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第7話 復活の「バカ」

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「う~~~ん、全部で、600,000六十万ラピカってところだなぁ……」
「ハァアアアアアッ!? オイオイオイ、ふざけてんじゃねーぞ、オヤジッ‼ オメーのお目目はビー玉か何かよっ⁉」

 道具屋のオヤジが提示してきた余りの査定の低さに、俺はぶったまげると同時に、すぐさま噛みついていった。

「オイオイ、人聞きの悪いこと言わんでくれよ、ガーネット。お前さん、この道40年の俺の審美眼にケチつけようってのかい?」
「なぁ~にが審美眼でい、いいとこセーロガンってところだろうが‼」
「よせよぉ、そんなに褒められると照れちまうぜ♪」
「誰も褒めとらんわ、ボケェッ‼」

 憤慨する俺をすっとぼけた感じでいなしていくオヤジ。

 だがなぁ、そんなこっちゃ俺は騙されたりしねーぞ‼ そりゃあ当然だろ、これほどの品物が600,000六十万ラピカなんて……。そんな馬鹿な話があるわけねーだろうがっ!?

 頭から湯気が出るくらいに憤慨する俺に対し、肝心のオヤジはというと、

「ハァ~~~、手数料やら口止め料やらなんやらのことを考えれば、これでも十分だと思うがねぇ~」
「お、おい、く、口止め料やらなんやらってのは、い、一体どういう意味だよっ⁉ な、何のことを言ってんだか、俺にゃあさっぱり……」

 オヤジの何やら不穏な発言を受け一瞬ドキッとさせられるも、そこはあくまでも白を切りとおそうとするも、

「おいおい、俺とお前との間でとぼけるのはなしにしようぜ、ガーネット……。どうせお前さんのことだ、コレらの品だって真っ当な商品である筈がねえ……。どうせいわくつきの代物、そうなんだろ?」
「――⁉ そ、そんなことテメーには何の関係もねーことだろうが……‼」
「ああ、関係ない……。関係ないが、コレラは早々に処分しないと厄介なことになる……。違うかい?」
「――‼」

 まるで俺の心の中を見透かすかのように意味深な発言をしてくるオヤジ。

「………………」
「………………」

 と、俺とオヤジとの間で、暫し無言の駆け引きってヤツが繰り広げられていくも……。結局のところ、

「……――ぐっ、え、えぇ~~~~い、くそったれぇーーーっ‼ わ――わぁ~ったよ、それで手を打ってやらぁ~、チクショーがっ‼」

「ハイ、決まったぁ♪ へへ、そうこなっくっちゃな♪ 毎度ありぃ、それじゃあすぐに金を持ってくるからちょっとだけ待っててくれよな……」

 パンっとそのデカい手のひらを叩いたかと思えば、禿げ上がった頭を一層光らせ満面の笑みでもって店の奥へと消えていった。
 しかもカウンターの上に置いてあった俺が売りに来た商品を、今更ながら俺にパクられないようにと全部抱え込んで運んでいくといった念の入れようだ……。

 クソ、どこまでも抜かりのないオヤジだぜ……‼


「それじゃあ、今日はありがとな♪ またなんか手に入れたらいつでも持ってきてくれよな♪ ウチは良心的価格ってヤツで買い取らせてもらうからよ♪」
「うっせぇー、二度と来るもんかこんな店っ‼」

 そう怒鳴るなり俺は金の入った袋を受け取ると、早々に店を後にした。

 ザッザッザッザッ……。

 くっそがぁ~、あのオヤジ、足元見やがって……‼

 ミランダの酒場へと向かう道すがら、いまだ収まらない怒りを燻ぶらせたまま乱暴な足取りでもって大通りを闊歩していく。

 というのも、昨日、城からかっぱらって……。もとい、引き出物として頂戴してきた美術品の数々を今日早速売り払いに来たってわけなんだが……。

 結果は御覧の有様だ……。見事、あのオヤジに買い叩かれちまったい……。
 くそっ、全くあの業突く張りめっ‼ とまぁ、正直、今なお怒りが収まらねーところではあるのだが……。

「………………」

 フン、まぁいいさ……。何にせよ、これでとりあえず当座の資金ってヤツはできたわけだしな……。それに万が一にもパクったことこのことがバレて城の奴らが取り調べに来たとしても商品はもう俺の手にねーわけだし、後は知らぬ存ぜぬ記憶にございませんで押し通せや取っ捕まるのはあの道具屋のオヤジなわけだしな……♪

 ウシシ♪ 縛り首になっているあのオヤジの姿を想像するだけでも、少しは腹の虫も収まってくるってなもんだぜ♪

 そんなことを考えつつも、ようやっと辿り着いた建物の二階部分、ミランダの店へと続く階段を上り、

「うぃ~~~す、ミランダ♪ 今日の景気はどないでっか♪」

 開口一番、普段と変わらない挨拶をかましていこうと思っていたところへ、

「って……。いいわけねーわな、この状況じゃあよ……」
「ああ、ガーネットかい……。お陰様でね、見ての通りだよ」

 店内に客はおらず、その代わりにミランダを取り囲むように5人……。
 そして、そんな店内を包囲でもするかのように更に8人……。
 とまぁ計13人の、それも昨日最後にわらわら入ってきた奴らと揃いの恰好をしたお姫様の護衛団らしき連中によって酒場はすっかり占拠されてやがった。

 更にいうなら、テーブルには飲みかけの大ジョッキが至る所に放置されており――。
 大方、店内にいた酔っ払い共はこいつらによって全員追い出されたってところか……。
 全く、昨日あれだけ無様晒したにもかかわらず、今度は数で攻めてきたってことかよ?

「………………」

 奴らの、そんな浅はかな考えにさっきまでの怒りもそうだが、ありとあらゆる感情までもが、スゥーっと冷めていくのが自分でもわかった……。

 と、そこへ、

「フン、やっと現れたか……。待ち侘びたぞ、平民っ‼」

 そんな台詞とともに集団の奥から一人の貴族と思しき野郎が姿を見せたかと思えば、

「あん? 何だ、誰かと思ったらオメー……。昨日のバカ貴族じゃねーかよ?」

 そう、俺の前に現れたのは誰あろう、昨日あんだけ醜態を晒したバカ貴族だった。
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