2 / 23
第二話 感謝の気持ちを忘れずに
しおりを挟む
「――あら、おはよう、陽太。起こされずに起きてくるなんて珍しいわね?」
朝、リビングへ行くと、エプロン姿の母さんがおたま片手に挨拶してきた。
で、俺はというと、返事を返すでもなければ席に座るでもなし。唯、ある一点をじぃっと見据えていた。
「ん? どうかしたの陽太? 母さんのこと、じっと見つめたりして?」
「――へ? あ……。う、うん。な、何でもない! えっと、あ~、は、腹減ったぁ。お、俺、今日はパンでも食おうかなぁ♪」
あくまでも何気ない風を装い、席へと着いた。
――あ、危ないところだった……。
あろうことか俺は、無意識にも母さんのお腹あたりを穴が空くほど凝視していた。
い、いかん、いかん。どうにも昨日の発言の真相が気になって仕方がない。
くそ、琴姉め、厄介なでべそ発言をかけていってくれたもんだぜ。
ブツブツと独りごちる最中、ふとあることに気づいた。
「あれ? そういえば琴姉は? さっきから姿が見えないみたいだけど……」
「琴葉ならとっくに学校へ出かけたわよ。何でも生徒会の仕事があるとかって」
そう言いながら母さんがテーブルの上に皿に載った目玉焼きやらを並べていく。
ふ~ん、珍しいこともあるもんだ。普段は俺と一緒じゃなきゃ登校すらしたくないって駄々こねて大変なのに……。 やっぱり昨日のこと、まだ根に持ってるのかな?
結局、昨日はあれからまともに話も出来なかったしなぁ。学園に着いたらそれとなしに様子を見に行ってみるかな?
「あんたものんびりしてないでさっさと食べて出かけなさい。ったく、いつまで経っても洗い物が片ずかないったらありゃしない……」
やれやれ、飯ぐらいゆっくり食わせてくれよぉ……。
俺は母さんに急かされるつつも早々に食事を済ませると、学園へと向かった。
運が悪い日ってのは、得てしてこういうものなのかもしれない。
学園へと登校してかれこれ四時間――。俺は琴姉とは未だ会えずじまいでいた。
登校時、いつものように正門で朝の声かけをしている琴姉を発見するも、ファンらしき生徒たちに取り囲まれていて、とてもじゃないが話しかけることなんて出来なかった。
止むを得ず、授業、授業の合間の休み時間を使って琴姉の様子だけでも探ろうと教室を訪ねてはみたものの……これまた見事なまでの空振り。
う~~む、ここまで擦れ違ってばかりだと、正直、面倒臭くなってきた。
早く何とかしないと不味いのは分かっちゃいるんだけどなぁ……。
そうこうしている内にも、刻一刻と時間だけが過ぎていき――……。
キ~~~~ン~~~~コ~~~~ン~~~~カ~~~~コ~~~~ン!
はーい、皆さんお待ちかねの昼休み♪ さて、どうしたものかと悩んでいた矢先、
「お~い、陽太ぁ! 飯、食おうぜぇ」
授業終了のチャイムが鳴るや否や、悪友の土方、通称・トシさんがコンビニ袋片手に俺の席へとやってきた。
正直、これから向かうことも考えたが……。
グゥゥゥウウウウウウウ~~~~~~~~~~~……。
……う~~~~む。腹が減っては何とやらってね。ま、とりあえず飯を食ってから考えよう。
そんな俺の決断を後押しするかのように、土方さんが机の上に袋の中身を広げていく。
野郎二人で囲む昼食――。ったく、色気も何もあったもんじゃない。
――が、悲しいかな、これが入学して以降、決して変わることのない俺たちのルーティンってやつだ。
中には、女子たちと仲睦まじく会話をしながらランチを楽しんでいる男子共の姿もチラホラ見受けられるが……。
残念ながら俺たちはそんな高等スキル、到底持ち合わせちゃいない。
そんな彼らに向けて死ね死ねビームを送っている俺の横で土方さんはというと、総菜パン片手にスマホを弄り倒してる。
「……お前。ホント、好きだな、ソレ?」
「ん? おお、俺の推しキャラ、☆五の『羊の皮を被った山羊・フェンリルちゃん』。コイツが中々出なくてよぉ」
……うん、ツッコミどころ満載のキャラだな。てか、結局のところ、どっちなんだ?
