11 / 31
第11話 龍のうろこ亭
しおりを挟む
「お、お邪魔しまぁ~す……」
ランタンの灯が燈るだけの薄暗い僅か十畳ほどの店内へと一歩足を踏み入れるや、
「――ッ⁉ ……うぅっ、こ、コレはっ……⁉」
店内には鼻を打つ強烈な臭いが立ち込めていて……。
うぅ、……な、何ごでぇ? ひょっとして、何か特殊なお香のようなものでも焚いているのかな?
正直、その臭いには閉口させられるも、ここまで来ておいて今更帰るわけにもいくまいと覚悟を決めるや、改めて店の奥へとさらに歩を進めていく。
臭いもさることながら、店内にはこれまた所狭しと商品らしき品物が煩雑にも積み置かれていて……。
「うわぁ……」
すっかり臭いに充てられたのか頭が少しぼーっと逆上たような感覚に陥り、フラフラと手探りにも店の奥へと足を運んでいったところ、
――ドンッ、ガララッ……!
「――ッ⁉ ……ふぅ~~~、ぎ、ギリギリセーフ……」
頭のこともそうだが暗闇に目がまだ慣れていなかったこともあって、蹴躓いた拍子に危うく商品を床に落としてしまいそうになるも、既の所ところで掴み取ることに成功。
「おいおい、ちょっと気をつけとくれよ」
「は、はい、ご、ごめんなさ……――って、う、ウルザさんっ⁉」
「あん? 今度は何事だい?」
「ち、ちょっと、か、勝手に座ったりなんかしちゃ不味いですよっ! お、お店の人に見つかったら、きっと怒られちゃいますよっ⁉」
その言葉通り、いつの間にか店のカウンターらしきテーブルの裏手へと回ったのか、木製のこれまた年季の入った椅子に腰を下ろすウルザさんの姿がそこにはあった。
「あん? いや、勝手に座るも何も……。ココはあたしの店だよ?」
「いや、いくら自分のお店だからって……。へ? じ、自分の、店ぇ……?」
思わず聞き返す僕に対し、
「そう、つまりこの店、『龍のうろこ亭』は、あたしことウルザ・ブランケットがオーナー兼店主の道具屋ってわけさ」
「……へ? えぇえええええええええええええええっ⁉」
驚きとともに改めて目の前に座っている女性をマジマジと見つめていく。
「………………」
「………………」
う、ウルザさんが、店主? それもオーナーって……。
てっきり頭の禿げ上がったでっぷり肥えた因業そうなオヤジさんが店主でもしているもんだと勝手に思い込んでいたんだけど……。
僕と大して年も違わない筈なのに、こんなお店を一人で切り盛りしてるなんて……。何て凄い人なんだろう……。
感嘆すると同時に、この頃には幾分か臭いや目も慣れてきたこともあって、あらためて店内へと目を向けてみる。
「ふぅあぁ~~……」
店内には僕がいまだかつて見たことも聞いたこともないような商品がそこかしこに並んでいて……。
「どうだい、珍しいかい?」
「え、ええ、凄いです‼ これなら一日中いても飽きそうにないですよ」
「だろうね。コレらは、どれもこれも一般には流通すらしてない商品ばかりさね。こういう商品が揃うのも悪所の利点の一つさね」
と、それこそ子供のように目を輝かせる僕とは対照的に、ウルザさんはあくまでも落ち着いた口調でもって再度話を進めてくる。
「ま、店の商品のことはさておき……。そもそもそんな話をするために態々アンタをこんなところまで引っ張ってきたわけじゃあないんでね。……さて、いよいよここからが本題さね……」
「え? 本題?」
「さっきの続きだよ。弱き者が如何にして実力差を埋めるのか?」
「‼」
その言葉を聞いた瞬間、弛緩しかけていたこの場の空気が再び緊迫感に包まれていく。
「あの時、あたしの言ったセリフを覚えてるかい?」
「え、ええ、ただ強くなるだけなら方法はいくらでもあると……」
「そう、本当にいくらでもあるのさ。例えば単純に身体能力だけを向上させるだけでいいのなら、コイツを使えばいい……」
そういうとウルザさんは小瓶のようなものを取り出し、そっとテーブルの上へと置いた。
透明の、ポーションなんかを保存する瓶に琥珀色の液体がなみなみと注がれていて。
「えっと、こ、コレは?」
「こいつはある筋から入手した特別な薬品でね、使用した人間の身体能力を限界を超えて上昇させるって代物さ……」
「えぇっ⁉ そ、そんな物があったんですか?」
