花嵐の丘 宵

坂口みなと

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蒼 小学生編「見ないで」

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 不憫受け/ショタ/くすぐり
  
 ※ ※ ※ 
 
「お兄ちゃんに連絡してくれる? すぐ来てって。今日の取引に行かないでって」
 
 あおは、夏でも長袖を着て肌をさらすのをいやがる。常に前髪を長くたらして顔も隠している。
 人嫌いで神経質だ。
 
 育ててくれている兄には、ただでさえ迷惑をかけている。役立たずで不登校で。
 
 ──お兄ちゃんに嫌われたくない。
 
 さらわれてからずっと黙っている。他人と口をきいた記憶はもう何年もない。
 
 ポーカー台の並ぶ部屋に知らない男と二人きり。
 窓がない壁。打ちっぱなしの天井。それと男の声の反響から察するに地下室のようだ。
 もし蒼が声をだせたとしても、きっと外には届かない。
 
 男は椅子の一つに座って「おいで」と優しく呼んだ。
 人を攫うようなやつなのだから油断をしてはいけない。
 
 恨みをこめて睨んだが、男は意に介さず、抵抗する蒼を無理矢理に抱きあげ、膝に乗せた。

 掴まれている腰の手が不快だ。
 背中にあたる男の胸も気持ち悪い。
 他人と直に接触するのがいやだ。
 
「喋れなくて学校も行けてないんだって? 環境変えようと、お兄ちゃんのいる東京に出てきたみたいだけど、どう?」
 
 ──自分のことを調べている。

 蒼の警戒心が強くなる。
 背後から抱きしめるようにして脇腹を触られた。
 ぞっとして思わず小さい悲鳴をあげる。
 
「ぁっ」
「声、だせるじゃん」
 
 わざと試したのか。
 しゃくにさわる。
 この男はきらいだ。

 怒りにまかせて背後をひじで打とうとしたが、男が指を動かすほうが早かった。
 刺激で勝手に躰がよじれる。
 
「ゃめっ、離せ、ん──ッ」
「聞こえないよ、なあに」
 
 逃れようとしても大人の腕力に敵わない。ちゃんとやめてって声をあげられたのに聞こえないふりをされた。
 悔しい。躰を這う手がいとわしい。
 
「離せっ、て、んんっ、ゃ、め」
「聞こえないな」
 
 抗議を無視されシャツをまくられる。

「やめっ、やっ──」

 蒼の小さい手が侵入をはばもうと男の指を掴む。けれど力差がありすぎて何の障害にもならなかった。

 男の手がゆっくり素肌を撫でて腋窩えきかまで辿たどりつく。

「やっ! いやぁぁ──ッ!」

 自分でも驚くような金切り声が地下室に響いた。
 
「ちゃんと喋れるじゃん」
 そのまま指を立てて窪みをまさぐられる。
 強制的に笑わされるのがいやで抑え込んだら躰がひとりでにびくびくと跳ねた。
 息があがる。体温もあがって耳朶じだが熱い。
 
「ふっ、あは、ゃ、離せ! 離せよっ、んぅ」
「あら、笑って可愛い」
「離せって! ふ、やめてっ、やっ──」
「子供の脇って柔らかいなあ」
 
 さっきより大きな声で言えたのに聞き入れてくれない。
 ──酷い。
 精いっぱい声をあげているのに。

 必死に脇を閉じても指の動きを遮れない。
 男の指に撫でたりつついたりもてあそばれてくすぐったくて堪らない。
 込みあげてくる感覚を我慢できずに悶えるしかできなくて。
 全身に力を入れすぎて顔が真っ赤になる。
 