ちなみに、土方さんがさっきから頻りにやっているのが、スマホゲーム。
巷でいうところの、『ソシャゲ』ってやつな。
俺自身はやったことないけど、最近はCMなんかでも何かと目にする『今なら、ガチャ〇〇連、無料!』ってな謳い文句でやってるアレな。
まぁ、ソレ自体は構わんのだが、問題はそのガチャの確率なんだよな……。
実際、土方さん推奨の羊がどうたらいうキャラの排出率はというと、驚くなかれ、なんと驚異の一%!
……いやいや、あり得ねぇって! 体脂肪率でも一%はやべぇって。
だって、詰まるところ、九十九%出ないってことなんだろ?
それって、砂漠で一粒の砂を探すようなもんなんじゃ……。
九十九%だめでも一%に望みをかける! なんて、お前はどこの世紀末救世主かって話だろ?
しかも無料ならまだしも、現実の金を使って回すんだろ? マジ、意味分かんねぇ……。それこそお前らがよく言うところの、二次元に三次元を持ち込むな! って言葉はどこ行ったんだよ?
ゲームの世界で現実の金を使っていくなんて、俺には到底理解出来ないね。
そんな考えが表情に出ていたのか、
「ま、お前みたいな『勝ち組』には、俺の気持ちは分かりゃしねーよ」
「は? 何だ、その勝ち組って? 俺は別に彼女もいないけりゃリア充でも何でもないぞ?」
「ぶぁっかっ、お前! 琴葉先輩の弟だってことだけで、十分、勝ち組じゃねーかよ! あんな綺麗で頭が良くて優しい姉ちゃん、この世のどこ探したって二人といねぇよ!」
「はぁっ⁉ な、何言ってんだよ、いくら綺麗だっつっても、自分の『姉』だぞ⁉」
「かぁ~~~っ、お前は全然分かってないわ。自分がどんだけ恵まれてるのか……。いいか、よく聞けよ⁉」
溜息交じりにアメリカ人のようなオーバーリアクションをみせる土方さん。
何故だろう? 何かムカつく。
その後、約十分間にわたって滔々と琴姉の素晴らしさを俺に講義し続けていった。
そして、トドメとばかりに、
「そ・れ・に、その弁当! それだってどうせ琴葉先輩お手製のもんなんだろ? その弁当を欲しがる生徒がこの学園にどれだけいると思ってんだよ⁉ 仮にその弁当がヤ〇オク、メ〇カリに出品されてたら、俺ぁ、十万出しても競り落としてみせるね! それをお前はただ弟だというだけで、何の有難味なければ当たり前のように享受してるんだよっ‼」
「――ぐっ⁉」
まるで、どこぞのせぇるすまんのように人差し指をドーンと突きつけてくる。
――と、
「「「「「お――おぉおおおおおおおおっ‼ その通りだぁああああああっ‼」」」」」
この土方さんの熱弁に、あろうことか男子からは喝采が上がっている。
――っ⁉ ま、マジか、こいつら?
――……こうして俺は圧倒的敵地の中、見事なまでのワンサイド・ゲームを喰らう羽目になってしまった。
――くっ、でも、ぶっちゃけ、ムカつくが土方さんのいう事も一理あるか……。
確かに俺は、琴姉に甘えてたかもしれんな。ここ最近は、弁当を作って貰うのも当たり前になってたきらいがある。
今日にしたってそうだ。こんだけ怒っててもこうして弁当を作ってくれてたあたりは、マジ感謝だよな。
そう考えると、昨日の事も少し言いすぎちまったかも知んねぇな。う~~~む、仕方ない! 放課後にちゃんと話をしよう。それに今なら、それほど怒ってないかもしれないしな。
ともあれ、今はせっかく作ってくれた弁当を無駄にしない為にも、じっくりと堪能させて貰うとしますかねぇ♪
琴姉に感謝の念を捧げつつ、何気なしに弁当の蓋を開けてみたところ、その光景を目の当たりにするなり慌てて蓋を戻した。
「――――⁉」
「あん? どした? 飯、食わねぇのか?」
「へ? あ、う、うん。な、何でもない……。こ、これから、食うところだ」
俺がそう言うと、土方さんは興味なさそうに再びスマホへと目を戻していく。
――え? な、何だ、今の……? あ、あり得ないものが見えたような……。
……お、落ち着け、俺……。とりあえず一旦落ち着こう。み、見間違いさ、きっと、そ、そうに決まってる。
そ、そう! ゆ、昨夜はでべそ発言のことが気になって、よく眠れなかったからな。
ね、寝不足で、げ、幻覚を見たに違いない! うん、きっとそうだな。
ひとまず弁当箱から手を放すと、それこそ暗示をかけるが如く、自らに言い聞かせていく。
――五分後。
ようやっと平静さを取り戻したところで、改めて蓋を開いてみるも、その先には、
緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑……。
俺の目に映りこんできたのは、弁当箱全体に広がりを見せる圧倒的なまでの緑。
ち、ちきしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼ やっぱりかぁああああああああっ⁉ 目に良さそうじゃねぇか、こんちくしょぉおおおおおおおおおおっ‼
――……何、これ? てか、マジでグリンピースしか入ってなくね⁉
試しに、箸であちこち弄ってみるも………………やはり無い!
茶色の弁当ってのはよく耳にするけど、オール・グリーンの弁当なんてのは、滅多にお目にかかれねぇぞ。
『緑を添えて、お弁当に彩りを♪』なんてキャッチコピーの料理本を見たことあるが、ソレは断じてこういった意味じゃねぇ!
てか、こんなに大量のグリンピース……。どこで仕入れてきたんだよ?
「うわぁ、おま、それ凄いなぁ? どんだけグリンピース好きなんだよ?」
こちらの異様さを察したのか、気が付けば土方さんが弁当を覗き込んでいた。
「お、おう……。ま、まぁな。さ、最近、そ、その……や、野菜不足だったからな……」
「へぇ~、流石、琴葉先輩。やっぱ、弟の栄養面もちゃんと考えて料理してるんだなぁ」
そんな俺の言葉を受け感心したような声を上げると、持っていた焼きそばパンを美味そうに――それはもう、実に美味そうに貪り食っていく。
「……ごくっ……」
うぅ、隣の芝生は青く見えるっていうが……くそ、俺の弁当の方が青々しとるわっ!
くっ、グリンピースを入れるとは確かに言ってたが、まさか、こういった手を打ってくるとは……。
俺は改めて、琴姉の怒りの深さを思い知らされた気がした。
朝、リビングへ行くと、エプロン姿の母さんがおたま片手に挨拶してきた。
で、俺はというと、返事を返すでもなければ席に座るでもなし。唯、ある一点をじぃっと見据えていた。
「ん? どうかしたの陽太? 母さんのこと、じっと見つめたりして?」
「――へ? あ……。う、うん。な、何でもない! えっと、あ~、は、腹減ったぁ。お、俺、今日はパンでも食おうかなぁ♪」
あくまでも何気ない風を装い、席へと着いた。
――あ、危ないところだった……。
あろうことか俺は、無意識にも母さんのお腹あたりを穴が空くほど凝視していた。
い、いかん、いかん。どうにも昨日の発言の真相が気になって仕方がない。
くそ、琴姉め、厄介なでべそ発言をかけていってくれたもんだぜ。
ブツブツと独りごちる最中、ふとあることに気づいた。
「あれ? そういえば琴姉は? さっきから姿が見えないみたいだけど……」
「琴葉ならとっくに学校へ出かけたわよ。何でも生徒会の仕事があるとかって」
そう言いながら母さんがテーブルの上に皿に載った目玉焼きやらを並べていく。
ふ~ん、珍しいこともあるもんだ。普段は俺と一緒じゃなきゃ登校すらしたくないって駄々こねて大変なのに……。 やっぱり昨日のこと、まだ根に持ってるのかな?
結局、昨日はあれからまともに話も出来なかったしなぁ。学園に着いたらそれとなしに様子を見に行ってみるかな?
「あんたものんびりしてないでさっさと食べて出かけなさい。ったく、いつまで経っても洗い物が片ずかないったらありゃしない……」
やれやれ、飯ぐらいゆっくり食わせてくれよぉ……。
俺は母さんに急かされるつつも早々に食事を済ませると、学園へと向かった。
運が悪い日ってのは、得てしてこういうものなのかもしれない。
学園へと登校してかれこれ四時間――。俺は琴姉とは未だ会えずじまいでいた。
登校時、いつものように正門で朝の声かけをしている琴姉を発見するも、ファンらしき生徒たちに取り囲まれていて、とてもじゃないが話しかけることなんて出来なかった。
止むを得ず、授業、授業の合間の休み時間を使って琴姉の様子だけでも探ろうと教室を訪ねてはみたものの……これまた見事なまでの空振り。
う~~む、ここまで擦れ違ってばかりだと、正直、面倒臭くなってきた。
早く何とかしないと不味いのは分かっちゃいるんだけどなぁ……。
そうこうしている内にも、刻一刻と時間だけが過ぎていき――……。
キ~~~~ン~~~~コ~~~~ン~~~~カ~~~~コ~~~~ン!
