サラリーマン、異世界で飯を食べる

ゆめのマタグラ

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シーズン1 春夏秋冬の出会い

5話 異世界で海の焼きそばを食べる4

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「――ここもダメか」

 とはいえシーズン中の現地である。
 いきなり話を持って行っても、既にどこかの店と契約している所も多い。
 こうなると、どこか近くの町の市塲で購入できないかと思案していると――。

「オダナカ殿ー」
「アグリさ――凄いですね」

 彼女は銛を片手にこちらへ走って来た。
 傍らには漁用の網が握られており、その先には見た事も無い大きい魚がたくさん入れらていた。
 どの魚も的確に急所を突かれているのか暴れる様子もないようだ。

「ひとまずこれ大将に届けてきますねー」
(もう彼女に全部採ってきて貰っても――さすがに通えないか)

 そうやって思案していると、すぐに彼女が走って戻って来た。

「届けて来ました! オダナカ殿、どうしました?」
「いえ。漁師の方々には断られてしまったので、次はどうしようかと考えていて」
「ふむ。この時期は漁師はもちろん市場もみんな買いに来るので、毎日安定して用意するのは難しいかもしれませんね」
「何か他の手を考えた方がいいかもしれませんね」
「――では、こういうのはどうでしょうか」

 ■◇■◇■◇■◇■◇■◇■


 彼女の案とは、この広大な湖海に住むヌシを捕るというモノだった。
 ヌシを使った海鮮焼きそばなら話題性も高く、冷凍魔法で凍らせた長期保存でも肉の品質はそこまで落ちないらしい。

「この時期は海からたくさんの魚が流れ込んできます。それを食べる為に普段は湖底に潜んでいるヌシが水面近くに上がってくると聞いた事があります」
「なるほど――で、なんで私も船に乗せられているんですか?」

 今、俺は彼女と一緒に小舟に乗っている。
 もう砂浜は遠くに見え、反対方向を見ても向こう岸は見えない。

「オダナカ殿にも手伝って頂きたいのです」
「しかし私は釣り堀くらいでしか釣りの経験はありませんが……」
「釣りボリ? いえ、経験はなくとも大丈夫です。このエサとなる雑魚を少し切って血を出したモノを、適度にその辺りに撒いてください。そうしたら、小舟ごとオダナカ殿は離れていて下さい」
「もしかして潜るのですか?」
「いえ。短時間ですが魔法で水上に立つことができます。ヌシは、エサの魚が漁で多めに採られている事にイラ立っているはずです。すぐに来ます」
「……分かりました」

 ともあれ他に案も無い以上、彼女の実力に任せるしかなかった。
 俺は言われた通りにエサをばら撒き、すぐに小舟の魔道モーターを操作してその場から少し離れた。
 アグリは静かに水面に立ち、銛を構えながら波の変化を見ていた。
 短時間、と言っていたが既に10分以上は経過している。
 ひとまず小舟に上がって貰うかと考えていた頃――彼女が動いた。

「来たッ」

 俺が水面に目をやっても、何か変化しているように思えなかった。
 しかし彼女は何か俺には分からない方法で、水中の生物を感知したのだろう。

「なんだコレは……数が多い!」

 彼女がそう叫んだ瞬間。
 小舟に何かが激突した。

「な、なんだ!?」

 それは水中から、何かの生物が連続で体当たりをしているようだった。

「しまったッ、狙いはそちらか!」

 ついに俺は小舟から投げ飛ばされ、余ったエサの入った樽も海面へとバラまかれた。

 ザッバン――。

 そのエサを大きな口で丸飲みにしたナニカを見た。
 しかしそれを悠長に眺めている暇などなく、すぐにアグリが駆け付け、俺を水中から引き揚げた。

「走りますッ!」

 いわゆる姫様抱っこと呼ばれる格好で俺は運ばれた。
 ふと後ろを見ると、いくつもの尾びれがこちらへと向かって来ているのが見える。

「あ、あれはサメですか!」
「普段は海にいるジャークシャークという凶暴な魚です! しかし海面にバラまいたエサに喰い付くことなくこちらを追って来ている。恐らくは海からこの湖海に流れ着き、ヌシにコテンパンに負けて配下になったのでしょう」
「魚にもそんな上下関係が――」
「全力出します!」

 
 こうして、ひたすらに逃げ続け――水面歩行の魔法が切れかけた頃、あの無人島を見つけたのだ。
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