花嵐の丘 宵

坂口みなと

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由宇 大学生編「動かしちゃだめ」

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 年の差/くすぐり/羞恥

 ※ ※ ※
 
 ──まだ本人には言っていないけれど。
 
 由宇を養子にするつもりで。
 各方面に相談しながら話を進めている。
 
 由宇は、学費も生活費も自分でまかなわないといけなくて。
 さらに医学部に転部したいというから学生期間は二年延びるかもしれなくて。
 
 このままだと立ち行かなくなるだろう。
 その前に手を打たないと。
 
 ──透哉に釘を刺された。

「類が、由宇の金銭面を援助するなら手は出すなよ。弱い立場からは断れないし。それ虐待だからな」
 
 ──それは、そう。
 
 こっちだって普段、別に変な目で由宇を見ているわけじゃない。
 遊び相手に困ってもいないし、子供が好みでもない。
 
 ──ただ、少し接触しただけで過剰に反応してしまうのは──将来的に心配だなと思っているだけで。

 本人も不安そうだし慣れていければ良いのだけれど。
 
 ※ ※ ※
 
 寝室のドアは大抵開けっぱなしになっている。
 
 類は、ベッドの上で仰向けになりながら気怠けだるげに書類をチェックしていた。
 リビングにいた由宇がぴょこと寝室を覗き込みベッドに近づく。

 両手を類の顔の横につき、伸びをした猫みたいな姿勢で覆い被さってきて。
 類は、仕方ないな、と手にしていた紙の束を床に投げた。
 
 服の上から、背中や腰をあやすように軽く叩いたり撫でたりしてやる。
 由宇は小さく息をして少し躰を緊張させている。
 
 脇腹をなぞると、もう無理だったらしい。
 由宇が小さな悲鳴をあげながら体勢を崩し、類の腹の上に落ちてきた。
 
「ゃっ──」
 
 別に重くはないから良いのだけれど。
 
 慣れたらなんてことないよ──という類の言葉を信じているのだろう。
 本人なりに練習している。
 素直で真面目だ。
 
 あれから気が向くと、躰を類に触らせてみて耐えきれなくなるとするりと離れていく。
 それを繰り返している。

 ──可愛らしいのだけれど。
 
「そんな浅瀬でちゃぷちゃぷやってるだけだと一生泳げるようになんないよ」
 類が笑って指摘すると「──良いの」とちょっと睨んで言い返してくる。
 良くないと思っているから何とかしようとしている癖に。
 
 由宇は、もう離れようと両手をついて躰を起こす。
「なんだろうね。普通の人より皮膚が薄いのかな」
 言いながら類が、確認するかのように脇腹を摘んだ。

 由宇は咄嗟に両手で躰を庇い、再び類の腹の上に落っこちる。
「ひゃ、んっ──」
 
 類が少しでも脇腹の指を動かすと可愛く鳴いて手足をじたばたする。
 なんだか、そういう仕組みの玩具みたいだ。

 動きをとめても躰が警戒して起きあがれないらしく、類に指を退けるように息を切らしながら訴える。
「指を添えてるだけだって」
「やなのっ、脇腹から退けてっ」

「俺、信用ないなあ」
「ないよ! しょっちゅう揶揄からかうじゃんか──早く退けてよっ」
 
 こっちを真っ直ぐに見る瞳は不安気で。
 やっぱり慣れるほうが良いとは思うのだけれど。
 
「──褒めて育ててみようかな。そのまま、さっきみたいに両手を俺の横についてみ?」
「だから! 手を先に退けてよっ! だいたい褒める方針を当人にバラしたら意味ないじゃん」
 
「そう──かも。まあいいや。ほら、起きて起きて。俺の手は動かさないから」

 かなり疑いながらも由宇は、両手を類の顔の横について、上体を持ち上げた。
「お、じょうず、じょうず」
「うん──できた」
 
 方針として意図的に褒められていることは承知のはずなのに、まんざらでもなさそうな由宇が可愛らしい。
 
「そのまま動くなよ──服の中から、同じとこ触るから」
「えっ、やっ──」
 予告されただけで、また類の腹の上にぺしゃりと崩れた。

「まだやってないだろ──先に相手がどう動くか知ってたら脳が準備して刺激は減るって。不意打ちはしないから」
 
 由宇は少し逡巡した後、もう一度上半身を立てなおした。
 類は脇腹においた手を約束通り動かさず見守る。
 
「えらい、えらい。じゃあ、そのままな」
「ゆ、ゆっくり、して」
「はいはい」
「触るだけでっ、動かすのなしだからね!」
「わかったわかった」
 
 類の顔の横にある由宇の手が震えている。
 
 ──怖いんだろうな。
 苦手なことをさせられているわけだから。
 
 そっとシャツの中に手を入れて脇腹に触れると、一瞬ぴくんと躰が揺れたが体勢は崩れなかった。
 
「えらいじゃん。やっぱあらかじめ言われてたら身構えられて有利だな」
「──っ、でも、何か──ぞっとする」
「そうだね、無防備な体勢だし。ついでに脇も触っとくか」
 
 由宇が焦って早口でまくしたてる。
「待って! 触ったまま動かすのは駄目っ、一回、躰から離して!」
「──なぞられるのが無理なのね。わかったわかった」
 
 類が本人の希望通りにしてやると、脇に指がかかったときは小さく息を漏らして腕が内に寄ったけれど、体勢は保った。
 
「じょうず、じょうず。できるじゃん」
「うん、でも──変な感じする、もう、良い?」
 
「──動かしてないよ?」
「指が当たってるだけでも、なんか、いやだ」
 
「──くすぐっても良い?」
 言葉だけで想像してしまったのか由宇はまた体勢を崩した。
 類が笑いながら言う。
「お前、他人ひとの腹の上を何だと思ってんの?」
「類が変なこと言うからだよ!」
 
「子供の遊びじゃん」
「絶対やだ!」
 
 逃げようとする由宇は容易たやすく類に捕まって、今度は類の下に組み敷かれた。
 
「やっ、絶対いや! いやだ、類、やめて!」
 
 由宇は泣きそうになっている。
 無理矢理あれこれするのは触られる拒否感を悪化させてしまうだけだろうし──。

「──冗談だよ」
 
 類が折れた。
 けれど、躰を離しても由宇はそのまま宙を見つめてベッドから動かない。
 
「──何。やっぱりくすぐられたいの?」
 揶揄ったら、由宇は、ぱっと飛び起きたけれど、すぐ類にシーツへ押し戻された。
「ちがうっ、仕事しなよ、もうっ」

「お前が邪魔したんだろ──まだ触られたいの」
「ちがっ──何か考えちゃって──勝手に躰が動くって変じゃない?」
 
 どうやら由宇は触れられて反応することを理不尽だと捉えているらしい。
 類は笑ってしまった。
 ──変なのは、お前だって。
 
「勝手じゃなくて。ちゃんと脳から命令は来てるんだろ。どんな刺激だろうと一定の線を超えたら叫んて逃げろって信号が──痛くしてみようか」
 
 腕を捻りあげると、案の定、逃れようと躰をよじって悲鳴をあげた。
「痛ッ、痛いやめてっ、やぁあっ」
 
 離すと由宇は涙目で「馬鹿力っ」と文句を言いながら掴まれていたところをさすった。
 
「感じても似たことになると思う」
 ちょっと透哉の顔が浮かんだけれど、これくらいなら手を出したうちには入らないだろう。
 シャツ越しに乳首を狙って撫でまわすと、由宇は真っ赤になってシーツの上をもがきながら逃げ回った。

「ひゃ、どこ、触ってっ、や」

 焦ってやめさせようと由宇が伸ばした手を軽くいなして、指先で突起を緩く摘む。
 そのまま弄ると由宇は腰を浮かしながら抵抗した。

「やっ、変なとこ──やめてっ、やっ、ぁ」
「別に何処でも良いんだけど──すきなとこあれば変えるし」

 乳首をシャツの上から爪で引っかく。布がしゅしゅと鳴る。 
 脇腹ごと乳首を掴んで親指でゆっくり潰すと、由宇はいやがって上半身を振った。
 
「ぁっ、んっ──そんなの、わかんな、ちょっ、だめっ」
 服の中に手を入れて直に乳首に触れてみる。
 由宇の肩がびくんと跳ねた。
 
 再度、類の手をはばもうとした由宇の両腕を頭上に押しつける。片手で足りた。
 触られ放題にされた由宇が騒ぐ。

「手、押さえるなんてっ、ずるいっ──やっ」
 空いた手で芯をもちつつある乳首を優しく捏ねると吐息を漏らす。
 まるくなぶると腰をよじっていやだと首を振った。
「やだぁっ、ぁ──んっ」
 
 悲鳴──までは足りないか。

 類は、シャツを捲って、由宇のつんと尖った小さな乳首を口に含む。
 舌先でつついてくちびるで吸い全体を舐め上げる。
 由宇の躰は、自動的に背中を仰け反らし胸を突き出すような姿を晒した。
 
「やだぁぁあっ」
 
 あきらかに叫んだので口を離すと、由宇は紅潮こうちょうした顔で睨んでくる。
「手もっ、手も離してっ──」
「おんなじような反応だろ? たぶんくすぐっても叫んて躰よじるよ」
 
 由宇は、首を何度も振ってやめてと言った。
「もういいっ、もう解ったからぁっ──」
 
 類は由宇の抗議を意に介さない。
「あ、でもくすぐったら躰はよじるだろうけど──叫ぶというより笑っちゃうのかも。いや、年齢とかによるか」
 泣き叫ぶのも笑うのも顔の筋肉の動きとして大差はないはずで。
 どっちかに感情が振れるなら調整はできそうに思う。
 
 由宇が、弱々しい声で必死に訴える。
「もう、終わりにしよ。もう、今日は無し。手、離して──」
 
 類は、由宇のはだけていたシャツを胸が隠れるように直したけれど手は離さずにいる。
 
「子供って笑っちゃうけど──大人になるとあんな発作的な感覚じゃなくて、何か──不快感みたいになる気がする」
「悪かったね、子供で!」
「笑うの?」
「わかん、ない、けど──」

 由宇はどんどん不安になっている。
 類が由宇の下肢に腰を下ろした。手首も押さえられているので逃げようがない。
 
「ちょっと、待って、待って、やだやだっ──」
「──笑うかな?」
 
 類が、空いている片手で由宇の脇を軽くシャツの上からくすぐったら本当に笑った。
「やっ、あははっ──やだっ、やっ」
 
 小さな子供みたいで。
 けらけら笑いながら類の手から逃れようとした。
 なんだかつられて類も笑いそうになる。
 
「やっ──ぁは、離し、てっ、くすぐったいっ、あはっ、やっ、だめっ──」
 
 躰をよじってはいるけれど。
 笑ってるのだから悲鳴とはちがう反応で。
 激しかったら叫ぶのか──それとも箇所の問題か。
 
 手っ取り早く、シャツの中に手を入れて脇を直にくすぐったら「やだぁああッ」と高い悲鳴とともに強い力で躰が反ってベッドサイドに頭をつけるところだった。
 
 類は即座に由宇の手首を離し、頭を抱き込んで口を塞いだ。すぐ解放する。
「一応、マンションだからさ。気をつけて?」
「そんなの、いっぱいいっぱいで加味できないよっ」
 
 腕は自由になったものの何度も叫ばされて由宇は軽く咳き込んでいる。
 強引に躰を支配されて息が切れて顔が赤い。
 
「大差なかっただろ。痛みで悶えようが、感じてがろうが、くすぐったくて身をよじろうが、動きに大した違いはないって」
 
「そうだけど──」
 
「別に由宇だけがそうなるわけではないし。皆──脳の命令で勝手になっちゃう」
 
 類からすれば、由宇の躰は、思いどおりの反応を引きだせる──簡単に。
 可愛いけれど。
 
 ──自分は何をもってこいつを可愛いと思っているのだろうか。
 
 外見ではない。姿だけなら透哉が頭一つ抜けている。若さでも勝てないくらいに。
 
 懐いて後をついてくるから可愛いのか。
 気分で多少邪険に扱っても、その場で泣いたり怒ったりはするものの、すぐけろっとしてまたくっついてくる。
 
 ──養子にするなら一生の付き合いで。
 
「お前の境界線は何処?」
「──え」

 由宇の肩を押してシーツに倒す。ついさっきあんなに類に躰で遊ばれたのに素直にころんと横になる。
 まだ顔が赤い。
 
「──これをされたら俺の顔も見たくないってことは何?」
 
 大きな茶色い瞳に類が映っている。
 真顔で由宇が即答した。
「すきにして良いよ」
 
 類が、真意を測りかねて対応を迷っていると由宇が再び口を開いた。
 
「唯がひとりは怖いと思うから一緒に逝く──だから、それまで俺の躰は類がすきにして良いよ。無くなっちゃうから今のうちに」
 
 ──思考回路が極端で子供すぎる。
 由宇は、死にたがりの類の妹につきあうつもりでいるのか。
 類は呆れた。
 
「そんなこと唯に言ったの」
「言ってない。でも──一人で逝かせるつもりはないよ。あんなに怖がりなのに」 
 
 類は、段々腹が立ってきた。
 
「子供なんだよ、お前。視野が狭い。死ぬって何か、すきにされるってどういうことか解りもしないで大口叩くな。怒るよ」
 
「俺、本気だよ」
 射るような眼差し。
 それが正しい答えだと信じている。
 始末が悪い。

「そう。じゃあすきにさせてもらうよ」 
 
 少し──いやがることさせればすぐ泣いて音をあげる癖に。
 
 ※ ※ ※
 
 ──類に怒られた。
 
 でも躰は一つしか無いから、唯にあげたら、類には残せない。せめてまだ在るうちはすきにされて構わない──と思う。
 
 だからされるがままに脱がされた。
 肌が外気に晒されて総毛立つ。
 全裸でベッドに倒されてる状況と見下ろしている類の視線が恥ずかしくて目を伏せた。
 
 自分は裸なのに、類は服を着たままだから、何だか凄く不利で心細い気持ちになる。

「俺がすきにして良いんでしょ。はい、万歳」

 胸元と下半身を隠していた両手を掴まれたらもう無理だった。

「待って、いや! 服返してっ」
「お前、前言撤回いくら何でも早すぎだろ」
「見たら、やぁだっ、離してぇっ」

 半泣きになってたら、類が苦笑しながらシャツだけ着せてくれた。でも腕は上だからシャツが引っ張られて下半身が見えそうで心許こころもとない。
 
「明るいのも、いやっ」
「すきにして良いって言う割に注文が多いな」
 
 少し笑われた。
 怒っているというより呆れているのかもしれない。
 ちゃんと考えて決めたことなのに。
 
 でも、すきに、とは言っても無理って思うことはあって。
 
 半分くらいの暗さに調整されて少し不安感は減ったものの──さっきみたいに事前にすることを知らされていないと怖い。

「何するか教えて」
「本当に注文多いな」
 
 また笑われたけれど「横を少し触るよ」と知らせてくれた。
 
 脇腹から腰あたりを指先で柔らかく撫でられる。さっきみたいに笑うほどの刺激はなく悪寒というか──ぞわぞわする。

 じっとしていられなくて脚をばたばた動かしていたら膝あたりに跨られた。
 
「んっ、ん──」
 
 こういう勝手に躰が動く感じが苦手で。
 似たような反応なのは解ったけれど、痛くて動いちゃうならそんなに恥ずかしくないのに。
 
 そのまま肌を滑り下りて太腿まで指先がくると躰が強張った。
 横といえば横で。でも。
 内側に指が回ると、くすぐったくて脚をぎゅうと閉じた。
 
「──くすぐったい?」
 類が笑う。
 絶対わかっててやってる。
「それ、横じゃ、ないっ」
「躰って正面と背面以外は、全部側面──横だろ」
「内側は、ちがうっ、だめっ」
 
 必死で脚を閉じているのに、類は声をたてて笑う。
 絶対面白がっている。
 
 類は、跨っていた膝から一旦退いて、抵抗する脚の間を広げてそこに座り込んだ。

「うちがわ、やぁだっ」
「横だってば」

 類が笑いながら内腿をすう、と繰り返しなぞってくる。

「やっ、やめっ、んっ──」

 脚を閉じようとしても間に類がいるからどうすることもできなくて内側が空いてしまう。
 
 しかも剥き出しの性器も見えやすくなってしまって由宇は不安から一段と過敏になった。

 太腿の内側を何度も行き来する指に反応して躰がくねくね動いてしまう。恥ずかしいのに我慢できなくて。
 
「やだっ、くすぐった、ぃ、やっ、んんっ」
 
「──くすぐったいの。くすぐってみる?」
 優しく内腿をつつきながら訊かれた。
「んっ、絶対やだっ、やっ、やだからねっ」慌ててめたのに本当にこちょこちょと指を動かされる。

「ひゃ、ぁっ、ぁあ、んっ、離し、てっ、いやぁっ」
 
 脚をばたつかせながら訴えても全然やめてもらえなくて。
 段々指の位置があがってくるから際どいところに届きそうで。

「ぁ、だめっ、やぁんっ、だめぇっ、ゃっ、んっ」
「──喘ぎ声、混じってるよ」
 
 そんなこと言われたら余計。
 鼻にかかった声を抑えようとしたけれど、上手くいかなくて首を振るしかできなくて。
「ゆびっ、とめてっ、ぁ、ゃっ、いやぁ、んっ、おねがいっ、るい──」
「──そんなに駄目?」
 笑ってるし。
 類の馬鹿。
 
「うごかしちゃ、だめっ──」
 脚ががくがく揺れて、膝が内に曲がって類の躰を締めつけてしまう。
 
「──脚の付け根もかな」
「ぁ、えっ、だめだめっ、だって──」
 
 こないださわられたあとに類に言われた。自分は躰が分かれるところ──腕や脚の付け根や、指の間が──苦手だねって。
 
「──ゆっくりにするから」
 
 類はそう言うけれど。
 由宇の全身に鳥肌が立った。
 
「やっ、だめっ、絶対、動かさ、ないでっ」

 太腿でこんなに駄目なのに。
 必死て叫んだら類のほうが笑い転げている。
「絶対、とか、そういう言葉を使うのがやっぱり子供だな」
 
 言われている意味がよく解らなかった。
「絶対、とか、一生、とか無いって大人は解ってるの」
 そう説明されても。
 だって、絶対は絶対なのに。

「──くすぐるからね」
「やだって!」
「すきにされたいんでしょ」
「すきにして良いと、すきにされたいは、ニュアンスちがっ──ぁあ、やっ、だめっ」
 
 苦手な鼠蹊部を指を立ててゆっくりくすぐられて。
 逃げたくて逃げたくて力いっぱい足掻いても、両手は頭上で捕まえられているし、脚は間に類がいるのでどうにもならなくて。

 そこは神経を直にくすぐられているようで耐えがたくて。
 敏感な付け根に沿って撫でくりまわされ由宇は悶えて類の名前を何度も呼んだ。
 
他人ひとの名前、犬みたいに連呼すんなよ──ゆっくりにしてやってるって」
「ぁっ、んっ、ゆっくりでも、もぅ、だめっ、類っ、だめぇっ、もうやだぁっ」
 由宇は耐えられなくて躰を跳ねさせ全力で暴れた。
 腰が浮いたり沈んだりしてベッドがみしみし鳴る。

「やだぁっ、やっ、ぁあっ、やめてっ──るいのばかぁっ」
 
 喉がひゅ、といやな音をたてて苦しいと思った瞬間、指が離れた。

「──ちゃんと腹筋の形、解るな」

 不意につつかれて腹がびくんと動く。
「言う、のと、同時は、むりっ、先に予告してってば!」
「それはごめんね──じゃあ──ここ、少しだけ」
 
 何処どこ、と指先を見たら、陰嚢に触れようとするところで、正視できずに目を瞑った。
 
「そんなのっ、やっ、ぁ、だめっ、だめっ──」
 
 指が触れたのが解って躰がすくむ。
 
「動かさ、ないでっ」
「──ゆっくりね」
「だめっ、絶対やだ、やっ、ぁ、ん、やぁだっ」
 
 やだって言ったのに、こちょこちょと指先全体を動かされて、くすぐったさと恥ずかしさで、もう類の顔は見れなかった。変な声も止まらない。

 なんで類のほうはこんなことしながら普通に喋れるのだろう。
 感じはじめて腰が震えてくる。
 躰がくねってとめられない。
 
「く、んっ──やだぁっ、るい、やめ、てぇ」
 
 類が無言だったので堪らず怖くて薄目を開けたら、勃ちあがった自分のものが左右に振り子のように揺れている。
 由宇は、一瞬で耳まで真っ赤になった。
 
「待って、待って待って! 類! 見ないで! いやっ、やめて!」
「え」
 
 急に叫んだ由宇を、驚いたように見下ろした類と目が合った。
 由宇の躰が羞恥で震える。
 
「ゆ──揺れるの、いやだ、いやなの、やめて」
「そんなの躰の構造上、当たり前じゃん」
「やなの! ゃ──」
 
 声も震えて泣きそうになる。
 類は手をめてくれなくて相変わらず陰嚢や陰茎の根元あたりまでくすぐってくる。

 敏感な箇所が刺激を拾って腰がよじれる。
 そこが揺れるのをめられない。
 
「やっ、どうしても、やだっ、おねがい、類っ、やっ、やだぁっ」
 
 女の子みたいな躰だったら良かったのに。こんな他人から見て感じてるのが丸わかりなんて信じられない。
 
「そんなに揺れるの恥ずかしいなら動かなきゃ良いじゃん」
 
 そんなことくらい言われなくても解っているけど勝手に。
 
「やっ──ぁ、あっ──だめっ、るい、ゃめ、て、離してぇ」
「ほら、動き緩くしてやるから」
 
 由宇は必死に眉根を寄せて躰を動かさないよう震えながら耐えている。
 手の指も足の指も丸めて。
 それでもどうしても我慢できない。

「だめっ、むり、るい、離してっ、おねがい──」

 真っ赤な顔で瞳を潤ませて、類を見た。
「──じゃあ、指一本だけにしてあげる」

 類の指がくるくると陰嚢の裏あたりをくすぐってくる。
 刺激自体は減ったけれど、一点を狙われるから何処をどう触られているかを自覚させられてしまう。
 指先ひとつに操られているのかと思うとそれも恥ずかしい。