はーい、皆さんお待ちかねの昼休み♪ さて、どうしたものかと悩んでいた矢先、
「お~い、陽太ぁ! 飯、食おうぜぇ」
授業終了のチャイムが鳴るや否や、悪友の土方、通称・トシさんがコンビニ袋片手に俺の席へとやってきた。
正直、これから向かうことも考えたが……。
グゥゥゥウウウウウウウ~~~~~~~~~~~……。
……う~~~~む。腹が減っては何とやらってね。ま、とりあえず飯を食ってから考えよう。
そんな俺の決断を後押しするかのように、土方さんが机の上に袋の中身を広げていく。
野郎二人で囲む昼食――。ったく、色気も何もあったもんじゃない。
――が、悲しいかな、これが入学して以降、決して変わることのない俺たちのルーティンってやつだ。
中には、女子たちと仲睦まじく会話をしながらランチを楽しんでいる男子共の姿もチラホラ見受けられるが……。
残念ながら俺たちはそんな高等スキル、到底持ち合わせちゃいない。
そんな彼らに向けて死ね死ねビームを送っている俺の横で土方さんはというと、総菜パン片手にスマホを弄り倒してる。
「……お前。ホント、好きだな、ソレ?」
「ん? おお、俺の推しキャラ、☆五の『羊の皮を被った山羊・フェンリルちゃん』。コイツが中々出なくてよぉ」
……うん、ツッコミどころ満載のキャラだな。てか、結局のところ、どっちなんだ?
ちなみに、土方さんがさっきから頻りにやっているのが、スマホゲーム。
巷でいうところの、『ソシャゲ』ってやつな。
俺自身はやったことないけど、最近はCMなんかでも何かと目にする『今なら、ガチャ〇〇連、無料!』ってな謳い文句でやってるアレな。
まぁ、ソレ自体は構わんのだが、問題はそのガチャの確率なんだよな……。
実際、土方さん推奨の羊がどうたらいうキャラの排出率はというと、驚くなかれ、なんと驚異の一%!
……いやいや、あり得ねぇって! 体脂肪率でも一%はやべぇって。
だって、詰まるところ、九十九%出ないってことなんだろ?
それって、砂漠で一粒の砂を探すようなもんなんじゃ……。
九十九%だめでも一%に望みをかける! なんて、お前はどこの世紀末救世主かって話だろ?
しかも無料ならまだしも、現実の金を使って回すんだろ? マジ、意味分かんねぇ……。それこそお前らがよく言うところの、二次元に三次元を持ち込むな! って言葉はどこ行ったんだよ?
ゲームの世界で現実の金を使っていくなんて、俺には到底理解出来ないね。
そんな考えが表情に出ていたのか、
「ま、お前みたいな『勝ち組』には、俺の気持ちは分かりゃしねーよ」
「は? 何だ、その勝ち組って? 俺は別に彼女もいないけりゃリア充でも何でもないぞ?」
「ぶぁっかっ、お前! 琴葉先輩の弟だってことだけで、十分、勝ち組じゃねーかよ! あんな綺麗で頭が良くて優しい姉ちゃん、この世のどこ探したって二人といねぇよ!」
「はぁっ⁉ な、何言ってんだよ、いくら綺麗だっつっても、自分の『姉』だぞ⁉」
「かぁ~~~っ、お前は全然分かってないわ。自分がどんだけ恵まれてるのか……。いいか、よく聞けよ⁉」
溜息交じりにアメリカ人のようなオーバーリアクションをみせる土方さん。
何故だろう? 何かムカつく。
その後、約十分間にわたって滔々と琴姉の素晴らしさを俺に講義し続けていった。
そして、トドメとばかりに、
「そ・れ・に、その弁当! それだってどうせ琴葉先輩お手製のもんなんだろ? その弁当を欲しがる生徒がこの学園にどれだけいると思ってんだよ⁉ 仮にその弁当がヤ〇オク、メ〇カリに出品されてたら、俺ぁ、十万出しても競り落としてみせるね! それをお前はただ弟だというだけで、何の有難味なければ当たり前のように享受してるんだよっ‼」
「――ぐっ⁉」
まるで、どこぞのせぇるすまんのように人差し指をドーンと突きつけてくる。
――と、
「「「「「お――おぉおおおおおおおおっ‼ その通りだぁああああああっ‼」」」」」
この土方さんの熱弁に、あろうことか男子からは喝采が上がっている。
――っ⁉ ま、マジか、こいつら?
