サラリーマン、異世界で飯を食べる

ゆめのマタグラ

文字の大きさ
上 下
27 / 115
シーズン1 春夏秋冬の出会い

7話 異世界で屋台飯を食べる2

しおりを挟む


「おっ、兄ちゃん見ない顔だね」
「私ですか?」

 祭りに混ざってみようと入口にある鳥居にもよく似た門に来た所で、門の側にあった屋台の店主に呼び止められた。
 自分よりそれなりに年上の恰幅かっぷくの良い男だ。
 この屋台は、色々なお面を売っているようだ。

「当然よ。ここの祭りに参加したかったら、これ付けてないといかんからな」

 店主は後ろに釣るしてあるお面を指差した。

 お面は色々と種類がある。列によって区分されているようだ。
 犬、猫、キツネなどの動物もの。
 ゴブリン、オーク、オーガ、獣人(動物ものとの違いが分からない)の亜人種もの。
 あと知らない人物のお面などもあるが、有名人なのだろうか。
 
 買う事を渋る訳ではないが、興味本位で聞いてみる。

「そういう決まりなんですか?」
「おうよ。みんな自分の家で作って来るんだが、兄ちゃんみたいに外から来た人がたまーに何も知らずに参加しようとするから、オレっちが親切に声を掛けてやっている訳だ」
 
 へへっと笑う店主はどこかちょっと子供っぽくもあった。
 お面を被る祭り。外国なら仮面舞踏会のようなものだろうか。
 あれは個人や身分を隠して行う貴族の嗜みたしなみたいなものだが――。

「……例えば、お面をせずに参加したらどうなるんですか?」
「神にさらわれる――」

 今までのおちゃらけた物言いとは裏腹に、低めのトーンの店主に思わず息を飲む。
 しかしその雰囲気も一瞬だけで、

「――という言い伝えがあるってだけさ。まぁ折角なんで兄ちゃんもこれ付けて参加していきなよ」
「では……」

 俺は適当に犬のお面を買うと、顔に被ってから門をくぐり、中へと入る。

「兄ちゃん、最後にひとつだけ――子供に敷地の外へ誘われても、絶対行っちゃならねぇぞ」
「あっ、はい……」

 その店主の言葉に引っ掛かりを覚えるが、折角来たのだから飯を楽しみたいので、すぐ記憶の奥へと追いやったのだった。

 ◇◆◇

「日本のと、やはりどこか似ているな」

 例えば参拝客の多い神社には、簡易的なテントだけでなくプレハブ小屋みたいな屋台が並ぶ。
 ここも木と板を組み合わせた即席小屋みたいな屋台が並んでいた。
 歩いていると、カラフルな暖簾のれんやのぼりに料理名が書かれている。

 マンドレイク汁、焼きテンタクルス、禁断の木の実飴、雲菓子、スライム釣りなど――商品はともかく雰囲気は日本のものによく似ている気がする。

「じゃあひとまず――この焼きテンタクルス下さい」

 食べたいモノが無い状態でも腹は空く。
 祭りだとどこか気分が高揚し、何かを試したくなるのは何故だろうか。

「はいよ。美味しくてほっぺ落としちゃわないようにな」
「どうも」

 ゴブリンのお面を付けた店主に、お金と引き換えに商品を渡される。
 薄い木の皿には、蛇行するように串に刺さった薄茶色の、バナナくらいの太さの触手のようなモノがこんがりと焼かれているものが乗っている。

「聞いた事のない食材だが――ふむ」

 先から食べてみるが、水分の多い焼き芋のような味わいだ。
 表面はカリカリとしているが中はねっとりとした感触で、甘さと少しの酸っぱさが同居している。

「なるほど。次行ってみましょうか」

 他にもいくつか屋台を回る。
 気になるモノを適当に買ってはトレイに載せていく。
 トレイの上にいくつかの商品が並んだので、最後に麦酒を買い、飲食できるスペースは無いかと少しウロついてみる――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...