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透哉 小学生編 「すきにされて」
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不憫受け/ショタ/くすぐり
※ ※ ※
あと数日で夏休みがはじまる。
透哉は四階にある教室を出て、なるべく目立たないように校門を目指した。
それでも透哉の姿は目を引いてしまう。白い肌、色素の薄い巻き毛と瞳。
とても純日本人には見えない。
綺麗で小柄で喋らずにいたら男の子だとまず解らないだろう。
下駄箱でぼろぼろの靴に履き替える。
校門まであと少しのところで、三人組の上級生に囲まれた。
一瞬、頭をよぎった。
類の声で。
──苛められたら俺の友達だって言え。
子供の支援をしている人に食べ物を貰いにいったとき、甥っ子だと紹介されたのが類だ。
同じ小学校で学年も一緒だったがクラスが違い面識はなかった。
透哉より随分背が高く筋肉もついていて。喧嘩にも自信があるのだろう。そう透哉に忠告した。
──苛められたら俺の友達だって言え。
でも透哉は何も言わずに三人組に従った。
鞄を取られ手を引かれ体育倉庫に連れ込まれる。
彼らにとって透哉は女の子の代用品だ。
触っても脱がしても悪ふざけしていましたで済む都合の良い相手。
加えて放置子に近い境遇で親が怒鳴り込んでくることもない。
──僕って便利だな。
透哉は半ば諦めている。
不快だが大怪我をするようなことはないだろう。
重い扉が閉じる。
マットレスに仰向けに倒され、腕と脚にそれぞれ上級生が跨がる。されるがままに任せた。
早く飽きて退いてほしい。腕から脚からそれぞれ見下ろしているどちらの顔も透哉は知らない。
横に屈んで顔を覗き込んでいるやつだけ見覚えがあった。
「慣れてるね」と言われたので「そっちこそ」と返す。
衣替えになったあと、何度か目が合ったやつ。
こいつが主犯なんだろう。
そのまま顔が近づき透哉の首筋にくちびるがそっと触れる。くすぐったくて、ん、と声が漏れた。反射的に顔を逸らす。
「細くて綺麗な首だね」
先週、母が連れ込んだ男にも、そう言われたことを思い出し、透哉は顔を顰めた。
シャツの裾からゆっくり両手が差し込まれる。
腰を這い回る手つきが大人のような巧緻さで焦った。
もっと雑に扱われるだろうと思っていたのに。
優しすぎる刺激のじれったさに、腰が勝手によじれていく。
肌が粟立つ。
反応してしまう躰を抑え込もうと全身に力を入れても、切ないような感覚が押し寄せてくる。
「ゃ、ん──」
声を無理矢理に我慢したら、鼻にかかって女の子のようになってしまった。
羞恥で頬に血がのぼる。普段は意地でも声はださないのに。
「声ださないって噂だったけど──想像以上に可愛いじゃん。もう少し聞きたいな」
腰から脇まで手の甲側でなぞられた。爪が当たる感覚が混ざる。
くすぐったさに耐えきれず腰がびくびく跳ねる。
そんな自分がいやで首を振って抗った。
「びくびくしてるのも可愛い」
「やっ、ぁあ──」
脇腹をつつかれて思わずあげた高い悲鳴。後半は腕に跨ってるやつに口を覆われて途切れた。
主犯にそのまま手の甲で胸元や腹を撫でくりまわされる。ぞくぞくとした感覚が背中一体にはしった。
首を振りまわしながら疼く躰に抵抗する。
「んん、ぅ」
「少しって言ったじゃん。叫び過ぎ」
──そんな丁度良くお前の好みに合わせてられるか。だいたい、すきにされて悔しくて反応したくないのに。
「ん、ぅ」
腕も脚も口も封じられて逃げ場がない。
指が脇にかかったとき、全身が拒否して強張った。
──やめてやめてやめて。
「んんッ──!」
閉じられない脇の敏感な箇所を探されて、背中が何度も波打ちシャツが捲れてねじれていく。
刺激で全身が跳ねてしまって制御できない。
こんなの恥ずかしい。いやだ。
靴の中でつま先が反りかえる。
息があがって体温があがって、白かった首筋が赤く染まった。
──やだやだやだ。
「ん──ッ!」
逃れようと躰を何度もよじった動きに合わせて、脚に跨ってるやつが下着ごとズボンを引き剥がした。
透哉は大きな瞳を見開く。
見られたくなかった。自分が今どうなってるかくらいわかっているのに。
ただ力なく首を振ることしかできなくて。
「反応してる。まだ、小さいね。可愛い」
主犯がそう呟きながら透哉の陰茎を優しく擦りはじめる。んぅ──塞がれる悲鳴。
手慣れている。どうせ相手は子供だからと油断した。
きつく目を瞑る。
そのとき、重い扉が開いて光が入ってきた。
「類、遅いじゃん」
主犯が顔を向けた肩越しに、知った顔が見えた。
「こんなのに呼ぶなよ──透哉じゃん。立てる?」
透哉に手を差しのべた類に「あれ、知り合い?」と主犯の気まずそうな声がかかる。
同時に腕も脚も自由になった。
「友達だよ。賭けて遊ぶって何を?」
類が顔を動かさず目だけで主犯を睨めつけた。
「この子、何されても声ださないって聞いたから。賭けようと思ってたけど、類、来ないし。適当に遊んじゃったよ」
媚びたように笑いながら主犯は透哉から離れた。
──こんなところ、惨めで見られたくなかった。
施す者と施される者。
類の手を振り払って、よろけながら服装を直す。横をすり抜けるとき腰を掴まれた。
類にそのまま躰を引き寄せられる。
脚の間を一瞬するりと触られた。
「ぁ──」
咄嗟に逃げようとしたけど間に合わなくて。
頭を掴まれくちづけされた。
「ぅ、ん──」
誰も動けなかった。体育倉庫は静かになって、深いくちづけの音だけが響く。
透哉はピントの合わない類の顔を至近距離で呆然と見ていた。
類がゆっくり目を開けて、主犯に視線をやる。瞳が少し潤んでいる。
「──俺のだから」
自分のだから、もう手をだすな、苛めるな、と庇ってくれていることは透哉も解った。
でも、やり方が──皆、小学生なのだし、生々しい音に動揺していたと思う。
主犯は類に「その子、手の甲で撫でると可愛いよ」と狡そうに報告した。
類は「愛玩動物かよ」と呆れた口調で返しながら三人を追い払った。
──倉庫の中は二人きりになった。
透哉は、助けてくれてありがとう、と素直に感謝できないでいる。結局やつらと同類のように思えて。
警戒していると、案の定「これってさ」と、壁に押しつけられて、手の甲で両脇の窪みをゆっくりなぞられた。
やっぱり。
躰に力を入れて耐えた。
「──ッ、ぅ」
小さな悲鳴が漏れる。
「鳥とか。羽にさ、人間の汗がつくと傷むからやるんだよね」
応えずに耐え続けていると「これで、さっき、ここが反応してたの」そう訊かれながら膝を脚の間に入れられた。
ゆっくり揺さぶってくる。
そうされると下腹部が疼いて、堪らず類の膝を両脚でぎゅうと挟んでしまった。
「──ッ、ふ」
荒い息で堪えていると「まあ、気にすんなよ。どうせまだ、でねぇだろ」と類が笑う。
今まで、三人がかりでどうこうされていたのに比べれば全然ましなはずなのに翻弄される。
シャツの中に指先が入る感触が我慢できず、吐息が漏れた。
「──ぁ、ッ」
指先を表裏に気まぐれに変えながら躰中を撫でまわされる。反応の違いを試して遊んでいる。
いちいち動くたびに震えてしまう。
じっとしていられない。
「くっ──ッ」
声も漏れそうで。