――……こうして俺は圧倒的敵地の中、見事なまでのワンサイド・ゲームを喰らう羽目になってしまった。
――くっ、でも、ぶっちゃけ、ムカつくが土方さんのいう事も一理あるか……。
確かに俺は、琴姉に甘えてたかもしれんな。ここ最近は、弁当を作って貰うのも当たり前になってたきらいがある。
今日にしたってそうだ。こんだけ怒っててもこうして弁当を作ってくれてたあたりは、マジ感謝だよな。
そう考えると、昨日の事も少し言いすぎちまったかも知んねぇな。う~~~む、仕方ない! 放課後にちゃんと話をしよう。それに今なら、それほど怒ってないかもしれないしな。
ともあれ、今はせっかく作ってくれた弁当を無駄にしない為にも、じっくりと堪能させて貰うとしますかねぇ♪
琴姉に感謝の念を捧げつつ、何気なしに弁当の蓋を開けてみたところ、その光景を目の当たりにするなり慌てて蓋を戻した。
「――――⁉」
「あん? どした? 飯、食わねぇのか?」
「へ? あ、う、うん。な、何でもない……。こ、これから、食うところだ」
俺がそう言うと、土方さんは興味なさそうに再びスマホへと目を戻していく。
――え? な、何だ、今の……? あ、あり得ないものが見えたような……。
……お、落ち着け、俺……。とりあえず一旦落ち着こう。み、見間違いさ、きっと、そ、そうに決まってる。
そ、そう! ゆ、昨夜はでべそ発言のことが気になって、よく眠れなかったからな。
ね、寝不足で、げ、幻覚を見たに違いない! うん、きっとそうだな。
ひとまず弁当箱から手を放すと、それこそ暗示をかけるが如く、自らに言い聞かせていく。
――五分後。
ようやっと平静さを取り戻したところで、改めて蓋を開いてみるも、その先には、
緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑緑……。
俺の目に映りこんできたのは、弁当箱全体に広がりを見せる圧倒的なまでの緑。
ち、ちきしょぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼ やっぱりかぁああああああああっ⁉ 目に良さそうじゃねぇか、こんちくしょぉおおおおおおおおおおっ‼
――……何、これ? てか、マジでグリンピースしか入ってなくね⁉
試しに、箸であちこち弄ってみるも………………やはり無い!
茶色の弁当ってのはよく耳にするけど、オール・グリーンの弁当なんてのは、滅多にお目にかかれねぇぞ。
『緑を添えて、お弁当に彩りを♪』なんてキャッチコピーの料理本を見たことあるが、ソレは断じてこういった意味じゃねぇ!
てか、こんなに大量のグリンピース……。どこで仕入れてきたんだよ?
「うわぁ、おま、それ凄いなぁ? どんだけグリンピース好きなんだよ?」
こちらの異様さを察したのか、気が付けば土方さんが弁当を覗き込んでいた。
「お、おう……。ま、まぁな。さ、最近、そ、その……や、野菜不足だったからな……」
「へぇ~、流石、琴葉先輩。やっぱ、弟の栄養面もちゃんと考えて料理してるんだなぁ」
そんな俺の言葉を受け感心したような声を上げると、持っていた焼きそばパンを美味そうに――それはもう、実に美味そうに貪り食っていく。
「……ごくっ……」
うぅ、隣の芝生は青く見えるっていうが……くそ、俺の弁当の方が青々しとるわっ!
くっ、グリンピースを入れるとは確かに言ってたが、まさか、こういった手を打ってくるとは……。
俺は改めて、琴姉の怒りの深さを思い知らされた気がした。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
ノーパン派の沼尻さんが俺にだけ無防備すぎる
平山安芸
青春
クラスメイトの沼尻(ヌマジリ)さん。ちょっとミステリアスな雰囲気が魅力の美少女。
クールビューディー、学校のアイドル、高嶺の花。そんな言葉がよく似合う、文句のつけようがない完璧な女子高生。
ただし露出狂である。
どうして、その子なの?