驚きとともに、まるで吸い寄せられるかのように、目の前の瓶へと手を伸ばしかけるも、
「ああ、正に弱者からしたら夢のような商品さね。だけどね、ソレにはそれ相応の副作用ってヤツがつきまとう……。その副作用ときたら、口にするのもおぞましいほどさ……。一度きりの戦闘だけってなら使う価値もあるかもしれないけどね……。冒険者として今後も生きていくつもりのアンタには、正直おススメできない方法さね……」
「――っ‼」
た、確かに……。冒険者にとって戦いは日常茶飯事、そんな一回限りでどうこうなってしまうようなアイテムなんて論外だ……。
で、でも、それじゃあ……。
「だが、あたしが今から教える方法は、そんな副作用さえもなければ、途中で効果が消えるようなこともない……。それこそ、半永久的……。もっとも、アンタが病気やなんかで死ぬか、天寿を全うしたりなんかしたらその限りではないかもしれないけどね……」
冗談交じりにそんなことを言うウルザさんに僕は改めて訊ねてみた。
「ほ、本当に、そ、そんな方法が……?」
ウルザさんがそっと頷く。
――ごくっ……。
僕は固唾を呑んで彼女の次なる言葉をジッと待ち侘びた。
「答えは、武具さ……」
「へ? ……ぶ、武具? 武具って、あの……?」
「そうさ、身体的能力で圧倒的に劣る劣等種たる人種が魔物たちを相手に圧倒するには武具の力に頼らざるを得ないってことさ」
「……………」
「……………」
「納得いかない、って顔してるね?」
「――っ⁉ え、い、いや、そ、そんなことは……」
露骨に表情に出ていたのか、慌ててその場を取り繕うも……。
実際問題、彼女の答えは僕が望んでいた回答には程遠く、その結果大きく落胆させられる結果となった……。
だってそうじゃないか、何てことはない、そんな程度のことなら僕だって考えたさ。なればこそ剣を手に入れて以来、それこそ我武者羅に……。一日だって休むことなく剣を振り続けてきたんだ……。でも、才能のない僕には何の力もつかなかった……。
……違うんだ、僕が知りたいのはそういったことじゃないんだっ‼
そんな僕の心を読んだかのように、更にウルザさんが言葉を続けていく。
「ま、それが普通の反応だろうね。でもね、あたしが言ってるのは今アンタが考えているようなそんじょそこいらの武具じゃあない……」
「へ?」
テーブルに両肘をついて、そっと指を組んだかと思えば、
「スキルや本人の持って生まれたであろう資質なんか関係ない……。力量不足すらも、そんなモノを補ってなおお釣りがくるほどの圧倒的なまでの武具……」
「あ、あの、う、ウルザさん……?」
「ああ、ちょいと待っていておくれ」
そう言って立ち上がったかと思えば、更に奥へと連なる通路に消えていった。
「………………」
ウルザさんの鬼気迫る迫力に気圧され、全く口を挟むことができなかったけど……。ウルザさんは一体何を……?
そうして待ち続けること5分少々……。
ようやっとウルザさんが戻ってきた。
「待たせちまったね……。さぁ、コレらがあたしの出した答えさね」
再び奥から姿を現した彼女が持ってきたのは、一振りの剣と一領の鎧……。
「……――うぇっ? こ、コレが、ですか……?」
失礼とは思いつつも、ついついそんな声が漏れてしまった。それ程までにウルザさんが持ってきた剣と鎧いうのが……。
まずは剣だが……。それはもう、見るからにこれでもかと朽ち果てていて……。刀身全体を覆うほどに赤黒く染まった錆に加え、刃の至るところに走っている罅割れ。これでは魔物を斬る云々の前に、鞘から出した瞬間にも折れてしまうのではと先ずはソコを気にかけなければならないほどだ。
鎧にしたところで、これまた見事なまでにボロボロ……。至る所に焦げたような跡、更には継ぎ接ぎだらけで見るも無残な姿をさらすその様は、最早、元が布製だったか革製だったかも分からなくなってしまっている有様……。
正直、どこぞに打ち捨てられていたガラクタをそのまま持ち帰ってきたのでは? と勘ぐってしまいたくなるような品々であった。
「…………」
「…………」
「あ、あのぉ~、こ、コレは一体……?」
何といえばいいのやら……。最早ありとあらゆる感情が消えうせ、茫然自失といった感じに訊き返す僕に、至って真剣な表情でもってウルザさんが静かに口を開く。
