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シーズン2 異世界の繋がり

16話 女騎士とレストランへ行く4

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「用意したこっちが言うのもなんだけど、たくさん食べたねぇ」

 今日はアグリさんの御馳走だというので、せめて後片付けだけでも手伝えないかと申し出たら、皿洗いをロイミーさんにお願いされた。
 俺は勝手口の傍に桶を置き、粉の石鹸で皿や鍋を洗っていく。さすがにこの季節の水仕事はキツいので、少し湯を入れて貰った。
 ロイミーさんは厨房で椅子に座り、ワインの入った木のグラスを用意していた。
 
「美味しかったので、ついつい食べ過ぎてしまいました」

 アグリさんはさっきまで旦那さんと談笑していたのだが、今はテーブルの上で突っ伏して眠ってしまった。

「すーぴー……」

 旦那さんが薄い毛布を掛けてあげている。

「この子もねぇ……昔からよく食べる子だったけど、まさか本当に騎士団に入っちゃうなんて夢にも思わなかったさ」
「その、あまり聞けなかったんですけど……アグリさんのご両親は?」
「――父親もこの国の騎士団で副団長やってたんだよ。それが魔王国との戦いで、友軍を助ける為に殿を務めて……そのまま帰って来ずさ」
「……そうですか」
「それでも奥さんは気丈だったけど、2人の故郷の町で帰りを待ちたいといって……本当はこの子も連れて行くはずだったんだけど……」
「騎士団に入りたいと?」
「あぁ。父親のように立派な騎士になりたいと――だからまだ小さかったこの子をアタシらに預けていったのさ」

 木のグラスに入ったワインを、一気に飲み干すロイミーさん。

「もうこの子も成人したし、騎士団で頑張ってくれてるし。後はまぁ自由にやってくれたらいいさ」

 グラスをもう1つ用意し、そちらにも注いで厨房の上に置いた。
 ひとまず洗いを中断し、俺もワインを1口飲む――少し渋みがあるがフルーティですっきりとした若い味だ。
 
「……あまり仕事のことは知りませんが、民を守る為に頑張るんだって、よく言ってます」
「そうかい――しっかし、アンタ何歳だい?」
「え? 今年で32歳になりますけど」
「ふーん。確か商人さんだったね……あまり、この子に寂しい思いをさせるんじゃないよ」

 友人として仲良くしてくれという意味だろうか。
 親代わりとはいえ、年月を考えたら第2の親と言ってもいい。娘が心配なのも当然だ。
 腕や地位も彼女の方が上だが、それでも大人としての責任は果たしたい。
 
「はい……私も彼女の友人として、見守っていきます」
「…………あれ。アンタ、恋人じゃなかったのかい」
「ぶッ――げほっ」

 驚きのあまりワインを吹き出しそうになるのを堪える。
 堪えた拍子に気管へ入り込み、思わずむせる。

「歳が離れてるけど、父親居ないとやっぱそういう趣味になるもんだと思ってたよハッハッハッ」
「げほっ、げほっ」
「まぁアレだ。あの子も職業柄、友達は少ないし……仲良くしてやってくれよ」
「は、はい……」

 こうして俺は、アグリさんの友人として認められる事になったのだ。

 ◇◆◇ 

「すいませんオダナカ殿……後片付けを手伝えなくって」
「いいんですよ。騎士団のお仕事、お疲れでしたでしょうし」

 レストランからの帰り道。
 夜道は例え男でも危険だというので、扉のある所まで送って貰う事になった。

「私は昔から料理とか全然ダメで……コメだって炊くのも何回も失敗しました。あっ、今は雷の魔石で動くスイハンジャーというモノを頂いてからは、失敗は無くなりました!」
「それは良かったです」

 まだまだ冬の寒い空の下――時折通り抜ける風に、身を縮こませる。
 それは彼女も同じようで、寒そうに両手を合わせている。

「その恰好、寒くないですか?」

 こういう話を聞いた事がある。
 オシャレは我慢だと――。
 見た目を美しくする為なら、寒かろうが暑かろうが気合で我慢するのだという。

 今日の彼女の服装はロイミーさんのレストランに行く為に気合を入れたのだろうが、さすがにこっちから見ても寒そうに見える。

「普段から鍛えているので大丈夫です……と言いたいですが、やはりこの冬の寒さは堪えますね」
「えっと、確かカイロか何かあったような……あっ」

 リュックの奥底からまだ未開封の使い捨てカイロと、奇麗な包装紙に包まれた菓子箱が出て来た。

「それはなんですか?」
「こっちはカイロといって――こうすると温かくなるんですよ」
「へぇ――あっ、それならオダナカ殿が使って下さい」
「良いんですよ。俺、寒いのは平気なんで」
「……そちらの箱はなんですか? 何やら良い匂いがします」

 包装はしっかりされているので、匂いなんて漏れていない気がするが――。
 しかし、彼女は美味しい食べ物には鼻が利きそうだ。

「これは……折角なんで差し上げます」

 全部で4箱。
 さすがに1人で食べ切るには多い量だ。 

「いいんですか!?」
「いいですよ。これも後輩からの貰い物なんで」
「では、有難く頂戴いたします」

 それからしばらく歩き、扉の前まで辿り着いた。

「では、俺はこれで――」
「そういえば、この箱の中身はなんていうお菓子なんですか?」
「チョコレートです。俺の国では、記念日になると好意を寄せている相手に送る贈り物としてよく使われます」
「へぇ――」
「それでは……」
「はいっ。また今度!」

 こうしてこの日はここで別れ――数日後。

  ■◇■◇■◇■◇■◇■◇■


 いつもの市場の路上で――。

「すいませんアグリさん、米運ぶの手伝って貰って」
「いいえ。として当たり前の事ですよ!」
「はぁ……」
「ところでオダナカ殿。前に言っていた後輩殿の事なんですが――」

 何故か彼女が、しばらく友人である事をアピールしてきたり、村上の事を聞いて来たりと――その意図がさっぱり分からない状態が続くのであった。
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