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第七話 お手てつないで
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「いったぁあああああああああああああいっ⁉」
拳を通して伝わってくる確かな手ごたえ。
改めて、眼下で頭を抑え蹲っている美少女へと視線を這わせていく。
見下ろした先には、不意打ち気味にも自らの脳天を襲った耐えがたい痛苦に身をよじらせ、その瞳に大粒の涙を浮かべるながらも、気丈にもコチラを睨み返してくる美少女の姿。
「~~~~~~~~っ…………な、殴ったわね? ……し、信じらんない、こ、こんな、こんなか弱い女の子に手を挙げるなんて! あ、アンタ、それでも男なのっ⁉」
「殴ってなぜ悪いか?」
そう吐き捨てるように呟くなり、
――ゴンッ‼
あらためて、もう一発お見舞いしていく。
「きゃん☆ ~~~~~~~~っぅ‼ ……――に、二度もぶったぁっ‼ 親父にもぶたれたことないのにぃっ‼」
「喧しいっ!」
――ゴンッ‼
「きゃん☆ ~~~~~~~~~~~~~~~~っ‼」
性懲りもなく、どこかで訊いたような科白を並べ立てて、なおも噛みついてくる美少女に対し、三度鉄拳制裁。
「~~~~~~…………ひ、酷いよぉ~、ひ、ヒナちゃ~~~ん。お、お姉ちゃんの頭ぁ、タンコブだらけになっちゃうよぉ~~~」
そう、最早お気づきのことと思うが、曲がり角で出会った謎の転校生(俺の勝手な思い込み)の正体は、十数分前まで食卓を共にしていた実の姉、結城琴葉、その人であった。
「――……ったく、手の込んだことしやがって……。で、これは一体何のつもりだよ?」
「何って、そんなの決まってるでしょ? 円滑な男女交際を続けていくうえで、決して避けては通れない倦怠期を乗り越えるためのお姉ちゃんからのサプライズのつもりだったのにぃっ‼」
「け、倦怠期って……。あ、アホかっ、はえーよ、どんだけせっかちなんだよっ⁉」
あくまでも自らには非がないとでもいわんばかりに、ジト目にてコチラを非難してくる姉の姿に、最早、怒りを通りこえ、体の力が一気に脱力していくのを感じた。
「ブーブー、それなのに何よ何よぉ、ヒナちゃんのバカァ……。健気にも追いかけてきたお姉ちゃんに対して、こんな扱いはないんじゃないのぉ?」
「何が追いかけてきただよ? 追いかけるを通り越して追い抜いてんじゃねーかよっ‼ ワープでも出来んのかっ、アンタはっ⁉」
くそ、不覚にも、一瞬とはいえドキッとしちまったじゃねーかよ、俺のトキメキを返せってんだよ……。
その後もしばらくこうした不毛な押し問答が続いていった……。
とはいえ、結果、こうして追いつかれてしまった以上、止むを得まい……。
それに、琴姉のスキルを考えると、ココから再び逃走というのもどうにも現実的じゃないしな……。
「………………」
――……で、散々悩んだ結果、俺が導き出した結論はというと……。
「ハァ~~~~、しゃ~ね~な、ホレ、琴姉! いつまでもそんなとこにへたり込んでないでとっとと起きろよな!」
若干投げやりなところもあるが、そのか細い腕をつかむやいなや、勢いに任せ、ひょいっと起こし上げていく。
「あん☆ も~、ヒナちゃん、強引すぎぃ! こういう場面では、優しくお姫様抱っことかしないとダメなんだからね?」
「喧しい、アホなことばっか言ってると、もう一発お見舞いするぞ?」
「きゃ♡ い、一発、なんて……。ヒナちゃんってば、こんなところで大胆♡ でもでも、お姉ちゃん、ヒナちゃんが望むなら……♡」
と、腕を広げ、まるで口づけでもねだるかのように、ゆっくり目を閉じる琴姉。
一方、俺はというと、当然、そんな誘いには乗らず華麗にスルーしていく。
「ぶ~~、無視しないでよぉ~‼ もぉ~、ヒナちゃんのいけずぅ~!」
あ~~、ホント疲れるわ。
ぶーたれる琴姉を余所にスッと彼女の背後へ回り込むや、あくまでも親切心でもって、いや、決して疚しい気持ちもなければ他意もないぞ……?
くどいようだが、あくまでも親切心から制服のプリーツ・スカートについていた土埃を払ってやろうと、
パンパンッ!
てな具合に、二度三度と叩いてやったところ、
「ふあぁん♡」
「イッ⁉ ――ば、バカッ‼ へ、変な声上げんじゃねーよ⁉」
突如、耳に響いてきた実姉の嬌声。
よもやこんな反応が返ってくるとは夢にも思ってなかったこともあって大きく動揺をみせる俺。
と、ソレは琴姉にしても同様だったようで、背筋をピンと跳ね上げ弾かれたように飛び上がるや、クルリとコチラに体を反転させるなり、
「だ、だってだって、いきなりお尻をさわるんだもんっ‼」
「お、おし……⁉ ち、ちげーよ、ば、バカッ、ひ、人聞きの悪いこと言うんじゃねーよっ‼」
さっきまでのおちゃらけた雰囲気とは一変、普段でもあまりお目にかかれないくらいのテンパり具合に加え、俺を非難するその表情一つとっても、先ほどまでとは違って、その淡い雪のような白い頬をこれでもかってくらい紅潮させ潤んだ瞳でもって俺の目をまっすぐ見つめてくる。
「………………(じぃ~~~~~っ♡)」
「………………っ」
そんな琴姉の雰囲気に感化られたのか、ドクンと心臓が大きく跳ね上がるや顔全体が一気に熱を帯びていくのが自分でもわかった。
な、なななななな何だコレ? こ、ここここの雰囲気は、ひ、非常にま、不味いのではっ⁉
と、そんなことを考えていたところへ、
「何々? なんか、揉めてない?」
「お尻がどうとかって……。も、もしかして、痴漢?」
何処からともなく微かに聞こえてきたそんな声にハッと我に返る。
――あ、危なかったぁ……。お、俺は一体、何を……⁉
ドキドキドキドキドキドキッ……。
今だ激しく打ちつける心臓の音にドギマギしつつも、とりあえず九死に一生と、そんなことを思いきや、
「――イィッ⁉」
先ほどの声のした先、はるか前方では不審そうにこちらの様子を伺う集団の姿が……。
うぐっ、い、いつの間に……?
って、それも当然といえば当然のこと。今の時間は世間一般でいうところの通学・通勤時間ってヤツである。
普段とは違ったルートを通ってきたせいで、そういったことをすっかり失念していたぜ……。
目まぐるしく変化する展開に頭が追い付かず、どうしたもんかと戸惑っていた矢先、
「ねぇねぇ、やっぱり警察、呼んだ方がよくない?」
「――ッ⁉」
け、警察……?
『痴漢』、『警察』……。
ソレらのキーワードを聞いた途端、俺の脳裏を過ったのは、
『ウーーーー、ウーーーー、ウーーーー……』
鳴り響くサイレン、情けないと項垂れる母さん、泣き喚く琴姉、石を投げつけてくるクラスメートたち、そして、手を前に刑事さんに連行されていく俺の姿……。
サァーーーーーーーーーーーーーーーーーッ……。
……じ、冗談じゃねーぞ。
「ち、違うんだっ‼ お、俺の話を聞いてくれ、お、俺たちは、きょうだ――」
と、そこまで言いかけるも既のところで踏みとどまる俺。
だ、ダメだ……。この状況下で俺たちが姉弟だと告げたところで何になる? それこそ、反って近親相姦を招くだけなのでは……⁉
結局、この状況を打破する妙案もなく、最早これまでかと思っていたところ、
「スゥ~~~~~~~~ッ……――ご心配なくぅ~~~~~~~っ‼ 私たちぃ、恋人同士るんですぅうううううううううううううううううっ‼」
「――――⁉」
「「「――――⁉」」」
突如、ギャラリーどもに向かって大声を張り上げる琴姉。
「こ、琴姉⁉ い、一体、何を……――っ⁉」
ソコにいたのは先ほどまでの熱に浮かされた色ボケの姿でもなければ、おちゃらけたような雰囲気もない。
それこそ、普段学園で見せる生徒会長・結城琴葉、その人の顔であった。
『ほら、ヒナちゃん!』
「?」
ボソッと俺だけに聞こえるくらいに抑えた声量で囁いてきたかと思えば、パチッとウィンクとともに俺に手を差し伸べてくる琴姉。
………………――あっ⁉ あ~~~~~っ‼ そ、そうか、そういうことか⁉
ようやっと琴姉の考えを理解したところで、改めてギャラリーどもに視線を向けてみたところ、周囲に知り合いらしき連中の姿もない。
正直、琴姉に借りを作るのは憚られるが、背に腹は代えられない。
それに、仮にここで俺が付き合ってることを認めたとしてもこの状況だ。いくら琴姉とはいえまさか録音してる、なんてこともないだろう。……ない、よね?
そんなことを思いつつ、藁にも縋る思いでもってその手をつかもうとしたその時であった。
「――くすっ♪」
――ギクッ‼
瞬間、微かに漏れ聞こえた笑い声、そして、突き抜ける悪寒……‼
『ん? どうしたの、ヒナちゃん?』
「――ッ⁉」
ソコには先ほどまでと同様、救いの女神のような笑みを湛える琴姉の姿。
が、一瞬のことだったが、間違いなく俺は見た。
そこにはいたのは、数分前の恥ずかしそうに頬を赤らめた儚くも可憐な美少女の姿ではなければ、凛とした生徒会長でもない。
それこそ、人を陥れることのみに生き甲斐を感じているせぇるすまんのような笑みを浮かべる悪魔の姿であった。
てか、その左手に握っているスッゲー高性能そうなボイスレコーダーらしきものは一体何だよっ⁉
『ん? ほらほらぁ~、どうしたの、ヒナちゃ~ん?』
つまり、これはどういうことかというと……。
――は、謀られたっ⁉
ぐっ、な、何だよ、な、何なんだよコレは……?
ついさっきまでは俺が救いの手を差し伸べていたはずが、いつの間にやら立場は逆転してるじゃねーか。
そうして全てを理解するのと同時に、地面に亀裂が入ったかと思えばそのまま音を立てて崩れ落ちていくような錯覚に襲われる中、
「ねぇ、やっぱり警察に通報した方がいいよ」
「――ッ‼」
『だって、ヒナちゃん。このままだと、警察呼ばれちゃうよ? どうするのぉ~?』
そんな悪魔の囁きとともに、スマホに手を伸ばすギャラリーどもの姿が……。
最早、一刻の猶予もない状況の中、脳をフル回転させ悩みに悩みぬいた結果、俺が選んだ選択はというと……。
「そ――そうなんですよぉ~~~~~、じ、実は、ぼ、僕たち、恋人同士るんですよぉ~~~♪ な、なぁ~~、こ、こここ琴葉ぁ~~♡」
そう叫ぶやいなや、俺は差し出されていた琴姉の手を掴んだ。
「えへへ♡ それじゃあ、いこっかぁ? ね~、ヒナちゃ~ん♡」
「あ、ああ、う、うん、そ、そうだね……。こ、こここ、こ琴葉ぁ……♡」