「ロストハイムとラグナヴェルグさ」
「はぁ……。そう、なんですか? え~~~っと、何でしたっけ……? たしか、ロストハイムとラグナ……」
どこかで聞いたような名とは思いつつも、深く考えるでもなければ彼女の言葉に倣うように無意識にもただただ復唱すべく声を発しようとした次の瞬間、
「――⁉」
雷に打たれたような衝撃が僕の全身を突き抜けていった。
次の刹那、カッと目を見開いたかと思えば身を乗り出し、それこそ食い入るようにウルザさんの瞳を凝視した。
「………………」
「………………」
ウルザさんの口を通じて耳に入った情報が余りにも衝撃的過ぎて……。というより、よもやこんな場所でその名を訊くことになろうとは夢にも思っていなかったこともあって……。
「あ――あのっ、ウルッ……あっ、お、ろ、ラ……?」
事の真偽を確かめるべく必死に声を発しようとするも、緊張のためか上手く言葉が出てこない。
そんなもどかしさも、それでも僕の言わんとすることはウルザさんに十分伝わったようで、
コクリ……。
ソレに応えるかのように、ウルザさんが力強くも静かに頷いた。
「――――‼」
それを目にした瞬間、込み上げてきた感情を抑え込むことができずに気付いた時には叫んでいた。
「ロ――ロロロロロロストハイムと、ラ、ラララララグナヴェルグゥウウウウウウウウウウウウウウッ⁉」
僕の絶叫にも似た声がココ、龍のうろこ亭を突き抜け、悪所一帯へと響き渡っていった。
ランタンの灯が燈るだけの薄暗い僅か十畳ほどの店内へと一歩足を踏み入れるや、
「――ッ⁉ ……うぅっ、こ、コレはっ……⁉」
店内には鼻を打つ強烈な臭いが立ち込めていて……。
うぅ、……な、何ごでぇ? ひょっとして、何か特殊なお香のようなものでも焚いているのかな?
正直、その臭いには閉口させられるも、ここまで来ておいて今更帰るわけにもいくまいと覚悟を決めるや、改めて店の奥へとさらに歩を進めていく。
臭いもさることながら、店内にはこれまた所狭しと商品らしき品物が煩雑にも積み置かれていて……。
「うわぁ……」
すっかり臭いに充てられたのか頭が少しぼーっと逆上たような感覚に陥り、フラフラと手探りにも店の奥へと足を運んでいったところ、
――ドンッ、ガララッ……!
「――ッ⁉ ……ふぅ~~~、ぎ、ギリギリセーフ……」
頭のこともそうだが暗闇に目がまだ慣れていなかったこともあって、蹴躓いた拍子に危うく商品を床に落としてしまいそうになるも、既の所ところで掴み取ることに成功。
「おいおい、ちょっと気をつけとくれよ」
「は、はい、ご、ごめんなさ……――って、う、ウルザさんっ⁉」
「あん? 今度は何事だい?」
「ち、ちょっと、か、勝手に座ったりなんかしちゃ不味いですよっ! お、お店の人に見つかったら、きっと怒られちゃいますよっ⁉」
その言葉通り、いつの間にか店のカウンターらしきテーブルの裏手へと回ったのか、木製のこれまた年季の入った椅子に腰を下ろすウルザさんの姿がそこにはあった。
「あん? いや、勝手に座るも何も……。ココはあたしの店だよ?」
「いや、いくら自分のお店だからって……。へ? じ、自分の、店ぇ……?」
思わず聞き返す僕に対し、
「そう、つまりこの店、『龍のうろこ亭』は、あたしことウルザ・ブランケットがオーナー兼店主の道具屋ってわけさ」
「……へ? えぇえええええええええええええええっ⁉」
驚きとともに改めて目の前に座っている女性をマジマジと見つめていく。
「………………」
「………………」
う、ウルザさんが、店主? それもオーナーって……。
てっきり頭の禿げ上がったでっぷり肥えた因業そうなオヤジさんが店主でもしているもんだと勝手に思い込んでいたんだけど……。
僕と大して年も違わない筈なのに、こんなお店を一人で切り盛りしてるなんて……。何て凄い人なんだろう……。
感嘆すると同時に、この頃には幾分か臭いや目も慣れてきたこともあって、あらためて店内へと目を向けてみる。
「ふぅあぁ~~……」
店内には僕がいまだかつて見たことも聞いたこともないような商品がそこかしこに並んでいて……。
「どうだい、珍しいかい?」
「え、ええ、凄いです‼ これなら一日中いても飽きそうにないですよ」