「ふっ、あは、やめ、てっ、離せよ、しつこいっ──」
 
 ただでさえ他人と接触がいやなのに。
 早くその手を離してほしい。
 躰が激しく左右にねじれる。
 肩で息をして呼吸が苦しい。
 
「離せ、よ、苦し、やめ、てっ──」

「お兄ちゃんに、今すぐ来てって連絡してよ。僕もさ、お願い聞いてもらえなくて困ってるんだよね」
 
 どん、と背中を押され唐突に膝の上から落とされた。
 咄嗟に床についた両手で躰を支え、苦しかった呼吸を整えているとあごを掴まれた。天井が見えた、と思った瞬間。

 じゃき、と前髪が雑に切られた。
 
 ──顔を見ようとしているんだ。
 
 頬に一気に血がのぼり、振り向きざまに男の腹を蹴った。
 
「元気じゃん」
 
 全然効いてない。
 髪を引っ張られて立たされる。
 そのままポーカー台に引き倒された。
 
 蒼はあらがって手で顔を隠そうとするが間に合わずに両腕を押さえつけられた。
 まともに男と目が合う。
 
「可愛いけど、やっぱり似てないな」
 
 両親にも兄にも似ていないことは知っている。それでうとまれていることも解っている。
 
「僕は、お兄ちゃんに嫌われたら、もう行くところがないから、お仕事の邪魔はできない」
 
 声を振り絞って伝えたのに、男は蒼を見下ろしながら「お兄ちゃんに媚びて生きていくの情けなくない?」と笑った。

うるさいな! 今は仕方ないだろ!」

 蒼は、かっとなって押さえられている両腕はそのままに、腹筋だけで跳ね起きて男を蹴った。頬から耳にかけて当たった。
 
「本当に元気だな。意外と身体能力も高い」
 
 男は面白そうに呟くと、蒼の脚に跨って、さっきとは比べものにならないくらい激しく脇腹をくすぐってきた。
 
「あ゛ぁぁ! ぁは、離せっ──離し、て! ひゃ、ふ、ごめんなさ、ごめんなさい──ぁはは、いやぁぁぁ!」
 
 躰を必死に両手で庇っても、別の箇所が狙われるだけで意味がない。暴れて肩や頭がポーカー台にがんがんぶつかる。

 蹴ったことを後悔してひたすら謝るが許してもらえない。
 
「痛かったなあ」
 
 わざとらしく言う男にシャツを剥ぎ取られた。
 蒼はパニックになった。
 ずっと隠して長袖で生きてきたのに。
 直接腰をくすぐられていやいやと跳ねる。
 躰が制御できない。
 不安感で過剰に反応してしまう。
 
「返せっ──見んなっ、やだ、ごめんなさい、やだっ──」

「火傷とか傷痕もないし。なんでいやなの」
「いやなんだよっ! むりっ、離せってば──」
  
 人前に晒される不快感に肌が粟立つ。
 その敏感になった皮膚を指を立てて刺激されると耐えられない。

 右に避けると腹を揉まれ、左に避けると背中を撫でられる。ずっとくすぐられ続けて逃げ場がない。涙が瞳にたまる。 
 
「半裸で泣くの? 男の子なのにいやなの」
「やなんだよ! ふ、ぁは、離せ、離せよ! あぁぁ──」
「そう」 
 
 男が一層激しく指を動かすと、あ、あ、あ、とびくびく全身が跳ねる。
 構わずに続けられて、蒼は、あぁぁぁ──ん、と赤ん坊のような声をあげて泣いた。
 
 やがて疲れて、しゃくりあげながらおとなしくなった。つつくとぴくんと反応はする。
 抵抗する力はもうないとみて男は手を離した。
 
 蒼の瞳にまだ残っていた涙がぱたぱたと台に落ちる。
 男は片手でそっと蒼の細い首を締めた。
 蒼は、もう目を閉じてされるがままになっている。
 
 空いた手はゆっくり蒼のベルトにかかった。気づいて腰を引くが大して動けない。
 
「ゃめ、て、ぃや──」
 
 首を締められながら、か細い声で訴えるものの四肢に力がはいらない。意識が落ちる。

 男は、動かない蒼を裸にして台に括りつけた。
 
「お兄ちゃんにも、見てもらおうね」
 
 ※ ※ ※
 
 がくは、たまには良いことをしようと思った。
 いつも、ろくなことをしていないから。
 違法な収入。
 暴力沙汰。
 浮気。
 ギャンブル等々。
 
 だから、実家から歳の離れた弟が不登校になったと連絡があったとき「環境変えてみたら。しばらく俺が東京で面倒みるよ」と請け負った。
 
 結果、蒼は兄──岳のいざこざに巻き込まれた。やはり、やり慣れないことはしないほうが良い。
 
 ※ ※ ※
 
 夕方に取引を控えているが、まあいいかと酒をあおっていたところに着信があった。

 送られてきたのは動画で。
 岳の任されている違法ポーカー店で、弟が裸で台に縛りつけられていた。
 
 まさか「自分がやってる違法な店で弟が被害を──」なんて警察に届け出るわけにもいかない。
 こっちも捕まる。
 
 どうせ殺されはしない。
 今日の取引にそんな価値はない。
 ちょっとつついて中止になればラッキー程度だろう。
 
「見たよ」

 発信元に繋げ短く告げるとさかき──どうせ本名じゃないだろうがそう呼ばれている──は〈そう〉と応えて通話を映像ありに切り替えた。
 
 画面越しに見る蒼は、身動きひとつせずおとなしく台の上に囚われている。
 目は開いてるので起きてはいるようだ。

 ──目。
 
「え。前髪切ったの?」
〈そう〉
 
 いやがったろうに。
 どうせ東京にきた事情も調べているのだろう。
 知った上でやっている。
 
「本当にやめて。その子、あんまり喋れないの知ってんだろ。人嫌いだし神経質だし──不登校になってるくらいだから、巻き込まないでよ」
 
 画面の向こうで榊がちょっと笑って蒼の脇腹をくすぐった。
 
〈やだぁぁぁぁ!〉
 
 まだ子供の高い声。
 ポーカー台がぎしぎし揺れている。
 
〈結構、喋れるよ〉
「やだって言ってるだろ。ちゃんとやめてやれよ。本人必死て訴えてんだから」
 
 榊の端正な指にすきにくすぐられて蒼が躰をがくがく揺らしながら悲鳴をあげ続けている。
 
「それに、ただ叫ぶのと喋るのは違うだろうよ」
〈それは、そう〉
 
 指も悲鳴も止まった。
 画面の蒼はぐったりして胸を上下させている。
 
〈さっき僕、二度も蹴られてるんだよね〉
「どうせけれた癖に。何やってるの」
〈怒ってるの可愛くて〉

 そっと榊の手が蒼の膝あたりに触れた。
 
〈ゃ、あ──〉
 
 蒼が不安そうな顔をしている。
 そのまま指が這いあがって太腿を撫でる。
 
〈んぅ、ゃ──〉
 
 緩い動きなので叫ばずに耐えられる程度なのだろう。
 それでも脚は震えている。
 内側に指が回ると声が一際ひときわ高くなった。
 
〈ゃ、ん、ぅ、やだっ──〉
 
 岳は何年かぶりに見る蒼の顔から目が離せなくなっている。
 
 躰を人前に晒している所為せいか、力をこめて刺激を堪えている所為せいか、顔を真っ赤にして目尻に涙を滲ませている。
 
 自分のせいかと思うと心が痛んだ。
 榊の指が、蒼の足の付け根の際どいところをかすめる。
 
〈ゃ、やめっ──んぅ、ぁ──〉
 
 蒼は榊の指先をずっと見ている。
 何をされるか怖くて視線をはずせない。
 
〈これ感じてるよね〉
「変な性癖を教えるなよ」
〈僕、別に子供すきじゃないけどね〉
「お前の趣味は訊いてない」

〈でるのかな〉
「無茶言うな。歳も歳だし、躰も小さいし」

〈イければいいか〉
「もう、俺そっち行くわ。返して。ストレスを与えんのやめ。やっと少し東京に慣れてきてたのに」
 
 標準語なら、やめろよ、となる箇所を、やめ、でとめるのは方言で。咄嗟にでてしまった。
 焦っているな、と岳は自分でも思う。

 携帯をポケットに突っ込んでマンションの廊下に出たら知った顔が待ち受けていた。

 ──榊のところの。

 しまった、と思ったが遅く、そのまま岳も攫われた。
 
 ※ ※ ※
 
「馬鹿な兄弟」

 榊がそう言いながら岳の胸を蹴った。後ろ手に縛られているのでバランスが取れず、肩から台に倒れる。
 
 蒼は変わらず、裸で台上に固定されている。
 右隣の台には、縛られて転がされてる岳。

 左を向くと、見下ろす榊。
 扉の外には、岳を攫った男が見張っている。
 
「あとは取引の時間が過ぎれば完了だな」
「俺を押さえていればそれで用は済むだろ。蒼を離してよ」
「そうなんだけどね──」
 
 榊は、先刻の映像と違わず、蒼の太腿を撫でくりまわしている。
 
「ゃ、やだ、んっ──」
 
 岳に顔を見られたくないのだろう。蒼は反対側の榊のほうを向いて俯いている。
 
「せっかく来てくれたんだから、お兄ちゃんのほうを見たら?」
 
 蒼は真っ赤になった顔を動かさない。
 身内に見られるなんていやなのだろう。
 榊の手が鼠蹊部をなぞる。
 
「あっ、ゃ、やめっ──」
「お兄ちゃんのほうを見ないと、もっと酷くするよ」
 
 指先でそこを何度も往復されると脚にぎゅうぎゅう力がはいる。震えが止まらない。
 
「──酷くしていいの?」
「ぅ、っく、や、見る、からっ、ぁ──」
 
 蒼は顔を岳に向けた。
 視線は合わない。
 岳の腹あたりを見ている。

 それでも、みるみる耳まで赤くなってきたのを見て、可哀想で岳は目を伏せた。
 
「お前も見ろよ。せっかく兄弟揃ったんだし。視線はずしたら蒼に酷くするよ」
「蒼のいる意味は何? お前の趣味? 俺でいいならすきにしろよ。蒼は返せ」
 
 榊はちらっと岳を見て「お兄ちゃんやってるなあ」と笑った。
「まあ、確かに用済みではあるんだけど」
 
 まだちょっかいをだしている。
 蒼は内腿に力を入れて震えて耐えている。
 
「子供すきじゃないって言ったじゃん」
「そうなんだけど──比較実験かな」

 岳が咎めても要領を得ない。
 意味がわからない。
 縛られた不自由な躰で怪訝に思って見ていると、榊は蒼の胸元を軽く撫でた。
 
「ぁ、いゃ──」
 
 蒼は躰を固くして怖がっている。
 そこは女の子扱いされているようで恥ずかしい。
 細い指が蒼の乳首に柔らかく触れる。
 くすぐったい。
 
「ゃ、んぅ」
 
 台に固定されていて刺激が逃がせず身悶えする。
 
「ちゃんとお兄ちゃん見て?」
「ぅ、ん、やめっ、て──」
 
 榊の指先が小さい乳首を薬でも塗っているかのように優しくゆっくり撫でまわす。

 下半身がぞくぞくする感覚を蒼は押し殺したくてもがいた。
 乳首を触られて感じているところなんて見られたくない。
 
「こら、酷くされたい?」
「ゃ、やだっ、んっ──」
 
 かろうじて顔をあげる。
 腰ががくがく震えている。触られているのは違う箇所なのに。
 
 榊は、それを把握して片手で腰を押さえつけ、僅かに残っていた可動域を奪った。その上で反応して芯をもった乳首を舐める。
 
「んっ、ちょ、っ、いゃ──だめ、ぁ」
 
 微動すらできなくされた腰に刺激が響く。涙で視界が霞む。榊が抑えつけていた腰から手を離して、そのまま──可愛いまだ小さな陰茎をゆっくり捉えた。

「ゃめ、やだぁぁ──!」
 
 はじめて他人に触られた。焦って腰を必死に引くが台がぎしぎし鳴るだけで動けない。
 
 榊は手探りで陰茎の輪郭を確認すると、胸から口を離した。
 そのまま指先で形をなぞる。蒼は怯えながらも無意識に膝を擦り合わせてしまう。
 
「ちゃんと反応するね」
「でないって。やめとけよ」

 岳は口で制止するが動けないので実際は何もできずにいる。 
 
此処ここ、触ったことある?」

 榊に訊かれた蒼は脚をもじもじさせながら悶えている。
 軽く撫でられているだけとはいえ蒼の認識だとそこは急所だ。
 怖くて身震いがとまらない。
 
さわれないの?」
「──ぁ、洗う、ぁ、あらう、とき──」
 
 酷く扱われるのが怖くて、必死て応える。
 
「そう。えらいね」
 
 榊がそう言いながら玩具を取り出したのを見て、岳は慌てた。
 
「だから! 変な性癖教えんな」
「だって人間が嫌いなんだろ。ならちょうど良い」
「そういう問題じゃないだろ」
「──もう黙ってて」
 
 唯一動かせていた口もテープで塞がれる。
 蒼のまだ小さな陰茎を榊の指先が優しく擦った。
 
「ゃ、んん、触らない、で、ぁ、いゃ──」 
 
 榊が蒼をあやしながら、ゆっくり玩具に誘導する。
 
「いい子。大丈夫、じょうずだね」
「ぁ、ゃ、いゃ、やめてっ」
 
 ぬめる感覚に腰が引けるが許されない。
 幼い陰茎を先端から徐々に細かい突起におかされ、蒼は首を振っていやがった。
 岳は、玩具に飲み込まれていく様を見ていることしかできない。
 
