サラリーマン、異世界で飯を食べる

ゆめのマタグラ

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シーズン1 春夏秋冬の出会い

4話 異世界で焼き肉を食べる4

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 肉を次々と焼いていき、エールを何杯も飲み干し――最後はホルモン系が残った。
 元々はやはり大きい牛だったのだろう。ハチノスやセンマイの太さが倍くらい違う。
 レバーも、血抜きが完璧なのか嫌な臭いが全然しない。
 それらをじっくりと焼きながら、オルディンはボソボソと喋りだした。
 
「……実は今日、娘も誘ったのだ。地元の学校へ今年入学したばかりでな――それはもう可愛い子なんだ」
「ほうなんですか」

 肉を食べなら答える俺。
 オルディンは特に気にすることもなく続けた。

「ワシは仕事にばかりかまけていて……メイドと妻に世話を任せっきりでな。久々に時間が取れそうなので、娘を誘ったら――」
「さほったら?」
「パパなんか嫌い、だとさ……」

 ジョッキに残ったエールを飲み干し、テーブルへと置く。
 そうすると店員が黙ってジョッキを交換して、すぐに奥へと引っ込んでしまった。

「思えば小さい頃から、なかなか家に帰れなかった我も悪いがな――やはり、本腰を入れて人類種を殲滅するべきか」
「うん?」
「いやなんでもない。今日は仕事のことは忘れようと思ったのに、いかんな。ハッハッハッ」
「私は独身なんでそういうのは分からないですけど……例えば、こういうモノを贈って見てはどうでしょう」

 そういって俺はカバンから、さっき土産に購入した『金平糖』だ。
 ピンク、青、黄色、緑と色彩鮮やかなトゲトゲした角が生えている砂糖菓子が瓶詰めされている。

「なんだコレは」
「金平糖という、私の地元ではよくあるお菓子なんですよ」
「まるで宝石のような美しさだな」
「これを娘さんに贈って見て下さい。何か、会話のきっかけになるかもしれません」

 と、さっき土産屋で部長に言った事をそのまま言う俺である。

「――ふむ。いや、これはかたじけないな」
「そんなに高い物でもないので……今日の焼き肉のお礼ということで」

 お礼にしては安いけど、それは言わぬが華である。

「さぁ。そろそろホルモンも良い感じです」
「おっと。このレバーは全部ワシが頂く」
「では私はミノを全部頂きます」
「ぬぅ……しょうがない。世界レバーの半分をやろう」

 当初とは違い、オルディンとはすっかり打ち解けたような仲になっていた。
 さすがに腹も膨れて満腹である――オルディンは最後まで食べるようだ。またホルモンを焼いている。
 
「あー満足した」
「我も今日は満足したぞ……オダナカと言ったか。今日は付き合って貰って、楽しかったぞ」
「私の方こそ。こんなに美味しい焼き肉を食べさせて頂いて、ありがとうございました」

 「あぁ。人間にも、お前のような奴がいるのだな」

 何やらボソっと呟いたような気がしたが、正直ホルモンを焼く音で聞き取れなかった。
 俺達は最後、にこやかに握手を交わし――俺はトイレへと入り元の世界へと帰っていったのだった。


  ■◇■◇■◇■◇■◇■◇■

 
「そういえば聞きましたかオダナカ殿」
「ひゃんです?」

 業務用炊飯器と魔石バッテリーを納品したついでにラーメンを食べていると、いつもの女騎士がやってきた。
 ちなみに彼女の名前はアグリ……なんとかと、とにかく長いのでアグリさんと呼んでいる。

「魔王国とは長らく戦争状態であったんですが……この度、魔王軍側から停戦の申し入れがあったらしく――もう城内は凄い騒ぎになってるんですよ」
「へぇー」
「……まぁ、もしこれで平和になれば、もっと色んな国に行ったり出来るんですけどねぇ」
「ひょれは良いことだ」
「……オダナカ殿は食べるのを――いや。大将。私も塩1つ!」

 世界が平和に近づけば……美味しいモノを食べれる選択肢も増えるというものだ。
 
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