「だろうね。コレらは、どれもこれも一般には流通すらしてない商品ばかりさね。こういう商品が揃うのも悪所の利点の一つさね」
と、それこそ子供のように目を輝かせる僕とは対照的に、ウルザさんはあくまでも落ち着いた口調でもって再度話を進めてくる。
「ま、店の商品のことはさておき……。そもそもそんな話をするために態々アンタをこんなところまで引っ張ってきたわけじゃあないんでね。……さて、いよいよここからが本題さね……」
「え? 本題?」
「さっきの続きだよ。弱き者が如何にして実力差を埋めるのか?」
「‼」
その言葉を聞いた瞬間、弛緩しかけていたこの場の空気が再び緊迫感に包まれていく。
「あの時、あたしの言ったセリフを覚えてるかい?」
「え、ええ、ただ強くなるだけなら方法はいくらでもあると……」
「そう、本当にいくらでもあるのさ。例えば単純に身体能力だけを向上させるだけでいいのなら、コイツを使えばいい……」
そういうとウルザさんは小瓶のようなものを取り出し、そっとテーブルの上へと置いた。
透明の、ポーションなんかを保存する瓶に琥珀色の液体がなみなみと注がれていて。
「えっと、こ、コレは?」
「こいつはある筋から入手した特別な薬品でね、使用した人間の身体能力を限界を超えて上昇させるって代物さ……」
「えぇっ⁉ そ、そんな物があったんですか?」
驚きとともに、まるで吸い寄せられるかのように、目の前の瓶へと手を伸ばしかけるも、
「ああ、正に弱者からしたら夢のような商品さね。だけどね、ソレにはそれ相応の副作用ってヤツがつきまとう……。その副作用ときたら、口にするのもおぞましいほどさ……。一度きりの戦闘だけってなら使う価値もあるかもしれないけどね……。冒険者として今後も生きていくつもりのアンタには、正直おススメできない方法さね……」
「――っ‼」
た、確かに……。冒険者にとって戦いは日常茶飯事、そんな一回限りでどうこうなってしまうようなアイテムなんて論外だ……。
で、でも、それじゃあ……。
「だが、あたしが今から教える方法は、そんな副作用さえもなければ、途中で効果が消えるようなこともない……。それこそ、半永久的……。もっとも、アンタが病気やなんかで死ぬか、天寿を全うしたりなんかしたらその限りではないかもしれないけどね……」
冗談交じりにそんなことを言うウルザさんに僕は改めて訊ねてみた。
「ほ、本当に、そ、そんな方法が……?」
ウルザさんがそっと頷く。
――ごくっ……。
僕は固唾を呑んで彼女の次なる言葉をジッと待ち侘びた。
「答えは、武具さ……」
「へ? ……ぶ、武具? 武具って、あの……?」
「そうさ、身体的能力で圧倒的に劣る劣等種たる人種が魔物たちを相手に圧倒するには武具の力に頼らざるを得ないってことさ」
「……………」
「……………」
「納得いかない、って顔してるね?」
「――っ⁉ え、い、いや、そ、そんなことは……」
露骨に表情に出ていたのか、慌ててその場を取り繕うも……。
実際問題、彼女の答えは僕が望んでいた回答には程遠く、その結果大きく落胆させられる結果となった……。
だってそうじゃないか、何てことはない、そんな程度のことなら僕だって考えたさ。なればこそ剣を手に入れて以来、それこそ我武者羅に……。一日だって休むことなく剣を振り続けてきたんだ……。でも、才能のない僕には何の力もつかなかった……。
……違うんだ、僕が知りたいのはそういったことじゃないんだっ‼
そんな僕の心を読んだかのように、更にウルザさんが言葉を続けていく。
「ま、それが普通の反応だろうね。でもね、あたしが言ってるのは今アンタが考えているようなそんじょそこいらの武具じゃあない……」
「へ?」
テーブルに両肘をついて、そっと指を組んだかと思えば、
「スキルや本人の持って生まれたであろう資質なんか関係ない……。力量不足すらも、そんなモノを補ってなおお釣りがくるほどの圧倒的なまでの武具……」
「あ、あの、う、ウルザさん……?」
「ああ、ちょいと待っていておくれ」
そう言って立ち上がったかと思えば、更に奥へと連なる通路に消えていった。
「………………」
ウルザさんの鬼気迫る迫力に気圧され、全く口を挟むことができなかったけど……。ウルザさんは一体何を……?