「ゃっ、くっ、んん」
「じょうず。えらいえらい。我慢できてるじゃん」
 
 笑いながら褒められたってうれしいわけなくて。
 涙目で睨んだら、そのまま尻の割れ目を悪戯いたずらにくすぐられて。
 もう動かないなんてできなかった。
 
「ひ、ぁっ、やだっ、本当にやっ、むりっ、ぁ、あ」
 
「かなり譲歩しているよ──そもそも、すきにして良いんでしょ。くすぐったくても恥ずかしくても文句言うなよ」
 
 だって勝手に刺激を拾って躰が揺れて。いやなのに。
 
「何にも知らない癖に簡単に死ぬとかすきにしてとか言わないの」

「簡単じゃない!」
「まだ言うの? 言えるの」

 類が軽く由宇の陰茎を指で弾いて揺らした。
「やめてよ! 類のばかっ」
 
 大粒の涙がぽろぽろ溢れた。 
 また泣き虫だ、子供だって思われる。
 めたいのに止まらない。
 
 自分の躰は全然言うことをきいてくれなくて。
 
 子供っぽいと思われたら、また自分に良くないと類が判断した情報は伏せられる。
 それはいやなのに。
 
 ※ ※ ※
 
「──ごめんって」
 泣きじゃくる由宇を抱きしめたら震えている。
 
 子供なりに色々考えたのだろうと思うと、健気でいじらしくはあるのだけれど。
 
 ──まずいよな。
 
 ここで優しくしてしまうと飴と鞭になってしまう。
 依存させる安いホストみたいな手口にはならないように気をつけたい。
 
「──ごめんてば」
 甘ったれだから機嫌を直すのは楽なんだけれど。
 あまり落差のあることをすると人間ハマるから良くなくて。
 
 ──かといって放っておくわけにもいかないか。 
 
「頑張った頑張った。可愛い可愛い」
 背中を軽く叩いてあやす。
 髪を撫でて顔を近づけると「褒め方が雑」と文句を言われたがしがみついてきた。

 ぎゅうと首に腕を絡めてくる由宇の体温は高くて。
 十九歳としては幼ない甘え方。
 
 ──今からでも養親として大切にしたら。

 過去の親から貰えなかった分の愛情は補填されるのだろうか。
 そうしたら満足して子供から卒業できるのか。
 
「来年、二十歳だもの。もう俺、可愛いなんて言われなくなるよ」
「──別に、若いから構っているわけじゃないよ──だって透哉と未だにしてるんだし」
「──何?」
 
 ──あ。
 安心させようとして墓穴を掘った。
 至近距離から由宇の不思議そうな表情と大きな瞳を見たら、これ、こいつ、本当に。
 
 ──え。
 何を知らない?
 自分と透哉の関係?
 それとも──こないだ、後ろに指を少しだけ入れたけど──それがそもそも何のためかを解っていない?
 
 どっちを知らないのか。
 両方知らないのか。
 
 ──別にどっちも知らなくても良いことだけれど。

 知らないですきにして良いなんて言うなよ。
 物知らないって怖いな。
 こいつ表を歩かせて大丈夫なのか。
 
 高校のとき痴漢されて怯えていたのも、こないだ自分に脅されて泣いていたのも──何をされるか解らなくて怖かったのか。

 類は頭を抱える。
 自分の子供のころとあまりにも違う世界観。
 
「──なあに?」
「──大人になったらね」 
「十八歳から成人だよ」

 ──まだ生意気言ってるし。
 
「くすぐられて泣きべそかいてたの誰だっけ?」
 
 由宇の陰茎をつついたらさっきの自分の痴態を思い出したのか真っ赤になってシャツを引っ張って隠した。
 
「もう忘れてよっ」
「お前も今のやりとり忘れて?」
 
 由宇は瞳をくるくる動かして少し考えてたけれど小さく頷いた。
「──うん」
 
 単純だ。
 簡単に丸め込める。
 こんなの透哉にだって扱える。
 だから注意喚起してきたのだろうけれど。 

 ──くちづけは手を出したことになるのだろうか。

 無防備な口許。
 類は内緒──とでもいうかのように由宇の柔らかいくちびるにそっと人差し指で触れた。
 
 了
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