こうして俺たちは、ギャラリーどもの羨望、殺意といったありとあらゆる視線を尻目に仲の良いバカップルさながら学園へと続く道を急いだ。
オー、ジーザス……。
拳を通して伝わってくる確かな手ごたえ。
改めて、眼下で頭を抑え蹲っている美少女へと視線を這わせていく。
見下ろした先には、不意打ち気味にも自らの脳天を襲った耐えがたい痛苦に身をよじらせ、その瞳に大粒の涙を浮かべるながらも、気丈にもコチラを睨み返してくる美少女の姿。
「~~~~~~~~っ…………な、殴ったわね? ……し、信じらんない、こ、こんな、こんなか弱い女の子に手を挙げるなんて! あ、アンタ、それでも男なのっ⁉」
「殴ってなぜ悪いか?」
そう吐き捨てるように呟くなり、
――ゴンッ‼
あらためて、もう一発お見舞いしていく。
「きゃん☆ ~~~~~~~~っぅ‼ ……――に、二度もぶったぁっ‼ 親父にもぶたれたことないのにぃっ‼」
「喧しいっ!」
――ゴンッ‼
「きゃん☆ ~~~~~~~~~~~~~~~~っ‼」
性懲りもなく、どこかで訊いたような科白を並べ立てて、なおも噛みついてくる美少女に対し、三度鉄拳制裁。
「~~~~~~…………ひ、酷いよぉ~、ひ、ヒナちゃ~~~ん。お、お姉ちゃんの頭ぁ、タンコブだらけになっちゃうよぉ~~~」
そう、最早お気づきのことと思うが、曲がり角で出会った謎の転校生(俺の勝手な思い込み)の正体は、十数分前まで食卓を共にしていた実の姉、結城琴葉、その人であった。
「――……ったく、手の込んだことしやがって……。で、これは一体何のつもりだよ?」
「何って、そんなの決まってるでしょ? 円滑な男女交際を続けていくうえで、決して避けては通れない倦怠期を乗り越えるためのお姉ちゃんからのサプライズのつもりだったのにぃっ‼」
「け、倦怠期って……。あ、アホかっ、はえーよ、どんだけせっかちなんだよっ⁉」
あくまでも自らには非がないとでもいわんばかりに、ジト目にてコチラを非難してくる姉の姿に、最早、怒りを通りこえ、体の力が一気に脱力していくのを感じた。
「ブーブー、それなのに何よ何よぉ、ヒナちゃんのバカァ……。健気にも追いかけてきたお姉ちゃんに対して、こんな扱いはないんじゃないのぉ?」
「何が追いかけてきただよ? 追いかけるを通り越して追い抜いてんじゃねーかよっ‼ ワープでも出来んのかっ、アンタはっ⁉」
くそ、不覚にも、一瞬とはいえドキッとしちまったじゃねーかよ、俺のトキメキを返せってんだよ……。
その後もしばらくこうした不毛な押し問答が続いていった……。
とはいえ、結果、こうして追いつかれてしまった以上、止むを得まい……。
それに、琴姉のスキルを考えると、ココから再び逃走というのもどうにも現実的じゃないしな……。
「………………」
――……で、散々悩んだ結果、俺が導き出した結論はというと……。
「ハァ~~~~、しゃ~ね~な、ホレ、琴姉! いつまでもそんなとこにへたり込んでないでとっとと起きろよな!」
若干投げやりなところもあるが、そのか細い腕をつかむやいなや、勢いに任せ、ひょいっと起こし上げていく。
「あん☆ も~、ヒナちゃん、強引すぎぃ! こういう場面では、優しくお姫様抱っことかしないとダメなんだからね?」
「喧しい、アホなことばっか言ってると、もう一発お見舞いするぞ?」
「きゃ♡ い、一発、なんて……。ヒナちゃんってば、こんなところで大胆♡ でもでも、お姉ちゃん、ヒナちゃんが望むなら……♡」
と、腕を広げ、まるで口づけでもねだるかのように、ゆっくり目を閉じる琴姉。
一方、俺はというと、当然、そんな誘いには乗らず華麗にスルーしていく。
「ぶ~~、無視しないでよぉ~‼ もぉ~、ヒナちゃんのいけずぅ~!」
あ~~、ホント疲れるわ。
ぶーたれる琴姉を余所にスッと彼女の背後へ回り込むや、あくまでも親切心でもって、いや、決して疚しい気持ちもなければ他意もないぞ……?