「じょうずにできてるよ」
「ぁ、ん、ぃや、み、見んな、ぁぁ──」
 
 玩具全体が根元まで覆いつくすと、突起が規則的に蠕動ぜんどうしだした。
 液体の音がちゅ、ちゅ、と部屋に響く。蒼が、あ、あ、とそれに合わせて切ないような悲鳴をあげる。

 亀頭の段差に引っ掛かるようなうねる刺激を送られる度に蒼の腰が跳ねる。
 
 飲み込まれた陰茎を、榊の手で、今度は引き摺りだされ、蒼は仰け反って喘いだ。

 「あ゛あぁぁ──!」

 何度か抜き差しを繰り返されると全身を震わせ、指先は助けを求めてくうをかく。
 
「あ゛ぁ、やめ、て、それ、ぃや、やだぁ──」
 
 そこに低い振動音が重なった。
 敏感な先端を中心に細かく揺さぶられ、蒼は目を見開いた。
 
「ゃ、あ゛ぁぁぁぁ──!」

 振動は、陰茎を包む突起の蠕動と相まって、蒼をどんどん未知の感覚に追いこんでいく。
 勝手に躰が震えて止まらない。
 ポーカー台ががたがた鳴る。
  
「ゃ、とめて、ゃだ、や゛だぁぁぁぁ! やだやだ、ゃ、んぅ、ぁ──」
 
 さらに断続的に痺れるような刺激も加わる。
 恥部の奥が強制的に収縮し、自動的に背中がしなって跳ねた。
 蒼は怯えたように叫ぶ。
 
「ゃ、なに、こわぃ、ゃだ、やだぁぁぁぁ! いゃ、見ないでっ──」
  
 切羽詰まった蒼を何故か榊はとても優しく見守っていた。
 
「ん、ゃ、やだっ、ぁ、ぁ──」
 
 小さくなっていく声。
 目は虚ろで全身は壊れたようにひくひくしている。
 岳が少し心配そうに榊を見た。
 問題ないといいたげな榊の表情。
 
「ぁ、ぁ──」
  
 蒼が怖がって引いている腰を、榊は前になおしてやった。すると一度全身が震え、腰が抵抗するようにびくびく痙攣した。

「──っ」
 
 小さく痙攣を繰り返したが何もでなかった。
 最後に放心したようにくちびるが開いたけれど声もでなかった。
 そのまま蒼は目を閉じた。
 
 ※ ※ ※
 
「静かにイく子を他にも知ってるよ──後をついてきたがって、とても可愛い」
「子供に興味はないんだろうが」
 
 榊が雑にナイフを寄越しただけだったので岳は自分で逆手に持って躰の縄を切っていく。
 ポーカーのカードを手遊びに榊は独り言のように呟く。
 
「ちょっと仕事上成り行きで。でも、なるべく相手をしないようにしてる。その子は学校も行ってるし、ちゃんとした大人になってほしいからね」
 
 さっきまで滅茶苦茶してたやつに道徳を語られても。 
 眠っている蒼を起こさないようテープを切る。
 上着をかけてやって抱きあげる。
 
 ──そういえば。
「比較って、何の話?」

「その子がね。まあ、やっぱり小学生で。人工的な──振動とか電流とかで無茶されて。ちょっと情緒が──」
「おかしくなるだろ、そりゃ」
「やっぱりそう、かな」 
 
 岳は腕の中の蒼を早く連れ帰ってやりたかったが、榊の様子が少し妙で出ていくのを躊躇ためらった。
 
 顔色が悪い。
 何を──知りたいのだろう。
 
 榊が手で、もう行け、という仕草をする。本日の仕事を潰したやつだけれど、昔からの知り合いでもあるので心配になる。
 
「──別に」
 岳の腕の中にいる蒼がゆっくり目を開いて、表情のないまま榊に向かって喋った。

「別に平気だよ。ちょん切られたわけじゃなし」
 
 悔しさと自尊心が蒼にそう言わせた。榊に思うところがあったわけではないだろう。
 それでも岳は意外そうに弟の顔を見下ろした。
 
 榊は蒼の顔をじっと見て、やっぱり似てないな──と言った。
 
 了
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