冴月希衣@商業BL販売中
青春
都築鮎佳(つづき あゆか)・高1。
真面目でお堅くて、自分に厳しいぶん他人にも厳しい。責任感は強いけど、融通は利かないし口を開けば辛辣な台詞ばかりが出てくる、キツい子。
それが、他人から見た私、らしい。
「友だちになりたくない女子の筆頭。ただのクラスメートで充分」
こんな陰口言われてるのも知ってる。
うん。私、ちゃんとわかってる。そんな私が、あの人の恋愛対象に入れるわけもないってこと。
でも、ずっと好きだった。ずっとずっと、十年もずっと好きだったのに。
「どうして、その子なの?」
——ずっと好きだった幼なじみに、とうとう彼女ができました——
☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆
『花霞にたゆたう君に』のスピンオフ作品。本編未読でもお読みいただけます。
表紙絵:香咲まりさん
◆本文、画像の無断転載禁止◆
No reproduction or republication without written permission.
ここは世田谷豪徳寺
武者走走九郎or大橋むつお
青春
佐倉さくら 自己紹介するとたいていクスっと笑われる。
でも、名前ほどにおもしろい女子じゃない。
ないはずなんだけど、なんで、こんなに事件が多い?
そんな佐倉さくらは、世田谷は豪徳寺の女子高生だぞ。
ハーレムに憧れてたけど僕が欲しいのはヤンデレハーレムじゃない!
いーじーしっくす
青春
赤坂拓真は漫画やアニメのハーレムという不健全なことに憧れる健全な普通の男子高校生。
しかし、ある日突然目の前に現れたクラスメイトから相談を受けた瞬間から、拓真の学園生活は予想もできない騒動に巻き込まれることになる。
その相談の理由は、【彼氏を女帝にNTRされたからその復讐を手伝って欲しい】とのこと。断ろうとしても断りきれない拓真は渋々手伝うことになったが、実はその女帝〘渡瀬彩音〙は拓真の想い人であった。そして拓真は「そんな訳が無い!」と手伝うふりをしながら彩音の潔白を証明しようとするが……。
証明しようとすればするほど増えていくNTR被害者の女の子達。
そしてなぜかその子達に付きまとわれる拓真の学園生活。
深まる彼女達の共通の【彼氏】の謎。
拓真の想いは届くのか? それとも……。
「ねぇ、拓真。好きって言って?」
「嫌だよ」
「お墓っていくらかしら?」
「なんで!?」
純粋で不純なほっこりラブコメ! ここに開幕!
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
イルカノスミカ
よん
青春
2014年、神奈川県立小田原東高二年の瀬戸入果は競泳バタフライの選手。
弱小水泳部ながらインターハイ出場を決めるも関東大会で傷めた水泳肩により現在はリハビリ中。
敬老の日の晩に、両親からダブル不倫の末に離婚という衝撃の宣告を受けた入果は行き場を失ってしまう。
桃は食ふとも食らはるるな
虎島沙風
青春
[桃は食っても歳桃という名の桃には食われるな]
〈あらすじ〉
高校一年生の露梨紗夜(つゆなしさや)は、クラスメイトの歳桃宮龍(さいとうくろう)と犬猿の仲だ。お互いのことを殺したいぐらい嫌い合っている。
だが、紗夜が、学年イチの美少女である蒲谷瑞姫(ほたにたまき)に命を狙われていることをきっかけに、二人は瑞姫を倒すまでバディを組むことになる。
二人は傷つけ合いながらも何だかんだで協力し合い、お互いに不本意極まりないことだが心の距離を縮めていく。
ところが、歳桃が瑞姫のことを本気で好きになったと打ち明けて紗夜を裏切る。
紗夜にとって、歳桃の裏切りは予想以上に痛手だった。紗夜は、新生バディの歳桃と瑞姫の手によって、絶体絶命の窮地に陥る。
瀕死の重傷を負った自分を前にしても、眉一つ動かさない歳桃に動揺を隠しきれない紗夜。
今にも自分に止めを刺してこようとする歳桃に対して、紗夜は命乞いをせずに──。
「諦めなよ。僕たちコンビにかなう敵なんてこの世に存在しない。二人が揃った時点で君の負けは確定しているのだから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる