざめ、恐怖に歪んでいく。
「カルロスか――それが、非常に言い難いことなのだが……」
「やはり……あやつめ……早まった真似を……」
ゴルディアは右手で、顔面を覆った。
その隙間から、涙が零れてくる――。
「そんなカルロス様が……」
「そういえばガルーダ兄弟の姿も見えないぞ」
「えぇ。3人だけじゃ量足りなくない!?」
「皆様! それでは料理の方を配膳致します!」
元気良くトレイに白い三角の料理を乗せて入って来たのは――赤い翼の生えた少年。
「どうぞ、ゴルディア様。なんだかヒゲが増えました?」
「……ん?」
「あっ、フェリアス様のは少し小さいので大丈夫ですよ」
「……ネェ」
「お姉さんもどうぞ」
「あら、ありがとねぇ。えっと、ボクは誰なのかな?」
「申し遅れました、カルロスです!」
ビシッと敬礼をする赤髪の少年――。
まだ10歳かそこらだが、どう見ても誰もが知る顔の面影があった。
『カルロス様!?』
「はい、カルロスです!」
「ど、どどど、どういう訳です魔王様!」
「いや、本当に説明が出来ぬのだ――発見した時にはもうこの姿でな……魔法医に診せたが、いずれ成長すれば元の姿には戻るだろうと」
「この世には、摩訶不思議なこともあるものねー」
「コレ、不思議とかで片付けちゃってイイノ!?」
「あっ、ゴルディア様! この子達もご挨拶があるようです」
腰に付けていたカゴの中で、2匹の茶色いヒナがお辞儀をする。
それもまた、消えたガルーダ兄弟によく似た顔立ちをしていた。
「あわ、あわわ――」
「皆の者、落ち着け!」
シン――。
「この事は、いずれ調査を行い報告する事を約束する。カルロスも記憶が子供の頃に戻っている故、あまり混乱させるような事は言うな。良いな」
「は、ははぁ……」
「ではまず、食事の支度だ!」
厨房から白い三角の食べ物乗せたワゴンを運んでくる給仕達。
さらに各人のテーブルの陶器のグラスに、ピンク色のドロっとした液体を注いでいく。
「くんくん……なんかちょっと甘い匂いがするお酒ダネ」
「ではボクもお隣に失礼します」
カルロス少年も四天王達と同じテーブルに着く。
全員に料理と酒が行き渡ったのを見届けると、魔王はこう切り出した。
「皆の者、今日は急な招集にも関わらず集まってくれた事に感謝する――」
ざわ――。
「これからの事を話す前に、料理を食べて貰いたい。今日の料理は、俺が作り、皆に振る舞うべきだと判断した」
ざわ――ざわ――。
「ま、魔王様のお手製!?」
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