くどいようだが、あくまでも親切心から制服のプリーツ・スカートについていた土埃を払ってやろうと、
パンパンッ!
てな具合に、二度三度と叩いてやったところ、
「ふあぁん♡」
「イッ⁉ ――ば、バカッ‼ へ、変な声上げんじゃねーよ⁉」
突如、耳に響いてきた実姉の嬌声。
よもやこんな反応が返ってくるとは夢にも思ってなかったこともあって大きく動揺をみせる俺。
と、ソレは琴姉にしても同様だったようで、背筋をピンと跳ね上げ弾かれたように飛び上がるや、クルリとコチラに体を反転させるなり、
「だ、だってだって、いきなりお尻をさわるんだもんっ‼」
「お、おし……⁉ ち、ちげーよ、ば、バカッ、ひ、人聞きの悪いこと言うんじゃねーよっ‼」
さっきまでのおちゃらけた雰囲気とは一変、普段でもあまりお目にかかれないくらいのテンパり具合に加え、俺を非難するその表情一つとっても、先ほどまでとは違って、その淡い雪のような白い頬をこれでもかってくらい紅潮させ潤んだ瞳でもって俺の目をまっすぐ見つめてくる。
「………………(じぃ~~~~~っ♡)」
「………………っ」
そんな琴姉の雰囲気に感化られたのか、ドクンと心臓が大きく跳ね上がるや顔全体が一気に熱を帯びていくのが自分でもわかった。
な、なななななな何だコレ? こ、ここここの雰囲気は、ひ、非常にま、不味いのではっ⁉
と、そんなことを考えていたところへ、
「何々? なんか、揉めてない?」
「お尻がどうとかって……。も、もしかして、痴漢?」
何処からともなく微かに聞こえてきたそんな声にハッと我に返る。
――あ、危なかったぁ……。お、俺は一体、何を……⁉
ドキドキドキドキドキドキッ……。
今だ激しく打ちつける心臓の音にドギマギしつつも、とりあえず九死に一生と、そんなことを思いきや、
「――イィッ⁉」
先ほどの声のした先、はるか前方では不審そうにこちらの様子を伺う集団の姿が……。
うぐっ、い、いつの間に……?
って、それも当然といえば当然のこと。今の時間は世間一般でいうところの通学・通勤時間ってヤツである。
普段とは違ったルートを通ってきたせいで、そういったことをすっかり失念していたぜ……。
目まぐるしく変化する展開に頭が追い付かず、どうしたもんかと戸惑っていた矢先、
「ねぇねぇ、やっぱり警察、呼んだ方がよくない?」
「――ッ⁉」
け、警察……?
『痴漢』、『警察』……。
ソレらのキーワードを聞いた途端、俺の脳裏を過ったのは、
『ウーーーー、ウーーーー、ウーーーー……』
鳴り響くサイレン、情けないと項垂れる母さん、泣き喚く琴姉、石を投げつけてくるクラスメートたち、そして、手を前に刑事さんに連行されていく俺の姿……。
サァーーーーーーーーーーーーーーーーーッ……。
……じ、冗談じゃねーぞ。
「ち、違うんだっ‼ お、俺の話を聞いてくれ、お、俺たちは、きょうだ――」
と、そこまで言いかけるも既のところで踏みとどまる俺。
だ、ダメだ……。この状況下で俺たちが姉弟だと告げたところで何になる? それこそ、反って近親相姦を招くだけなのでは……⁉
結局、この状況を打破する妙案もなく、最早これまでかと思っていたところ、
「スゥ~~~~~~~~ッ……――ご心配なくぅ~~~~~~~っ‼ 私たちぃ、恋人同士るんですぅうううううううううううううううううっ‼」
「――――⁉」
「「「――――⁉」」」
突如、ギャラリーどもに向かって大声を張り上げる琴姉。
「こ、琴姉⁉ い、一体、何を……――っ⁉」
ソコにいたのは先ほどまでの熱に浮かされた色ボケの姿でもなければ、おちゃらけたような雰囲気もない。
それこそ、普段学園で見せる生徒会長・結城琴葉、その人の顔であった。
『ほら、ヒナちゃん!』
「?」
ボソッと俺だけに聞こえるくらいに抑えた声量で囁いてきたかと思えば、パチッとウィンクとともに俺に手を差し伸べてくる琴姉。
………………――あっ⁉ あ~~~~~っ‼ そ、そうか、そういうことか⁉
ようやっと琴姉の考えを理解したところで、改めてギャラリーどもに視線を向けてみたところ、周囲に知り合いらしき連中の姿もない。
正直、琴姉に借りを作るのは憚られるが、背に腹は代えられない。
それに、仮にここで俺が付き合ってることを認めたとしてもこの状況だ。いくら琴姉とはいえまさか録音してる、なんてこともないだろう。……ない、よね?
そんなことを思いつつ、藁にも縋る思いでもってその手をつかもうとしたその時であった。
「――くすっ♪」
――ギクッ‼
瞬間、微かに漏れ聞こえた笑い声、そして、突き抜ける悪寒……‼
『ん? どうしたの、ヒナちゃん?』
「――ッ⁉」
ソコには先ほどまでと同様、救いの女神のような笑みを湛える琴姉の姿。
が、一瞬のことだったが、間違いなく俺は見た。
そこにはいたのは、数分前の恥ずかしそうに頬を赤らめた儚くも可憐な美少女の姿ではなければ、凛とした生徒会長でもない。
それこそ、人を陥れることのみに生き甲斐を感じているせぇるすまんのような笑みを浮かべる悪魔の姿であった。
てか、その左手に握っているスッゲー高性能そうなボイスレコーダーらしきものは一体何だよっ⁉
『ん? ほらほらぁ~、どうしたの、ヒナちゃ~ん?』
つまり、これはどういうことかというと……。
――は、謀られたっ⁉
ぐっ、な、何だよ、な、何なんだよコレは……?
ついさっきまでは俺が救いの手を差し伸べていたはずが、いつの間にやら立場は逆転してるじゃねーか。
そうして全てを理解するのと同時に、地面に亀裂が入ったかと思えばそのまま音を立てて崩れ落ちていくような錯覚に襲われる中、
「ねぇ、やっぱり警察に通報した方がいいよ」
「――ッ‼」
『だって、ヒナちゃん。このままだと、警察呼ばれちゃうよ? どうするのぉ~?』
そんな悪魔の囁きとともに、スマホに手を伸ばすギャラリーどもの姿が……。
最早、一刻の猶予もない状況の中、脳をフル回転させ悩みに悩みぬいた結果、俺が選んだ選択はというと……。
「そ――そうなんですよぉ~~~~~、じ、実は、ぼ、僕たち、恋人同士るんですよぉ~~~♪ な、なぁ~~、こ、こここ琴葉ぁ~~♡」
そう叫ぶやいなや、俺は差し出されていた琴姉の手を掴んだ。
「えへへ♡ それじゃあ、いこっかぁ? ね~、ヒナちゃ~ん♡」
「あ、ああ、う、うん、そ、そうだね……。こ、こここ、こ琴葉ぁ……♡」
こうして俺たちは、ギャラリーどもの羨望、殺意といったありとあらゆる視線を尻目に仲の良いバカップルさながら学園へと続く道を急いだ。
オー、ジーザス……。
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