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シーズン1 春夏秋冬の出会い
5話 異世界で海の焼きそばを食べる3
しおりを挟む「到着しました!」
「……………………そうですか」
ペガサスから降り、ひとまず木陰に座り込む。
アグリさんはさすがに慣れているのか、全然堪えてないようだ。ペガサスも疲れているようには見えない。
「さすがに一気に飛ばしたので疲れましたね! 私、ちょっと飲み物を買って来ます」
「…………はい」
なんだかいつもよりもテンション高めの彼女を見送り、改めて周囲を見渡す。
大きい湖とざっくり思っていたが、実際に目の当たりにするとその広大さに驚く。
右から左まで砂浜が続き、向こう岸は全く見えず水平線が見えるのだ。
風が吹くと、心地よい潮の香りも漂ってきて――これは海と言っても差し支えないだろう。
砂浜や海には海水浴に来た、老若男女の色んな人たちが多く居る。自分が今居る木陰あるエリアには、さながら海の家のような小屋が並んでいるのだ。
「海とか、何年振りだろうか」
最後に来たのは――確か家族で潮干狩りに行ったあの日か。
「オダナカ殿! 買って参りましたッ」
「早かった、です、ね……」
彼女は先ほどまでの見慣れた鎧姿ではなく、空のように青いビキニ水着に着替え、白いパーカーのような上着を羽織っていた。
両手に持った緑色のジュースが入ったグラスを俺に渡してきたのだった。
「ふふふ。どうですかコレ。実は夏に入る前から買っては居たんですが、仕事が忙しくて中々ここへ来る暇がなく……折角なので着てみました」
「似合って――いると思いますよ」
金色の髪と彼女の笑顔が合わさり、確かによく似合っていると思う。
あまりこういう直球の笑顔を突き付けられることは無いので、思わずたじろいでしまう。
「ありがとうございます! では、ジュースでも飲みながら大将の店を探しましょうか」
「ちょっ――」
手を引っ張られ、彼女と共に砂浜へと駆け出すのであった。
■◇■◇■◇■◇■◇■◇■
「よおご両人。どうしたんだ? もしかしてデートかよ」
「大将からかわないで下さいよ。もちろん、新作メニューとやらを食べに来たんです」
「……はい」
まさか30分も砂浜を歩くことになるとは――どれだけ長いんだこのビーチは。すっかり白いシャツも、汗だくになってしまった。
「よーし。じゃあ早速、腕によりをかけて作るぜ」
角の生えている額にねじり鉢巻き。恰好自体はいつものエプロン姿のオーガ族の大将。
その太い腕の両手には、金属ヘラが握られていた。
熱した鉄板の上に油を引き、薄切り肉や黄緑の野菜などを炒めていく。
じゃあああっ、じゃっじゃっ――。
次にほぐした麺を入れ、さらに炒めていく。
ほど良くなってきたら特製の塩ダレを掛ける。
じゅううううっ――。
タレが鉄板で熱せられ、香りが一気にこちらまで来た。
ぎゅるるるるぅ――。
「はぅ」
この香りにノックアウト寸前のアグリさん。
俺もこの匂いに、失われた食欲が戻ってきそうだ。
麺と具材へと充分に混ざったら、2枚の白い皿へと盛っていく。
「へいおまちっ。焼き塩メンだよ」
「ありがとうございます大将!」
「……ふむ」
具材も料理方法も実にシンプルな焼きそばだ。
多くの客に提供しやすいよう大量に作ることもできるし、目の前で作るスタイルなので期待感や臨場感にも繋がる。
この香りをダイレクトに嗅げば、今の彼女のようになってしまうだろう。
「ずるっ、ずるっ――美味しいです!」
大将特製の塩だれがよく効いてて、熱せられた鉄板によって出来る若干の焦げがアクセントになっている。
野菜も甘味が出て美味しいし、肉も安い部位ながら多めに入っているのでボリューム感は出ている。
普段であれば、これでも充分満足できるのだが――。
「確かに美味しい……しかし、何かが足りない気がする」
「そうひゃんですか?(ずるずる)」
「奇遇だな旦那。オレも実は少し物足りない気がしてたんだ」
俺はしばし食べるのを止める。大将も腕組みをして考え出した。
アグリさんだけは黙々と食べていたが。
「……ここはほぼ海です。で、あれば。やはり海の幸が必要ですね」
「海鮮焼き塩メン――なるほど、それだッ!」
具材がシンプルなのは悪いことではないが、もっと見た目と味、もっと強いインパクトが欲しい。
イマイチ足りなかった食べた時の満足感も、これで補えるだろう。
「ここのシーズンはあと2週間ほどだ。冷凍魔法庫もあるし、多めに仕入れる事は出来るが――」
「やはり出来るだけ安定して仕入れた方がいいでしょう。取り急ぎ、ここの湖で漁をしてる方を探してみましょう」
「もぐもぐ――よし。ではすぐに試作に入れるよう、今日使う食材は私が採ってきます」
「いいのかい? 折角の休みなんだろう」
「いえ。俺も大将が作る海鮮焼き塩ソバ、食べてみたいですから」
「正直最近、美味しいご飯とか食べ過ぎたせいか少し腹が出て――ゴホン。民が困っているのなら、騎士である私が助けるのは当たり前です!」
「お前ら……ぐすっ。感謝するぜ」
「泣くのは無事、食材が確保できてからにしてください」
「ひとまず、銛を借りてきます!」
俺はいつもの白いワイシャツから、海パンとTシャツにアロハのような柄シャツへと着替えた。
これは大将の勧めで、全部近場の水着売り場で買ったモノだ。
他の現地の人も似たような恰好をしているので、明らかに目立ついつもの恰好よりは警戒されないと思う。
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