これだったらさっきみたいに口を塞がれていたほうがまだましだ。
懸命にくちびるを噛む。
──早く飽きて僕に。
躰を玩具のように弄くりまわされて股間が熱をもってくる。
太腿にぎゅっと力が入った。
「まあ、痕残ったりしないし。苛めに使いやすいよな」
類は、さらに、折れそうだなあ、と呟いて腰を撫でながら訊く。
「なんで抵抗しないの」
「──ッ、無駄、だから」
経験則で、じっとしてればそのうち止むと知っているから。
「そう」
腋窩を抉るようにゆっくり指で押されると躰がよじれた。
「ゃっ、ぁ──んっ」
「甘ったるい声。狙われんぞ」
「──ッ」
耐えるのに力を入れすぎて顔が赤くなる。
「やだって言いな。舐められるだけだろ」
震える躰を両手で庇って上半身を折った。
類の指は追ってくる。
「俺は苛めないよ。やだって言ったらやめる。可愛いから揶うかもしれないけど」
「ゃ、んっ──それは、どう、違う、の」
「去るもの追わないから、俺。お前が嫌って言えば手を離すし、構うなって言うなら、二度と声かけないよ」
「んっ、いゃ──だから、触るの、やめ、て」
「うん」
意外なほどあっさりと手は離れていった。
そこではじめて目が合った。
世慣れた黒い瞳で類が言う。
「あいつらに触らせたって一円にもなんないじゃん。大人に触らせたら小遣いくれるよ」
透哉も大人に勝手にあれこれされて結果的にお金を渡されたことはある。
でも、それは積極的に稼ごうとしてやったわけではない。
「それって──捕まらないの」
「うん」
「お金たくさん貰える?」
「うん。お前なら、俺より貰えるよ。綺麗だし。ハーフとかなの?」
「父親を知らないから判らない」
「そう。その気になったら教えてよ。さっきのあいつも多分やってそう。なんか見かけたことある気ぃする」
透哉は慣れた手つきを思い出して、今更ながらぞっとした。
類が続ける。
「弱いほうに連鎖していくんだ、きっと。客は社会で嫌なことされて、あいつを苛めて捌け口にして、あいつはそれをお前に打つけた」
「僕は、誰かを苛めたりはしないよ」
類がちょっと笑って誘う。
「そう? 気が晴れるかもよ──触ってみる?」
「え」
いつもされるほうで、逃げるほうだったから、そんなことは想像すらしたことがない。
透哉は緊張して固まったが興味を惹かれて断れなかった。
「良いよ。何でも」
類は、壁を背にしてマットレスに座り両脚を投げだした。
透哉は戸惑う。
──何処をどうすれば良いのだろう。
昔から、授業中に脇腹をつつかれたり、女みたいだからと胸を触られたりしてきたので、上半身なのかと考える。
そう思うと確かに自分がされたことを基準に他人にするわけだ。類の言うように連鎖してしまう。
正面に膝をつき、腹のあたりにそっと触れてみる。
しなやかな筋肉。
シャツのボタンをはずして露わにする。
ちゃんと割れている。
指先で形を辿ると「ん」と吐息とともに腹筋がぴくりと動いた。
「お前、おそるおそる触るから、くすぐったいんだけど。触んならちゃんと触れよ」
「さっき僕のことくすぐってた癖に」
真似をして、手の甲で脇から腰まで撫でてみる。
「ちょっと、や、かも」
片手で口元を隠すような仕草をする。でも余裕がある。
「何でも良いって自分で言ったじゃん」
透哉の指摘に、類は「それは、そう」と投げやりに肯定して四肢の力を抜いた。
躰を触らせることに慣れている。
透哉の手を遮ったりはしない。
すきにさせている。
でも、反応はする。
少し息を吐いたり、躰の重心をずらすのは刺激をうまく逃しているのだと思う。
ちらっと顔を俯けることがあるので、苦手な箇所だと判る。
透哉はそこを狙えば良いのか避ければ良いのか、判断をつけかねた。
「──楽しい?」
面白そうに類に訊かれて、我に返る。
夢中になっていたらしい。
「──判らない。変な感じ」
「目の色、変わってたよ」
笑いながら揶揄された。
やっぱり余裕がある。
どうして。
透哉は不思議に思う。
「嫌じゃないの?」
他人にすきにされて。
「あんまり長時間だとうんざりするかな。きらいなやつだと気持ち悪いけど。お前なら別に」
そう応える類の目に、なぜか涙が溜まっている。目が離せなくなった。
じっと見てると「あ、涙でてる?」と類が訊く。
「──うん」
「なんか、暑いとか寒いとか刺激でなる。充血はしないしアレルギーじゃないよ。体質かな」
「それアレルギーだと思うけど」
「でも、緊張したりしてもなるし、感じたりしてもなるよ」
感じたりって。さらっと言わないでほしい。透哉のほうが動揺して手が止まった。
類が透哉のくちびるにそっと指先で触れる。
「はじめてだった?」
「違うよ」
「それは残念」
はじめてって言ったらどうする気だったんだろう。
※ ※ ※
「あっつ」と言いながら、類が扉を開けた。
外は、もう薄暗い。
目指していた校門は施錠されていた。
類は周囲を確認してから二人分の鞄を門の向こうに投げ、透哉を門の上端に手が届くように抱きあげた。
なんとか透哉が門を越えて振り向く。
類が少し離れて助走をつけ、猫科の獣のように身軽に門の上に駆け上がった。そのまま、透哉の横に着地する。
「もう、後数日で夏休みだから、ちゃんと学校来いよ」と類は先生みたいなことを言う。
透哉が返事をしないでいると「苛められたら俺の友達だって言え」と、以前と同じ台詞を口にした。
透哉はやっぱり言えないと思った。でも「うん。わかった。さよなら」と応えた。
類は踵を返す前に、何かくちびるを動かした。
そのまま路地を曲がって見えなくなる。
「さよなら」ではなく「うそつき」だったと透哉は思った。
了
※ ※ ※
あと数日で夏休みがはじまる。
透哉は四階にある教室を出て、なるべく目立たないように校門を目指した。
それでも透哉の姿は目を引いてしまう。白い肌、色素の薄い巻き毛と瞳。
とても純日本人には見えない。
綺麗で小柄で喋らずにいたら男の子だとまず解らないだろう。
下駄箱でぼろぼろの靴に履き替える。
校門まであと少しのところで、三人組の上級生に囲まれた。
一瞬、頭をよぎった。
類の声で。
──苛められたら俺の友達だって言え。
子供の支援をしている人に食べ物を貰いにいったとき、甥っ子だと紹介されたのが類だ。
同じ小学校で学年も一緒だったがクラスが違い面識はなかった。
透哉より随分背が高く筋肉もついていて。喧嘩にも自信があるのだろう。そう透哉に忠告した。
──苛められたら俺の友達だって言え。
でも透哉は何も言わずに三人組に従った。
鞄を取られ手を引かれ体育倉庫に連れ込まれる。
彼らにとって透哉は女の子の代用品だ。
触っても脱がしても悪ふざけしていましたで済む都合の良い相手。
加えて放置子に近い境遇で親が怒鳴り込んでくることもない。
──僕って便利だな。
透哉は半ば諦めている。
不快だが大怪我をするようなことはないだろう。
重い扉が閉じる。
マットレスに仰向けに倒され、腕と脚にそれぞれ上級生が跨がる。されるがままに任せた。
早く飽きて退いてほしい。腕から脚からそれぞれ見下ろしているどちらの顔も透哉は知らない。
横に屈んで顔を覗き込んでいるやつだけ見覚えがあった。
「慣れてるね」と言われたので「そっちこそ」と返す。
衣替えになったあと、何度か目が合ったやつ。
こいつが主犯なんだろう。
そのまま顔が近づき透哉の首筋にくちびるがそっと触れる。くすぐったくて、ん、と声が漏れた。反射的に顔を逸らす。
「細くて綺麗な首だね」
先週、母が連れ込んだ男にも、そう言われたことを思い出し、透哉は顔を顰めた。
シャツの裾からゆっくり両手が差し込まれる。
腰を這い回る手つきが大人のような巧緻さで焦った。
もっと雑に扱われるだろうと思っていたのに。
優しすぎる刺激のじれったさに、腰が勝手によじれていく。
肌が粟立つ。
反応してしまう躰を抑え込もうと全身に力を入れても、切ないような感覚が押し寄せてくる。
「ゃ、ん──」
声を無理矢理に我慢したら、鼻にかかって女の子のようになってしまった。
羞恥で頬に血がのぼる。普段は意地でも声はださないのに。
「声ださないって噂だったけど──想像以上に可愛いじゃん。もう少し聞きたいな」
腰から脇まで手の甲側でなぞられた。爪が当たる感覚が混ざる。
くすぐったさに耐えきれず腰がびくびく跳ねる。
そんな自分がいやで首を振って抗った。
「びくびくしてるのも可愛い」
「やっ、ぁあ──」
脇腹をつつかれて思わずあげた高い悲鳴。後半は腕に跨ってるやつに口を覆われて途切れた。
主犯にそのまま手の甲で胸元や腹を撫でくりまわされる。ぞくぞくとした感覚が背中一体にはしった。
首を振りまわしながら疼く躰に抵抗する。
「んん、ぅ」
「少しって言ったじゃん。叫び過ぎ」
──そんな丁度良くお前の好みに合わせてられるか。だいたい、すきにされて悔しくて反応したくないのに。
「ん、ぅ」
腕も脚も口も封じられて逃げ場がない。
指が脇にかかったとき、全身が拒否して強張った。
──やめてやめてやめて。
「んんッ──!」
閉じられない脇の敏感な箇所を探されて、背中が何度も波打ちシャツが捲れてねじれていく。
刺激で全身が跳ねてしまって制御できない。
こんなの恥ずかしい。いやだ。
靴の中でつま先が反りかえる。
息があがって体温があがって、白かった首筋が赤く染まった。
──やだやだやだ。
「ん──ッ!」
逃れようと躰を何度もよじった動きに合わせて、脚に跨ってるやつが下着ごとズボンを引き剥がした。
透哉は大きな瞳を見開く。
見られたくなかった。自分が今どうなってるかくらいわかっているのに。
ただ力なく首を振ることしかできなくて。
「反応してる。まだ、小さいね。可愛い」
主犯がそう呟きながら透哉の陰茎を優しく擦りはじめる。んぅ──塞がれる悲鳴。
手慣れている。どうせ相手は子供だからと油断した。
きつく目を瞑る。
そのとき、重い扉が開いて光が入ってきた。
「類、遅いじゃん」
主犯が顔を向けた肩越しに、知った顔が見えた。
「こんなのに呼ぶなよ──透哉じゃん。立てる?」
透哉に手を差しのべた類に「あれ、知り合い?」と主犯の気まずそうな声がかかる。
同時に腕も脚も自由になった。
「友達だよ。賭けて遊ぶって何を?」
類が顔を動かさず目だけで主犯を睨めつけた。
「この子、何されても声ださないって聞いたから。賭けようと思ってたけど、類、来ないし。適当に遊んじゃったよ」
媚びたように笑いながら主犯は透哉から離れた。
──こんなところ、惨めで見られたくなかった。
施す者と施される者。
類の手を振り払って、よろけながら服装を直す。横をすり抜けるとき腰を掴まれた。
類にそのまま躰を引き寄せられる。
脚の間を一瞬するりと触られた。
「ぁ──」
咄嗟に逃げようとしたけど間に合わなくて。
頭を掴まれくちづけされた。
「ぅ、ん──」
誰も動けなかった。体育倉庫は静かになって、深いくちづけの音だけが響く。
透哉はピントの合わない類の顔を至近距離で呆然と見ていた。
類がゆっくり目を開けて、主犯に視線をやる。瞳が少し潤んでいる。
「──俺のだから」
自分のだから、もう手をだすな、苛めるな、と庇ってくれていることは透哉も解った。
でも、やり方が──皆、小学生なのだし、生々しい音に動揺していたと思う。
主犯は類に「その子、手の甲で撫でると可愛いよ」と狡そうに報告した。
類は「愛玩動物かよ」と呆れた口調で返しながら三人を追い払った。
──倉庫の中は二人きりになった。
透哉は、助けてくれてありがとう、と素直に感謝できないでいる。結局やつらと同類のように思えて。
警戒していると、案の定「これってさ」と、壁に押しつけられて、手の甲で両脇の窪みをゆっくりなぞられた。
やっぱり。
躰に力を入れて耐えた。
「──ッ、ぅ」
小さな悲鳴が漏れる。
「鳥とか。羽にさ、人間の汗がつくと傷むからやるんだよね」
応えずに耐え続けていると「これで、さっき、ここが反応してたの」そう訊かれながら膝を脚の間に入れられた。
ゆっくり揺さぶってくる。
そうされると下腹部が疼いて、堪らず類の膝を両脚でぎゅうと挟んでしまった。
「──ッ、ふ」
荒い息で堪えていると「まあ、気にすんなよ。どうせまだ、でねぇだろ」と類が笑う。
今まで、三人がかりでどうこうされていたのに比べれば全然ましなはずなのに翻弄される。
シャツの中に指先が入る感触が我慢できず、吐息が漏れた。
「──ぁ、ッ」
指先を表裏に気まぐれに変えながら躰中を撫でまわされる。反応の違いを試して遊んでいる。
いちいち動くたびに震えてしまう。
じっとしていられない。
「くっ──ッ」
声も漏れそうで。
これだったらさっきみたいに口を塞がれていたほうがまだましだ。
懸命にくちびるを噛む。
──早く飽きて僕に。
躰を玩具のように弄くりまわされて股間が熱をもってくる。
太腿にぎゅっと力が入った。
「まあ、痕残ったりしないし。苛めに使いやすいよな」
類は、さらに、折れそうだなあ、と呟いて腰を撫でながら訊く。
「なんで抵抗しないの」
「──ッ、無駄、だから」
経験則で、じっとしてればそのうち止むと知っているから。
「そう」
腋窩を抉るようにゆっくり指で押されると躰がよじれた。
「ゃっ、ぁ──んっ」
「甘ったるい声。狙われんぞ」
「──ッ」
耐えるのに力を入れすぎて顔が赤くなる。
「やだって言いな。舐められるだけだろ」
震える躰を両手で庇って上半身を折った。
類の指は追ってくる。
「俺は苛めないよ。やだって言ったらやめる。可愛いから揶うかもしれないけど」
「ゃ、んっ──それは、どう、違う、の」
「去るもの追わないから、俺。お前が嫌って言えば手を離すし、構うなって言うなら、二度と声かけないよ」
「んっ、いゃ──だから、触るの、やめ、て」
「うん」
意外なほどあっさりと手は離れていった。
そこではじめて目が合った。
世慣れた黒い瞳で類が言う。
「あいつらに触らせたって一円にもなんないじゃん。大人に触らせたら小遣いくれるよ」
透哉も大人に勝手にあれこれされて結果的にお金を渡されたことはある。
でも、それは積極的に稼ごうとしてやったわけではない。
「それって──捕まらないの」
「うん」
「お金たくさん貰える?」
「うん。お前なら、俺より貰えるよ。綺麗だし。ハーフとかなの?」
「父親を知らないから判らない」
「そう。その気になったら教えてよ。さっきのあいつも多分やってそう。なんか見かけたことある気ぃする」
透哉は慣れた手つきを思い出して、今更ながらぞっとした。
類が続ける。
「弱いほうに連鎖していくんだ、きっと。客は社会で嫌なことされて、あいつを苛めて捌け口にして、あいつはそれをお前に打つけた」
「僕は、誰かを苛めたりはしないよ」
類がちょっと笑って誘う。
「そう? 気が晴れるかもよ──触ってみる?」
「え」
いつもされるほうで、逃げるほうだったから、そんなことは想像すらしたことがない。
透哉は緊張して固まったが興味を惹かれて断れなかった。
「良いよ。何でも」
類は、壁を背にしてマットレスに座り両脚を投げだした。
透哉は戸惑う。
──何処をどうすれば良いのだろう。
昔から、授業中に脇腹をつつかれたり、女みたいだからと胸を触られたりしてきたので、上半身なのかと考える。
そう思うと確かに自分がされたことを基準に他人にするわけだ。類の言うように連鎖してしまう。
正面に膝をつき、腹のあたりにそっと触れてみる。
しなやかな筋肉。
シャツのボタンをはずして露わにする。
ちゃんと割れている。
指先で形を辿ると「ん」と吐息とともに腹筋がぴくりと動いた。
「お前、おそるおそる触るから、くすぐったいんだけど。触んならちゃんと触れよ」
「さっき僕のことくすぐってた癖に」
真似をして、手の甲で脇から腰まで撫でてみる。
「ちょっと、や、かも」
片手で口元を隠すような仕草をする。でも余裕がある。
「何でも良いって自分で言ったじゃん」
透哉の指摘に、類は「それは、そう」と投げやりに肯定して四肢の力を抜いた。
躰を触らせることに慣れている。
透哉の手を遮ったりはしない。
すきにさせている。
でも、反応はする。
少し息を吐いたり、躰の重心をずらすのは刺激をうまく逃しているのだと思う。
ちらっと顔を俯けることがあるので、苦手な箇所だと判る。
透哉はそこを狙えば良いのか避ければ良いのか、判断をつけかねた。
「──楽しい?」
面白そうに類に訊かれて、我に返る。
夢中になっていたらしい。
「──判らない。変な感じ」
「目の色、変わってたよ」
笑いながら揶揄された。
やっぱり余裕がある。
どうして。
透哉は不思議に思う。
「嫌じゃないの?」
他人にすきにされて。
「あんまり長時間だとうんざりするかな。きらいなやつだと気持ち悪いけど。お前なら別に」
そう応える類の目に、なぜか涙が溜まっている。目が離せなくなった。
じっと見てると「あ、涙でてる?」と類が訊く。
「──うん」
「なんか、暑いとか寒いとか刺激でなる。充血はしないしアレルギーじゃないよ。体質かな」
「それアレルギーだと思うけど」
「でも、緊張したりしてもなるし、感じたりしてもなるよ」
感じたりって。さらっと言わないでほしい。透哉のほうが動揺して手が止まった。
類が透哉のくちびるにそっと指先で触れる。
「はじめてだった?」
「違うよ」
「それは残念」
はじめてって言ったらどうする気だったんだろう。
※ ※ ※
「あっつ」と言いながら、類が扉を開けた。
外は、もう薄暗い。
目指していた校門は施錠されていた。
類は周囲を確認してから二人分の鞄を門の向こうに投げ、透哉を門の上端に手が届くように抱きあげた。
なんとか透哉が門を越えて振り向く。
類が少し離れて助走をつけ、猫科の獣のように身軽に門の上に駆け上がった。そのまま、透哉の横に着地する。
「もう、後数日で夏休みだから、ちゃんと学校来いよ」と類は先生みたいなことを言う。
透哉が返事をしないでいると「苛められたら俺の友達だって言え」と、以前と同じ台詞を口にした。
透哉はやっぱり言えないと思った。でも「うん。わかった。さよなら」と応えた。
類は踵を返す前に、何かくちびるを動かした。
そのまま路地を曲がって見えなくなる。
「さよなら」ではなく「うそつき」だったと透哉は思った。
了
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