そうして待ち続けること5分少々……。
ようやっとウルザさんが戻ってきた。
「待たせちまったね……。さぁ、コレらがあたしの出した答えさね」
再び奥から姿を現した彼女が持ってきたのは、一振りの剣と一領の鎧……。
「……――うぇっ? こ、コレが、ですか……?」
失礼とは思いつつも、ついついそんな声が漏れてしまった。それ程までにウルザさんが持ってきた剣と鎧いうのが……。
まずは剣だが……。それはもう、見るからにこれでもかと朽ち果てていて……。刀身全体を覆うほどに赤黒く染まった錆に加え、刃の至るところに走っている罅割れ。これでは魔物を斬る云々の前に、鞘から出した瞬間にも折れてしまうのではと先ずはソコを気にかけなければならないほどだ。
鎧にしたところで、これまた見事なまでにボロボロ……。至る所に焦げたような跡、更には継ぎ接ぎだらけで見るも無残な姿をさらすその様は、最早、元が布製だったか革製だったかも分からなくなってしまっている有様……。
正直、どこぞに打ち捨てられていたガラクタをそのまま持ち帰ってきたのでは? と勘ぐってしまいたくなるような品々であった。
「…………」
「…………」
「あ、あのぉ~、こ、コレは一体……?」
何といえばいいのやら……。最早ありとあらゆる感情が消えうせ、茫然自失といった感じに訊き返す僕に、至って真剣な表情でもってウルザさんが静かに口を開く。
「ロストハイムとラグナヴェルグさ」
「はぁ……。そう、なんですか? え~~~っと、何でしたっけ……? たしか、ロストハイムとラグナ……」
どこかで聞いたような名とは思いつつも、深く考えるでもなければ彼女の言葉に倣うように無意識にもただただ復唱すべく声を発しようとした次の瞬間、
「――⁉」
雷に打たれたような衝撃が僕の全身を突き抜けていった。
次の刹那、カッと目を見開いたかと思えば身を乗り出し、それこそ食い入るようにウルザさんの瞳を凝視した。
「………………」
「………………」
ウルザさんの口を通じて耳に入った情報が余りにも衝撃的過ぎて……。というより、よもやこんな場所でその名を訊くことになろうとは夢にも思っていなかったこともあって……。
「あ――あのっ、ウルッ……あっ、お、ろ、ラ……?」
事の真偽を確かめるべく必死に声を発しようとするも、緊張のためか上手く言葉が出てこない。
そんなもどかしさも、それでも僕の言わんとすることはウルザさんに十分伝わったようで、
コクリ……。
ソレに応えるかのように、ウルザさんが力強くも静かに頷いた。
「――――‼」
それを目にした瞬間、込み上げてきた感情を抑え込むことができずに気付いた時には叫んでいた。
「ロ――ロロロロロロストハイムと、ラ、ラララララグナヴェルグゥウウウウウウウウウウウウウウッ⁉」
僕の絶叫にも似た声がココ、龍のうろこ亭を突き抜け、悪所一帯へと響き渡っていった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ
Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_
【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】
後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。
目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。
そして若返った自分の身体。
美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。
これでワクワクしない方が嘘である。
そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。
勘違いの工房主~英雄パーティの元雑用係が、実は戦闘以外がSSSランクだったというよくある話~
時野洋輔
ファンタジー
英雄のパーティ、『炎の竜牙』をリストラされたクルトは、実は戦闘以外は神の域に達している適正ランクSSSの持ち主だった。
そんなことを知らないクルトは、自分の実力がわからないまま周囲の人間を驚かせていく。
結果、多くの冒険者を纏める工房主(アトリエマイスター)となり、国や世界の危機を気付かないうちに救うことになる。
果たして、クルトは自分の実力を正確に把握して、勘違いを正すことができるのか?
「え? 山を適当に掘ったらミスリルが見つかるのってよくある話ですよね?」
……無理かもしれない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※令和元年12月より、コミカライズスタート(毎月第三火曜日更新)
※1~5巻好評発売中(コミカライズ1巻発売中)2020年11月時点
※第11回ファンタジー小説大賞受賞しました(2018年10月31日)
※お気に入り数1万件突破しました(2018年9月27日)
※週間小説ランキング1位をいただきました(2018年9月3日時点)
※24h小説ランキング1位をいただきました(2018年8月26日時点)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる