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透哉 ホスト編「歓楽街にて」
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モブレ/射精管理/誘い受
※ ※ ※
──そのホストクラブの入り口は二階にある。
歌舞伎町の区役所通りを曲がった奥。
階段を昇っていくと両側に所属ホストの宣材写真が飾られて、順番に通る者を見下ろしてくる。
中でもトウヤの写真は目を惹いた。
絵画からでてきたかのような正統派の美しさ。
──営業時間は終了しており擦れ違う客はいない。
天辺まで辿りつくと入り口は二重構造になっている。
社長である景虎が、一枚目の扉を静かに開け、中の様子を伺うと複数の声がした。
「トウヤさんっ、俺、頑張ったから──」
「うん。ありがとう──どうしたいの──ゃっ、噛むのは痛いから駄目」
「下手くそ。お前、変われよ」
「ぁっ、ん──」
「トウヤさん、僕も──」
「ありがとう──ぁっ、んっ──くちづけがすきなの?」
「トウヤさんに舌入れたい──」
──高い喘ぎ声が会話に混じる。
──微かに聞こえる卑猥な水音。
頭が痛いがリーク通りのことが行われているのだろう。
透哉の奴、頼まれたわけじゃないとはいえ──せっかく仕事を紹介してやったのに、またトラブルを起こすとは仕様のない。
社長としては状況把握をした上で、改善なり処分なりが求められる。
二枚目の重い扉も開けて店内に足を踏み入れたが、誰ひとり景虎のほうを振り向かなかった。
中央のアーチ状の長椅子に横たわる白い肌が透哉だろう。
その周りで五人の男が服を着崩しながら透哉に覆い被さっている。
群がる男たちの合間から見える透哉は全裸で、陰茎も尻の穴も何もかもを惜しげもなく晒している。
背中から腰までの曲線が女ように細く括れて、時折、首をあおのけてしなった。
羞恥も屈辱も感じさせずただ恍惚として躰を委ねている。
あられのない鼻にかかった高い声が店内に響く。
近づくと透哉が小さい尻を押し広げられ男の陰茎を咥えこみゆっくり抜き差しを繰り返されているのが見えた。
脇から腰にかけて何度も優しく撫でている別の男の手に合わせ躰がびくびくと反応している。
もともと色素が薄い肌を紅潮させて。
陰嚢を柔らかく揉みしだく指を広げた手も見える。また違う男は首筋に舌を這わせる。脇を舐めている者もいる。
男たちも透哉も夢中で、社長である景虎が見ていることに気づいていない。
「本当に綺麗な色──」
男の一人が吸い込まれるように透哉の陰茎を摘む。
「おい、勝手に独り占めすんなよ」
「──いいよ。そっちの子、胸を、あげるから、優しくして──」
透哉に胸を与えられた子はよろこんで薄い色をした小さな突起を大切そうに口に含んだ。
乳首を舌で嬲られた透哉が喘ぎ声を漏らしながら扇情的に背をしならせる。
景虎はもうあと数歩で透哉に触れられる距離まで近づく。
真っ先に気づいたのは透哉の後孔の内壁を隙間なく擦りあげている店長だった。
「え、あ──景っ──トウヤさんっ──」
「ぁ、んっ──」
店長は突然の上司の登場に驚いて穿つ腰の動きを止めたものの、透哉はもう周りが見えていない。
陰茎を愛撫している者も、手淫から口淫へと移り、視界が狭くなっていたため気づけずそのまま尿道口を舌でくすぐった。
ぞくぞくと痺れがはしり透哉は絶頂を迎えようとぎゅっと目を瞑る。
「──そこまで」
不意に張りつめた陰茎の根元を押さえられた透哉が目を開き、声の主──景虎を潤んだ瞳で見やった。
「ぇ、虎っ、離し、てっ、意地悪──」
「透哉はイくな。お前はイったら眠たがって話にならんから。お前らは続けて弄ってろ」
滅多に姿も拝めない雲の上の社長に命令されて、誰も逆らえずに手や口を動かした。
透哉はあと少しの追い詰められた射精感から逃れられないまま複数の刺激に責められ続け、悶えて内腿を震わせる。
「やっ、離してよ──寝ないからっ──やめて──」
景虎の手を退けようと透哉が華奢な指で掴むが動かせない。
その細い手を男の一人が恭しく口に含み舐め上げる。それを見た別の男が陰嚢を口淫しはじめる。
陰茎を舐めあげていた舌も、景虎の手を避けて先端のみをつついているが、ずっとその座を譲らない。
いくつもの舌から捧げれる甘い愛撫に耐えかねて透哉は思わず腰を浮かせるがイくことは叶わず、刺激をただただ受け続け、はしたなく乱れることしかできなかった。
「ぁっ、あ、いや、ぁっ」
「透哉がいややめてなんて、色っぽく煽るから、こいつら余計止まんないだろ」
景虎は冗談半分で笑ったが、実際のところ先刻までの素直に快感を受け入れて悦がる透哉よりも、我慢を強いられ悶える様子に男たちは興奮しているようだった。
「虎がっ、命令したからだろっ──だめっ、離し、て──イっても寝ないからっ──」
イく寸前まで熱をもった敏感な躰を予想外の奉仕で揉みくちゃにされて、透哉が綺麗な顔を歪めて景虎を見上げる。
甘い悲鳴混じりにやめてと訴え、長椅子の上で地団駄を踏むような仕草をしながら。
「やっ、離してっ、離し、てっ、ぁ──んっ」
「相変わらず堪え性のない子だなあ」
──取り巻きたちにそんな子供っぽい姿を見せるなよ。
景虎は仕方がないなと苦笑しながら、透哉の陰茎を押さえていた根元の手を離した。
申し合わせたように、先端だけを舐めていた子が全体を喉の奥まで飲み込む。
「ぁっ、ん、んっ──」
透哉は、腰を突き出し背中を反らして、か細い腕を景虎のほうへ伸ばした。
上半身をねじって抱きつき甘えるように艶のあるくちびるを寄せてくる。
それを舐めて開かせ舌を吸ってやると間欠的に何度も躰を痙攣させた。
透哉の射精は衆人環視の中、見せ物のようだった。
透明に近い体液を待っていたように男たちが舐めとる。
その様子を呆れたように横目で見ながら、景虎は手近なソファに座り一同を見廻した。
「──で、これは何がどうなってるんだ」
透哉が、息さえ整えば後は我関せずと、イったばかりの色気を纏ったまま、全裸で気怠げに立ち上がる。
VIPルームにあるジャグジーに向かおうとするのを景虎が座ったまま腕を引いて止めた。
「こら。話終わってないぞ」
透哉は躰の向きを変え、景虎の膝の上に座って機嫌をとるように首に手を回してくる。
「突っ込まれてるんだから、僕は被害者でしょ」
誘うような意味ありげな瞳と視線が合う。
自分まで懐柔するつもりなのか。
「俺にはお前が周りを侍らせているように見えたが」
「他人聞きのわるいこと言わないでよ」
店長が割って入る。
「社長、その、そもそも初日に──自分の客にヘルプで練習がてら付けたんですが──透哉を気に入って伝票を余分に切ってくれて」
本来は、締日に指名があと一本あれば賞金がでる──ような事例に使う手段。
店内に既に本指名客がいる場合、もう一人架空の客がいたとして伝票を切り二人分の料金を負担してもらう──当然本指名も二倍──二本のカウントになる。
「架空伝票を作らせて、それを透哉指名として料金を払ってくれたと」
「はい。遊び慣れているお客さんで」
つまり、店長の客が、新入りの透哉に指名を一本ご祝儀にくれた──のだろう。豪気なことだ。
透哉が拗ねたように口を挟んだ。
「僕、頼んでないよ。そんなシステム知らなかったし──けど皆がしてくれるから」
「──で、これが礼か」
「──そう」
「こいつが礼として躰を与えるから、それ目当てで架空伝票が増えたのか」
景虎は、透哉と店長そして従業員たちの頭を順番に軽く叩いた。
「お前は躰で礼を払うなよ」
「そんでお前は受け取るな! お前らも!」
にっこり笑ってありがとうで済ませられないのは透哉の生い立ちもあるのだろう。
愛されて育っていないと無償の好意をもらえる価値が自分にないように思えて何かを返さないではいられない。
──そう思うとあまり責める気にもなれなかった。
「だって──皆よろこんでくれたし、僕も気持ち良いし」
透哉が景虎の膝の上でしなだれかかる。
他の従業員たちは、皆、俯いている。
それぞれ自分の客になんと言って上乗せしてるんだか解ったものじゃない──リークは客からではないから上手いことやってはいるのだろうけれど。
「架空の伝票切ったって客が納得してその分を払ってるならいいよ。透哉は指名入って。店も売上あがって。税務署だって税金増えて、皆しあわせだ──けどな」
景虎はそこで言葉を切った。
「やりすぎるな。なんで実際の客席数より伝票上の客数が多いんだよ! 有り得ないだろ! 馬鹿野郎」
全く透哉が行くところ行くところトラブルになる。
──この顔。
──この躰。
──年々、精液を吸って色香が増す化物のようだ。
風紀が乱れると叱るか。
それとも、従業員の意欲は上がっているようなので黙認するか。
「やるなら、ちゃんと客席数と辻褄を合わせてくれ──以上。あと乱行もせめて寮でやってくれ。店長頼むぞ」
この辺が折衷案だろう。
説教が終わったとばかりに透哉は景虎から離れ、ジャグジーで躰を流しそのままロッカーへ行こうとする。
景虎が溜息をつく。
手に負えないほどではないが毎度世話のやける子だ。
「床が濡れるだろ」
「タオルない」
透哉の視線を受けた店長が備品から持ってきて躰をタオルでくるむ。
気に入ったようで、透哉は柔らかい手触りに埋もれたまま元の長椅子に横になった。
「眠い」
「だからイくなと言っただろ」
「ここで寝る」
「襲われたいのか」
「良いよ。もう一回くらい、別に」
景虎に流される視線に艶がある。
その手には乗らない。
一応、立場もあるし今回は叱る目的で着ているのだから。
現場を任せている店長に訊く。
「先月の改装でVIPルームにジャグジー入れたのも透哉のせいか」
「それもありますが──客受けも良いですよ」
半分寝ぼけているような透哉をまた従業員たちが弄びはじめている。
景虎が近づくと皆一様に手を止めたが、お咎めなしと解ると再び陶器のような白い肌を撫でまわした。
──まだ中学生のころの透哉を景虎は知っている。
大勢の前でこんな真似ができる子ではなかったのに。
もう、あれから十年以上経つのか。
景虎が透哉の両手を押さえ込むとうっすら目が開いた。
手首に力が入って抵抗する。怯えた瞳。
「──ッ、ゃ」
気まぐれに躰を与えるのは良いが力ずくはさすがに怖いのか。
陰茎を扱かれ、肌を撫でられ、ねだるように腰が揺れている。
濡れたくちびるがはしたなく開いて吐息が漏れる。
今は透哉に嫌われないよう振る舞っている──むしろ好かれようとしている──従業員も何かの弾みで牙を向くことがあるかもしれない。
リークがあったということは、透哉のことを快く思ってない者がいるのだから。
「店長、まじでこいつ頼むぞ」
「──解ってます」
悪戯にそっと会陰に指先で触れると透哉が目を見開いて躰を強張らせた。
景虎を見上げていやだと首を振る。
──弱いところは昔のままか。
皆の前で苛めてやってもいいのだけれど──。
この場で自分だけが知ってることを周りに教えてやるのも惜しくてそのまま躰から手を離した。
髪を撫でる。軽く睨まれた。
──いやなところも昔のままか。
髪から頬を伝い、首から肩をなぞり、乳首に触れた。
「──っ、ん──」
一瞬、躰を引いたが、胸を反らしてせがんでくる。
──可愛いな。
乱れる息。美しく滑らかな肢体。皆が手を触れたがる愛玩動物。
気が弱くて臆病で他人の手から逃げまわっていた、あのころの透哉も気に入っていたけれど。
現在の、躰を与えて周囲を利用する不敵さもそれなりに見ていて面白い。
自分も仕事を紹介した時点で──こいつに操られているのだろう。
今回のことを見逃すのも。
イきそうなときの仕草も変わらない。
もう一度、根元を押さえると、濡れた瞳で睨みながら文句を言う。
「また、やっ、離して、よ、いや──」
他の者も、さっきの透哉の痴態を見て要領が解ったらしく敢えて責めたてる。
我慢することが生来苦手な子だから、ぎりぎりの状態を強いられると逃れたくて悶える様が唆られる。
「──ッ、離し、てっ──」
「これ、お前らはやるなよ」
周囲が頷いたのを確認して根元を解放すると綺麗に背中をしならせた。
柔らかく背骨がひとつひとつ弧を描く様は艶めかしい別の生き物のよう。
躰にかかった体液を男たちに舐めとられ腹筋がひくひく波打つ。
綺麗で弱いと狙われる。
生き延びるためにこうならざるを得なかったことは哀しいが。
「透哉」
「ん」
「何か困ったらいつでもおいで」
「──うん」
いつもの去り際の会話。
けれど透哉から助けてと請われたことはない。
甘えられないなら、利用してくれるのでもいい。
──それは似ているものだから。
了
※ ※ ※
──そのホストクラブの入り口は二階にある。
歌舞伎町の区役所通りを曲がった奥。
階段を昇っていくと両側に所属ホストの宣材写真が飾られて、順番に通る者を見下ろしてくる。
中でもトウヤの写真は目を惹いた。
絵画からでてきたかのような正統派の美しさ。
──営業時間は終了しており擦れ違う客はいない。
天辺まで辿りつくと入り口は二重構造になっている。
社長である景虎が、一枚目の扉を静かに開け、中の様子を伺うと複数の声がした。
「トウヤさんっ、俺、頑張ったから──」
「うん。ありがとう──どうしたいの──ゃっ、噛むのは痛いから駄目」
「下手くそ。お前、変われよ」
「ぁっ、ん──」
「トウヤさん、僕も──」
「ありがとう──ぁっ、んっ──くちづけがすきなの?」
「トウヤさんに舌入れたい──」
──高い喘ぎ声が会話に混じる。
──微かに聞こえる卑猥な水音。
頭が痛いがリーク通りのことが行われているのだろう。
透哉の奴、頼まれたわけじゃないとはいえ──せっかく仕事を紹介してやったのに、またトラブルを起こすとは仕様のない。
社長としては状況把握をした上で、改善なり処分なりが求められる。
二枚目の重い扉も開けて店内に足を踏み入れたが、誰ひとり景虎のほうを振り向かなかった。
中央のアーチ状の長椅子に横たわる白い肌が透哉だろう。
その周りで五人の男が服を着崩しながら透哉に覆い被さっている。
群がる男たちの合間から見える透哉は全裸で、陰茎も尻の穴も何もかもを惜しげもなく晒している。
背中から腰までの曲線が女ように細く括れて、時折、首をあおのけてしなった。
羞恥も屈辱も感じさせずただ恍惚として躰を委ねている。
あられのない鼻にかかった高い声が店内に響く。
近づくと透哉が小さい尻を押し広げられ男の陰茎を咥えこみゆっくり抜き差しを繰り返されているのが見えた。
脇から腰にかけて何度も優しく撫でている別の男の手に合わせ躰がびくびくと反応している。
もともと色素が薄い肌を紅潮させて。
陰嚢を柔らかく揉みしだく指を広げた手も見える。また違う男は首筋に舌を這わせる。脇を舐めている者もいる。
男たちも透哉も夢中で、社長である景虎が見ていることに気づいていない。
「本当に綺麗な色──」
男の一人が吸い込まれるように透哉の陰茎を摘む。
「おい、勝手に独り占めすんなよ」
「──いいよ。そっちの子、胸を、あげるから、優しくして──」
透哉に胸を与えられた子はよろこんで薄い色をした小さな突起を大切そうに口に含んだ。
乳首を舌で嬲られた透哉が喘ぎ声を漏らしながら扇情的に背をしならせる。
景虎はもうあと数歩で透哉に触れられる距離まで近づく。
真っ先に気づいたのは透哉の後孔の内壁を隙間なく擦りあげている店長だった。
「え、あ──景っ──トウヤさんっ──」
「ぁ、んっ──」
店長は突然の上司の登場に驚いて穿つ腰の動きを止めたものの、透哉はもう周りが見えていない。
陰茎を愛撫している者も、手淫から口淫へと移り、視界が狭くなっていたため気づけずそのまま尿道口を舌でくすぐった。
ぞくぞくと痺れがはしり透哉は絶頂を迎えようとぎゅっと目を瞑る。
「──そこまで」
不意に張りつめた陰茎の根元を押さえられた透哉が目を開き、声の主──景虎を潤んだ瞳で見やった。
「ぇ、虎っ、離し、てっ、意地悪──」
「透哉はイくな。お前はイったら眠たがって話にならんから。お前らは続けて弄ってろ」
滅多に姿も拝めない雲の上の社長に命令されて、誰も逆らえずに手や口を動かした。
透哉はあと少しの追い詰められた射精感から逃れられないまま複数の刺激に責められ続け、悶えて内腿を震わせる。
「やっ、離してよ──寝ないからっ──やめて──」
景虎の手を退けようと透哉が華奢な指で掴むが動かせない。
その細い手を男の一人が恭しく口に含み舐め上げる。それを見た別の男が陰嚢を口淫しはじめる。
陰茎を舐めあげていた舌も、景虎の手を避けて先端のみをつついているが、ずっとその座を譲らない。
いくつもの舌から捧げれる甘い愛撫に耐えかねて透哉は思わず腰を浮かせるがイくことは叶わず、刺激をただただ受け続け、はしたなく乱れることしかできなかった。
「ぁっ、あ、いや、ぁっ」
「透哉がいややめてなんて、色っぽく煽るから、こいつら余計止まんないだろ」
景虎は冗談半分で笑ったが、実際のところ先刻までの素直に快感を受け入れて悦がる透哉よりも、我慢を強いられ悶える様子に男たちは興奮しているようだった。
「虎がっ、命令したからだろっ──だめっ、離し、て──イっても寝ないからっ──」
イく寸前まで熱をもった敏感な躰を予想外の奉仕で揉みくちゃにされて、透哉が綺麗な顔を歪めて景虎を見上げる。
甘い悲鳴混じりにやめてと訴え、長椅子の上で地団駄を踏むような仕草をしながら。
「やっ、離してっ、離し、てっ、ぁ──んっ」
「相変わらず堪え性のない子だなあ」
──取り巻きたちにそんな子供っぽい姿を見せるなよ。
景虎は仕方がないなと苦笑しながら、透哉の陰茎を押さえていた根元の手を離した。
申し合わせたように、先端だけを舐めていた子が全体を喉の奥まで飲み込む。
「ぁっ、ん、んっ──」
透哉は、腰を突き出し背中を反らして、か細い腕を景虎のほうへ伸ばした。
上半身をねじって抱きつき甘えるように艶のあるくちびるを寄せてくる。
それを舐めて開かせ舌を吸ってやると間欠的に何度も躰を痙攣させた。
透哉の射精は衆人環視の中、見せ物のようだった。
透明に近い体液を待っていたように男たちが舐めとる。
その様子を呆れたように横目で見ながら、景虎は手近なソファに座り一同を見廻した。
「──で、これは何がどうなってるんだ」
透哉が、息さえ整えば後は我関せずと、イったばかりの色気を纏ったまま、全裸で気怠げに立ち上がる。
VIPルームにあるジャグジーに向かおうとするのを景虎が座ったまま腕を引いて止めた。
「こら。話終わってないぞ」
透哉は躰の向きを変え、景虎の膝の上に座って機嫌をとるように首に手を回してくる。
「突っ込まれてるんだから、僕は被害者でしょ」
誘うような意味ありげな瞳と視線が合う。
自分まで懐柔するつもりなのか。
「俺にはお前が周りを侍らせているように見えたが」
「他人聞きのわるいこと言わないでよ」
店長が割って入る。
「社長、その、そもそも初日に──自分の客にヘルプで練習がてら付けたんですが──透哉を気に入って伝票を余分に切ってくれて」
本来は、締日に指名があと一本あれば賞金がでる──ような事例に使う手段。
店内に既に本指名客がいる場合、もう一人架空の客がいたとして伝票を切り二人分の料金を負担してもらう──当然本指名も二倍──二本のカウントになる。
「架空伝票を作らせて、それを透哉指名として料金を払ってくれたと」
「はい。遊び慣れているお客さんで」
つまり、店長の客が、新入りの透哉に指名を一本ご祝儀にくれた──のだろう。豪気なことだ。
透哉が拗ねたように口を挟んだ。
「僕、頼んでないよ。そんなシステム知らなかったし──けど皆がしてくれるから」
「──で、これが礼か」
「──そう」
「こいつが礼として躰を与えるから、それ目当てで架空伝票が増えたのか」
景虎は、透哉と店長そして従業員たちの頭を順番に軽く叩いた。
「お前は躰で礼を払うなよ」
「そんでお前は受け取るな! お前らも!」
にっこり笑ってありがとうで済ませられないのは透哉の生い立ちもあるのだろう。
愛されて育っていないと無償の好意をもらえる価値が自分にないように思えて何かを返さないではいられない。
──そう思うとあまり責める気にもなれなかった。
「だって──皆よろこんでくれたし、僕も気持ち良いし」
透哉が景虎の膝の上でしなだれかかる。
他の従業員たちは、皆、俯いている。
それぞれ自分の客になんと言って上乗せしてるんだか解ったものじゃない──リークは客からではないから上手いことやってはいるのだろうけれど。
「架空の伝票切ったって客が納得してその分を払ってるならいいよ。透哉は指名入って。店も売上あがって。税務署だって税金増えて、皆しあわせだ──けどな」
景虎はそこで言葉を切った。
「やりすぎるな。なんで実際の客席数より伝票上の客数が多いんだよ! 有り得ないだろ! 馬鹿野郎」
全く透哉が行くところ行くところトラブルになる。
──この顔。
──この躰。
──年々、精液を吸って色香が増す化物のようだ。
風紀が乱れると叱るか。
それとも、従業員の意欲は上がっているようなので黙認するか。
「やるなら、ちゃんと客席数と辻褄を合わせてくれ──以上。あと乱行もせめて寮でやってくれ。店長頼むぞ」
この辺が折衷案だろう。
説教が終わったとばかりに透哉は景虎から離れ、ジャグジーで躰を流しそのままロッカーへ行こうとする。
景虎が溜息をつく。
手に負えないほどではないが毎度世話のやける子だ。
「床が濡れるだろ」
「タオルない」
透哉の視線を受けた店長が備品から持ってきて躰をタオルでくるむ。
気に入ったようで、透哉は柔らかい手触りに埋もれたまま元の長椅子に横になった。
「眠い」
「だからイくなと言っただろ」
「ここで寝る」
「襲われたいのか」
「良いよ。もう一回くらい、別に」
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その手には乗らない。
一応、立場もあるし今回は叱る目的で着ているのだから。
現場を任せている店長に訊く。
「先月の改装でVIPルームにジャグジー入れたのも透哉のせいか」
「それもありますが──客受けも良いですよ」
半分寝ぼけているような透哉をまた従業員たちが弄びはじめている。
景虎が近づくと皆一様に手を止めたが、お咎めなしと解ると再び陶器のような白い肌を撫でまわした。
──まだ中学生のころの透哉を景虎は知っている。
大勢の前でこんな真似ができる子ではなかったのに。
もう、あれから十年以上経つのか。
景虎が透哉の両手を押さえ込むとうっすら目が開いた。
手首に力が入って抵抗する。怯えた瞳。
「──ッ、ゃ」
気まぐれに躰を与えるのは良いが力ずくはさすがに怖いのか。
陰茎を扱かれ、肌を撫でられ、ねだるように腰が揺れている。
濡れたくちびるがはしたなく開いて吐息が漏れる。
今は透哉に嫌われないよう振る舞っている──むしろ好かれようとしている──従業員も何かの弾みで牙を向くことがあるかもしれない。
リークがあったということは、透哉のことを快く思ってない者がいるのだから。
「店長、まじでこいつ頼むぞ」
「──解ってます」
悪戯にそっと会陰に指先で触れると透哉が目を見開いて躰を強張らせた。
景虎を見上げていやだと首を振る。
──弱いところは昔のままか。
皆の前で苛めてやってもいいのだけれど──。
この場で自分だけが知ってることを周りに教えてやるのも惜しくてそのまま躰から手を離した。
髪を撫でる。軽く睨まれた。
──いやなところも昔のままか。
髪から頬を伝い、首から肩をなぞり、乳首に触れた。
「──っ、ん──」
一瞬、躰を引いたが、胸を反らしてせがんでくる。
──可愛いな。
乱れる息。美しく滑らかな肢体。皆が手を触れたがる愛玩動物。
気が弱くて臆病で他人の手から逃げまわっていた、あのころの透哉も気に入っていたけれど。
現在の、躰を与えて周囲を利用する不敵さもそれなりに見ていて面白い。
自分も仕事を紹介した時点で──こいつに操られているのだろう。
今回のことを見逃すのも。
イきそうなときの仕草も変わらない。
もう一度、根元を押さえると、濡れた瞳で睨みながら文句を言う。
「また、やっ、離して、よ、いや──」
他の者も、さっきの透哉の痴態を見て要領が解ったらしく敢えて責めたてる。
我慢することが生来苦手な子だから、ぎりぎりの状態を強いられると逃れたくて悶える様が唆られる。
「──ッ、離し、てっ──」
「これ、お前らはやるなよ」
周囲が頷いたのを確認して根元を解放すると綺麗に背中をしならせた。
柔らかく背骨がひとつひとつ弧を描く様は艶めかしい別の生き物のよう。
躰にかかった体液を男たちに舐めとられ腹筋がひくひく波打つ。
綺麗で弱いと狙われる。
生き延びるためにこうならざるを得なかったことは哀しいが。
「透哉」
「ん」
「何か困ったらいつでもおいで」
「──うん」
いつもの去り際の会話。
けれど透哉から助けてと請われたことはない。
甘えられないなら、利用してくれるのでもいい。
──それは似ているものだから。
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