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シーズン1 春夏秋冬の出会い
5話 異世界で海の焼きそばを食べる6
しおりを挟むまずは第一段階の自室へ扉を開く事に成功した。
直前にトイレの事を思い出していたせいか、そのままトイレに繋がってしまったが問題はない。
すぐに俺は冷蔵庫を開き、缶ビールを一気飲みした後に燻製のソーセージを1本食べる。
恐らくこうしないと願いが叶ったことにならず、次の扉が開かないのだ。
俺は備蓄してあった日本酒をリュックに詰めると、今度は脱衣室の扉の前に立つ。
「酒を飲んだらいい感じに腹が減ってきた。また海賊の料理が食べたい――」
今度は黒い鍵だ。
前回のあの日から、既に開通先は海賊船から海賊の町へ繋げてある。
ガチャ――。
開くと、予定通り海賊の町、その路地にある扉に繋がった。
「おっオダナカさんじゃねーか」
「ハンスさん丁度良かった……お頭さんは今、どちらに?」
「今はいつもの料理屋で、今晩のメニューを試作――」
「ありがとうございます!」
いつ振りだろうか、こんなにも息を切らせながら走ったのは。
久しぶりに寝坊した時に電車へ飛び込んだ時か、突然の雨が降った時だろうか――親父とお袋の訃報を聞いた時だろうか。
そんな事を考えていたら、すぐに料理屋の前までやってきた。
「ぜぇ――と、お頭さんはいますか――」
「どうしたんだオダナカさん」
カウンター席で、自身で作った料理を試食していた頭領が振り返る。
「息なんか切らして……あっ。もしかしてこの間頼んでいた奴、持ってきてくれたのか」
「そ、それとは少し違いますが……これも凄いお酒で……実は、ちょっと頼みたい事がありまして」
「ほー。よーし、じゃひとまず座ってくれ。なんか知らねーけど、とりあえず俺の料理を食ってくれ。酒も合わせてみたいしな」
「お、お願いします」
料理をいくつか御馳走になり、リュックから取り出したお酒をグラスに注ぐ。
「ほー。こりゃ果物に近い甘い匂いがするな。こりゃ食前酒にいいかもな」
「気に入って頂いたようで」
「――で、俺に頼みってのは?」
「実は、とある湖海のヌシを獲って頂きたいのです」
そこから話はとんとん拍子に進んだ。
まず地図を開き、位置を確認する。
どうやらこの海賊を負かした騎士団というのは、アグリさん達の国のようだった。
この海賊の町から海沿いに行けば、あの湖海に繋がる大河へと出れるらしい。
問題は海賊船はどれも帆船で、地図を見る限り距離はそれなりにありそうな事くらいだ。
「おいおい。その辺の船と、俺達の船を一緒にして貰ったら困るな。そうだろテメェら!」
「「「へいっお頭!」」」
「今回はいつも世話になっているオダナカさんからの仕事だ! キッチリやれよ!」
「「「よろこんで!」」」
「よーし。魔道モーターは温まったな。微速前進――沖に出たらブーストかますから、準備はしっかりしとけよ!」
「「「お任せあれ!!」」」
その言葉通り、沖に出るなり帆は全て畳まれ、船尾から巨大な扇風機の羽が現れた。
さらに羽が光るといくつもの幾何学模様が浮き上がり、徐々に回転していく。
その回転はどんどん速くなり、船も徐々にスピードを上げて――上げて――まだ上がる。
「普通なら5日は掛かるが、コレなら半日だぜ!」
「あ、あありがとぉぉぉ」
本日2度目の高速の旅に、俺はただ船にしがみ付くことしか出来なかった。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
「大将、海鮮ヌシ盛り焼きそば3つッ!」
「あいよ海鮮ヌシ盛り焼きそばね!」
あれからキッチリ半日後の夕方、湖海に辿り着いた海賊船。
そこへ襲ってきたサメの大群だったが、全て返り討ちにしてしまった。
さすが普段から海での戦闘が得意分野だけはある。
で、問題のヌシなのだが――。
「いやー嬢ちゃんすげーな。俺達が行った時には、既にヌシ倒してたとか」
「これも普段からの鍛錬の賜物ですよ」
ヌシとはテイオウイカという巨大なイカで、島に取り残された彼女を襲ってきたらしいのだ。
どうやら俺が居なくなった事で、かえって周りの被害を気にせず戦えるようになったおかげなのか倒せてしまった、との事。
ちなみにあの無人島は戦闘の影響で更地になってしまっているが、気にしてもしょうがないだろう。
「海鮮ヌシ盛り焼きそば3人前、おまちどうっ」
「――こういうのも、いつも俺が作っている料理とは一味違っていいな!」
「ひょうですね(ずるずる)」
お頭とアグリさんと同じテーブルを囲み、俺も焼きそばを啜る。
塩タレと香味油、細かく切った魚介類とイカが混然一体となり――散々動き回って空腹になった身体に、確かな満足感を与える。
「嗚呼――美味い」
「ほんと美味しいですね。これなら明日から大丈夫そうですね!」
「大将。確か町の方で店作ってるんだってな。今度俺も行くよ」
「おっ。それじゃ秋頃にしてくれや。その頃には店も出来てるぜ」
談笑するみんなを横目に、夜の海を眺める。
他の海賊のみんなは浜辺で、釣った魚を使って浜鍋をしながら酒盛りをしている。
こういう大勢で食べる雰囲気というのも――悪くない。
「親父、お袋――俺は元気にしているよ」
見上げた星空は、何故かボヤけて見えた――。
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